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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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クローズド・サークルの館を舞台としたミステリで雰囲気はとても好みでした。
不思議な雰囲気模様な作品でして、登場人物達が「これがミステリだったらこうなるよね。」というメタ的な思考を持って動いていると感じるのが面白かったです。ある程度本格ミステリを読み慣れた方が、事件現場はこうだよね、演出や犯人はこうなるというお約束で期待する展開を作中内のキャラは理解しており、読者が期待する動きを自覚して行動していると感じます。 タイトルにある『殺人に関する各人の視点』と表現している通り、ミステリという事件模様を読者がどう感じるかを登場人物達が代弁しているような雰囲気を持つ作品です。ただ残念な点は各人の視点とあるのですが実際の所登場人物達の半分の視点しかなく、さらには各人の視点で得られる情報がミステリの仕掛けになることもなく、驚きの真相を得られるというものでもない事。ワクワク期待する要素が豊富なのですが、期待すればするほど終盤はあっさりに感じる為に読者の期待と結果が合いづらくて好みが分れそうな作品だと感じました。 表紙やタイトルや作中の雰囲気はとても好み。ただ肝心の事件や真相のミステリ部分はとくに印象に残らない為、消化不良なのが正直な気持ちです。この感情は作中の二ノ宮と読者をあえて合わせている企みなのかもしれませんね。なんか読後感がスッキリしないのが残念でした。 |
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凄く好みの作品で楽しい読書でした。
ライトノベルやアニメ系が好きなミステリ読者にオススメです。 まず特徴的な要素として【事件の手掛かりは、すべて太字で示される。】という作りになっており、ミステリーや推理小説は難しいという読者に対して読み所が提示されています。なんでこんなネタ要素が太字?と思う箇所も、後の推理でちゃんと活用されるのが面白いです。新しい読者獲得の実験にも感じました。 こういう仕掛けがある事から本書は推理ものに特化している印象が強いのですが、実の所謎解きよりも学園ラブコメのハーレムものとして楽しい雰囲気を味わいました。 例えば事件現場にプールがあるのもミステリで必要な要素としてではなく、水着を描きたかったのだろうなと感じる次第でして、ミステリよりも学園ラブコメの楽しさが強い。でもちゃんと仕掛けは施されている塩梅です。ここら辺は読者の好みが分かれる所なのでラノベやアニメ系が好きな方にお薦めというワケです。 キャラクターがどれも可愛く明るくてよい雰囲気。読後感も気持ちよいので次巻も楽しみです。 |
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前作はYoutube配信で話題になり動画で視聴。小説として読むのは今作が初めてです。
書店でとても盛り上がっていたので手に取りました。前作のようなちょっとした仕掛け本程度の内容だろうと期待はしていなかったのですが、読み終わってみるとミステリの仕掛けを豊富に練りこんだ作品で驚きました。 前作『変な家』は間取りから家の謎に迫る物語であり、本作も同じ傾向を感じさせる"絵"から読み解く謎解き物語となります。 ただこれはほんの序盤の導入だけで、その後は絵を用いながら奇妙な物語が展開されます。面白い所は読者の興味を惹きつける語りや構成。複雑ではない物語だけどなんかおかしいバランスがとても良く、スラスラと読めて先が気になる読書でした。一方あえて悪い表現で本書をとらえると小説としての中身が軽く、文章で表現するのではなく絵や挿絵で補完した小説とも言えてしまいます。ですので人により何を評価するかで好みが分かれるかと思いました。個人的には物語が面白く読めましたし、多くの読者がミステリを味わえる作品という事でとてもアリに感じました。 表紙とタイトルをもっと硬派な社会派ミステリの装丁にすると中身もそのような印象を受けるぐらいちゃんとミステリをしていました。面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2023年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙やあらすじの雰囲気から歴史もので難しそうな印象を受けますが、中身は大正時代の少年探偵もので堅苦しくなく楽しめました。 著者の出身地である鳥取県を舞台にしており、実在する鳥取県の作家田中古代子と田中千鳥(子供)を主人公とした物語です。江戸川乱歩の少年探偵に出てくる怪盗21面相の参考になったとされる、実在する作品『兇賊ジゴマ』も用いており、乱歩の少年探偵の雰囲気をとても感じた読書でした。著者は名探偵コナンの脚本家でもあるという売り出しをされていますが、読んでみるとなるほどと思いました。よくよく考えてみたらコナンも乱歩の少年探偵をモチーフにしていますので、著者の鳥取愛と乱歩作品の想いが十分に盛り込まれて生み出した作品であるととても強く感じます。 ミステリとしての乱歩賞を期待すると個人的にちょっと違う感覚だったのですが、乱歩を感じさせる著者の物語として楽しめた作品でした。 また終盤はとてもコナンを感じました。7歳の千鳥の小さな名探偵模様や、ピンチの時や犯人との対峙シーンなど、頭に浮かぶ画が正にコナン模様でニヤリとしました。良い意味で安心の演出。 読後は田中千鳥の詩をWEBサイトで拝見。実際に子供の時の詩の作品が残っているのかと驚いた次第でした。 |
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交番のおまわりさんが探偵役となる、犯人視点の倒叙ミステリの連作短編集。
泥棒やら詐欺やらの犯罪をどのような言動から見抜くのかという物語。 日本推理作家協会賞受賞作の短編『偽りの春』を含む作品集である事から手に取りました。 正直な感想としては好みの相性が違った作品でした。 読み易い作品でしたが雰囲気が暗くて馴染めませんでした。個人的な読書の心構えの問題だったと思いますが、交番のおまわりさんが探偵役での街中の犯罪ものにしては登場人物達が総じて陰気な雰囲気を醸し出しており、物語やセリフなど読んでいて気が重い読書でした。また犯人の言動から推理するというより、犯人側が取り調べに狼狽えて余計な事を喋ってしまったようなミスが手がかりに感じられた為、推理ものとしても好みと違うものでした。 |
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昨年の乱歩賞作家の2作目。前作が好みだったので手に取りました。
表紙の雰囲気が似ていますが、前作とは違うお話なので本書単体で楽しめます。 今回の物語の序盤は孤島を舞台にした倒叙ミステリ。 復讐計画を企てる犯人視点。ただし自分の意図しない殺人事件が発生。別の殺人者がいる状況。さらには第2、第3の殺人が起き、被害者は決まって前の殺人の第一発見者が襲われる――。というミステリ。 90年代の新本格模様をとても感じた序盤でした。孤島の連続殺人でワクワクしながらの読書。第一発見者が決まって襲われるという問題も面白く、ミステリとして古き良き要素を入れつつ、現代的なテーマも盛り込んだ作品となっております。 事件を魅せつつも本書で感じたのは人の業(カルマ)を感じました。業なんて単語は本書には出てきていないのですが、善悪の行いによって未来の自分へ廻るという物語を感じた次第。タイトルにある、ちぎれた鎖はこういう悪しき連鎖を断ち切り希望を見出す光を意味している気がしました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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江戸川乱歩賞受賞の『北緯43度のコールドケース』に続くシリーズ2作目。
1作目は読書必須。主人公の背景、警察組織での人間関係など前作を踏まえた深みがでてくる内容となっております。 世の中多くの警察小説がありますが、本作によって他とは違う警察小説の特徴が表れたと感じました。 一番に感じるのは"女性のキャリア"のテーマが根幹に感じます。1作目、2作目、両方とも通じてます。 博士号を持つ主人公。教授や研究者を目指すのではなく警察になった背景。男性社会での女性の立場。作品内に一本の筋としてしっかり入っており、伝えたい想いをとても感じました。ミステリーの描き方についても事件が主体ではなく、人を描く肉付けとして事件を加えているという印象でした。はっきりとした特徴が見えるので他の警察小説とは違う新鮮な感じでとても面白い読書でした。 面白い作品なのですが、一言で売り文句になるような言葉が見つからないのがもどかしいです。"警察小説"、"女性のキャリアもの"が良いと言っても読者へ響かないでしょう。勝手な解釈ですが、読者へ分かりやすいPRワードとして、爆弾や数学という言葉で印象付けを狙ったのかなと感じました。タイトル『数学の女王』については巧いワードではなかったのではと感じる所でして、ここだけが勿体ないかなと思いました。学長を強烈に印象付けすると効果でそうですが。。。詳しくはネタバレ側で。 シリーズ作品として今後も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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怪異が存在する異世界が舞台の医療ミステリー。
医療もののミステリーとなりますが、物語のメインは異世界を舞台にしたファンタジーです。 シリーズものの1巻目の為、人物や舞台説明などが主体に感じました。 序盤は真面目な固い雰囲気のファンタジーでしたが、登場人物達が「お互い敬語は無しで」みたいな雰囲気になってからは会話が軽くなり文章含めて著者らしいライトノベル模様でした。 異世界での怪異を現代医療で解決するとはいえ、読者が同じ目線で推理する類ではなく、医者目線の医療知識をもって解決する傾向です。 世の中の他のレビューにもありますが、同じ新潮文庫nexから出版されている知念実希人の天久鷹央シリーズを現代版とするなら、今作がファンタジー版という印象をとても感じました。同じ担当編集なのかな。同じ客層をターゲットにしていると感じます。 怪異の認知設定も城平京の虚構推理シリーズ模様であり、パロディとも違うので、本書の特色が見え辛いのが正直な気持ちでした。表紙や雰囲気は好みです。シリーズ1巻目でまだまだ続巻もでているシリーズなので、今後どのように展開されているのかなと思う次第です。 |
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シリーズ2作目は『ポセイドン・アドベンチャー』のオマージュ作品となる豪華客船を舞台としたパニック小説。
1作目未読でも本書単体で楽しめます。相変わらずの面白さでありました。 ただ期待し過ぎてしまったからなのか、1作目が素晴らしかったからなのか、やっている事は前作と同じような展開な為に新しい刺激があまり感じられなかったのが正直な気持ちです。 登場人物達の役割、悪い人、現場に詳しい人、男女、年配の方、といった配役の設計が前回と似ています。船長や国会議員の上の存在が原因となる事故模様。テンプレート感が良い意味では安心して楽しめるのですが、悪い意味では同じものを読んだ感覚となってしまう次第。 事故原因となった船長や議員についても、私欲や自己保身による理不尽な内容なので読んでいて気分が悪かったです。前作の『炎の塔』では経営者側のバックグラウンドや役割がちゃんと描かれていたので、それぞれがちゃんと仕事をしている上での事故という多少の納得があったのですが、今作はそれが感じられなかったので理不尽な気持ちになる読書となった次第。ただこれは著者あとがきにある海難事故における事例が示す通り理不尽なものをあえて描いているのかもしれません。 台風接近の海洋事故の脱出もので主人公は消防士。という条件で本書が描かれたのは中々凄いなと感じました。消防士が主人公なら敵は炎となりますが、台風で大雨のシチュエーションな訳で火事の見せ所が描き辛いのです。そんなわけで船内の救護活動や迷路のような脱出劇、炎が生まれる小道具など、作り方の面白さの方が目に留まりました。定期的に船の中で起きている物語だと忘れさせないように、船内が傾いている状況が描かれたり、群像劇として外の台風や海洋の様子を描いたりなど、小説家の巧さを感じます。 前作からの期待値が高すぎてしまった故の感想となってしまいましたが面白さは確かです。三部作ということで次巻も楽しみです。 |
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新装版の雰囲気に惹かれて手に取りました。
読後の気持ちとして、帯にあるようなミステリーを期待すると肩透かしを受けると感じました。 本書はミステリーとしてではなく、旅先で体験した非日常の出来事ぐらいの感覚で楽しむお話です。 舞台はハワイにある一見さんのみ宿泊可能なホテルのお話。ハワイの雰囲気がとてもよく描かれていて旅行気分を味わった作品でした。 旅先で出会う人たち、その場の縁、ある意味ドライな関係性はリアルに感じました。旅先で出会う人にそんなに深入りはしない為、どんな事情があっても他人事な感覚になります。あえて悪い印象で表現すると、どうでもいいかなと言うような気持ちのエピソードになる為、その気持ちが本書の物語への惹かれ具合となった次第。 ハワイの晴れやかな雰囲気とは対象的に後ろめたさやじめじめしたエピソードな為、あまり好みの物語ではなかったのが正直な気持ちです。 |
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これは傑作。
2019年度のメフィスト賞受賞作。 メフィスト賞作品ですがミステリーやファンタジー系統ではなく、文学寄りの作品での受賞。つまり優れた作品だったので賞を与えられて出版された作品であるとも感じます。 本書は水墨画を扱う青春小説。 事故で家族を失った大学生の主人公。孤独や無気力、ただ生きているだけの日々の彼が水墨画の世界に引き込まれていくという流れ。 まず本書の素晴らしい所は、文字だけの小説で白黒の水墨画をテーマにした内容なのに、読書中は鮮やかな感覚を得る読書である事。ものの見え方・表現の仕方が卓越しており素晴らしい読書体験でした。読後に著者自身が水墨画家である事を知って納得です。 水墨画の知識についても、主人公と読者の目線が合っているのがよいです。初めて触れる世界、水墨画とはどういうものか、道具は?描き方は?描き手の気持ちなど物語を通して体験できました。 また全体を通して悪意がなく登場人物達も魅力的で優しい世界。読んでいて心地よい。青春小説としての成長も得られて満足。さらに読後はネットで水墨画の作品や"描き方"を見たくなりYoutubeなどを巡回しました。作品を見る目も養われるといった次第で本当に素晴らしい読書でした。オススメです。 |
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いじめ、サイコパス、自殺教唆を用いながらの歪んた恋を描いた作品。
MW文庫なので読者ターゲットは中高生。ここの世代にとても刺さりそうな作品だと感じました。 そして本書の面白い所は、深読み系の作品である事。考察が好きな人は尚良し。 読書後に実はこういう話だったのではないか?と深読みさせるように作られています。その為、読んだ人同士で感想を言い合ったり、中高生なら学校で友達に紹介し合うでしょうし、SNSでそれぞれの解釈や感想が広がる面白さを感じました。 この手が好きだったとしても、扱う内容がいじめや自殺なのでその内容の陰鬱さで好みが分れる事でしょう。私自身もこの点は好みではないです。深読みしてまで読み返したくなる内容ではないのが難点。ただ作品作りとしては面白く、所々ハッとさせられるセリフなど著者の想いが感じられるのも良かったです。 どう解釈したかはネタバレで。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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白骨死体と共に埋められていた600万もの価値がある将棋の名駒。何故埋められたのか。白骨死体は誰なのか。将棋の駒を手がかりに事件の行方を追う。という始まり。
とても惹きこまれた読書で一気読みでした。 ただ正直な気持ちとして、終盤に関しては物足りなさで終わった読後感でした。 あらすじにある何故高価な駒が死体と共に埋められたのかという謎は終盤まで明されず、途中何度か読者に考えさせる演出がある為、そこにすごい仕掛けでもあるのかなと期待をさせるのですが、そういうものではなかったので物足りなく感じた次第。 とはいえ重厚な人間ドラマとしてはとても堪能しました。将棋の事がわからないでも本書は大丈夫です。 またあえて変わった視点で本書の構造を見ると、将棋の駒が主人公であり、駒(美術品)を取り巻く人や歴史を読者に感じさせる美術ミステリ模様をも感じました。 点数の好みとしては、重苦しく悲劇で嫌な気持ちになる事が多かった為この点数で。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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元凄腕の岡っ引。現在は版木彫りの主人公。恩師から行方不明となった娘を探すという物語。
普段馴染みのない時代小説だった為、序盤は慣れない用語や雰囲気や言葉遣いで読むのが大変かなと心配しましたが、30ページ程読み進めているとすぐに慣れて夢中になりました。 "消えた女を探す"という分かりやすい目的があり、それを調べて行く中で遭遇する事件や怪しい人々で先が気になる面白さでした。主人公の姿、おまさという女性との男女関係、人情模様など魅力ある要素が豊富。 本書は設定も然ることながら時代小説を感じる文章がよかったです。ここが面白いとポイントで説明するのが難しいのですが、名場面が多くてあのシーンやこのシーンがよかったなと感じる所が豊富でした。あとお蕎麦を食べたくなりました。面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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剣持麗子シリーズ2作目。
本書からでも問題ないですが、面白さは前作同様なので1作目から読書推奨です。 主人公は新キャラの美馬玉子。前作の主人公の剣持麗子は同じ事務所の先輩の立ち位置でした。 タイトルにある倒産をテーマとした事件。 転職の度に元いた会社が倒産する経理の女性が存在しており、何か不正行為が行われているのではないかという始まり。倒産の連続から『連続殺(法人)事件』と表現したり、リストラを『首切り事件』と表したりと経営話の中で表現するセンスが面白い。ミステリーを装っていますが、本書から受ける印象は弁護士のお仕事小説。キャラクターも魅力的であり、ドラマを見ているような面白さでした。 新キャラ美馬玉子の視点にする事で弁護士の依頼の調査を何も分からない読者に近づけているのが巧いなと思いました。前作の剣持麗子は完璧で最強過ぎて読者が置いてけぼりになっていましたが今回はそんなことありません。さらに剣持麗子が本当に困った時の頼れる先輩として描かれており、異なる表現で魅力を伝えているのが凄いと感じます。 弁護士事務所の人々や世の中の背後に存在する悪意など、シリーズものとしての魅力が増やされた一冊でした。今後も楽しみです。 |
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SNSや書店で話題になっていたので手に取りました。
表紙の絵柄とコロナ禍も相まって口元を隠す帯の作りは巧いな思います。ブックデザインが印象的。 帯やポップなどで、どんでん返しものとしてPRされているのですが、読後の感覚ではそれを期待するものではないと思いました。過剰な宣伝により読者が期待するものと違った読後感になり、不当な評価に繋がってしまいそうです。 本書はイヤミス系統。通り魔により家族を失い不幸になった者の視点で描かれる異常者の物語です。 ミステリーというより文学的な要素の組み合わせが面白い作品でした。タイトル『レモンと殺人鬼』からして何故にレモン?と興味を引く要素のセンスが巧いです。 家族経営の洋食屋。レモン。父と娘のエピソード。その他もろもろ、個々のエピソードが良く考えられており面白い。ただそれを仕掛けあるミステリーにするべく捏ね繰り回した後半は過剰な展開に思えた次第です。 あとがきにて著者が本書で描いたのは「ヤバい人」とあったので納得。ヤバい人の物語を期待して読むとその通りな作品。ただ異常犯罪ものだとしても個人的には何か突き抜けたものが無くてあまり印象に残らなかったのが正直な気持ちです。最後のシーンは好みでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても個性的な作品でした。
メフィスト賞受賞作である本書。ミステリーとしてではなく個性的な物語としての受賞であると感じます。 あらすじにある通り、アメリカで実在したハランベ事件をモチーフにした物語です。タイトル『ゴリラ裁判』が示す通り、読書前の印象は裁判ものだと思っていたのですが、読み終わった現在では違う印象を持ちました。 裁判ものというより、SF作品の宇宙人と地球人との違いみたいな人種問題を扱った作品の印象です。「人間とは何か?」を問いかける物語を宇宙人でなく親しみやすいゴリラを用いて行われています。 読書中の気分はハヤカワの海外SFを読んでいるようでした。文章が海外翻訳の本を読んでいるような感覚であり、登場人物もゴリラ含めてカタカナ名かつ舞台も海外なのでより強く感じた次第です。良し悪しや好みの意味ではなく、単純に文章が海外作品っぽいと思っただけです。物語はイメージしやすく読み易かったので好感。 本書のテーマとなっている所は社会派模様なのと後半の裁判の説得の仕方があまり共感できなくて好みと合わなかったのが正直な気持ち。ただ序盤のカメルーンでのゴリラの生活物語はワクワクして楽しみました。個性的な物語を描くのでデビュー後の作品にも期待。 |
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科学捜査もの。推協賞にノミネートされていたので手に取りました。
元科学捜査研究所にいた風変わりな鑑定人が探偵役。確かな技術力をもって弁護士や判事から依頼を受けて事件の真相を暴くというもの。作風はリアルで硬派なので扱う事件も重苦しい部類です。ただ読み辛いという事はないです。 でてくる単語が専門用語寄りなので、理系や科学捜査ものが好きな方向けの作品です。 1話目『遺された痕』 読者を掴む1話目で扱う事件は性犯罪です。最初にこの事件を配置しているあたりで本書は軽いミステリではなくて硬派な作品なのだなと気を引き締めた次第。本書は楽しく読む作品ではなく事件を真摯に科学を通して見つめる作品だと雰囲気を感じ取りました。 2話目『愚者の炎』 ベトナム人技能実習生による放火事件。これは社会派ミステリ模様でした。1話目2話目と読み進めるとフィクションの小説というより現実の事件の捜査模様を体験するような感覚を得た次第。 3話目『死人に訊け』 少し気を抜いたエピソードがあり緊張感が解れるラストが面白い。鑑定人土門誠の技術ではなく人としてどういう人なのかちょっとだけ感じられた内容。 4話目『風化した夜』 それまで匂わせていた過去のエピソードが繋がる物語となっています。 作品の雰囲気は重苦しく真面目な内容。全体を通して感じる事は、真実は人間のアナログ的な感情で左右される事無く科学的な証拠に基づいてきちんと導きだす事。そして隠さず暴く事という正義を感じました。数年前のミステリで真実を暴く事で不幸になる場合があるという探偵の悩み問題がありましたが、それに対する真摯の想いを感じた作品でした。 |
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個人的に好みの結末で締めくくられていた作品で大満足でした。(☆7+1好み)
まず本書を楽しめる可能性があるのは90年代が小中高大学生として青春時代を過ごした人が効果抜群で、30代以上が読者ターゲットとなります。逆に現在25歳以下の方が読んでも面白さが分り辛いかと思いました。何故なら本書のネタは90年代の音楽や芸能ネタの時事ネタが多く、その当時の思い出を感じる作品だからです。過ごしていないと何が面白いのか分からない物語です。タイトルが小泉今日子の『あなたに会えてよかった』のもじりであると頭の中によぎるような方が対象に感じました。 物語は前科二犯として服役していた主人公が出所早々に空き巣として忍び込んだ先がかつての初恋の相手の家だったという始まり。現在の状況と初恋の相手に出会った当時の思い出を回想しながら物語は進みます。 冒頭にて懸念した内容はこの回想の所でして、90年代のあの頃はこんな音楽が流行ったよねとか、こんな事件があったよね、お笑いはこれが流行ったよねという、当時の誰かの日記を読んでいるような物語です。著者の藤崎翔さんは1985年生まれなので内容はまさに著者の世代にそったエピソードを感じました。著者は芸人でもあるので著者らしさが発揮された作品であるとも感じます。 正直な所としてミステリーとはあまり関係ない脱線話が多い為、この点は好みが分かれると思います。個人的には当時を懐かしく感じられてエンタメとしてとても面白い読書となった次第。 結末もこれどうするんだろうと不安になっていた所で、巧い締めくくられ方をしており読後感も満足な作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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要素盛り沢山な所が面白くもあり、複雑に感じる所でもありというのが率直な感想でした。
情報量が多いというか詰め込み過ぎというか、読書が夢中になり辛かった為かもしれません。とはいえ面白い作品でした。 作品傾向は青春SFミステリー。 主人公は過去視。ヒロインは未来視。猫の瞳を通じてその二人が出会い、主人公が遭遇した銃殺事件を調査していくという流れ。事件はミステリパート。 2人の恋愛模様はパソコン画面でのリモート会話のような過去と未来で猫の瞳を通して接続される設定であり、今風の遠距離恋愛の物語を感じました。時間軸と猫の組み合わせなどSFの小ネタを感じる所が豊富。ミステリの小ネタも盛り沢山です。キャラクターの良さを描いた演劇部の活動内容も面白く読めました。 ただもどかしいのはどれも話のメインになるような設定のエピソードを300P台の本書に詰め込んでいる為か把握し辛い。密度が凄いとポジティブに捉える事もできますが読書のリズムと情報量が合わないと感じました。話が急展開になったり、感情移入する前に結果がでてきてしまったりと、凄い面白い事をしているのに味わい辛かったです。これは著者が好きな設定や展開をとにかく盛り込んだようにも感じて必然性が感じられなかったのも要因です。特に第四幕からは大事な魅せ所なのに驚きや感動を味わう間もなく次々と進めているような駆け足を感じます。間や演出があればもっと読者の心を掴めそうなのにと勿体なさを感じました。 一方、序盤の学園エピソードは惹きこまれます。キャラの濃い阿望先輩登場や演劇のエチュードは惹きこまれました。序盤は丁寧に描かれている為か学園箇所面白かったです。 表紙やヒロインも可愛くて絵柄や意味深なタイトルも好み。あと文章中で登場人物にすべてルビがふってあるのは読み易くて良かったです。この人なんて読むんだっけ?という煩わしさがありません。最初の登場シーンだけルビを振るのではなく、全ページで人物名のルビがあるので物凄く読み易い作りは好感です。最近の電撃文庫はこういうフォーマットにしたのかな。 と、良い所もそうではない所もいっぱい感じた作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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