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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数1426件
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巷間に流布しているホームズ譚の短編集は『~冒険』、『~帰還』、『~思い出』、『~最後の挨拶』、『~事件簿』の5冊が通例だが、新潮文庫版においては各短編から1、2編ほど欠落しており、それらを集めて本書を編んでいる。従って衰えの見え始めた後期の短編集よりも実は内容的には充実しており、ドイル面目躍如という印象をもってホームズ譚を終える事になろうとは計算の上だったか定かではない。
本作においては冒頭の「技師の親指」など結構読ませる短編が揃っており、個人的には「スリー・クォーターの失踪」がお気に入り。最後の「隠居絵具屋」はチャンドラー、ロスマク系統の人捜しの様相を呈した一風変わった発端から始まるが最後においてはポーの有名作品を思わせる仕上がりを見せるあたり、なかなかである。 しかしホームズ譚を全編通じて読んだ感想はやはり小中学校で読むべき作品群であるとの認識は強く、少年の頃に抱いた輝かしい物語のきらめきの封印を無理に抉じ開けてしまった感があり、いささか寂しい思いがする。色褪せぬ名作でもやはり読む時期というものを選ぶのだ。 |
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クーンツは巷間ではモダン・ホラー界のヒット・メーカーで通っているが、私に云わせれば、モダン・ホラー界のジョン・ディクスン・カーだという方が最も的を射ていると思う。それほど当り外れの激しい作家なのだ。
今回はその例に準えれば外れになろう。 本作で扱っているテーマはリーインカーネーション、つまり訳せば「輪廻転生」。冒頭の少女の苦悶のシーンがその後のテーマに繋がっていくのだが、どちらかと云えば展開は凡庸でクーンツならではという特徴がない。キャロルの私生児が実は、という設定も凡百の小説に見られる「意外ではない意外性」の域を脱せず、あざといテクニックを露呈するだけに。 作者自身も書いてて面白くなくなったのだろうか、『邪教集団~』、『雷鳴の館』でこれでもかとばかり見せ付けた主人公を完膚なきまでに追い詰めていく展開が意外にあっさりと片付けられ、しかも唐突に迎えるあのエンディング。 それ以降を書いて唯一無二の結末を提示するよりもその後あの4人がどうなったのかを読者の想像に委ねる手法を敢えてとったのかは定かではないが、正直消化不足ではないだろうか。 邦題もよくよく考えれば的外れでもあり、う~ん、色々含めて凡作だなぁ。 |
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全く以って天藤真は素晴らしい。またも我々ミステリ・ファンを興奮させる趣向でもてなしてくれた。前回の感想で天藤ワールドの開幕を宣言したが、それが疑いなく証明されたことが本作で明らかになった。
今回は今までの三人称叙述から一人称叙述と、しかも少々ある種の緊張感を持った文体へ変え、新たな地平を目指しているのがまた頼もしい。題名はもう少しどうにかして欲しいというのが本音だが、内容は今までに比べ、結構ハードだ。何しろ題名のように7人もの死者が出るという虐殺劇である。 更に今回感心したのが狙われる主人公が筋金入りの色魔で大会社の社長であり、街の大権力者という読者に同情を許さない人物に設定した点にある。これが故に本来ならば悪人が最後に笑うというざらついた読後感を残す所を従来の天藤作品同様、一種の爽やかさを備えている点、脱帽である。 ただ贅沢な事を云えば、ここまでをしてもやはり星10個には届かない。『大誘拐』級の痛快さとかズドンと来る衝撃がなければどれほど巧みな設定であっても9ツ星止まりなのだ。ただやはり天藤作品はクオリティが高いのは心底痛感した。 |
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『遠きに目ありて』をきっかけに名作『大誘拐』と読み進んできた私の天藤作品体験にある意味、決定打を打ち込んだのは数年前に古本で購入した本書であったと今にして思う。前作『死の内幕』までの時には私の目に狂いがあったかとも思ったが、本書を久々に読んで、ああやはり間違ってはなかったと思いを新たにした。ここには天藤作品のエッセンスがぎっしり詰まっており、また本書から天藤テイストが定着したかのように感じられる。
まず登場人物全てが魅力的。天藤作品の場合、『陽気な容疑者たち』、『死の内幕』、『大誘拐』などの傾向を見ると主人公がいるものの、万能ではなく寧ろ他の協力者と一つのチームを成して事を解決していくパターンである。前2作については些か彼ら・彼女らのキャラクターが弱く、今一歩といった感じだったが本書に至って見事に成熟された感じが強い。 次に最後の先の読めない展開。本書もベレー帽と髭を残して監督が失踪するという仰天の発端から次から次へと収拾がつかないくらいに事件は右往左往し、終章まで散らかりぱなしといった感じで読んでいる最中は不安がいっぱいだった。 そして達者な筆捌き。ユーモアが滲み出るその文体は事件が陰惨なものであってもほのかに温かみを感じさせる。これが最初に述べた登場人物陣の魅力を引出しているのは云うまでもない。 また今回は構成も凝っていて、何者とも判別しない電話のやり取りが随所に挿入され、事件の黒さ・壮大さを想像させられるし、何よりも今回のメインキャラクターである桂監督を最初と最後にしか登場させずに印象深い人物に仕立てている辺りの見事さは特筆物である。 さぁ、ここからが天藤ワールドの始まりである。愉しめない訳がない。 |
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今回のクーンツ作品は怖かった!!
誰もが胸の奥底に抱いている若き日、もしくは幼き日の恐怖体験を完膚なきまでにこれでもかこれでもかと畳み掛けるように主人公に叩きつけるその様は、もしこれが自分にも身に覚えのある恐怖体験へと擬えさせられ、こちらも仮想体験を余儀なくされた。 結末的にはとてつもない設定を用いた島田荘司もかくやと云った本格ミステリ的などんでん返しがあったが、それよりも全495ページ中440ページまで悪夢が繰り返される物語運びが強烈で今回のクーンツは本当にハッピー・エンドで終わるのかと別な意味でもハラハラさせられた。 とにかく恐怖体験に持って行き方が今回はすごかった。今までのクーンツならばじわじわと予兆を畳み掛け、いい加減その物ズバリを出してくれよっ!!といったじれったさがあったのだが、今回は普通に振舞っていた中、ああ、今日は何事もなく過ぎていくのかという安堵感を与えた瞬間、ズドンと主人公を恐怖のどん底に陥れる手際が本当に見事で、背筋がゾクッと来た。最後の最後まで結局スーザンに安息が訪れない辺りも今までと違ったが、最後の1行はやはりクーンツらしいというべきか。 |
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島田荘司の御手洗シリーズでも吉敷シリーズでもないノン・シリーズである本書はなんと大胆にも島田荘司の切り裂きジャック事件真相論である。2002年でもパトリシア・コーンウェルが巨額の金を使って作家生命を賭けて真相を精力的に暴く活動を行っているこのあまりに有名な事件はやはりミステリ作家にしてみれば一度は手掛けたいテーマなのだろうか。
本編においてもその是非は別にして実に島田らしい魅力的な解決を繰り広げてくれている。しかもそれがあの島田特有の物語風に語るのだから実に面白い。これが実に巧い!!これ一つだけでも本にして纏めても売れるぐらいに面白い。 御手洗シリーズにおいても遡れば古くは『異邦の騎士』における手記から始まり、『水晶のピラミッド』の古代エジプト譚、『アトポス』の吸血鬼エリザベートの物語といった非常に残酷かつ一種の絶望感・喪失感を抱かせる物語を書かせたらホント島田の右に出る者はいない。昨今の作品ではそういった挿話が非常に面白く、事件そのものが実はさほどでもないといった主客転倒した感が連続しているが、本編は正にその兆候を示したような作品で、特に探偵役のクリーン・ミステリなる人物の造詣ぶり、ネーミングの情けなさには閉口した。 ホームズのパロディがまたもや繰り返され、なんともまあ、同感できかねる人物なのだ。従って採点の内訳を云うと(切り裂きジャック譚星9ツ)+(ベルリン事件譚△星2ツ星)=7ツ星といった具合だ。 ある意味これが島田らしいといえば島田らしいのだ。 |
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正式なシャーロック・ホームズシリーズとしては本書が最後になるだろうと思うのだが、それを意識せずとも晩年のホームズの活躍が多く散りばめられてシリーズの締め括りを暗示した内容であった。
しかもあまり云いたくはないのだが、明らかにドイルはネタ切れの感があり、前に発表された短編群とアイデアが似たようなものが多い。 代表的な例を挙げれば「三人ガリデブ」がそうだろう。これはほとんどまんま「赤毛連盟」である。 しかし、カーを髣髴させる機械的なトリックが印象深い「ソア橋」が入っているのも本書であるから、苦心していたとはいえ、ヴァラエティに富んだ短編集であることは間違いない。 特に最後に「覆面の下宿人」のような話を持ってくる辺り、心憎い演出ではないか。 |
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未婚の母と若い学者のカップルが男の結婚話からついカッとなり、押し倒した時に箪笥に頭をぶつけ、死んでしまうといったお昼のサスペンスのようなシチュエーションから始まり、女性の所属する陰妻グループの面々が架空の犯人をでっちあげた所、なんとその証言そっくりの人物が現れてしまうという、天藤ならではのユニークな設定であるが、読後はなんだか消化不足というのが印象だ。
事件は3つの面から語られる。 まずは陰妻グループの視点。 それから架空の犯人そっくりの男の、真相を探る会社仲間たちの視点。 最後に殺された学者の婚約者と同僚の視点。 通常ならばこれが色々と絡まりあい、丁々発止の駆け引きなどが予想されるのだが、期待していたほどではなく、意外とあっさりと真相へと収束するのである。 そして最後はなんとも煮え切らない結末。作者が途中で何となく持て余したような感じがする。数々の作品があればこのような凡作もあるわけで、天藤には次回に期待。 |
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世評的には『ファントム』、『ウィスパーズ』、『戦慄のシャドウファイア』ほどは高名ではないが、確か北村次郎氏がクーンツのベストとして推していたように思う本書は自分自身でもなかなか良い作品ではないかと思う。
物語はひょんなことからショッピング・モールの駐車場で、ある老婆と出遭う所から始まる。この老婆が実は「黄昏教団」と呼ばれる―このネーミングは○。タイトルのように「トワイライト教団」なんて名前だったら三流ホラーに成り下がっていただろう―邪教集団の教祖だったのだ。この邂逅で息子ジョーイが反キリストの転生した姿だと独断され、理不尽な追撃が始まる。そして親子が助けを求めた私立探偵社の人間と共に殺戮の逃走劇が繰り広げられるのだ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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もはや本作については島田ファンのコレクターズ・アイテムに過ぎないと断言しよう。作者自身、息抜きで書いた様に述べているし。
ただ息抜きとは云え、トリックを備えた本格物であるところが島田らしい。ただコメディを目指した本作におけるギャグの数々は御寒い限りで、センスの無さを暴露する羽目になってしまった(ただ飛行機の「性別」欄のギャグはタモリが先か、こちらが本家かどちらかは解らないのだが)。 ま、金返せとまでは云いませんがね。 |
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う~ん、とうとう来るべきものが来たという感じ。
今回に関しては各短編全てにおいて興趣を欠いていた。有名な短編としては「瀕死の探偵」が挙げられるが、この話もホームズの馬鹿さ振りを髣髴させるエピソードとして色んな作家の作品中で語られるものなので実は大したことはない(実際、この短編におけるホームズはアホである。それにまんまと引っかかるワトスンもまた斯くや)。 短編集の題名になっている「最後の挨拶」はもはや本格ですらない。これこそドイルがホームズ譚を執筆するのにうんざりしていた証拠になる。 「亢龍やがて堕つべし」というがホームズもまた同様である。まあ『恐怖の谷』が読めただけでもホームズ譚を読む事の収穫は大いにあった。 |
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不朽の名作『大誘拐』の作者のなんと江戸川乱歩賞応募作である。文章を見るにデビュー作とは思えないほど卓越した力があり、その老成振りは現在、数多デビューを飾る新人達と比べると隔世の感がある。
鉄工所の社長が密室の中で殺害されるという純本格的なシチュエーションで始まる本書は終始殺人事件とは一線を画した農村の和やかなムードで進み、解決に至る終章もまたそのムードを一貫して結ばれる。応募作にて既に作者特有の温かみが溢れているのである。短編集『遠きに目ありて』中の1編にもやむにやまれない殺人を扱った物があったが、原点である本書も正にそのテーマが通底している。 何せ、登場人物が憎めないのが作者の特徴、というか美点であり本書もその例に漏れない。 正に「容疑者達、万歳!!」である。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学生の時に読んだ『詐欺師の饗宴』の時にも感じたのだが、笠原作品の特徴は印象は地味ながらも忘れられない味わいがあり、なんだか人に紹介したくなる魅力を備えている。
本作も内容はやはり地味である。しかし、よく練られたトリック・プロット・ロジックが非常に人を飽きさせない。 題名にも梗概にもあるように本書の目玉は冒頭の3人のサンタクロースの内、1人が殺人を行っていることが明白にも拘らず、それが3人の内、誰かわからない、「2/3アリバイ」論にある。こういう地味ながらも無視できない魅力的な設定を軸に更に第2の殺人が、しかも同様のシチュエーションで起こる。 しかしこれこそが作者の仕掛けたレッド・ヘリングで、一見立証不可能に見えた犯罪が最後見事に真相へと結実するロジックの妙は実に味わい深い。 殺人の動機は非常に細い線ではあったのだが、大人になった今、十分説得力のあるものだと感心した。 惜しむらくは笠原作品が本作と『詐欺師の饗宴』以外に『詐欺師の紋章』しか上梓されていなくしかも『~の紋章』が未だに文庫化されていない事。新作も含め復活を望む。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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田中作品の出来の良し悪しが何によって左右されるかが本書を読んで解った。それは主役のキャラクターの個性の強さである。
今にして思えば名作『銀河英雄伝説』然り『創竜伝』もまた然り(『アルスラーン戦記』は例外か。主人公のアルスラーンにどういう魅力があってあんなに優秀な部下が集まるのか未だに謎)。 前作『魔天楼』から2度目の登場となる無敵の美貌警視薬師寺涼子シリーズは本作にて傑作の予感がしてきた。1作目にはどこか薬師寺涼子の強烈なキャラクターぶりが空回りしていた感が強く、物語にノレなかったのだが、今回は物語に薬師寺涼子が実に溶け合っており、縦横無尽に動き回り物語を加速させていた。 前述したように主人公の個性の強さが作品の強みとして見事に呼応しているのだ。 前作は刑事物であるのにファンタジックな設定に面食らったせいもあったのもマイナスに働いたのだろうが、今回は予備知識があったせいか、寧ろどんな展開が待ち受けているのか愉しみであった。田中特有のアイロニックな文体・薀蓄も横溢しており十分堪能したが、いささかそこら辺がライトノベル系の軽さを匂わせるきらいもあり、その点だけが残念である。 以前に田中は復活しつつあると述べたように思うがそれは間違いである。田中は完全に復活した。次はどんな事件を見せてくれるか大いに期待したい。 |
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セリフとキャラクターの勝利。事件は大味だが、今後に期待しよう。
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カー作品には大きく分けて怪奇趣味の本格物と歴史サスペンスの2種類があるが、今回は後者に当たる。
文庫背表紙の梗概には音もなく忍び寄っては兵士を一突きに殺害する通称「喉切り隊長」の正体とは?といった本格ミステリ色豊かに表現されていたためてっきり犯人捜しが主眼だと思われたが、ところが寧ろそっちの方は物語としてはサブ・ストーリーとして流れていき、主眼はヘッバーンのフランスにおける諜報活動にあった。 筆者は趣向を凝らし、アランの身柄の保障を条件に喉切り隊長の犯人捜しをさせるといったサスペンス色を凝らしているのがミソ。 しかし前述にあるように主眼はあくまでもアランの諜報活動にあり、その辺のスリルは『ビロードの悪魔』を髣髴させる出色の出来。本来ならば8点の評価を与えたいのだが、「喉切り隊長」の正体が強引過ぎる(と思われる)点と、結局「喉切り隊長」の殺害方法の不思議さについてなんら解明がされていない点の2点において7点とした。 しかし、活字が大きくなるとカー作品がこれほどまでに読み易くなるとは思わなかった。以後もこの字組で再版される事を切に願う。 |
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今回は『戦慄のシャドウファイア』などの一連のホラー作品ではなく、著者お得意の巻き込まれ型サスペンスである。
物語はベトナム戦争から名誉の帰還を遂げたチェイスがその周囲の喧騒振りに辟易しながら、町のデートスポットで起きる殺人事件からルイーズという女の子を救う所から始まる。これがチェイスのその後の生活に大きな変化を及ぼすことになる。つまりこの犯人から殺人を邪魔した逆恨みから命を狙われることになるのだ。 ストーリーは少ない手掛かりからその正体の判らぬ脅迫者を徐々に突き詰めていき、最後は勿論反撃に出て、主人公は救われるという展開を見せる。またベトナム戦争帰りで社会人的な普通の生活が出来ない―女も抱けない!!―チェイスが脅迫者を辿る事で魅力的な女性と出会い、自己を再生していくという男の復活劇の要素を含んでおり、正に小説のツボを押さえた構成になっている。 が、故に定型を脱せず、凡百のミステリとなっているのも確か。犯人の正体が判明してからの展開がいかにも呆気なく、この辺が『人類狩り』にも見られた結末を急ぎすぎる感触が物語を平板にしていると思った。 |
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今は『古書収集十番勝負』と改題。
博識家紀田順一郎が放つビブリオ・ミステリ、私が呼ぶ所の「神田神保町シリーズ」もこれで三冊目。いつも卒業しようと思って読むのだが、なぜか愛着が湧き捨てられず、本棚の一角を占有することになってしまう。恐らくは文庫専門とは云え、本を収集する身である私と登場人物との間に一部共感できる部分があるからだと思う。 今回はミステリというよりも寧ろ題名から察せられるようにビブリオ・コン・ゲーム小説といった方が妥当だろう。最後に百貨店での古典市での出来事及びクライマックスの笠舞邸での競り勝負の真相が明かされるミステリ的な要素はあるが、主眼は後継者争いとしての古書収集にある。但し、一冊一冊白熱した奪い合いが見られるわけではなく、大半はいつの間にか蜷川、倉島がそれぞれ手に入れているといった趣向で進められるため、その辺がこちらが期待していたよりも興味は半減した。 しかし作者は色々な趣向を凝らしてあるのも事実で、この中のエピソードには実際あった事件も含まれているのだろうと思われる。物語としてはいささか地味だったけれども、久々このような現実感の濃い小説が読めて気持ちがよかった。 |
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今回は全く不運としか云い様が無い。たかが500ページ強の本書を読むのに何と十日以上も費やしてしまった。これも途中で飲み会が3回もあった事、風邪を引いてしまったことにより、中途半端な読書になってしまった。
しかるにやはりP.D.ジェイムズの作品はある定型を固執するがため、それぞれに個性が感じられなくなってきているのも確か。事件が起き、ダルグリッシュ―これが相変わらず無個性なのだ―が登場し、関係者一人一人に尋問。しかも登場人物それぞれが重苦しい何がしかの不幸を孕んでいる。ダルグリッシュが捜査を続けていると第2、第3の事件が発生、そしてカタストロフィへ…てな具合である。 尤も、過去読んだ作品の中で秀逸だった印象がある作品については真相のファクターに斬新さ、または真相の判明の仕方のドラマティックな演出が非常に小気味よかった点にあった。 今回は上記のような状況もあったがやはりストーリーの流れに埋没してしまうくらいのインパクトにしかならなかった。つまり私が云いたいのはページを繰る手をはたと止めさせるような衝撃が真相解明にあってほしいのだ。 レンデルにあってジェイムズに無いもの、この差は大きい。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『銀英伝』関連の田中作品に関してはもはや云う所無し。向かう所敵無しである。その圧倒的なクオリティの高さとエピソードの豊富さは比肩する物無しといった感じである。
本書は各所に散らばった『銀英伝』関連の短編を1冊に纏めた、云わば企画本であるが、冒頭の「ダゴン星域会戦記」以外はラインハルトとキルヒアイスを主人公とした物語が並び、統一感を感じさせる。不満を云えばそのラインナップゆえにどちらかと云えば帝国軍側寄りで、ヤン・ウェンリー好きな私としてはちと物足りない。 しかし、読めば読むほど『銀英伝』の深さに感嘆する読み物である。まず「ダゴン星域会戦記」はまさに本編第1巻から提示されたエピソードであることに驚嘆させられる。特に英雄視されているリン・パオとトパロウルの闘いが思ったよりも稚拙だったというのがミソ。ここらへんが実に田中氏らしいのである。 次からはラインハルト・キルヒアイス物となるのだが、その多彩さに再度驚かされた。なんと本格ミステリがあるのである。「朝の夢、夜の歌」がそれだが、他にも「汚名」などはミステリ風味の謎を含んだハード・ボイルド物ともとれ、非常に堪能できた。 これらの作品がいつ頃書かれたのかは寡聞にして知らないが、田中氏の万能振りをこれでもかとばかりに魅せつけられた。これが10点でなくてどうなる!?といった次第である。 |
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