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ナヴァロンの嵐



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ナヴァロンの嵐の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

もはやこれは商業主義以外何物でもない

ナヴァロンの巨砲壊滅はただの前哨戦に過ぎなかった!
満身創痍で瀕死の状態で任務を成し遂げたマロリー大尉とミラー伍長たちのまさに任務達成直後から物語は始まる。

2人は再びジェンセン大佐から新たな任務を告げられると、ようやく任務を終えて結婚式を挙げようとしていた不屈の男アンドレアを強引に引き連れてイタリアのテルモリへと向かう。今度は孤軍奮闘する7,000人ものパルチザン兵を救出するために。

しかしジェンセン、人遣い荒過ぎでしょう!
ほとんど生死の境を彷徨うほどの超難関な任務を終えた部下たちをたった30分しか眠らさず、飛行機に乗せて次の任務地に連れて行くなんて、今の時代ならパワハラ上司の極みとの謗りを受ける事だろう。

そんなパワハラ上司ジェンセンの有無を云わさぬ強引さによって今回もマロリーたち一行は困難な任務に赴くわけだが、1作目に比べると切迫感がないように感じる。疲労困憊なはずなのに1作目で感じた死線を彷徨うようなスリルに欠けるのだ。
物語のスケールとしては前作が1,800人のイギリス兵の救出に対し、今回は7,000人のパルチザンの救済と3倍以上になっているにもかかわらず、常に余裕綽々で全知全能の存在の如く、事に当たっているように感じる。寧ろ部下のレナルズのように眼前に起きている事態が解らなくて戸惑っていながら、マロリーに反発している姿こそが読者そのものを写しているかのように感じた。

それはやはりキース・マロリーがもはや生ける伝説の英雄となっているからだろう。前作登場時は世界的な登山家として勇名を馳せていたという設定ではあったが、読者にとってキース・マロリーは全くの門外漢であった。その男が満身創痍になりながら不撓不屈の精神で不可能と思われたナヴァロンの巨砲を打ち砕く姿に感動を覚えたものだった。

しかし今回のマロリーはその時の男とは違い、もはや一介の登山家ではなく、誰もが不可能を可能にする男としてヒーロー視しており、そしてマロリー自身も上に書いたように困難を困難とも思わずに誰もが呆気に取られるような無謀な計画を立てては完遂する有言実行の男になっている。
1作目では到底不可能とされた任務に何度もくじけそうになりながらも前に進んだ姿とはもはやかけ離れているのだ。“男子三日会わざれば刮目して見よ”という言葉があるが、キース・マロリーの人物造形の違いは危難を達成したが故の成長と見てとれるが、それにしてもその違いには戸惑いを覚えざるを得ない。

読者へのサーヴィス精神と云う観点から考えれば、救出すべき人員の数と巨砲ならぬダムの破壊と以前にも増してスケールアップしているのは定石通りと云えば定石通りだが、物語の深みが明らかに減じているのは非常に残念だ。

前作が作者2作目の意欲作であり、所謂「2作目のジンクス」を打ち破らんがために渾身の筆致で描いた苦難に挑む男達の物語だったが、それはデビュー間もない作家が持つ初々しさと粗削りさがいい方向に出た稀有の傑作だったと云えよう。
翻って本書はキース・マロリーと彼の仲間ミラーとアンドレア達ヒーローの物語であり、冒険小説ではなく映画化を意識したエンタテインメント小説となってしまっているのだ。特に原作しか読んでいない読者にはピンと来ないアンドレアの婚約者マリアはなんと映画でのオリジナルキャラクターとのこと。映画会社のいいなりになって自身のオリジナルをも捻じ曲げるとは、何とも情けない限りだ。

そして哀しいかな、本書以降、書評家たちのマクリーン作品への評価は決して高くない。この2作の明らさまな違いがその後のマクリーンの、テクニックだけで映画会社が喜ぶストーリー展開と派手な演出へと淫していった兆しが同じ主人公を使った本書で顕著に表れたように感じた。

Tetchy
WHOKS60S

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