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(短編集)

犯罪カレンダー(7月~12月)



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犯罪カレンダー(7月~12月)の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

1年の後半は息切れ感が…

クイーン版ミステリ歳時記後編。題名が示すように7月から12月に亘って起きた事件について綴られている。

7月は夏の暑いさなかに起こった「墜落した天使」。
エラリイが犯人を特定するのに7月の独立記念祭に使われる爆竹が手がかりとして挙げられる。
7月なければならなかったというほど強い根拠ではないが、アメリカの祭りの特徴が上手く事件に使われている。しかしクイーンのロジックを堪能するには弱いかな。

8月はある探検家から依頼が来る「針の目」だ。
財宝探しと殺人事件を絡めた意欲作。しかし前者の宝探しの暗号は読者の推理する時間を与えぬまま、エラリイはすぐさま看破してしまう。
そしてそれが依頼人エリックスンの懸念、姪と自分ら2人が姪の夫とその父によって殺されるのではないかという疑念を現実に変えてしまうという、2つを融合させた作品だが、エラリイのロジックが冴え渡るというよりも自分の推理をまくし立てるエラリイの舌先に乗せられたまま、事件は解決してしまったように感じ、ミステリのカタルシスを感じるとまでいかなかった。
しかし月長石は作中で語られるオウガスタス・シーザーの月、つまりは8月という記述の意味は解らなかった。月長石は6月の誕生石らしく、作中にも月長石は出てこないので、単純に8月に結びつけるアイテムやイベントが浮かばなかったのでクイーンが苦し紛れにこじつけたように感じた。この辺からもなんとなく坐りの悪さを感じる作品だ。

9月の事件「三つのR」はアメリカはミズーリ州にあるバーロウ大学で起きた。
9月は新学期が始まるということで、大学を舞台にした事件が扱われている。本編は『犯罪カレンダー<1月~6月>』に収録されたある作品と趣向は同じ。

10月のアメリカの祭りといえばハロウィン。「殺された猫」はハロウィンの最中に起きる殺人事件の話だ。
パーティの最中の殺人ゲームが本当の殺人に発展する。なんともありきたりな話ではある。
そしてエラリイはその当事者の一人なのに、暗闇でうたた寝をしてしまい、その瞬間を思い出せないという失態を演じてしまう。
話の演出としては実にオーソドックスだが、前半パーティに興じるエラリイとニッキイの2人で交わされる、散らかり放題の部屋の中であちこちに身体をぶつけ、難儀する会話が最後の犯人特定に大きな要因になるのは実に見事。こういうさりげない伏線というのに私は弱い。
しかしクイーンは最後の一行で犯人が判明する演出が本当に好きな作家である。その演出に拘るため最後のあたりはどうしても不自然に思えてしまう。

11月の行事といえば日本では馴染みのない感謝祭がある。「ものをいう壜」は感謝祭の前日に起きた事件だ。
感謝祭に纏わる話からインディアン―今ではネイティヴ・アメリカン―の話に及び、そこから発展してその子孫の働くレストランに至って、そこで麻薬密売の端緒に触れるという先の読めないストーリー。
本書でも触れられているが、この作品はチェスタトンのブラウン神父シリーズの中でも一、二を争う名作「見えない男」のオマージュである。
クイーンがなぜこの事件を11月のメインの行事、感謝祭の前日に設定したのかは最後の一行で判明する。この台詞をどう受け取るかで作者クイーンの評価が分かれるだろう。私はちょっとあざといなと感じた。

最後の12月はやっぱりクリスマス。「クリスマスと人形」はクリスマス・イヴに起きた盗難事件を扱っている。
なんと最後を飾るのはクイーンの手によるエラリイ対怪盗という頭脳対決。しかも本編に登場するコーマスは作中でも述べられているように、ルパンの継承者とも云える凄腕の怪盗だ。つまり本書はエラリイとルパンの対決譚と云ってもいいだろう。


前作『~カレンダー<1月~6月>』で久々に初期の知的ゲーム的面白さを堪能でき、本書においても同様の愉悦を期待したが、いささか失速感があるのは否めない。作品に瑞々しさがなく、作者クイーンの息切れが行間から聞こえてきそうだ。

本書でも前作同様、それぞれの月に関係して事件が起こるが、本書では一部こじつけめいたものを感じた。

まず7月に起きた事件を扱った「墜落した天使」では独立記念祭に使われる爆竹がエラリイに犯人のトリックを看破する手がかりとなっているのはよい。
しかしその次の8月の「針の目」は月長石がオウガスタス・シーザーの月だから殺人が起こるというはいささか無理を感じる。月長石は6月の誕生石の1つだし、おまけに月長石は作中には出てこないのだから、なんとも苦しい。
9月は新学期ということもあって「三つのR」では舞台が大学内となっている。10、11、12月の短編「殺された猫」、「ものをいう壜」、「クリスマスと人形」はそれぞれアメリカで有名な行事であるハロウィン、感謝祭、クリスマスがテーマだ。その中でも「ものをいう壜」は感謝祭そのものよりも最後の一行の台詞のみそれを感じさせるのだが。

そしてこの両短編集は趣向的、内容的にも対を成しているように感じた。

それぞれの短編が発表された年はまちまちであり、恐らく1月から順番に発表されたものではないだろうが、後半の本書は前半の作品を下敷きにした発展型のように感じた。しかしそのためにシンプルさに欠けており、ロジックの妙を前半よりは楽しめなかった。

あえて個人的ベストを挙げるとすると「殺された猫」か。クイーン作品の特徴であるストーリーに溶け込ませた何気ない描写が最後に犯人特定のロジックの決め手となるという趣向があるが(例えば『Zの悲劇』の死刑執行シーン)、これはそれを堪能できる作品。まさか散らかり放題の部屋でエラリイとニッキイがあちこちにぶつけ、文句を云い募るスラップスティック的なシーンが推理の材料になるとは思わなかった。こういう無駄のない作品を読むと本格ミステリの美しさを感じる。

しかし上にも書いたようにミステリの趣向としては『~<1月~6月>』の各編に類似しているため、二度同じような話を舞台を変えて読まされたと感じてしまった。評価の星の数は一緒だが、こちらは7ツ星の下というべき位置づけ。
クイーンが意外とヴァリエーションのないことに気付かされた、ちょっと寂しい読後感だった。


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