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黒い十字軍



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黒い十字軍の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

マクリーン版007か

今度のアリステア・マクリーン作品はイギリス情報部員ジョン・ベンタルが挑む潜入捜査だ。オーストラリアで起こっている技術者たちの謎の失踪事件をベンタル自身が燃料工学の専門家に扮して一連の事件の謎を探るという話だ。

舞台は南国の島国フィジー。オーストラリア渡航の乗換のため、宿泊したフィジーのホテルで拉致されるが、機転を利かせて脱出したベンタルとマリーの男女の情報部員が流れ着いたのは考古学者が研究のため逗留する小さな島ヴァルドゥ島。

ヤシの実に白い砂浜、肌を撫でる貿易風に揺られながらハンモックで昼寝をする。およそ諜報活動とは無縁の世界で繰り広げられるのは楽園に隠されたイギリスの秘密基地。しかも今回は男女の情報部員による任務ということでどこか007を思わせる設定だ。
作者マクリーンも意識的なのか、偽装した夫婦として任務を課せられたマリーとベンタルが当初は反目し合いながらも次第にお互いを想いあうようになる。下手をすればハーレクインロマンスと見紛うかのような内容だ。

それもそのはずであとがきによれば本書はイアン・スチュアート名義で書かれた作品とのこと。つまり従来のマクリーン作品とは一線を画した舞台設定と登場人物を想定した作品なのだ。

そんな中で深手を負った科学者を装いながら島の周囲を探るベンタルが察知した真の任務とはイギリスがフィジーの小島で隠密裏に “黒い十字軍(ダーク・クルーセイダー)”という最新式のロケット開発を進めている科学者たちが連れて行った妻たちの行方を探るという物。

真相を読むに至って私はますますこれはマクリーンがスパイアクション小説を想定して書いた作品だという思いを強くした。
それを裏付けるかの如く、今まで硬質な文体で、読む者にさえ苦難を強いることを感じさせられたマクリーンの文体が本書では実に軽みを帯びている。特にベンタルの独白は凄腕の情報部員ながらもグチと減らず口を叩き、特にパートナーのマリーに対する感情をところどころ吐露する辺りは今までのマクリーン作品の主人公とは思えない優男ぶりが垣間見える。

そんなマクリーンの手によるスパイアクション小説はしかし突飛な小道具や秘密兵器といった物は一切出ず、ベンタルが次第に傷を負い、ボロボロの身体で満身創痍になりながらもどうにか新型兵器ダーク・クルーセイダーの持ち出しを阻止しようと奮闘する。
主人公が何でも一流の腕でこなすスーパーマンのような男ではなく、敵と味方の反感を買いながら、自分が死ぬことなど厭わない不屈の心を持っているところがマクリーンらしい。

珍しく軽さを感じる文章でクイクイ読ませる作品だったが、結末はかなり苦いものだった。
しかしこの読みやすさは今後もあってほしい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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