ギリシア棺の謎
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初版刊行(参考)
種別
長編
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あらすじ
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評判
ギリシア棺の謎の評価:
6.40/10点 レビュー 5件。 A ランク
ギリシア棺の謎の総合評価:
7.85/10点 レビュー 54件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1〜2 1/1ページ
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シリーズ4作目での趣向はトライアル&エラー、つまり複数の推理による事件の解決である。つまり今回、エラリーは一度誤った推理を犯し、二度目は父親である警視の推理に出し抜かれ、三度目にしてようやく真相に辿り着く。
この趣向を行うために作者は時代を遡り、エラリー最初の事件としている。そしてその趣向のため自然ページ数も最大となってきている。つまりそれほどこの作品には自信があるということだ。
で、その自信作はというと、いやあ、確かに素晴らしい出来映え。またもやものの見事に騙された。今回は真に完敗である
正直に云えば、犯人が明かされたとき、驚きよりも懐疑が勝っていた。この真相はちょっと狙いすぎだろうと。しかし40ページに渡って繰り広げられるエラリーの推理を読んで、その心境は喝采に変わった。実に素晴らしいどんでん返しだと。正にこれはクイーンがこれだけのページを費やすに値する自信作だ。
本書における真犯人は第4の犯人であるが、読者への挑戦は第3の犯人が提示される前に挿入されている。この第3の犯人を立証する論理が非常に穴だらけで、何だ、これは?とこぼしてしまったが、それを洗い流すだけのカタルシスが最後に得られた。
しかし、本書において1つだけ腑に落ちない論理がある。それは第1段階の推理で判明する被害者の従弟が色盲であるという事実を証明するシーンだ。
その従弟は緑が赤に見え、赤が緑に見えるという。これがちょっとおかしい。本書ではこの色盲を部分的色盲と述べているが、例えば赤が緑に見えるのは解るにしてもその逆が成り立つかどうか甚だ疑問である。
そしてこの推理にはもう1つの解釈が出来る。このギリシアから呼ばれた従弟は白痴であり、それゆえに単語を覚える段階で「赤」を「緑」と覚え、「緑」を「赤」と間違って覚えたという解釈だ。こっちの方が理論的にすっきりすると思うのだが。
あと事件の発端ともいうべき、紛失した遺言書をいかに盗んだかについて何ら解明されていない事だ。誰かが盗んだのは出てくるにしても、執事がうたた寝しながらも金庫の前に鎮座していたという状況下でどのように盗んだのか興味があったのだが、結局それについては流されてしまった。事件の捜査が進むに連れ、この無くなった遺言書についてはそれほど重要視されなくなったのも気になった。
あとタイプライターについての推理は、読者、特に日本の読者には推理しようにも出来ない代物だ。どこのタイプライターか、特定する材料として£(英国ポンド)のキーがある珍しいタイプという述懐があるが、解明の糸口となる電報の件でもポンドはカタカナ表記だし、これは正に騙し打ちの感がある。まあこれは海外ミステリの抱える一種の業のようなものだから仕方ないか。
また、この時代を遡るという設定は今までの作品と違って、エラリーの理解者である父親のクイーン警視や地方検事のサンプトンらが、エラリーの存在を疎ましく思っている効果を生み出し、それが面白い。とはいえ、他の名探偵物に比べるとやはり警視の息子ということで特別扱いをされている感は否めない。
明らかに捜査の邪魔となるエラリーの気紛れな所作は、激昂の上、退場を命ぜられてもおかしくないものばかりだし、また大学出たてのくせに周囲の大人にタメ口をきく無礼さ―まあ、これは翻訳の綾かもしれないが―も寛容に受け止められている風がある。
それ以外に、時代性を感じさせる表現があったので、ここに書きとめておこう。
書中でおやっと思ったのは事件のキー・パーソンとなっているハルキス氏の秘書ジョアン・ブレット女史が自分の年齢が22で、結婚年齢が過ぎたと述べていること。これは早すぎではないか?というより、この1930年代とはそういう風潮だったのか?今の日本の結婚適齢期を考えると、ものすごい隔世の感がある。
そしてエラリーは明らかにこのジョアン女史に色目を使っている。ちゃらちゃらしてますね、彼。そして初対面時のくどき文句がすごい。
「僕が、あなたについて、たとえ予備知識をもっていなかったとしても、僕の循環組織が、それを教えてくれるとは、お考えになりませんか」
つまり、要約すると、「貴女の事について、何も知らなかったとしても、いきなり胸がドキドキしたってこと、解ります?」ってことなんだろう。これをわざわざ回りくどい表現を使うクイーン。まあ、大学ぽっと出の、頭でっかちな時にしか浮かばないセリフだな。
今回は密室状況下での殺人とかダイイング・メッセージとか、衆人環視での殺人、人物消失などといった不可能趣味というよりも色々出てくる事実に辻褄が合う1つのストーリーはこれだ!といった類いのミステリだったので、決定的な証拠があるわけでもなく、読者への挑戦まで堅牢な自分の推理というのが持てなかったのが、悔しい。が、やはりこれほどまでにロジックに彩られたミステリはやはり面白いものだ。
そして最後の中島河太郎氏によって明かされる本書に隠された趣向もまた素晴らしい!いやあ、やるねぇ、クイーン!
▼以下、ネタバレ感想