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わたしを離さないで
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わたしを離さないでの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.10pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全544件 421~440 22/28ページ
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著者はインタビューでこの作品について「完全に幸せな子供時代を描きたかったのです」と語る。確かにヘールシャムにおいて養育されていた時期には主人公たちはそのように感じていた。子供の眼はすべてを見てすべてを見てはいないからだ。 15歳を過ぎてコテージに移ると自分たちをとりまく世界とどうかかわってゆくかが彼らの課題となってゆく。その際に主人公が語るように彼らにはモデルがいないため、住居(飼育場所)にあるTVや雑誌により 情報を得てそっくりコピーせざるえをえない。複製が人間のしぐさや言い草までも複製するという、苦い ユーモアを著者はあちこちにちりばめるが、それは物語の中盤から始まる。5歳から英国人となり成人して 小説を書くイシグロは英文学特有のユーモアと諧謔を織り交ぜ、やさしく温かいのか冷たく突き放しているのか読書にとり認識しがたい状況をいくつも繰り出し、ヒロインに語らせる。(複製が小説家の複製をする)。たとえば性に関する彼らの悩みや行動は共感を喚起しつつ、読者にとってほとんど立ち直れないくらいの衝撃や絶望感や哀れみをもよびおこす。なぜ彼らは逃亡しないのか。なぜ自ら命を断ってむごい運命から逃れようとはしないのか。それは教育のなせる技なのか、それとも心すら操作できる科学技術を人間たちが獲得している近未来なのか。いくつもの謎を提供し、読者に沈思させる。涙や微笑がいつしか無限のおそろしさに変化し、魂が震え身動きすらできなくなる。たんなるSF小説と断じることを阻む傑作である。 | ||||
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2011年春の映画公開の前に再読。 展開が分かっていても、淡々とした独白によって、少しずつ物語の核に近づいていく感覚を改めて味わうことができた。なぜ彼らはこんなに文化的な生活を送る必要があったのか、そもそも彼らは生きているといえるのか。そして、静かな残酷さに包まれながら読了後に思う、果たして私は彼ら以上に人生を生きることができているかと。 日本語はほとんど話すことができないという著者の、日本人としての死生観が垣間見れる部分も非常に興味深い。 | ||||
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カズオ・イシグロ氏の名前はかなり前から知っていたのだが、氏の作品に接するのはこれが初めてとなった。 まず、これほど哀切で美しい小説はそう存在しない。余分な虚飾をそぎ落とした文体は怜悧で見事にシーンを構成し、そのストーリーテリングも卓越している。〜設定そのものに余り触れるとネタばれになってしまうが、ある施設で育てられている子供達の『役割』は非常にシュールでありながら、極めてリアルに創られている。下手をすれば二級のSF小説のようになってしいそうなモチーフを、イシグロ氏の緻密な設定と文体はその存在をおおげさな誇張なく、けれんのない文章で、いやだからこそ、私達の胸に痛みをもって突き刺さる。 人生とはなにものなのだろうか。 彼ら彼女らのような存在に生まれた事は、人として存在する事の意義を哀しくあぶりだす。ラストのある種の「逃げ道」がふさがれてしまった時の絶望感は舌筆に尽くせない・・・。 イシグロ氏は本作で作風が変わったと側聞する。しかし、これだけ『魂』を感じさせる小説を書く作家なのだから、作風が変わったとしても期待に胸が膨らむ。ハヤカワからでている文庫は本書以外すべて未読なので、これからが楽しみだ。 | ||||
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穏やかながら、全体的に悲壮感がうっすらとにじみ出ている。 大きな波はなく、うつりゆくように話が展開していく様が芸術的。 人の成長、時間の移り変わりなど 誰とでも隣り合わせになっているはずの普遍のテーマを ひっそりと書き上げている。 | ||||
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(まだこの作品を読んでいない方へ) ここに投稿されているレビューの中にも、ネタばれに近いことを書いてあるものがいくつかあります。 先入観なく読んでいただくためにも、あまり読まないことをお勧めします。純文学でありながら『このミステリがすごい!2007年』の第10位にランクインした魅力が薄れてしまいます。 もっとも、たとえ先に知ってしまったとしても、それでもなお余りある魅力に溢れた作品なのですが。純文学やミステリという特定の分野に収まる作品でもありません。 鮮やかな衝撃とともに、感情を奥底から揺さぶられるような、鮮烈な読書体験をさせていただきました。 文庫では、イラストレーターの松尾たいこ氏の手によるカバーのついた〈プレミアム・カバー・エディション〉があります。個人的にはこのカバーもとても気に入っています。 | ||||
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映画をキッカケに読みました。 原作の素晴らしさはもとより、 思った以上に忠実に描かれていた 映画にも驚かされました。 映画でも涙が止まらなかったラストは、 原作でも眼が潤んでしまいました。 ファンタジックな世界ですが、 近未来に本当にありそうと想像すると、 背筋がゾクッとしてしまいます。 ラブストーリーでありながらも、 そんな社会的なものも含んでいる今作。 映画も、もう一度、見に行こうかな♪ | ||||
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小説を読み進めて、一体誰がこの世界を思いつくだろうか…?と驚かされた。 物語は劇的な状況に中に進むが、最初、読者は 主人公の子どもたちがどんな状況におかれているのか、 よくわからないまま読まなくてはいけない。 イギリスの片田舎にある寄宿学校に生活する生徒たちの生活ぶり、日常の小さなこたごた、 さまざまな性格の監督者たち…そしてその日常の中に、小さな謎が、目を凝らして見ると 数多くちりばめられている。 その小さな謎が明らかにされていくのは、物語が半分ほどに近づいてから。 読者は、子どもたちの本当の存在意義に、驚愕することだろう。 それでも物語は進んでく… 物語の異質性そのものにも驚くが、 同時に、些細な日常の出来事、表面的には何でもないやりとりに、 主人公たちの関係や心の趣が微妙に変化していくのだが、その心の 繊細な動きの描写が、筆者は絶妙にうまいのだ。素晴らしいくらいに。 そして何よりも素晴らしいのは、筆者が、子どもの側から物語を 書いていること。きっとほかの人だったら、子どもを見る人の側から書くと思う。 子どもの側から書くことに、よりオリジナリティを感じた。 | ||||
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読みはじめの印象はなにやら大友克洋『アキラ』のラボの子供たちのような.特殊な施設であることは何となくわかるのですが孤児院?の様ではないし、ミステリアスな施設に集められ育てられている子供たちの物語り。孤児院ではないことはすぐにわかります。彼らについては乳幼児期、まして肉親について全く語られないし語らないのです。これはいったいどういうこと?子供たちの中で、成人したキャシーが一人語り始めます。ミステリアスなんだけど、ミステリーではない、SF的ではあるんですがSFではない。「使命」とは?「提供」とは?「介護人」とは? 短く特殊な人生を刈り取られていく子供たちの透明感あふれる切ない青春と、やがて彼らに明かされるその事実。 かれらは人なのか、一体何者なのか。 読後のカタルシスには大切な人を失った悲しみと不思議な透明感と景色がいつまでも心に残ります。 | ||||
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青春小説ですね。光景がまざまざと感じられるように映像的な書き方なので 美しいイギリス寄宿学校の雰囲気を楽しめると思います。 SFや社会派小説と思って読むと冗長で読み切れないと思います。 基本的にライトな感じで、サクサクと読み進められますが、 主人公キャシーが心のままに思いだして語るという形式のためか、 時間が前後する場合が多いのが、少し分かりにくく感じました。 作者のインタビューがwebで見られたので読んでみたのですが、 なるほどと思う感じでした。人は意外と運命を選べませんし、 どんな環境でも、良くも悪くも人間的に生きているということでしょうか。 | ||||
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私は初めてカズオ・イシグロの作品に触れました。翻訳ではありますがやさしい言葉づかいと一人称での語りは、読者を前にして静かに過去を初めて語る人のもつ真摯さを感じさせて新鮮です。私には全編を流れる白い背景と無機質な情景が印象になって残りました。その中に登場する人たちの姿形が現実味を帯びるのは卓抜な表現力のなせる技でしょうか。イシグロにとって読者は彼自身なのかもしれません。 臓器移植のために生まれ育てられる子供の心身の成長を学校という世界と学校(施設)を出てからの生活の流れの中で描かれています。そのエピソードは友人間の嫉妬だったり憧れだったり強い性の欲求だったりするのですがその背景には臓器提供者という定められた運命を密かに感じているという漠とした足かせが横たわっています。著者は最後まで臓器という用語を使いません。提供者とだけ それが読者の私には涙がでるほどやさしく感じられました。提供するものとその介護にあたるものとの間の埋まらぬ溝も最終章の重要なテーマです。この作品はおそらく「私は私」というはっきりした気持ちを強くもつ人よりも「私はだれだろう。私はどこからきてどこへ向かうのだろう」と自問自答する読者に多くの共感を得ることができると思います。 | ||||
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読みだしころは、Kathyの淡々とした語り口と、Hailshamでの出来事に、どんな物語性があるのかよくつかめず、なかなか入りこめませんでした。 短い通勤時間に読んでいたんですが、興味が持てなくなり、会社に置きっぱなしにしたくらい(笑) けど、しばらくしてちょっと長い待ち時間のトモに読みだしたら、一気に中盤まで話が進み、そこからはドラマに引き込まれ、気づいたら予想が全くできない展開に辿り、最後はとってもショックでした。 予備知識がなかったので、この本ってラブストーリー?スリラー?なんて思いながら読んでいましたが、まさかSFでもあったとは。。。 個人的には、ちょこちょこ通勤時間などに読むより、わーーっと一気に読んだほうが、もやもやせず、一気に楽しめるタイプの本だと思います。 読み終わると、Hailshamでの章における、何かよくわからないなー、と思っていた箇所こそストーリーの重みを感じ、また、Kathyのどこか醒めた、第三者的な表現が切なくなってしまい、読み返してしまいました。 | ||||
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私は何の予備知識も無く本書を手に取ったので、初めのうちは英国の孤児院を舞台にした話かと思っていたが、 読み進めるうちに段々と普通でないことに気付き、やがて子供達の驚くべき運命と様々な謎が明らかにされていく。 どこまでネタばれして良いのか悩んでしまうので、本書の素晴らしさを伝えるのは非常に難しい。 本書のテーマについては、大野和基氏のホームページの中のイシグロ氏へのインタビューにおいてかなり詳しく述べられている。 そこでも、本書はネタばれもからんでしまうので書評を書くのが難しいだろう、という様な事が著者自身によって述べられている。 その一方で、イシグロ氏は、「この小説は最初から読者が結末を知っているかどうかは重要ではない」とも語っている。 私は本書を続けて2回読んでしまったのだが、2回目の方がより深い感動を味わう事ができたので、確かに著者の言うとおりかもしれない。(一冊の本を続けて2度読むなんて事は今までなかった!) 本書の題名にもなっている「わたしを離さないで」という曲に合わせて少女時代の主人公が踊り、マダムが涙をうかべて見ている場面は非常に心を揺さぶられる。また、その時主人公とマダムがそれぞれどう思っていたのか、読者によって様々に解釈されるであろうという意味でも非常に奥の深い場面だと思う。 ちなみに「わたしを離さないで」という曲もジュディ・ブリッジウォーターという歌手も私は知らなかったのだが、ネットで調べてみたところ、ちょっとした驚きがあった事を一応付け加えておく。 | ||||
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本の帯に柴田元幸氏が現時点で最高傑作と書かれていたのを見て、期待して読んだが、自分はそうは感じなかった。正直言って、「日の名残り」を超えてないし、「わたしたちが孤児だったころ」の方がよい作品に思えます。 ヤングアダルトに読ませたい成人図書、アレックス賞も受賞したと帯に書かれているのですが、なんかずれているように思えます。 所詮ありえないクローンの若者達に感情移入して、自分達がいかに自由で恵まれているとは思い込めない。 作品に主役のキャシーがルースという、わがままで自分勝手な女性といつまでも友人関係を続けているのも疑問です。散々振り回されているのに、どうしてもっと早い段階で距離を置かない?それには相当の理由があってもよさそうだと思ったのだが・・・。 マダムや展示館やその他の保護官の度重なる不可解な出来事が興味をそそられるが、 その割にはオチが平凡すぎた。 それと、彼らの生い立ちについてが疑問を残したまま。 もし途中に「親」を捜しに行くエピソードがなかったら、気にならなかったけど、 彼らはどうやって選ばれてクローンになったのか、ここは結構重要ではないかな? | ||||
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Kazuo Ishiguro はスタイルやテーマを一作ごとに変化させ、一か所に自分のスタイルを決めこんでしまうことがないが、じんわりと心に響くことは共通である。この作品はMary ShelleyのFrankensteinの流れを継ぐクローン人間の話である。心を持ったクローン人間たちが、自分たちの知らないところで進んでいる科学の流れに押し流されながら、抵抗もできずに運命に従って行く過程が描かれている。生産されてから、臓器提供で完結する一生のなかでの生活が、寄宿舎での生活、友情、自分の出所や将来への疑問、運命を知っていながらも残る生への渇望そして従順などとして、描かれている。人間の延命のための必要悪として、どうしようもない悲しみを背負ったクローン達の生活が抑えられた表現,常に静かな雰囲気の中で進むので、それだけ恐怖がじわっと感じられると共に、人間はどこまで科学を推し進めることが許されるのかとも考えさせられてしまう作品である。ほんの一部の人間たちがクローンの状況に心を痛め、改善努力をしているのがでてくることは慰めであるが、彼らとても科学の発達の勢いに,なすすべをなくしていく。クローンがもう現実のことであるから、単なるSFであったFrankenstein よりも恐怖が募るとともに、現代の我られに、問題提起をしている作品である。 | ||||
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本は読んだら大抵処分してしまう(欲しくなったらまた買えばいい)性分ですが、 初版で購入して以来、この本は手放せない魅力があります。 「リアリティが」とか「倫理感」とかいうコメントもありますが、 私たち通常人のメタファーと読む方が自然で意味を感じると思います。 著者自身のインタビューでも 「人の一生は私たちが思っているよりずっと短く、 限られた短い時間の中で愛や友情について学ばなければならない。 いつ終わるかも知れない時間の中でいかに経験するか。 このテーマは、私の小説の根幹に一貫して流れています。」 と答えていますし。 もし、10年後に、1年後に、もしくは明日人生がおしまいになるとしたら、 私は何を考え、何をするんだろう? 私にとって、これ以上のリアリティを感じセる小説は無いくらいです。 絶対おすすめ。☆5つ。 | ||||
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寄宿舎のような閉ざされた空間で子供たちが成長して行く過程を、介護人という人物の追想で語られるストーリーです。 普通の子供たちのような学校生活が語られる中で、所々に挿入される不思議な出来事がやがて来る不幸な未来を暗示する伏線として張り巡らされています。 そして成人した彼らを待ちうける悪夢のような悲しい運命が実に淡々と描かれていました。 似たようなストーリーを他で読んだことがあるので、途中から何となく結末は予想できましたが、それでも最後まで緊張感を持って読み続けることができました。 個人的に印象に残ったのは幼少期、小学校低学年時代の主人公たちの日常です。 こうした話は、通常「大人の想像する」子供時代というフィルターを通して描かれることがほとんどなのですが、本書ではとても生々しく子供の目線で描かれてました。 そのせいか、読んでいて私自身の遠い子供時代の忘れ去ったはずの出来事がいくつも思い出されてちょっと気味が悪いくらいでした。 そう、すっかり忘れていました、子供は狭い世界の中とはいえ、大人と同じくらい色々なことを考えている生き物だということを。 訳も優れているという点もあるのかもしれませんが、不思議な雰囲気や味がありおもしろい小説だと思います。 | ||||
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31歳の「介護人」キャシー・Hが「ヘールシャム」を回顧する形で展開する異質な小説。 「何」を語ろうとしているのか分からないまま、ヘールシャムでの生活や友人との交流が語られていき、この世界の中の現実に気がついた途端、心が凍り付く。 キャシー・Hの視点で、最後の最後まで「何か」をギリギリまで抑えた描き方にもかかわらず、その描いた物は強烈。 行間を読むというのではなく、小説後を読みたくなる希有な作品でした。 ……ネタバレでは書きたくないので、是非ご一読を。 | ||||
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カセットテープの表紙に魅かれて、単行本を選びました。 裏表紙の巻き終わったカセットテープは悲しくて耐え難く、 しかしにくい演出だと思いました。 トミーとキャシーと共に、マダムをたずねた際、同じ屋敷にいたエミリ先生の 「私達の保護下にある間は、あなた方を素晴らしい環境で育てること ―何もできなくても、それだけはしてきたつもりですよ。」 という言葉がまず、私の奥深いところをくすぐりました。 そして物語の終焉、キャシーと共に、 子どもの頃から失い続けてきたすべてのものの打ち上げられる場所、 ノーフォークを再び訪れた後、 私の中では様々な思いが湧き上がってきました。 読み手の個人史があぶりだされる一冊なのかもしれません。 読後、もう一度、第一部に戻ると、 物語の伏線に気づき、改めて作者の構成力に感嘆します。 疎ましいと感じていたトミーの癇癪が、実は“人間”性を端的に表現しており、 さらにいとおしくなります。 多感な10代の子ども達にも薦めたい。 読後に彼らが何を発するのか心に留めておきたい。 | ||||
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ただ、ただ、驚きです。 このような小説に巡り合ったことこそ僥倖と呼ぶべきだと思いました。 作者はカタカナの名前で書かれていますが、この作品は英語で書かれています。 その原文を訳した形となっています。 その訳者の方の才能でもあるのでしょうが、独特の文体になっていて、強くひかれました フィクションでありながらとてもそう思えない不思議な作品でした。 | ||||
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一見すると恋愛小説のようなタイトルだが、恋愛小説というわけではない。 社会派の問題提起作というわけでもないし、若者たちの切ない青春ストーリーでもない。 あるひとつの社会的な事象をテーマとしているけれど、かならずしもそのテーマに縛られない、もっとずっと広がりをもった作品だと思う。 物語は初めから終わりまで、一貫して主人公キャシーの生真面目な語り口で進んでいく。 進むというより、明かされていくといった方がいいかもしれない。 ひとつひとつの場面は、その手触りが感じられるほど細やかに描かれている。 最後には主人公キャシーの柔らかく、少しくぐもったような声が本当に耳元で聞こえるような気さえする。 主人公たちが育ったヘールシャムの記憶や、最後の場面で登場する湿地の風景が いつのまにか自分の中にもあることに気がついて、読み終わった後には、心が波立つような感覚を覚えた。 これは何もパラレルワールドの話ではなくて、現実に起こっていることなのかもしれない。 何かを犠牲にすることで、何かを成り立たせていく、そうした世界のあり方についていえば事実なのかもしれない。 人を愛すること、望む生き方を夢見ること、教育を受けること、自分が他者に人として認められること、 自分が他者を人として受け入れること、そんな当たり前のことができない状況にいる人たち。 私はマダムのようにそれを「かわいそう」と言って、泣くしかないのだろうか。 手を尽くしたけれど・・・・と。 この本には答えは書かれていない。 だからこそ、私は考えずにいられなかった。 キャシーやルーシー、トミーに対する共感が、そうさせたのだと思う。 他人と自分とは違う。けれど、自分以外の人にも、自分と同じように人生があって その価値を誰かが決めてしまうことなどできない。 キャシーやルーシーの人生も、自分のと全く同じ重さを持っている。 社会的なシステムや戦争や災害で、キャシーたちのように人生が奪われてしまう人もいる。 それは自分に及ばなければ、文字通り他人事だけど、そこに自分と全く同じような人生があったということに気がつけば、痛みを感じる。 私はそういう場面で、たとえばテレビで苦しむ人を見たとき、今まで見ないふりをしてきた。 知らなくても、私自身は生きていけることだから。自分がこうして平和に生きていられるのは、 どこかで誰かが苦しんでいるからだと、うすうす気づいていたのかもしれない。 劇的な展開もないし、誇張された表現もない。 けれどどちらかといえば冷静すぎるほど、 淡々とした話の中で、私の心は確実にとらえられていった。 キャシーやトミーの強さは心を打つ。 エンターテイメント性はないけれど、ぜひひとつひとつの場面を想像しながら、じっくりと読んでほしい作品。 | ||||
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