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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数80

全80件 1~20 1/4ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.80:
(6pt)

我自意識過剰ゆえに我あり

矢吹駆シリーズ4作目。かの『人狼城の恐怖』が世に出るまで世界最長の本格推理小説とみなされていたらしい1000ページ超の長大作です。

パリのユダヤ系資産家の大邸宅で”三重密室”状態で死亡した一人の男。
さらにその背景には数十年前のナチスの強制収容所内で発生したやはり”三重密室”内で死亡した一人の女の事件が浮かび上がる……
2つの三重密室事件の謎を探偵役の矢吹駆(※以下カケル)が解き明かす……という基本プロットはこの上ない本格ミステリですが
タイトル通り「密室」に加えて「哲学者」がこの作品のもう一つの主題となります。
誰でも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう、実在した20世紀最大のドイツ人哲学者ハイデガー(作中では彼をモデルとしたハルバッハというキャラが登場します)
の”存在論”や”現象論”に基づいた死の哲学的な捉え方に倣って、カケルは”密室の死”という題材についても紐を解いていきます。

そして現実でハイデガーが哲学者として高い評価・名声を集めた一方、ナチスへの関与・加担が批判的な見方をされているのと同様
作中のハルバッハもナチスとの繋がりを持っていたことで作中の事件とも直接関わってくることとなります。

一番最初に説明した通り、この作品は滅茶苦茶長いです。
そしてそんなに長くなるのはこのシリーズ全体の特徴でもある、随所に挿入される哲学的なペダントリーが大きな原因であり、純粋な本格ミステリに徹していれば半分にも三分の一にも出来たと思います。
さらに、やはりこれもシリーズの特色であるのですがシリーズ前作のネタバレに配慮がないなんてものではない。ここまでくると作者が意図的に「前作を読んでからこっちを読みやがれ」と訴えてるのかと思うほど、前作の犯人たちの名前を作中で100回は連呼し(数えてないけど大げさじゃなくそれぐらい言ってると思う)100ページぐらいかけて前作を回想したりしているのも長さに一役買っています。

そして正直言って哲学的な部分は何言ってるかよくわかんないし、物語に本当に必要とも思えないんですよね。完全に作者の自己満足の衒学趣味としか。
それも常人とはかけ離れた頭脳と精神を持つカケルがつらつらと語るなら京極堂の蘊蓄みたいなもんで、シリーズの味として受け入れられなくもないんですが
読者の分身である、ワトソン役のナディアにまで何十ページもわたって、私の死の定義がどうのこうの哲学の世界に入られても、いつまで続くんだこれ、としか思えませんでした。
話が正常に進行する時のナディアの思考はとにかく「カケルが好き」「カケルが心配」「密室の謎解かなきゃ!」と凄いシンプルでわかりやすいキャラなだけに
突然長々と哲学的な思考に入ってる彼女は単に精一杯かしこぶろうとしているだけか、薬でもキメてるようにしか見えません。

哲学的、衒学的な部分は無視した単純な本格推理部分とドラマ部分で言えば結構面白かったですが、この長さに見合うかというとトリックも真相も小粒かなぁという気がします。

この作品を読んだ一番の収穫と感想は「こんなブ厚くて難しそうな本読んだぞ、凄いだろー」という自慢や自己満足感に浸れる所かもしれません。

▼以下、ネタバレ感想
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哲学者の密室 (創元推理文庫)
笠井潔哲学者の密室 についてのレビュー
No.79:
(6pt)

『蛇棺葬』からつながる完結編にして、『作家三部作シリーズ』の完結編?

先日レビューした『蛇棺葬』が今作の作中作という形になる、『蛇棺葬』の謎を解く完結編(ややこしい)
つまりは『蛇棺葬』を読んでいないとさっぱり意味がわからないので先に読みましょう。

『蛇棺葬』には登場しなかったシリーズの主人公である作家・三津田信三と探偵役である彼の友人飛鳥信一郎がようやく登場します。
今作はようやく本格ミステリパートに入り、『蛇棺葬』で起こった不可解な人間消失の謎を理論的に解明していきますが、しかしオカルト要素も依然絡み続け、さらなる脅威として三津田や飛鳥を襲います。

内容としてはただの暗くて気持ち悪い話だった『蛇棺葬』よりはずっと面白かったんですがラストは、うーん……

▼以下、ネタバレ感想
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百蛇堂<怪談作家の語る話> (講談社文庫)
三津田信三百蛇堂 怪談作家の語る話 についてのレビュー
No.78:
(6pt)

ある意味これもクローズド・サークル作品?

ポーのゴシックホラー短編作品。
国内に「赤死病」という恐ろしい病が蔓延し国民たちが死に絶えていく中、王族たちは城内に篭り、優雅に宴を楽しんでいた。しかしそこにもやがて死の影が……

非常に短く、シンプルで、はっきり言ってしまえば「だから何?」って話なのですが、それぞれ美しく彩られたステンドグラスの部屋、ただし一番奥の黒と赤の部屋だけは不気味がり誰も近寄らない。そんな城内の風景が強烈なインパクトと想像力を読み手に与え、いろんな作品の作中で取り上げられたり、オマージュに使われていますね。

現実的に考えると短い話の中にもいろいろおかしい部分があるのですが、それは単純に創作世界ゆえの破綻というよりは、いろいろなものの暗喩と思われ、読み手側の受け取り方が問われる作品でもあると思います。

エドガー・アラン・ポー恐怖ドラマ 2 (TBSブリタニカSOUNDホラー)
エドガー・アラン・ポー赤死病の仮面 についてのレビュー
No.77: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

まさにタイトル通りの話ではありますが……

まさにタイトル通り、容疑者候補は2人でどちらが犯人なのか……というのが主題の作品であり、読者にしっかり推理しながら読んで欲しいという意志が込められた作品となっています。しかし、個人的には見所というか読者としての作品として楽しむポイントはどちらが犯人なのかよりも、被害者の遺族にして第一発見者であり、そして警察官の身でありながら、最愛の妹を殺した犯人を司法の手にゆだねる気はなく、証拠を意図的に回収し独自捜査を始めるという、主人公も一種の「探偵」であり「犯人」でもあり、シリーズ本来の探偵役である加賀と対決するという、この作品独自の構図が面白く、行く末が気になるストーリーでした。


▼以下、ネタバレ感想
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どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)
東野圭吾どちらかが彼女を殺した についてのレビュー
No.76: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

『館シリーズ』的な作品ではなく『倒錯のロンド』的な作品です

タイトルからまるで綾辻氏の『館シリーズ』か!?と思ってしまいますが(実際間違えて買った人も日本に10人ぐらいはいるんじゃないかと思ったり)
内容は全然所謂「館物」ではないです。奇妙な館で起こる連続殺人、みたいなものを期待してはいけません。

実際は同作者の『倒錯のロンド』の姉妹版というべき作品で「螺旋館の殺人」はこの作品のいわば作中作的位置づけであり、その内容の詳細は作中でも触れられてはおらず、実際のこの作品の内容は『倒錯のロンド』同様、小説の盗作を題材にした、人物間の駆け引きとどんでん返しの物語です。

話のテンポは非常に良く、読みやすい作品ですが、作者自身も確信犯的というか開き直ったB級感に溢れる作品です(だから倒錯三部作には含めずあくまで番外的位置に納めたのだと思います)
『倒錯のロンド』が楽しめて、かつ過度の期待はせず、広い心を持った読者なら多分楽しめる作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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螺旋館の殺人 (講談社文庫)
折原一螺旋館の殺人 についてのレビュー
No.75: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クローズドサークル本格ミステリならどんなに長くても苦にならない……そう思っていた時期がありました

ギリシャ神話の「ミノタウルスの迷宮」をモチーフに孤島に建てられた館で起こる連続見立て殺人事件。
1400ページを超える大作クローズドサークル作品であり、さらにクローズドサークルそのものも一つのテーマになっているメタミステリ作品でもあるという、まさにクローズドサークルマニアの私のためにあるかのような作品だと思ったのですが、読んでみるととにかく話がなかなか先に進まず、決して駄作とは思わないのですが、読んでて辛いものがありました。
クローズドサークル本格ミステリだったらどんな長くても無問題、むしろ望むところと考えていて『暗黒館』も『人狼城』も「なげー、なげー(笑)」言いながらも楽しく読んでいた私ですがこれはキツかったです。上の2作を読むのにかかった時間を足したののさらに倍ぐらいかかって読みました。

話を無駄に長くしているのはやはりこのシリーズの特色である哲学的なペダントリー。
ギリシャ神話は好きなのでそれ自体は割と興味深く読めたのですが、如何せんクローズドサークルシチュエーションとは相性が悪い。連続殺人犯と一緒に閉じ込められてる状況でそんなこと話してる場合じゃないだろっていうツッコミが頭をよぎるし、かと言ってそれを無視すると今度はせっかくのクローズドサークルの緊迫感が失われてしまうという。

大掛かりな見取り図があった割にはあんまり推理やトリックに関係ないのも残念でした。



▼以下、ネタバレ感想
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オイディプス症候群 (創元推理文庫)
笠井潔オイディプス症候群 についてのレビュー
No.74: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

私の中の憑物も落ちてしまったか

とうとう2000ページを超え、文庫版でも一冊に収まらず上下巻という形で出されたシリーズ最長作品。

上巻の特徴としましては「ぬっぺらほう」「うわん」「しょうけら」などの伝承にも十分に正体の記されていない妖怪たちについて、今後の事件の伏線などを散りばめながら我らが京極堂の講釈を聞いていくような連作短編にも似たような形式になります。
正直ここで個々の妖怪に下される解釈などはこの物語そのものの謎解きや真相には殆ど無関係なのですが、この部分こそ楽しめなければこのシリーズを読んでいる意味はないでしょう。

下巻は上巻で散りばめられた各種の事件や伏線を受けて、一つの収束に向けて物語が動き出すというもの。
これまでのシリーズのオールスター総出演と言いますか、ボリュームに相応しい非常に豪華な作品で、エンターテイメントとしては楽しめました。
(正直脇役キャラはいちいち覚えてねーよ、ってのもチラホラいましたが)

しかし、最後の最後の黒幕登場後の茶番と言うか、本の分厚さと反比例するような薄っぺらい展開には悪い意味で唖然としました。
なんですかこれ、厨二ラノベ作品ですか?という感想です。
いや、そもそもこのシリーズ自体がこれまでも別にそんな高尚なもんじゃなく、ちょっと薀蓄多可で異様に分厚いだけの厨二ラノベみたいなもんだったのかなぁと思ってしまいました。
こんな風に揶揄してますけど、私は基本厨二ラノベみたいな作品が好きな人間で、なんだかんだで今作もこんな長くても投げ出さず楽しく読んじゃってますからね。
(小難しい本はそれほど厚くなくても読むのに一週間以上かかったりするのに、この本は分厚い上下巻合わせて4日で読んだし)

とはいえなんというか私の中でまさに催眠が解けたというか、このシリーズに抱いていた幻想という名の憑物が落ちてしまったような気がします。


▼以下、ネタバレ感想
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文庫版 塗仏の宴―宴の支度 (講談社文庫)
京極夏彦塗仏の宴 宴の支度/宴の始末 についてのレビュー
No.73:
(6pt)

いくらなんでも人はここまで醜くない!……と思いたい

他人の心を読む事が出来る超能力者である主人公の少女七瀬。彼女は住み込みのお手伝いとしてさまざまな家庭を転々とし、その能力で各家庭の裏側を覗いていくという連作短編。

あらすじだけでも想像がつく通り、人間の心の醜さがまざまざと描かれている作品ですが、一見円満そうな家庭がそれぞれの心の中では……と言えるような話は最初の一話だけで、残りの話はもう直接口には出さないだけで、最初から目に見えて壊れているような家庭の話ばかりに思えました(また、一見仲が悪そうで実は愛し合ってる、なんて逆バージョンのいい話なんてのは当然ありません)それでも決してワンパターンとは感じない所が流石筒井氏なのですが、いくらなんでもこうも出てくる人間、出てくる家族みんな酷いなんてありえない。いくらなんでも人はここまで醜くないと思ってしまいました。

しかし、普段はフィクションなんだからむしろ性格の悪い人間がいっぱい出てきて醜い争いを繰り広げる話の方が好きな私がこんなふうに感じてしまうのが逆に、この作品に嫌なリアリティがあることの証明かもしれません。
家族八景 (新潮文庫)
筒井康隆家族八景 についてのレビュー
No.72: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

作者の成長過程がうかがえる作品

『名探偵信濃譲二シリーズ』の三部作完結編と言うべき作品でしょうか。
正直私は、このシリーズは作者の歌野氏の後年の作品が好きなので読んでいるだけで、これ自体はお世辞にも出来が良いとも面白いとも思えず、特に褒める所のないシリーズと言った感想なのですが、三作目となる今作は前二作に比べると、まだ粗はあるものの後の同作者の名作に繋がる、成長の軌跡が感じられる作品だと感じました。
ミステリとしては特別トリックが良くできていたり真相がひねられてるわけでもないんですが、単純に前二作に比べると遥かにキャラクターが活きていてストーリーに引き込まれて「面白かった」です。

▼以下、ネタバレ感想
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新装版 動く家の殺人 (講談社文庫)
歌野晶午動く家の殺人 についてのレビュー
No.71: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
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警察小説というよりほとんどヤクザ小説

昭和から平成に移り変わろうとしている時代の広島を舞台に、暴力団同士の抗争と、全面戦争を阻止すべく奔走する警察の姿を描いた作品。

警察小説というよりはヤクザ小説です。
それは警察の話よりもヤクザ絡みの話の方が多いから……ではなく、物語の中心となる刑事の大上がほとんどヤクザだからです(笑)
それも単に口調や態度がヤクザ顔負けというだけでなく、実際に懇意にしているヤクザが多数いて情報はもちろん上前まで貰っていたり、目的のためには手段を選ばず違法捜査のオンパレード、彼の行為が公になったら懲戒免職どころか実刑を食らうレベルです。そんな大上は比喩や誇張抜きに、警察組織に籍を置いているという形の一種のヤクザと言うべきでしょう。

ただそんな大上の型破りの行動やキャラクターが非常に魅力的な作品でした。
大上はヤクザはヤクザでも、筋が通って情の深い「いいヤクザ」です。
(もちろん現実のヤクザにはいいも悪いもありませんが、極道映画と同じくこれはあくまでフィクションですので。
現実世界にそれこそ、大上のように筋が通っていない警察に籍を置いているヤクザも多数いるかもしれないですね……)


▼以下、ネタバレ感想
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孤狼の血 (角川文庫)
柚月裕子孤狼の血 についてのレビュー
No.70: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

B級スプラッタホラー映画の小説版かと思いきや……?

とあるホラー作家が私費をもって作り上げた迷路のような巨大な庭園。最初からあえて荒廃的な雰囲気を持って作られたその”廃墟庭園”は製作者であるホラー作家の失踪により、正真正銘の”廃園”となるが、その後もそこに興味本位で入り込んだものが死体となって発見される事件が起こり、そこには謎の”怪人”が巣食っているなどと不穏な噂が流れるようになった……
その”廃園”をこれ以上ないホラー作品の撮影舞台とし、乗り込んだ映画会社のスタッフ一同は、”廃園”へと足を踏み入れるが、そこに出現した怪人物の手にかかり、一人、また一人と惨殺されていく……

そんなありふれたスプラッタB級ホラー映画のような内容を小説化したかのような作品ですが、そこは本格ミステリ作家でもある三津田氏の作品だけあり、それだけで終わらず、真相はしっかり本格ミステリしている作品です。
綾辻氏の『殺人鬼』と同系等の作品と言えるかもしれません。

人物の殺戮描写が入念でグロいですが、それはまぁあらゆる面で事前に予想できる作品なので、苦手な人は最初から避けるべきで、読んでから文句を言うようなものではないでしょう。
三津田氏の作品はもはや衒学趣味とすら言えない、作者の好きなホラー映画の知識の羅列に辟易されることが多く、この作品もその例に漏れないのですが、まぁこの話の場合、内容が内容なので許容範囲でしょうか。

総括するとB級ホラーにB級ミステリが組み合わさった作品という感想で、特別優れた作品とは思いませんが、単純に娯楽作品としてはそこそこ面白く、真相もひとひねりしてあって良かったと感じました。

▼以下、ネタバレ感想
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スラッシャー 廃園の殺人 (角川ホラー文庫)
三津田信三スラッシャー 廃園の殺人 についてのレビュー
No.69: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

これ以上ないぐらい「普通」の本格推理小説


雪の山荘で殺人事件が発生し、”足跡問題”が生じるという定番のパターンを扱った作品。
この作品は良くも悪くも(個人的にはどちらかと言えばいい意味で)これ以上ないぐらい「普通」の本格推理小説だなぁ、と感じた一冊です。

何一つとして目新しい要素がなく、特に驚くような展開が待っているわけでもなく、定番の舞台で定番の事件が発生し、事件の謎を探偵が解き、真犯人の名前を挙げて事件を解決するという極めて王道な展開の作品です。
特別秀でた部分はないものの、トリックは小粒ながらよく出来ているし、プロット、キャラクター、ドラマ全ての面において、一定水準以上に纏まっている作品ではあります。
ここまでいい意味でも悪い意味でも個性のない作品も逆に凄いというか、個性がないことが個性と感じるレベルです。
(作中に出てきた川の水を汲んで火を消すパズルは面白かったです。これも作者の有栖川氏のオリジナルなら作中のトリックよりこっちに関心しますね)

本格ミステリが好きな人にはおススメできるかなという作品ですし、そうでもない普通の本好きの人にはわざわざ薦めるほどではないかなという作品でしょうか。


▼以下、ネタバレ感想
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スウェ-デン館の謎 (講談社文庫)
有栖川有栖スウェーデン館の謎 についてのレビュー
No.68: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クイーン作品はデビュー作から「らしさ」全開

説明不要の大御所作家、エラリー・クイーンの処女作であり、作者と同名の名探偵クイーンの初登場作品であり、『国名シリーズ』の第一作目でもある記念すべき作品。

デビュー作である今作から「犯人が特別に策を弄したトリックなどを仕掛けるわけではなく、探偵側も物証などを必死に探して証拠として提示するわけでもなく、判明している事実から導き出されるロジックに基づき犯人にたどり着く」というクイーン作品の黄金パターンはこの時点で確立されている極めて「らしい」作品です。
しかし、後に発表される名作に比べればまだ作品として洗練されていない部分や物足りなさを感じる部分が多々あり、名作・傑作と呼べるほどのものではないですね。

今作は後のシリーズでは完全に息子の引き立て役で、お世辞にも有能な警察官とは言いがたいクイーン警視が、息子の推理力に全幅の信頼を置き、彼が能力を十分に発揮できるように自分の役割を果たしている、有能で大物感溢れる人物に描かれていたのが意外でした。
今作に見られる父子それぞれ役割・能力が異なる二人のクイーンが犯人を追い詰める姿は、卓越したプロット構成力と、秀逸な文章構成力をそれぞれ持つ二人の男が合作することで数多くの名作を世に残したクイーンという作家を象徴するスタイルだったのではないかと思うのですが、やはり名探偵の相方は少し抜けていて頼りないワトソン君の方が向いているということなのでしょうか。




▼以下、ネタバレ感想
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ローマ帽子の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンローマ帽子の謎 についてのレビュー
No.67: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

天才・真賀田四季の幼少期の物語

『S&Mシリーズ』のスピンオフ的作品で、主人公のSMコンビを食ってしまう魅力を持つ、真賀田四季博士の過去を書いた四部作の一作目。

年齢一桁の幼女の頃から別格の天才性を発揮する彼女の姿が見られます。
作中で密室殺人事件も発生しますが、正直本格ミステリ要素を無理矢理絡ませたようで、物語上の必要性をあまり感じません。

四季の徹底して「天才」として描かれるキャラ造詣は人によっては陳腐と評するかもしれませんが、私のような厨二趣味の凡人はこのような天才キャラにやはり惹かれてしまうのです。


四季 春 (講談社文庫)
森博嗣四季 春 についてのレビュー
No.66: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

アガサ・クリスティー賞にふさわしい作品

雪に閉ざされた山荘で一人の女子大生が毒殺され、それぞれが動機を持つ、残り4人の大学生たちは犯人を探し出す「検討」を行う……といったシンプルな構成ながら、複雑に入り組んだ真相が用意されている作品です。

クローズド・サークルでありながら、これ以上の殺人の心配はなく、警察抜きで存分に事件の「検討」を行うという展開。
被害者の女が殺されてもしょうがないような糞みたいな性格ですが、容疑者たちも好きになれないような性格の登場人物たち。
なんだか岡島二人氏の『そして扉は閉ざされた』を思い出しました。

純粋にシンプルに「推理小説」としての内容、結末だけならもっと高評価でも良かったのですが、登場人物の無駄な自己主張がハナについてしまい、少し減点です。

▼以下、ネタバレ感想
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致死量未満の殺人 (ハヤカワ文庫JA)
三沢陽一致死量未満の殺人 についてのレビュー
No.65: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

「家族」というクローズドサークルと「父親」という恐怖の存在

誰でも名前ぐらいは、というか映画版でのジャック・ニコルソンの狂気の笑顔のシーンは知っているだろう有名作の原作小説を読みました。

コロラド州ロッキー山中にある、冬季はその厳寒と積雪のため閉鎖されるホテルに、その間の維持・管理を目的として雇われた男ジャック。
そんなジャックと彼の妻ウィンディ、そして五歳になる息子ダニーは、雪に閉ざされたホテルの中、家族三人だけで数ヶ月を過ごすことになる。
しかし、このホテルは過去、ジャック同様やはり家族揃って住み込みで働いていた管理人の男が発狂し、自身の妻と子供を殺害したといういわくを持っていた。
そしてジャックもまた、次第に狂気に取り付かれ、やがて彼の魔手が妻と息子に伸びようとしていた……

そんなクローズドサークルシチュエーションのホラー作品ですが、単に「深い雪に閉ざされた空間」という物理的状況だけでなく、「家族」という、その輪から出ることも入ることも容易ではない、ある意味二重のクローズドサークル状況を描いた作品なのではないかと思いました

この作品は、本来あらゆる意味で子供を庇護してくれる存在であるはずの「父親」が逆に家族を襲う、悪意・脅威になってしまうという恐怖が描かれています。
この怖さは単に大好きなパパが豹変してしまうという点のみならず、父親を愛し尊敬していても、一方で誰しもが多かれ少なかれ家庭の中で強大で支配的な力を持つ父親という存在へ抱く、リアルな恐怖を呼び起こさせるものではないかと感じました。
(私の父は温厚で、家庭内で怒鳴ったり、暴力を振るった記憶など一切ないのですが、そんな家庭に育った私でも、少年期父親をどこかで恐れる気持ちが0だったわけではないです)
また父親側も、一番大切なモノであるはずの家族を、自分が傷つけてしまうのではないかという不安や恐怖は誰しもが持っているのではないでしょうか。

ジャックは癇癪癖やアルコール依存などを持ち、仕事をクビになったりダニーを怪我させた過去があり、元々決して完璧な父親ではありません。
しかし同時に過去を悔やみ、アルコールを断つ努力をし、確かに家族を愛している、決して悪い父親でもありません。
ジャックが最初から完全な悪人あるいは善人として書かれていたら、感情移入という面でも怖さという面でも作品の魅力は下がったでしょう。

さらにこの作品の怖さや深さは、ジャックが狂気にかられたのは、ホテルの持つ魔力のせいか、ジャック自身が元々持つ狂気のせいか途中まで読んだ時点ではどちらとも取れ、読者にとって「より怖いと感じる方」を意識してしまう点にあるのではないかと感じました。

そんな父の日にふさわしいようなふさわしくないような作品のレビューでした。

▼以下、ネタバレ感想
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シャイニング〈上〉 (文春文庫)
スティーヴン・キングシャイニング についてのレビュー
No.64: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

単に「古典的トリック」だけで終わらせてはいけない?

密室の帝王・カーの、カーター・ディクスン名義での代表作。
例によって密室ものですが、怪奇趣味成分はなく、法廷ミステリの側面強しな作品です。

一見名探偵には見えない、周囲が少し心配になるようなおじいちゃんなHM卿のキャラがいいですね。
(威風堂々と立ち上がろうとしたが、服が引っかかって破れて台無しになった。ってとこで笑いました)

最初はどうしても密室トリックに焦点を当てて読んでしまったので、そのあまりの古典的さ(もっとはっきり言えばショボさ)に
一度目に読み終えた時は「当時は名作だったかもしれないけど、今読んだら全然大したことない凡作!」と断じてしまったのですが
この作品の本領は、偽りの証言だらけの法廷で、真実にたどり着くためにチェスのような筋道を立てた謎解きを行う点にあることを、他の人の感想などを見て気づきました。
正直カーは今のミステリ読者の予備知識として抱くイメージが「密室の人」と定着しすぎて、作者も読者も損をしているところがあるかもしれないですね。


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ユダの窓 (創元推理文庫)
カーター・ディクスンユダの窓 についてのレビュー
No.63:
(6pt)

ホラー、SF、ブラックユーモア……幅広いジャンルの短編集

300ページに満たない一冊の中に十三篇収録という、短編としてもかなり短い作品が詰まった短編集です。
ジャンルとしてはミステリー風味の強い作品もありますが、それよりはSFやブラックユーモアネタなどが多くジャンルフリーな一冊です。
最近の作家でいえば乙一氏の作風に近いものがありますかね。

内容としてはジャンルもバラバラならば出来も玉石混合感がありました。
またオチが途中で読めるか、最後まで読んでもイマイチ意味がわからないかの両極端な話が多かった気がします

以下、個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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ナポレオン狂 (講談社文庫)
阿刀田高ナポレオン狂 についてのレビュー
No.62: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

長所と短所が相殺し合ってこの点数

『御手洗潔シリーズ』の長編第6弾。
まず冒頭からいきなり大きなフォントで全てひらがなのページが拡がり、びっくりさせられます。
幼児の書いたようなその文章からさらに読み進めると、徐々に成長を感じさせる高度な文章になっていくのですが、その内容は病的なまでの食物汚染へのこだわりや、まるで夢の中のような荒唐無稽、支離滅裂な出来事や世界の描写。果てはかの『占星術殺人事件』に影響を受け、記述者は複数の死体をバラバラにして結合させ一人の完璧な人間として蘇らせる”アゾート”の作成を試みるなど、まさに狂人が書いたとしか思えないような手記が延々100ページ以上に渡って続く……という冒頭部分から異様な作品です。

そしてその奇妙な手記の謎に御手洗が挑んだ時、そこに隠された事件が紐解かれていくというストーリーです。

今回も700ページ近い大作ですが、手記部分の重複を考えると実質そこから100ページ減でしょうか。

前々作の『暗闇坂の人喰いの木』、前作の『水晶のピラミッド』同様、エンタメとして面白いか面白くないかで言えば間違いなく面白いのですが、本格ミステリとしては物申したい部分が多すぎる作品でした。
それに加えて今作はキャラクター描写に関しても納得の行かない部分が多く、長所と短所が相殺し合いこの点数といった所です。

不満な点をあげるとます、探偵役を賢く見せるために、周囲の人間を愚鈍に書くというのは本格ミステリではよくあることですが、手記に書かれた内容は真実だと言う御手洗に対し「こんな手記は妄想に決まってる!」一辺倒の古井教授の描写がしつこくイライラさせられます。
これがこのシリーズによく出てくる、御手洗と敵対し、聞く耳を持たない傲慢な警察関係者とかならともかく、御手洗とお互い認め合っているような、その分野の第一人者であるとされる優秀な教授が、なぜこんなに頭が固く、察しが悪いんでしょう。
そもそも、この手記を御手洗の元に持ってきたのがこの教授なのに、御手洗の言うことを常に否定し「単なる異常者の妄想」と決め付けているのが意味不明です。
最初からこの教授はこの手記をただの異常者が書いただけの取るに足らないものと思ってるなら、これをわざわざ持ってきて知的なゲームの題材にしようとすること自体が不自然と言うか、何がしたいんだよこのおっさんって感じです。
教授はこの手記をただの狂人の書いたものとは思えないのだが、どうしても合理的な解答が見出せないために、御手洗を見込んで彼の知恵を借りにきたというのではダメだったんでしょうか。

あと今作は石岡くんをまるで奴隷のように扱う、御手洗の言動がはっきり言って不快です。
これまでの彼は変人であり、他人を振り回すことはあっても、友情には厚い男で、相手の方に敵意や傲慢さが無ければ、誰とでも親しくなれるような人物だったと思うのですが、今回の石岡くんを散々顎で使い、犯罪行為まで示唆した挙句「役立たず」呼ばわりするのは酷すぎます。
「他人は僕を変人呼ばわりするが、それは現代日本というごく狭い視野での話だ」という旨の発言もこれまでの作品の彼が言ったなら説得力がありますが、今回の彼の言動は、何時の時代のどこの国の価値観でも「対等の友人」に取る態度じゃないですね。

最後に『占星術殺人事件』は結局あまり真相には関係しませんので、『占星術殺人事件2』みたいな感じを期待すると肩透かしを食らいます。(私は食らいました)

……批判ばかりになりましたが、面白いことは面白かったです。


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眩暈 (講談社文庫)
島田荘司眩暈 についてのレビュー
No.61: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

博士と少年の相思相愛っぷりに癒されました

80分しか記憶が持たない数学博士と、そんな博士の世話係として家政婦に雇われた”私”。そして彼女の小学生の息子。
そんな三人の交流の日々が描かれるお話。

数学と言うミステリと相性のいい題材の作品ですがミステリではなく、ハートウォーミングなストーリーです。
切ない場面や悲しい場面もありますが、あまりお涙頂戴な印象は受けませんでした。
語り手の”私”が少し蚊帳の外で可哀想感を覚えるほどの、博士と少年の相思相愛っぷりに癒されました。
博士の記憶は80分しか持ちませんが、博士がたびたび教えてくれる、何気なく日常に潜んだ数字の相関や法則が、彼らの永遠不変の絆となると感じられました。

私は基本的に、性格の悪い奴がいっぱい出てきて、憎しみあい、騙しあい、殺しあうような作品が好きなのですが、たまにはこういう話で心を洗うのもいいですね。


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博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川洋子博士の愛した数式 についてのレビュー