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(中編集)

帝都衛星軌道



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帝都衛星軌道の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

野心的な作者の新たな小説形式への意欲を買う

本来であれば本書は中編集というべきだろう。表題作の誘拐事件を扱った「帝都衛星軌道」と亡くなった詐欺師との回想に浸るホームレスの男の独白ような「ジャングルの虫たち」という2つの作品が収録されているからだ。

しかし通常の中編集と違うのは、前者の表題作が前後編に別れ、しかも前編と後編の間にもう1つの中編「ジャングルの虫たち」が挿入されるという、極めて特異な特徴を持っていることだ。

ノンシリーズである本書には島田氏のシリーズキャラクターは出ないものの、警察の実捜査を噛み砕いた内容や、詐欺師のありとあらゆる詐欺の手口を会話調で説明する語り口は非常に読みやすく、相変わらずのリーダビリティを誇る。登場人物の仕草や台詞や地の文に織り込まれる心情など、その登場人物の生活レベルに根ざした言葉が選ばれているようで、血が通っているように感じる。
年齢を重ねるごとにその筆致は練達の域に達しているようだ。特に飾り気のある文章ではないが、その人と成りがすっと頭に入っていく自然さを持っている。

そして表題作の後編で立ち昇るのは島田氏のライフワークとも云うべき、冤罪事件と日本の都市論だ。

そして東京の地下鉄はかつて戦時中などに作られた無数の地下経路を結んで作られているという事実。だから東京の地下鉄路線は歪な形をしているのだと島田氏は述べる。私も東京に来て通勤に地下鉄を利用することになり、路線図を眺めて思ったのはなんともおかしなルートをしているなぁということだった。この素朴な疑問に1つの回答が得られた思いがした。

ただ途切れないトランシーヴァーの真相はあまり驚愕を抱かない。
山手線に乗る美砂子との通信が途切れない謎の真相はなるほどとは思った。

しかし2番目の被害者の紺野貞三のマンションへの連絡方法に関する真相はいささか残念な思いがした。
21世紀に生み出された島田作品にはこういうある特殊な知識を持っていないと解けない謎が多いように気がする。この是非については既に述べているのでここでは語らないが、とにかく読者との知的ゲームという観点での本格ミステリであればアンフェアであると認めざると得ない。ただ新たな知識を得るという観点での本格ミステリであれば、肯定も出来るだろう。

また中間に挟まれる中編「ジャングルの虫たち」はミステリではなく、一種のファンタジーともいえるだろう。
表題作の後編を読むとこの中編が後編を補完するような役割を果たしているのが解る。しかし非常にそれとなく書かれているので上のようにある関係性を持っているとも書けるし、全く独立した2編でなぜ表題作の前後編の間に挟んでいたのかが解らない読者もいることだろう。

私は本書を1つの新しい中編、いや長編の形の試みと評価する。成功しているか否かは別にしてやはりこの意欲は買いたい。
御年60を超える島田氏のアイデアを物にするストーリーとプロットを思いつく知性はまだ新しい本格の型を模索する貪欲さがあり、後続の本格ミステリ作家にはまだ負けないという気概さえ感じる。もっと後輩作家、特に新本格作家連中は島田氏を見習ってほしいものだ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

帝都衛星軌道の感想

久しぶりの島田作品でしたが、とても作者らしいと言う感じの物でした。まず冒頭に不可解な謎の提示。そして論理的に解決された様で、なんか良く分からなくて全部は納得出来ない結末。また、言いたいテーマがあり、それにストーリーを後付した様な所。しかしそういう意味では、今回は結構バランス良く出来ていたと思います。
長編を前篇と後編に分け、その間に別の中編を挟むという構成でした。どちらの話も人間味が有り、しんみりとした読後感が良かった。

なおひろ
R1UV05YV

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