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テロリストのパラソル



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テロリストのパラソルの評価: 6.50/10点 レビュー 12件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:5人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

過去が追いつかれてしまった人々

2007年に亡くなった藤原伊織氏の江戸川乱歩賞受賞作にして直木賞受賞作。こんな説明が要らないほど有名な作品だが、確かにこれはとてつもないデビュー作だ。

まず冒頭の導入部。久々に晴れた日、公園まで散歩する主人公と休日を楽しむ人々の風景。そして突然の爆発。
静から動への反転が素晴らしく、一気に読者を物語世界に引きずりこむ。

主人公はアル中のバーテン島村圭介。それは偽名で元の名を菊池俊彦という。彼は過去園堂優子、桑野誠の3人で活動していたノンセクトの全共闘時代の闘士の1人だった。
彼が現在のように名を変え、人の目から隠れるようなその日暮らし、その場しのぎの生活を送るようになったのはこの全共闘時代に起こした犯罪が基ではなく、その後それぞれの道を歩き出した3人が人並みの生活を送れるようになったその瞬間に訪れたある爆発事故だった。その時の被害者にも警察官がいたという運命の皮肉。

そんな彼を取り巻く人物も血肉を持っている。島村のかつての友人桑野に優子は無論の事、新興の組を束ねるエリートヤクザ浅井に、優子の娘、松下塔子。
彼らに共通するのは栄光を掴みかけた喪失感だろうか。何かに失敗し、また這い上がろうとし、努力を重ね、そして再び成功に似た何かを掴みかけたその瞬間、運命が眼の前でそれを攫っていく。ただ彼らはそれをあるがままに受け入れる。何かのせいにせず、とにかく生き延びる事にだけ執着して。

主人公の島村の場合はそれはボクサーとしての栄光であった。
エリートヤクザの浅井にとって、それはノンキャリアながらも異例のスピードで出世していく警察官だった時だった。
園堂優子にとって、それは彼女が3ヶ月間、島村こと菊池と暮した短い日々だった。
桑野にとって菊池と優子の3人とともに戦った日々であった。

それらを語る文章になんの衒いも飾りもない。ただ少しばかりの感傷を織り交ぜ、物事が、時間が語られる。その行間に隠されているのは彼らが辿った人生の重み、深みだ。
素晴らしい。時間を忘れる読書を久々に体験した。

逃亡生活を送っていた島村を事件と向き合わせたのは偶然がもたらしたかつての友たちの死。彼らへの弔辞の代わりに誰が彼らを殺したのかを探る。

知らなければいい事は確かにある。笑顔で笑いあった日々、その眩しい思い出に隠された本当の心などはそれぞれの胸の内に仕舞い込んでおけばいい。答えを知る事で失う事があることだってあるのだ。
しかし、失う事ばかりではなく、確かに私こと菊池が得た物もあった。それはかつて一緒に暮した女性の娘の恋心だ。それだけが救いか。

10月の長く続いた雨が止んだ土曜日、新宿中央公園で起きた爆破事件。それは物語の始まりであったが同時に彼ら3人の終焉の瞬間であったのだ。
その運命の瞬間に居合わせた人々が形成する曼荼羅はいささか偶然に過ぎる感じもするとも云えるが、まあそれは措いておこう。

本書の題名にあるパラソルという単語は最後の最後にようやく登場する。ある登場人物がこの言葉に込めた意味とは、以前とは変わり果ててしまったある人物の中に最後に見出した少しばかりの優しさだったのかもしれない。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

同時受賞は伊達じゃない!

最後のドンデン返しのドンデン返しが、これまで読んだ作品の中でも最も意外で且つ納得できるものでした。私の中ではミステリー(ハードボイルド系)ベスト3に入る作品です!

せいじ
JBTI36XX

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