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玄い女神



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玄い女神の評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

読者を突き放した、趣味に淫した作品

建築探偵桜井京介シリーズ第2作。前作がスペイン風建築で今回のモチーフはインド。しかしタージ・マハルに代表されるような豪奢な宮殿ではなく、町中にある小さな宿のような建物。

本格ミステリとはその現実離れした特異性ゆえ、いかに物語世界に読者を引き込み、その中でのリアルをいかに感じさせるかが鍵である。
したがって中途半端なことをやるよりもやるならばとことん別の世界の話とまで思わせる、もしくは隔絶された過疎地域のような地域の特殊性が出るような場を提供する方がいい。

さて今回の惨劇の舞台となる恒河館は、本格ミステリで云うところの“嵐の山荘”である。つまり作者は今まで決して本格ミステリ然とした舞台設定を好まなかったが、今回はあえてそれに挑戦している。

しかしなんとも読みにくさを感じる小説だ。特に場面が思い浮かばない。添付された舞台となる恒河館の見取り図と作内で騙られる場面が結びつかないのだ。
見取り図にはない部屋の室名で場面が語られるため、非常にシンプルな構造をしているにもかかわらず、いやそれがゆえにそれぞれの人物がどの部屋にいるのか、どの部屋を指しているのかが解りにくい。

また加えてホテルとして開業するにはこの恒河館という屋敷の部屋数が少なすぎるのもまた気になった。たった2階建てで客室が3部屋しかない構成はまるでドラクエの宿屋のようだ。どうやって経営を成り立たせるのか。このまるで現実味を覚えない設定が物語世界にのめり込むのを阻んでいた。

そういった意味ではせっかくの舞台設定が生きていないと云わざるを得ないだろう。
また物語のテーマが今回はインド神によるところが大きいのも逆にこちらの興味を殺ぐ結果となった。過去の死亡事件に関わった人々にそれぞれインド神を擬えるというのはなんとも漫画的で愕然としたものだ。ミステリアスな死者の言葉がなんとも陳腐なものとして響いてしまった。
恐らく作者自身も自覚的だったのだろう、作中登場人物の間でミステリ談義が交わされるが、そこで持ち上げられるのは中井英夫氏の『虚無への供物』。つまり日本の三大ミステリの1つであり、アンチミステリの代表作だ。あらかじめ今回は観念的な宿命論を持って来ますよということを投げかけていたのだが、その設定にはちょっと違うだろうと思わされてしまった。
こんな絵空事な宿命よりも運命の皮肉という物語の妙で勝負して欲しい。そういう意味では前作の方がよかった。

この作家に期待するのは自分の好きなものを垂れ流し的に書くのではなく、もう少し読者の目を意識した作品を著す事だ。
デビューから一貫して他の新本格ミステリ作家とは一線を画した作風で勝負をしていることは賞賛に値するが、そのマニアックな内容はあまりに排他的で、「好みが合う人だけ付いてきな」とでも云わんばかりの傲慢さを感じる。

桜井京介、蒼、そして今回出演の機会がなかった栗山深春といったレギュラーメンバーの面々は正直嫌いではない。本格推理小説でありながら推理の対象は建物に秘められた謎が主であり、殺人事件はあくまで副次的という主題性も他の本格ミステリ物と一線を画す特徴があって好ましい。
後は物語のパンチ力か。ページを繰る手を休ませないリーダビリティと心に残る物語を期待したい。

Tetchy
WHOKS60S

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