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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数144件
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無二の親友と思っていた相手に妻を寝取られた主人公の執念の復讐物語。
幸福の絶頂から一気に突き落とされる主人公。生きながら埋葬された恐怖と苦痛と絶望。最愛の者たちに裏切られたという筆舌に尽くしがたい怒り。そして彼らへ壮絶なる復讐計画と実行…… 始まりから終わりまでインパクトの強い展開の連続で非常にテンポよくストーリーが流れ、読みやすく飽きさせられない作品でした。 主人公に狂気を感じるとともに感情移入もしてしまう所がこの作品の魅力でしょうか。 海外作品の『モンテ・クリスト伯』の翻訳小説である黒岩涙香氏の『白髪鬼』をさらに乱歩が独自のアレンジで翻訳しなおした作品(とされています) それゆえ日本を舞台にするのには正直いろいろ不自然や無理を感じる設定や展開もありますが、まぁそれもご愛嬌でしょう。 個人的にこの作品に限らず乱歩の海外作品の翻訳とされてる作品は本当に最初から翻訳というつもりだったのか、ほとんど海外作品のパクリと見なされたようなものを後から翻訳扱いにしたのではないかと常々疑わしく思ってしまっているのですが、しかし私としては決して乱歩を非難したいのではなく、むしろ乱歩が翻訳し、彼のカラーが大いに出た文章は古い時代の海外翻訳は言うに及ばず、現代の海外作品の翻訳と比べても圧倒的に読みやすくて面白いと感じるんですよね。 本来翻訳家というものに求められる仕事は元の作品になるべく忠実な翻訳であるべきことが第一とされるのが当然で、元の作品を殺さぬために自分を殺すことが求められる職業なのかもしれませんが、あまりに退屈で読みにくい翻訳の文章を見るたびに私は「乱歩を見習え」と思ってしまうのです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ダム開発のために沈むことになった寒村を舞台に、複数の男女の思惑と愛欲が絡み合う物語。
推理小説というよりは純文学的な印象を受ける、どこか幻想的な雰囲気で綴られる文章を読み進めていくうちに読者は「ん?」と違和感や謎を次々と抱えることになり、そのまま作品の世界に本格的に引き込まれていく……そんな一冊です。 しかし、そこには最後まで読み進めると全ての謎が一本の線に繋がる、緻密なトリックが仕掛けられています。 官能的なシーンが多い作品でそこは人を選ぶかもしれませんが、個人的にはこれは俗な所謂「濡れ場」的なものではなく、作品に必要なシーンと受け取りました。 好みは別れそうな作品だと思いますが、『11枚のとらんぷ』とも『乱れからくり』とも(もちろん『ヨギガンジーシリーズ』とも)雰囲気も趣きも異なる泡坂氏の引き出しの多さを改めて感じさせられた一冊と感じます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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幻想的な童話と血塗られた犯罪……一見相反するこの2つがどう関わるのか。
まさに題名通りの一作です。 作中冒頭で発生した殺人事件を主人公の刑事が捜査し、解決までが描かれるという内容の、物語の構成はいたってシンプルであり、結末も特別大きなどんでん返しがあるわけでもない作品ですが、それだけにごまかしの利かないものを見事にまとめた完成度の高い一作と感じました。 もう古典の域に入るかと思いますが、本格推理小説のお手本となる、本格ファンを名乗るなら必読の作品の一つと言って良いと思います。 余談ですが私の手に入れた新装版は表紙が大人しいのが残念です。 怖い女の子が表紙のやつが欲しかった(笑) ▼以下、ネタバレ感想 |
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戦後の推理小説の大家・高木彬光のデビュー作にして、日本三大名探偵の一人・神津恭介の初登場作。
背中に妖艶な刺青を背負った美女が密室でバラバラ死体となり発見され、しかしその死体は刺青の彫られた胴体部分が消失していた。 そしてそれに触発されるかのように、第二、第三の殺人が…… という、エログロ要素や怪奇趣味を織り交ぜながらも多くのトリックが用いられたバリバリの本格推理小説。 発表当時はまさに日本は終戦直後であり、作中でもその時代の日本の空気を感じさせられる一冊ですが、70年前の作品でありながら文章に古臭さは感じず、非常に読みやすいです。 また”刺青”という禁忌の中に美しさを持つ、当時から今日に至るまで日本人にとっては拒絶を覚えながらも一方でどこか惹かれてしまう、そんな題材が魅力的なストーリーを生んでいました。 そしてそれは”殺人”という最大の禁忌を題材にした本格ミステリというジャンルを今日まで愛好する人間が多くいることにも共通する点かもしれません。 本格ミステリ部分に関しては、現在の複雑化・洗練された作品を多く読んでしまっている読者からすると粗や物足りなさを感じる面が多々あるかもしれませんが、戦後の日本の本格ミステリをリードし後世に多くの影響を与えた作品なのは間違いないでしょう。 何より、個人的には謎解きよりも世界観と題材に惹かれ、評価したいと感じた作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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作中で時代を分けて発生する2つの誘拐事件が、物語の主軸となるミステリです。
そして2つ目の誘拐事件の犯人は、他ならぬ最初の誘拐事件でさらわれた子供であり、今度はかつて自分が誘拐された事件の犯人たちへの復讐の意味を込め、完璧な計画の元、犯罪を実行するという内容です。 最初の誘拐事件では被害者の視点、二つ目の誘拐事件では犯人の視点で物語が進行する形になりますが、個人的に誘拐ミステリは犯人視点の倒叙形式の方がずっと好みですね。 そしてこの作品のもう一つの大きな特徴として、犯人は優れたIT技術者であり、その知識と技術を最大限活かして、当時の最先端と言うべきIT犯罪を行います。 この作品が発表されたのは30年前になり、作中で「パソコンっていうとデパートで売っているような奴ですか?」なんて台詞が出てくるほど、一般にITの知識は浸透していない時代背景です。今では当たり前に使われている用語にもいちいち説明を入れなければいけないような有様で、流石に「古臭さを感じさせない」とは言えないです。今読むとバリバリに時代を感じてしまいます。 しかしそれは実際30年前の作品で、この30年でIT分野は目覚しい発展を遂げたのだからそれは責めることはできないでしょう。 むしろ当時としては間違いなく10年は時代を先取りしていた小説であり、リアルタイムで読んでいた人はさぞ驚き、感心した内容だと思います。 (もし私がリアルタイムでこの作品を読むような世代だったら、もっと高得点をつけていたのではないかと思います) ▼以下、ネタバレ感想 |
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推理小説の父、エドガー・アラン・ポーの描いた本格短編推理小説の一作です。
『モルグ街の殺人』などで有名な世界初の名探偵オーギュスト・デュパンとは別の探偵役が登場します。 殺人事件が発生し、あらゆる状況が一人の人間を犯人と示しており、そのまま無実の罪を着せられそうになるが、探偵が謎を解き真犯人を挙げる…… という今日に至るまでの推理小説の定番パターンの始祖となった作品でしょう。 今の読者ならば真犯人は見え見えなのですが、当時の人間としてはこれまでに前例がなかったであろうこの物語をどのように読んでいたのかが気になった作品です。 そしてあまりに直球なタイトルですが、読み終えればこれ以外の上手いタイトルが思いつかないですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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日本橋の江戸情緒の残る町で発生した殺人事件。
新たに着任した刑事・加賀恭一郎は老舗商店街を舞台に聞き込み調査を行うが、そこに住む下町気質溢れる人々の「人情」が捜査を一筋縄ではいかなくさせる。 そしてそこには、事件とはまた異なる一人一人の物語があった…… 殺人事件の捜査のために主人公である加賀刑事が「煎餅屋の娘」「料亭の小僧」「瀬戸物屋の嫁」……各章ごとに町に住むさまざまな人々の話を聞いていくという流れですが、章ごとに見てもそれぞれ独立した短編として成立しているという形式が面白く、またそれらが繋がっていくことで一つの事件の解決に向かうという構成が秀逸でした。 通常のミステリだったら、あるいは現実の警察にとっても、事件解決の上で情報提供者とは情報提供者以上の意味や価値はなく、その個々人の人格や事情は無視されがちなのですが、一人の人間である以上、事件とは別に彼らの感情や人生がそこにあるということを思い出させてくれるような作品でした。 そして加賀刑事が目先の事件解決にのみとらわれ、それをないがしろにしなかったからこそ、解決した事件と言えるでしょう。 本格ミステリ、推理小説としては少し物足りなさを感じるかもしれませんが、各章のそれぞれ見ても完成度の高い人情物語や、作品通してのテーマなどの面を評価すべき作品と感じました。 しかし、人々の心を懐柔する一方で、論理的にもスルスルと謎を解いていく加賀がちょっと完璧超人すぎて逆に人間味を感じない気がしてしまったので、もう少し「人情」の壁に悩まされる彼の様子などが見たかった気もします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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精魂込めて書き上げた作品を盗まれた男と盗んだ男の、殺人事件にまで発展する緊迫した狂気に満ちた駆け引きの物語。
終始テンポが良く読みやすく、常に続きが気になる構成で一気読みしました。 割と賛否分かれそうな作品かと思いますが、私は楽しませてもらいました。 主人公に感情移入して、作品を盗まれ悔しく感じたり、逆に反撃に転じた時はスッキリしたり出来たのがその理由ですかね。 ……しかし読み返してみると一回目とは全く違う世界が広がりそうな作品です。 いくらなんでもこんな偶然が重なるわけないだろうっていうご都合主義は多々感じましたが、この作品は素直に、現実ではありえないようなことを書くのが創作です、と割り切れるタイプの話でした。 気になった点は”『倒錯のロンド』っていうタイトルがセンスがいい”とか作中で自画自賛しちゃうのは正直どうかと思いました。 他にもあとがき部分含めちょっと作者の自己主張が強い面が多々見え、それが面白い所の一つとも言えるのですが、人によっては拒否反応が出るかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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梵貝荘と呼ばれる法螺貝のように螺旋構造に作られた奇妙な館で起こった殺人事件。
その事件は名探偵によりすでに解決され、『梵貝荘事件』として小説にもまとめられたが、十五年の時を経て現代の名探偵により事件の再検証が行われる…… 本格ミステリというジャンルや名探偵という存在に対する皮肉や問題提示、過去の有名作を思い起こさせるパロディやメタネタ、作中作という特殊形式。 まさにこれでもかというアンチミステリ的な要素が詰め込まれており、所謂『三大奇書』の要素を全部合わせながらも、短く読みやすくまとめたような作品という印象です。 また参考・引用文献に、当時までに発表されていた綾辻氏の『館シリーズ』が全部並んでいるなど、同シリーズを連想させるネタも随所に仕込まれており、まさに「新本格」を象徴するような作品です。 しかし個人的にこの作品そのものは本格ミステリではなく「本格ミステリ」というジャンルを題材とした、サスペンス、あるいは独自ジャンルの作品だと思いました。 盛りだくさんの仕掛けに何度も驚かされ、楽しませてもらえましたが、惜しいと思うのは作中作となる『梵貝荘事件』が単独の作品として見たら、駄作としか思えなそうな所です。 あれでは、作者が解決部分まで書き上げながら発表しなかった理由は「駄作すぎて世に出すのが恥ずかしくなったからだろ」とみんな判断するでしょう。 (もし『梵貝荘事件』が独立した作品として存在して私がレビューしていたら、★2つぐらいで「トリックも人物描写もショボすぎ!真相も納得できない。内容もボリュームも薄っぺらな割に衒学趣味だけは過剰で辟易」とか酷評してるでしょうね) 作中作に、それだけをそのまま出してもいいクオリティを求めるのは酷かとは思いますが、ここは「それだけを単独で読んでも面白い」と言わせてほしかったです。 余談ですが私は『樒/榁』が同時収録の文庫版を読んだため、てっきり500ページ超の作品のつもりで読んでいたら400ページほどで終わってしまい 「あれ?終わっちゃった」と最初面食らってしまいました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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新興宗教の信者である五人の男女が、教団の指示で大規模爆破テロを起こし、同じく教団の指示で無人島に逃亡・潜伏したものの、そのまま教団にスケープゴートとしてトカゲの尻尾切りにされ、無人島に置き去り状態に。
このままでは島で餓死を待つばかり、しかし島から脱出した所でテロで大勢の命を奪った凶悪犯として極刑は免れないという絶望的状況で、さらに連続殺人事件まで発生する…… 孤島の連続殺人事件という定番のシチュエーションを扱ったミステリですが、登場人物たちが何重にも「詰んだ」ような状況が面白いミステリです。 上記の通り、登場人物が語り手の主人公含め、無差別テロで大勢の命を奪ったような連中のため、正直誰にも感情移入できず、助かってほしいとも思えないのですが、かといってあまり共感・同情できる境遇だと可哀想すぎて読んでて辛くなりそうなので、個人的にはこれでよかったかと。 終始緊迫感のある展開でテンポよく読め、結末はそこまでの驚きや意外性はありませんが、まぁ無難にまとまっているかと思いました。 これが300ページくらいの長編作品でしたら、可もなく不可もなくといったところで6点ぐらいかな、というところですが、150ページ未満の中編の範囲でまとめた所を評価し、一点オマケして7点で。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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孤島を舞台にした連続殺人……という点だけ見れば典型的なミステリのパターンなのですが、この作品は、かの『種の起源』『進化論』で有名なチャールズ・ダーウィンが、特異な進化を遂げた生物の住む島、ガラパゴス諸島を訪れた際に実は連続殺人事件が発生していた、という歴史のIFを取り扱った作品です。さらにその事件を解決する探偵役も他ならぬ若き日のダーウィンだという、まさに設定からして興味深い異色のミステリです。
そして、まさにガラパゴス島ならではのトリックも面白いです。(このトリックが先に思いついてこの作品が出来たのでは……などとも思ってしまいます) 連続殺人事件の解決という物語の本筋に加えて、ダーウィン同様実在した人物たちによって繰り広げられる人間ドラマや、ダーウィンが後に発表する進化論とは相反するキリスト教観が事件の根底に絡むなど、盛りだくさんな内容が、300ページ強の長編にしてはやや短い分量でまとめられており、作品の密度が濃く、読んでいて飽きませんでした。 しかし、コンパクトなページ数にまとめられているという点は基本的に私の中では高評価なのですが、この作品に限ってはせっかくの面白い題材が皆中途半端な形になってしまっており、逆に少しもったいない気がしました。 テーマや人物にもう少しページを割いて、もっと掘り下げても良かったのではと感じてしまう作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「雪」の「孤島」の「館」という狙いすましたような舞台で、「人」が「山」が、そして「島」そのものまでが消失するという特大の謎を、自称名探偵夢水清志郎が解く、これまでの同シリーズよりも「本格」色の強いシリーズ第三弾。
孤島の館でのクローズドサークル作品ですが、死なないミステリなので子供でも安心して読めます。 親切にヒントが随所にちりばめられていることもあり、大人のミステリファンが読めばトリックはすぐにわかりますが、だからと言って大人の観賞には耐えないということはなく、大人は大人で「すでに大体の見当はついているのであとは確信できる材料を待っている探偵役」に感情移入して楽しむことが出来る作品と感じました。 これは作者の意図した所で、子供と大人、別の目線で別の楽しみ方が出来るように作られていた良質のジュブナイルミステリだと思います。 決して説教臭くなく(ここ重要)反戦メッセージが込められていたのも児童作品としてよく出来ているのではないでしょうか。 |
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愛する男と再婚が決まり、その身に彼の子供を宿し、自身の経営するペンションに集まった常連客たちに祝福され、幸せの中にいる女性。
しかし彼女は21年前のクリスマスイブに、とある家族を襲った強盗殺人事件の共犯者という過去を持っていた。 そしてそんな彼女に、彼女とその家族の命を狙う復讐者からの脅迫の手紙が、惨殺された共犯者の写真を添えられ届く。 果たして脅迫者の正体はクリスマスイブの今夜、ペンションに集まった者の誰なのか…… そんなサスペンス色の強いミステリー作品です。 ページ数は少し多めですが全体にストーリーの流れのテンポが良く、次々判明する新事実が飽きさせず、楽しく読めました。 伏線回収なども巧みで、消化不良に終わった部分もなく、よく出来ていると思います。 今邑さんの作品は全体的にエンタメと割り切ってあえてB級感を漂わせつつも、完成度は高いと感じるものが多く、私の好みというか相性がいいと感じますね。(それだけに若くして亡くなられているのを知り残念です) ただ、他の方の感想を見ても同じことが言われてますが、いくら自分は直接手をくだしていないとはいえ凶悪犯罪の共犯者である主人公を1ミリも応援する気が起きません。 むしろ罪の意識や後悔よりも、再三「あくまで自分は手を下してない、見てるだけだった」と自己弁護ばかりなのが余計に心証が悪いです。 親しくしていた常連客たちを無差別に片っ端から疑うのもこの女の自己中心的な本性が出ているのを感じてしまい不愉快な気分になります。 この辺がひっかかって高得点をつけきれず7点止まりで。 なお、他所でクローズドサークル作品と紹介されることがありますが、明らかにクローズドサークルの定義は満たしていません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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太平洋戦争勃発直前、まさに日本が真珠湾攻撃を仕掛けんがために北海道のさらに北東にある択捉島に艦隊を集結させていた時。
主人公である日系アメリカ人の賢一郎はスパイとして択捉島に潜入していた。 そこで彼は島に住むロシア人混血の孤独な美しい女性と出会い…… 読む前から重い、固い、古臭いイメージを勝手に持ってしまい、ちょっと身構えながら読んだのですが、想像していたよりずっと読みやすい話でした。 また、確かに題材やテーマそのものは重いですが話の動きが大きく、キャラクターが活き活きとしているためエンターテイメント性も高い作品と感じます。 しかし、作中で南京大虐殺や朝鮮人の強制連行などにも触れているので、そういうのに拒否反応がある方は要注意です。 (私はこの問題に関しては何がどこまで事実かは判らず、また自分などが言えることは何もないと思っているので、基本的に作品とは切り離して考えています) 今作は日系アメリカ人の主人公、混血の私生児であるヒロイン、故郷を追われた朝鮮人やアイヌ人など帰属意識に悩み、苦しむ人々のドラマでありますが、物語のクライマックスの舞台となる択捉島もまた、当時は日本の領土でありながら現在はロシアの実効支配下にあり今日まで問題を抱えている場所であるということに、皮肉やメッセージを感じてしまいます。 余談ですが、先述の通り主人公の賢一郎はアメリカ人であり、日本に対する思い入れも無ければ、まさに作中で日本へのスパイ行為に来ているわけですが、私は不思議と彼に対して単なる感情移入ではなく「日本人」としての同族意識を感じてこの話を読んでしまいました。 日本人という単一民族はどうしても実際の国籍や生まれ育った土地よりも民族としての血の方を強く意識してしまうのかもしれません。 (実際賢一郎自身も、日本という国に対しては何も感じていなくても、日本人に自分の父親の面影を見てしまったシーンなどにそれが現れていると思います) ▼以下、ネタバレ感想 |
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個々の話は完全に独立しており、連作でもなければ、一貫したテーマがあるわけではないのですが
一冊を通して共通する独特の空気を感じる短編集です。 各話40~50ページ程度と短編としても特別長くは無いページ数にそれぞれ深いドラマと意外な結末が隠されており それぞれを長編にすることも出来たのではないかと思うほどの非常に高水準・高密度な短編集だと思いました。 ……ただ、理屈ではそう思うのですが、作品全体に漂う暗めの雰囲気に疲れ、いまいち楽しめなかったり、登場人物たちにあまり共感できなかったため、自分の好みだったかと言うとそれほどでもないです。 全体的に罪を犯した人たちへの同情、共感を誘うような意図の構成・演出を感じたのですが、個人的には「罪は罪でしょ」と思ってしまう部分が多かったです。 以下個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ホラーと本格ミステリを見事に融合させる『刀城言耶シリーズ』の第四弾。
今回は山村に古くから伝わる童歌になぞらえて次々と人が殺されていくという、見立て殺人の黄金パターンが用いられた作品です。 ミステリとしての出来という面でも、ストーリーの面白さという面でも決して悪くはないのですが、これまでの同シリーズの作品から特に目新しい面が見られず、正直前作を小粒化させただけという印象です。 しかし『厭魅』や『首無』は度重なる視点の入れ替わりや、終盤の推理のフェイントの連続などが、そこが魅力とはいえ複雑化しすぎなので、良くも悪くもそれらよりは大人しめのこの作品はシリーズ四作目ではあるけれど、むしろ同シリーズの入門には一番なんじゃないかと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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片田舎には不釣合いと言えるほど万人に認められる美女である主人公。しかしその顔は度重なる整形手術で手に入れたもので、かつては畸形的と言えるほどに醜い顔を持ち、地獄のような青春期を過ごしていた……
女にとっていかに容姿が重要視され、醜い女性がどれほどそのことで苦しむのかという、誰もが理解していながら、どこか目を背けている現実をまざまざと突きつけられる作品です。 顔が醜いというだけで極めて悲惨な人生を送る主人公には多かれ少なかれ読者の誰もが心を痛め、読んでいて辛さを感じる話ではないでしょうか。 しかしそれでも先が気になってしまい、一気読みさせるパワーのある作品だと思います。 あまりの悲惨さに一回りして笑えてしまう、もはや一種のブラックユーモアと思ってしまう所もありました。 しかし、ただ暗くて重い話というだけではなく、個人的に主人公が少しずつ整形することで段階を踏んで容姿が磨かれていき、それに伴い自信や収入も次第に増していくという展開は、出世物語やサクセスストーリー的な爽快感もありました。 最初あらすじを読んだ時は「いくら整形したって凄いブスから凄い美人になれるわけないじゃん、整形して美人になれたら苦労しないし世の中美人だけになるわ」と所詮フィクションだろうと侮っていたのですが、まずは目の小さい手術から徐々に段階を踏み、少しずつ顔を変えていく経緯にリアリティと説得力がありました。 また、リアルで整形依存になってしまう人がそうなように、途中でやめておけばいいのに、整形のしすぎでまさに「モンスター」になってしまう話なのかとも思いましたが、主人公の整形以外の部分での努力を惜しまないのも含め、「客観的な美人」を追及、維持し続けるスタンスもいい意味で予想外でした。 リスクなどはしっかり提示した上で、決して整形に批判的な話ではないですね。 また、男性作家がこういった作品を書くと、男の心情描写はリアルでも女の目線にリアリティが欠如するのが懸念されますが、自分の周囲では女性からの評価も高く、男女双方の視点から上手く書けている作品なのだなと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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