■スポンサードリンク


(アンソロジー)

(編集)

新・本格推理03 りら荘の相続人



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
新・本格推理〈03〉 りら荘の相続人 (光文社文庫)

新・本格推理03 りら荘の相続人の評価: 9.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(9pt)

天才の登場にひれ伏す

『新・本格推理』シリーズも3冊目になって、今回は一種の転機のようなアンソロジーになったようだ。
というのもなんと前シリーズ『本格推理』でも成しえなかった一人の作者による複数掲載、しかも3作というからすごい。その作者の名は小貫風樹。その3作に共通するのはダークなロジックともいうべきチェスタトンの逆説や泡坂のロジックを髣髴とさせる悪魔のロジックだ(実際アンケートでこの作者は尊敬する作家の中にこの2者を含めている)。彼の書いた3作からまず感想を述べていきたい。

まずこのアンソロジーでも冒頭を飾る「とむらい鉄道」から。最近「全国赤字路線安楽死推進委員会会長」と名乗るテロリストの手による廃線寸前の鉄道の鉄橋爆破事件が頻発していた。その事件に巻き込まれて死んだ叔父の葬式に出た帰りに駅でまどろんでいた春日華凜は久世弥勒なる妖しい雰囲気を纏った人物に出逢い、宿泊先へ案内される。宿屋で寝ていた華凜が目覚めた時に弥勒が持っていたのはなんと爆弾だった。弥勒はテロリストその人なのだろうかというストーリー。
弥勒の、男性とも女性ともつかぬキャラクターや犯罪を止めるのならば殺人も厭わない冷酷さは今までの応募作品にはないダークな感じがして良い。最後の結末は詰め将棋のような精緻さと冷酷さで衝撃的だった。「解決」と「解明」の違いについて論じるところは、なるほどと得心が行くところがあり、面白かった。

次に「稷下公案」。これは古代中国を舞台にした作品で「とむらい鉄道」とはガラリと舞台設定、雰囲気を変える。稷下という今で云う学園都市で起きた事件。学士の楽園とされる稷下では孟嘗君に代表される食客とが入り乱れていた。そんな中、学士の青張と食客の青牛が街中で喧嘩をしていた。実の兄弟であるため、ただの兄弟喧嘩であろうと思ったが刀の名手である青牛は激昂のあまり、刀を抜きだす。そこへ現れた学士淳于髠が見事にその場を収めてしまう。騒動の一部始終を一緒に見ていた知叟と愚公はその後行動をともにするが、そこでものすごい音響と共に自分の家の厩で淳于髠が圧死した現場を目の当たりにする。
要約するのが難しいほど情報量が詰まった作品。古代中国の世界ならびに当時の思想家の思想を詳細に描くこの作者の懐は十分に深く、そのあまりに見事な筆致にプロの覆面作家ではないかと邪推してしまうほどだ。「とむらい鉄道」にも見られた「悪は悪を以って制する」、「人を殺めた者は処刑を以って罰する」という精神はここでも健在。特に前半、善人と思われていた孟嘗君のどす黒い嫉妬が明らかになる辺りは読んでて戦慄を覚えた。

そして最後は「夢の国の悪夢」。これも現代を舞台にしながら「とむらい鉄道」とはガラリと趣きを変えた作品。ディズニーランドを思わせるウイルスシティーというテーマパークで起きたマスコット、ウイルスラットの首切断事件。それは一瞬にして起きた突然の事件だった。犯人はどのようにして首を切断したのか?
ここでは「とむらい鉄道」で探偵役を務めた久世弥勒が再登場する。3作の中では出来は最も劣るものの、ディキンスンを髣髴とさせる異様な世界で繰り広げられる闇の論理がまたしても読後不気味に立ち上がってくる。
2017年のミステリ界ではまだ見ぬこの名前。もしかして既に別名義でデビューしているのか気になるが、もし作品が上梓されれば買ってみたいと思う。

その他5作でよかったのは「Y駅発深夜バス」が文句なしだ。接待で終電に乗り遅れた坂本は、妻が教えてくれた深夜バスに乗る事にした。陰気な雰囲気のバスは果たして予定通り家の近くに着いた。0:10の便に乗り遅れ、1:10の便に乗った坂本は翌朝妻から、その便は日曜は運休だと告げられる。
冒頭の深夜バスに乗り込む件は『世にも奇妙な物語』テイストでかなりいい。一部、二部構成も必然性があるのだが、最後のオチは、まあ、歴然たる証拠の1つではあるのだが、私の好みではない。

その他、前回「湾岸道路のイリュージョン」の続きである「悪夢まがいのイリュージョン」、チェスタトンの「見えない人」に挑んだ「作者よ欺むかるるなかれ」、共に孤島物である「ポポロ島変死事件」、「聖ディオニシウスのパズル」も水準作であるのだが、今回は小貫風樹という1人の天才の前に霞んでしまった感が強い。
ロジックに精緻さを感じるものの、心情に訴える魅力を感じなかったのだ。
今回はこの天才の才能に素直にひれ伏して9ツ星を捧げよう。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!