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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数773件
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『戸籍』をテーマとした社会派ミステリー。
書店で多く並べられているのを見かけ、そして帯にあった『松本清張以来の社会派ミステリーの復活』というコピーに惹かれました。最近、社会派小説を読んでいなかったこともあり手に取った次第。久々の社会派の体験という事もありますが、内容がしっかり根付いた物語と読みやすい文章で夢中になった読書でした。良い意味で80年代の社会派小説を彷彿させます。テーマはしっかりとある骨太で事件内容も重めです。ただ昔の作品と違って文章は現代的で理解しやすく読みやすい。帯の言葉に偽りなしです。満足度の高い一冊でした。 物語は、妻が惨殺され、さらに妻が戸籍を偽っていたという事実から始まる悲劇。 しかし主人公自身も戸籍を偽る「なりすまし」であった――というお話です。戸籍を偽る背景や、偽らざるを得ない社会的事情、戸籍売買や無戸籍児といった社会問題を物語を通じて知れました。妻が何者なのか調べる主人公の行動、そして進むごとに明かされる新たな事実や障害などミステリーとしての緊張感や構成の巧さを堪能できました。 社会派ゆえに内容は重く、悲しみを帯びた物語なので好みが分かれる所ですが、久々に濃いミステリーを読んだ充実した読書でした。 終わり方も良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2025年度の江戸川乱歩賞受賞作品。
江戸川乱歩賞はこれを受けてデビューという事が多い為、新人賞というイメージが強いのですが、実際は他でプロとして活躍している方も応募可能です。本作の作者である野宮有もすでに活躍している方で、プロによる受賞作となりました。 ここ数年の乱歩賞で思う事は、かつてのような社会派で重厚な作品というより、ライトで読みやすい作品が増えた印象があります。本作もその流れにあり、すでに実力を持つ作者だけあって、新人賞特有の読みにくさはまったくなく、非常にスラスラと読みやすい読書でした。乱歩賞は読み辛いという負のイメージを払拭しています。作者の過去の作品をいくつか読んでいますが、本作はそれ以上に文章が読みやすくなっており、かつミステリーとして面白い作品でした。 物語は営業のトップセールスマンが営業先で殺し屋の現場に遭遇してしまう――という巻き込まれ型の作品。 殺し屋に殺されないように、生き残るために営業テクニックを駆使する序盤から一気に引き込まれました。相手をその気にさせる思考やセリフの数々は心理テクニックが活用されており、小説でありながら実用書のノウハウ集を読んでいるかのような面白さがあり、読んでいて勉強にもなる感覚でした。 巻き込まれ型作品ゆえ、先が進むごとにどのような展開になるかは読んでからのお楽しみとなりますが、個人的な最大の評価ポイントは小説の終わり方が完璧だったという点。どんでん返しとかそういう意味ではなく、物語の閉じ方がとても巧く「うぁ...すご」っと思わず声がでた読後感でした。 その他のお知らせ事項として、乱歩賞で殺し屋作品だから重い小説を想像されるかもしれませんが、そういう重さはなく、個人的にはライトノベルやメフィスト賞に近い感覚を得ました。スラスラとテンポよく読める一冊です。過去作『嘘と詐欺と異能学園』のような相手を騙すコンゲーム的な要素もあり、シリーズ化も期待できそうな作品です。とても楽しい読書でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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現代設定ながら、90年代の本格ミステリを味わえた作品で大変好みでした。
謎解きが大好きな学生2人の主人公が宿泊型の脱出ゲームに参加したところ、演出ではなく本物の殺人事件に巻き込まれてしまうという流れ。 読者にも脱出ゲームを体験させようと実際に謎解きクイズが掲載されているのが面白い試みで新鮮でした。 読む前はクイズを題材にした軽い小説かと思っていたのですが予想以上にしっかりしたミステリで驚かされました。謎解きクイズはあくまで雰囲気づくりの一要素で読者を悩ませて読書を止める事はないです。謎は作中人物たちが解いていく形式なので、脱出ゲームを知らない人にちょうど良い体験かと思われます。そして、この脱出ゲームの体験がミステリの謎解きの考え方に関わってくるのが見事です。ロジカルな推理模様と発想のヒントが伏線的に巧く合わさっていると感じました。 本書の解説にありましたが、作者自身が脱出ゲーム好きとのことで、その体験が巧みに作品へ活かされています。本作で特に本格ミステリとしての魅力を感じたのは、「謎を解くための手がかりの提示が巧い点」です。私自身もいくつか脱出ゲームを体験していますが、最初に解いた問題や、何気ない仕掛けが後半の鍵になることが多くあります。その感覚が小説の伏線として見事に昇華されており、古き良き推理をする本格ミステリを感じた次第でした。 主人公の2人も好印象でした。 意見がすれ違ったり互いを補ったりと良い雰囲気です。男女にせず男同士なので友情的な感覚で見守れます。今後の成長も気になりますね。 個人的には非常に好みの作品ですが、人に薦める際に少し悩む点があるとすれば動機の設定でした。扱っている題材に対してもう少し社会派的な重みが必要に思えます。本作のライトな謎解き作品の中に入れるには後味がやや重く感じました。シリーズ化した場合、本作が第1作目となるため、ここから読まざるを得ない点も少し気になります。 とはいえロジカルな推理と丁寧な伏線が光る本格ミステリとして、学生二人のコンビが織りなす青春らしさも魅力的で、読後は非常に満足しました。シリーズ化希望の続編を読みたい作品です。 |
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タイトルが一品で興味が沸きました。ただ少し期待値が高すぎたのもありますが合わない作品でした。
同じ著者の『そしてミランダを殺す』は大変読みやすく好みであり、翻訳者も同じの創元推理文庫であったのですが、本書は読み辛く内容の把握が難しくて楽しめませんでした。後述しますが、本の構成として、読みやすくする工夫はあると思うのですが、本書はその丁寧さが欠けている気がします。 物語は、アメリカ各地の9人に、自分の名を含む9つの名前だけが記されたリストが郵送されます。差出人も意図も不明。そのリストの人物が殺されていくという事件。9名の繋がりは何なのか、なぜ殺されるのか、といったミッシングリンクもののサスペンスです。 ■内容の把握が難しかった理由について。 第一に膨大な登場人物です。主要9名に加えて一時的な登場人物も現れるため、誰が誰なのか混乱しがちでした。しかも人物表にすべて載っているわけではなく、「この人は誰だろう?」と思って確認しても見つからないこともあるわけです。 登場人物表にはまず主要9名が描かれ、さらにそれぞれに関わる人達が一覧で並んでいますが、それぞれが誰に絡む人物なのかが分かりづらく、画が浮かぶような特徴のあるキャラではないので、カタカナ名の把握が困難でした。 改善してほしい点としてはサブキャラは2段組や複数ページでも良いので全員を一覧に載せ、主要キャラに対して絡むサブキャラを余白や区切りで分けて掲載するなどして、人物を把握しやすくしてほしかったです。 第二に、視点の切り替え方です。 9人の視点を行き来する構成自体は面白いのですが、章の冒頭には「日時」だけが記され、誰の視点なのかは本文を読み進めないと分かりません。そのため「これは誰の視点だろう?」と確認してから冒頭に戻って再読するという、テンポの悪い読み方を強いられました。せめて視点人物の名前を章頭に明示してくれれば、ずいぶん読みやすくなると思った次第です。 さらには、事件の区切りに挟まる、9名のリストの扱いです。 物語の節目にリストが挟まれ、人数が減っていく演出自体は効果的ですが、英字で9人の名前が並ぶだけなので被害者の把握が困難で効果的ではありません。例えば「名前はカタカナ表記」にし、事件で「亡くなった人物には打消し線を引く」などの工夫があれば、読者はより物語を追いやすくなったと思います。 英字や死亡者の表記に何か意味がある演出なのかと思いきや、特になかったので、ただ素材を載せるだけでなく、読者が楽しめるように丁寧に処理をしてほしかった心境です。 というわけで、内容そのものよりも「読みづらさ」が強く残ってしまいました。同じ著者・翻訳者でも、編集者が違うのでしょうか。ここまで印象が変わるのかと考えさせられる一冊でした。内容についても最後まで読んでよかったかというと、肩透かしな印象なので、好みに合わない作品となりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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海外作品ならではの良質なミステリーを味わえました。大変面白かったです。
舞台はペンシルヴェニアの小さな町。3つの視点による、倒叙+群像劇を用いた人々の罪を描く作品。 登場人物は少なく、内容はとても把握しやすいので、カタカナ人物名が理由で海外作品が苦手な人でも大丈夫。また、罪を題材にし、葛藤や教訓や愚かさというテーマ性を感じますが、読み心地はそれらのワードから連想されるような重さはなく、むしろ爽やかで軽快に読める雰囲気なのも良いです。 3人の視点切り替えの構成がとてもうまく、先が気になり、最後まで飽きずに夢中になった読書でした。残り僅かなページ数になっても、どういう風な結末になるか、まったく予想できなかった点も良かったです。おすすめ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ3作目。全3巻ものなので完結。
全3巻で完結。もともと3巻構成での企画ではなく、途中で打ち切られたかのような形での完結に思えました。舞台となる異能学園や敵との戦いの設定は、もっと広げられそうな余地があったため、そのように感じたのかもしれません。 ただし本作は、まとめ方が非常に巧みでした。主人公とヒロインの結末、仲間達や敵との関係性、異能学園へ乗り込んだ目的など、当初の目的や真相をスッキリ解決させている点は見事。要点が充実した『異能学園編』として楽しめたシリーズでした。著者の人気が高まればアニメ化も期待できそうな作品かと思います。 ラスボス戦のトリックは大技過ぎて、一般文芸のミステリ的に見ると、ちょっと成立するのか怪しい気がしますが、ライトノベルの世界観だからこそ成立する強引さとも言える気がします。が、、、その勢いも本シリーズの魅力としてアリかなという感覚で納得させた読書でした。主人公だけでなくヒロインの成長を感じられ、結果的には2人のバディものとしてとても良い物語でした。 また、本作のあとがきの著者コメントで「ミステリの書き方に自信がついたので、次回作はミステリを書きます。」というような文章があるのですが、それが2025年度の江戸川乱歩賞受賞に繋がっているのだと考えると、著者の強い意気込みが伝わってきた次第でした。異能バトルものとして楽しいシリーズでした。 1巻、2巻、3巻の主人公とヒロインのイラストについて。 巻を追うごとに、二人の表情や、距離感というか、雰囲気が関係性を見事に表しているのが、なんかいいなと思いました。 |
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シリーズ2作目。前作は必読で続きものです。
主人公&ヒロインは異能学園の中において、能力を持たない無能力者。その事実を隠し、あたかも異能を持っているかのように演じながら、騙し合いやトリックを駆使してバトルに挑んでいく物語です。 全3巻を読み終えての感想となりますが、本作の2作目が一番騙し合い&トリックが面白い作品でした。 巻を重ねるごとに相手陣営も強力になり、バトル難易度が上がっていく点が熱い。そして本シリーズの魅力は、主人公陣営だけでなく、敵陣側も詐欺を仕掛けてくるところ。こちらが仕掛けたと思ったら、逆に相手のトリックに嵌められ、、、と思いきや知略で再び盤上をひっくり返す――そんな二転三転するスリリングな展開が大変面白かったです。 若干難を言えば、ライトノベル特有の雰囲気や文章が好みの分かれる所かもしれません。個人的には文章の相性の問題か、若干読みづらく、異能バトルの描写を把握しきれない部分もありました。とはいえ、主人公&ヒロインの関係性や、バトルの目的はシンプルで分かりやすいので、途中の細かい所は気にせず十分に楽しめました。登場人物それぞれが裏を隠しながら繰り広げる頭脳戦はなかなか見どころでした。 |
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ミステリーではなく一般文芸の青春小説です。本屋大賞作品で文庫化されたことで書店にたくさん並んでいたので手に取りました。
読んでみると話題になるのも納得でした。短編集なのでサクサク読めますし、成瀬というキャラクターの魅力に引き込まれ、楽しく読み進められる作品でした。 成瀬は人生における憧れの姿の1つの道を体現していると感じます。 人の目を気にせず、自分の思うままに行動する姿は爽快で、その行動力はお化けですが、「こんなふうに行動してみたかった」という、読者の願望をかなえているような姿が心に響きます。また、成瀬自身が完璧なキャラクターかというとそうではなく、隙のある身近な存在として描かれている点も魅力であり、愛着が湧いてくるキャラクターなのも良かったです。 本屋大賞は書店員の投票により決まります。近年の大賞作品の傾向は、自分らしく生きる女性像を描いたものが多く、本作もその流れの中で多くの書店員の心を捉えたのだと感じました。 |
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書店や映画化で話題になっているホラー作品。
SNSでの評判では、単行本と文庫で内容が異なるもので、先に単行本推奨という情報を得たため、まずは単行本から読書しました。単行本が面白かったので、続けて文庫も手に取り両方を読み比べました。 結果として、取材内容は共通しているものの、関わる人物と物語の解釈・結末が大きく異なる作品となっていました。 過去に話題になった知名度の高い作品で例えると『ひぐらしのなく頃に』が個人的に近しい感覚でした。 ・単行本が『鬼隠し編』(問題編) ・文庫 が『目明し編』(解答編) という感覚です。上記を知っている人には伝わると思いますが、それぐらい大分違います。 単行本が話題になり、多くの考察が盛り上がったのも納得です。世代を変えて同じ感覚の熱量の盛り上がりが再び生まれたのだと感じました。 本書は予備知識がない方が楽しめる作品です。 物語が進むにつれて少しずつ手掛かりが見えてきて、不気味さと奇妙さが増していく過程を味わえます。 単行本では怪異に触れてしまった不気味さのホラーを味わいました。散文された内容から、「もしかしたらこれって、これと繋がるの?」という具合に考察的な面白さや解釈で深読みできる面白さがありました。 一方、文庫版では単行本で散文的に提示されていた情報が、1つの解答や意味を分かりやすく繋げ、ミステリー的な収束をさせる作品に感じました。ちゃんと物語をスッキリさせたい人は文庫を手に取ると良いでしょう。 ちょうど今、映画が公開されているのですが、この単行本と文庫の構成から勝手に想像すると、映画版はまた別の結末で作っているのではないかと思いました。ひとつの物語を表現を変えて、単行本・文庫・映像化と形を変えて広げていく手法には、現代的な商業戦略の巧みさを感じた次第でした。 単行本と文庫を両方読みたくなるぐらい、個人的に楽しめた作品でした。 |
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異界の存在が見えたり、操れたりする世界観で描かれる、奇妙な物語。角川ホラー文庫のレーベル作品で、ホラーの系統としては「恐怖」ではなく、「気味の悪さ」をじわじわ感じさせるタイプの作品でした。
怪異の正体や、潜入先で行われている不可解な出来事の謎に引き込まれた読書でした。その怪異の解明に心霊案件を扱う佐々木事務所が関わるという流れです。 民俗学や宗教の要素を絡めた構成は興味深く、霊能力者同士の力関係や、覆いかぶさるような絶望感も魅力的でした。ただ前半で抱いたワクワク感が後半でやや失速したことや、キャラクターについても闇が深すぎる人物ばかりで感情移入できず、自分の好みに合いづらい作品でした。 |
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翻訳の問題か、原文の文体の特徴によるものかは分かりませんが、文章が自分には合わなかったというのが正直な気持ちです。作者の視点で語られる物語ということもあり、地の文の所々の描写が省かれているように感じました。そのため、内容が把握しづらく、読んでいる途中では「このあたりに何か仕掛けでもあるのでは?」と、つい深読みするという誤読をさせられました。終盤では物語の全体像が繋がっていく様子が明示されるものの、読書中は混乱が多く、あまり物語に没入できなかったのが残念です。
古典ミステリのルールにのっとった懐古主義を感じさせつつも、作者視点の文章によって「どこで誰が死ぬか」を序盤でページ数を明かしておいたり、途中でまとめを提示して読者の理解を助けるなど、現代的な工夫も見られ、そこは新鮮さと面白さがあってよかったです。ただ「ルールに沿ってますよ」と伝えながらも、解釈の違いによってはルール違反のようにも感じられ、なんとも煮え切らない印象を受けた作品でした。 面白かったというより、うまくまとめたなという感想が強く、個人的にはあまり相性の良くない作品でした。 |
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文庫版表紙にある通り、日本人作家として初めてCWA(英国推理作家協会)翻訳部門を受賞したことをきっかけに手に取りました。ページ数は200ページと手頃で、サクッと読めるのも魅力です。
物語は、暴力を唯一の趣味とする喧嘩屋のような女性が、ヤクザ社会に巻き込まれていくというもの。ボリュームが抑えられている分、予備知識なしで読んだ方が楽しめるタイプの作品で、あらすじ紹介も最小限にとどめられています。 読み終わってみると、海外でヒットする理由が分かる作品でした。 海外の人にとっては、日本のヤクザ社会、暴力シーンが新鮮に映りますし、とあるネタがまさに時代を反映しているというか、海外の人の方が反応するお話でした。日本のミステリ読者には見慣れた仕掛けではありますが、海外向けの作品としては非常に効果的だった印象。ただ、個人的にはやや強引に感じた部分もありました(詳しくはネタバレ感想にて)。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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まさかのシリーズ3作目。
1作目で物語としては完成されており、2作目はファン向けの後日談的な印象だったので、3作目が出るとは思ってもいませんでした。1作目が好評ゆえの続刊だろうか、蛇足にならなければいいなと半信半疑で手に取ったところ、これが意外にもきちんと続編として物語となっており驚きました。そしてシリーズ設定を用いた見事なミステリーでもありました。 本作はシリーズ読者向けで、1作目だけは必読です。 物語は1作目の後の時系列ですが、回想もの。魔王討伐後、勇者がかつて訪れたリュドニア国の姫と再会し、当時起きた事件を回想するという流れです。当時の事件内容は、リュドニア国から依頼を受けた魔王軍の内通者探し。どんな姿にも変わることができるという存在が噂されている魔物が絡んだ事件。いわゆるスパイ探しものですが、本書ならではのファンタジーで構築しているミステリーとなります。 なるほど。過去を振り返る形式なら、シリーズ続編で作品が作りやすく面白いシリーズになると感じました。 世界観がとても良いのは、「勇者」についての物語がシリーズ根幹に根付いている事。その想いがしっかり土台としてある上で、勇者に関わった人々の物語が描かれており、さらにその物語がミステリー仕立てになっているのが大変好みでした。スパイ探しの事件だけでなく、シリーズタイトル通り『誰が勇者を殺したか』の問いかけが発生する物語が健在しており、その真相は前作とは違った趣きとなるのが見事でした。 |
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犯罪街である特別自治区、通称<成れの果ての街>を舞台に、異能力者たちが激突する犯罪劇。
表紙に描かれた2人の主人公による“バディもの”としても楽しめます。そして、どちらも論理も感情も欠いた狂人であり、狂った世界で狂った者同士が繰り広げる異能バトルは見応えがありました。 キャラクターや世界観には独特の魅力があり、ミステリー的な意外性もあって、設定面は楽しむ事ができました。 ただ正直なところ、作者のデビュー作である為か、文章は荒削りで、読みにくさが気になりました。読書中、頭の中に浮かんでいたイメージは、文章から直接得たものというよりも、セリフ回しや設定から連想された他のアニメやマンガ作品に頼って補完していた感覚でした。挿絵のない場面では、どんなシーンかうまく想像できない事も多く、物語に入りこめなかったのが残念でした。先に本作の3年後に出版された『嘘と詐欺と異能学園』を読んでいたのですが、そちらでは読みにくさは感じなかったため、作家さんの成長を感じる作品とも思えました。 |
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ひさびさに、すさまじい読書体験でした。
メキシコ、麻薬密売人、バイオレンス、臓器ブローカー、アステカの歴史、生贄、という具合に刺激の強いテーマが次々と押し寄せる内容で、苦手な人には薦め辛い作品となりますが、言い換えれば、読書の醍醐味である日常では想像もつかない非日常に触れられるという作品であるため、大変素晴らしい読書体験となります。 一文一文が無駄なく、知的好奇心を容赦なく刺激してくるのも圧巻です。麻薬に絡む犯罪模様、麻薬単体の良し悪しではなく、何故世界に大きなマーケットとして広がり犯罪が連鎖しているのか、ITが絡んだ世界の犯罪、という具合に世界の体験が刺激的でした。 文章表現も独特で印象に残ります。たとえば漢字に振られたルビがスペイン語やナワトル語になっており、「心臓」には〈コラソン〉や〈ヨリョトル〉といった語があてられています。場面の空気に合わせてルビを変えることで、読者を巧みに物語世界へ引き込み、リアリティと臨場感を生み出していました。そして何より暴力描写の迫力がすさまじい。目を背けたくなるような残酷さがある一方で、緊張感から目を離すことができず、ページをめくる手が止まりませんでした。 この物語がどのような結末を迎えるのか――読んでいる間はまったく想像がつきませんでした。しかし、あまりにも刺激的な展開の連続に慣れてしまったせいか、ラストはややあっさりと終わったようにも感じました。それでも読後には、アステカの歴史や神話への関心が強く湧き、自分なりに調べてみました。するとバルミロの4人兄弟の設定とか、アステカ神話を下敷きにしたモチーフで描かれている事に気づき、髄所の設定の緻密さに驚かされます。物語としての刺激だけでなく、背景にある文化や神話の奥深さに触れられるなど、多方面から刺激を受けた一冊でした。 |
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作者の野宮有は2025年度の江戸川乱歩賞受賞作家です。すでに商業作品が出版されているという事から本書を手に取りました。
本書を読む限り、今年の乱歩賞作品に期待が高まりました。 本書は能力者が集まる学園を舞台とした詐欺師の物語です。レーベル通り雰囲気はライトノベルです。 主人公は異能が使えない一般人。無能力者にも関わらず、ある目的の為に学園に潜入し、詐欺と策略で異能学園の戦いを勝ち進む下剋上ものの物語。 シリーズものではありますが、1巻だけでも物語としてのまとまりがあり、しっかりと楽しめました。 ミステリーのような大仕掛けを期待するタイプの作品ではありませんが、ライトノベルという枠組みの中では、仕掛けも十分に楽しめました。不自然に凝りすぎることもなく、内容が簡単に把握しやすいギミックなので気軽に楽しめます。 主人公とヒロインの性格や関係性もいい塩梅で読んでいて楽しいので、キャラクターものとしても良かったです。心理戦や詐欺にまつわる駆け引きも、コンゲーム小説としてしっかりと描かれており、そうした知的な読みどころも面白く感じました。 ライトノベルとして設定だけを見ると、アニメやラノベでは見慣れた印象もあり、突出した個性があるわけではないため、映像映えもやや難しく、ジャンルの中での立ち位置は少々曖昧ですが、文章や語り口や心情などは面白いので確かに一般小説で読んでみたいなと思わせる感覚で個人的には好みで楽しめました。 文章は読みやすく、詐欺師の騙し合いの内容も面白かった為、乱歩賞を取った『殺し屋の営業術』という文芸作品がどのようになっているか楽しみになりました。 |
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海外の文庫で600ページを超える長編ということもあり、話題作と知りながらも、手に取るまで躊躇していた作品でした
しかし実際に読み始めてみると、翻訳の美しさに引き込まれ、情景が詩のように鮮やかに思い浮かぶため、その長さを感じさせませんでした。 本作にはミステリーの要素はありますが、それ以上に、少女の成長や自然の描写が印象的な、文学的な作品でした。 一方、予備知識なく人気作という事で読み始め、ミステリー要素に期待して手に取ってしまった事もあり、そこは少し好みと外れた結果となってしまったのが正直な気持ちです。ただミステリーとしてわざとらしく考察すると巧みな設計が行われているとも感じた為、その感想をネタバレ側で書きます。 文学小説として非常に完成度が高く、とても素晴らし作品でした。きっと多くの読者が、主人公カイヤに心を寄せるはずです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『奇岩館の殺人』に続くシリーズ2作目。本書は1作目の読書を前提とした作りの為、前作の読書は必須です。
前作に続くリアル・マーダー・ミステリーを題材にしたミステリ作品。 マーダー・ミステリーを用いている為、事件の構造レイヤーが多層的で面白い。事件現場、それを演じる層、etc...といったかなり凝った作りになっているのが特徴。舞台の新しさだけでなく、そうした形式を巧みに活かした見事なミステリとして、とても面白く読むことができました。 一方で、やや複雑な内容であるうえに、事件の見立てに海外古典ミステリが題材として使われているため、これらにあまりなじみのない方には難しく感じられ、楽しみにくいかもしれません。かなりマニアックな要素もありますが、作中で取り上げられている海外古典ミステリを読んでいる方には、思わずニヤリとする見立てがあり、より深く楽しめる内容となっています。 帯にあるので書きますが題材は『Xの悲劇』 『黒死荘の殺人』 『ナイルに死す』に見立てた殺人です。 一番感銘を受けたのは、ネタバレ感想であっても古典作品の重大なネタバレになる為に書けない、ある題材が用いられていることです。気づかれなくても作品として問題はなく、古典読者にだけ気づける要素という遊び心で、それが何かは明言できないもどかしさがあります。何故この作品群を選んだのか。作中で脚本を手掛けた田中(もしくは作者)のこだわりの想い、ちゃんと気づけたと思います。作品内の登場人物達にミステリ好きの想いを語らせていますが、そのマニアックさがちゃんと活かされている構成が見事。ラストの真相も素晴らしいです。自分の好みに非常に刺さる、大変満足度の高い一作でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2024年度の宝島社の『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
広義のミステリーゆえ、本格や謎解き推理を期待するタイプの作品ではなく、かなりライトな内容です。 個人的には小中学生向けの読者層が適していると感じました。安心して子どもに読ませられる児童書ミステリーとしておすすめできそうな作品です。そう考えると非常によくできた一冊だと思います。 大学生の主人公がアルバイトとして働くパン屋の描写は、温かさに包まれていて心地よく魅力的です。パンに情熱を注ぐ店長や、派手でイケてる先輩など、登場人物たちがつくる職場の雰囲気も非常に良いです。物語はパン屋を舞台とした「日常の謎」を扱っています。謎や推理そのものは正直やや簡単すぎてミステリーとしての重みはあまり感じられませんでしたが、児童向け作品として考えればちょうどよいレベルで前向きに評価できます。また読後に嫌な印象が一切残らない点も好印象でした。 手がかりがそろった際に使われる「思考が一気に膨らんだ」というパンにちなんだ表現は好みです。パン屋ならではの比喩として効果的でした。一方でミステリーとしてパン屋という設定が必然だったのかという点についてはやや物足りなさを感じました。テーマとの結びつきが弱く他の職業のバイト先でも成立しそうな内容です。パン屋という舞台は、あくまで表紙から感じられる温かな雰囲気や、パンを好む子どもたちに向けた空気感の演出に貢献しているにとどまっているように思えました。パン屋はミステリーのための舞台というよりは、作者自身の経験がベースになっているのかもしれません。漫画家を目指す主人公や、工学部に通う紗都美さんとの交流などからも、作者の実体験や思いが反映されていると感じられ、リアルに伝わってきました。 総じてミステリーというよりは物語として楽しめる一作でした。 正直な気持ちとしてミステリーとしては☆4-5ぐらい。小学生くらいの子どもが手に取るミステリー作品として良いと思った作品でした。 |
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2025年本屋大賞を受賞という事で手に取りました。作者の作品を読むのは今回が初めてです。
ミステリとは関係のない一般文芸かと思いきや、散りばめられた伏線や謎の隠し方がミステリーの技法であり驚きました。期待していなかったのもありますが、意表を突かれて強く印象に残った次第。作者の過去の作品を調べると、創元推理文庫から『金環日蝕』という作品があるので、ミステリー的な要素を取り入れる事もできる作家さんなのだと感じました。ただし、念のために付け加えると、本作はあくまで家族小説に近い作品であり、ミステリーを期待して読むものではありません。その技法が、物語の印象を深める演出として使われていたという印象です。 物語の主人公は、40代で法務局に勤める真面目な女性。夫から突然離婚を切り出され、心を通わせていた溺愛の弟は急死し、独り身の状態。弟の遺産整理や遺言状をめぐる手続きを進める中で、価値観の異なる弟の元恋人と出会い、彼女との交流を通じて主人公の内面に少しずつ変化が生まれていく――というお話です。 この作品は好き嫌いが分かれやすいと感じました。特に序盤の主人公は鬱屈した描かれ方をしており、読むのが少しつらくなるかもしれません。正直なところ、私は最初の方は苦手に感じました。しかし、物語全体の構造を見れば、主人公の変化を描くためにあえて序盤をマイナスの状態に設定していることが分かります。作品に対する評価は、物語の内容そのものを重視するか、それとも構成や演出の巧みさを評価するかによって分かれそうです。私は、後者の「作り方」に惹かれた次第です。 少し余談ですが、本屋大賞の傾向について。 ここ数年の受賞作には、弱い立場にいる女性やマイノリティの女性が主人公であり、彼女たちが自分らしく生き、成長や自立していく作品が目立つ印象を受けます。そのため、すでに自立していたり、現状の人生に一定の満足感を持っている読者にとっては、主人公と考え方や感情が合わず、距離を感じる場面があるかもしれません。そうした感覚が作品の「好き嫌い」に影響しているようにも思います。 個人的には物語の成長譚は好みに刺さらなかったのですが、読者の感情を揺さぶる為に発生している要所要所のポイントやミスリード的な構成には強く印象を受けました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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