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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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奇想の物語による特殊設定ミステリ。
ミステリの為の物語ともいえるし、物語の為のミステリともいえる一作です。複雑な構成なのですが、新しい物語の体験として心に残る印象的な作品でした。 物語は古来より存在していた人間に寄生する生命体『蛇』の物語。 『蛇』は無敵の存在。人に寄生し、その人の記憶を継承して人間に成りすまして生活している。宇宙生物的な感覚で捉えるとイメージしやすいです。 そしてこの蛇は死なない蛇。死んでも蘇る。ただし死んだり消滅する時にはそれなりのデメリットがある。現代では5匹存在しており、その5匹の「衣装変え」という名の人間の寄生先を変えるイベントで事件が発生するという展開です。 正直なところ「ミステリの謎を解く事を楽しみにする」という視点で読むには向かない作品です。 その理由は、物語があまりにも奇抜で現実的に考えられないからです。ただし、訳が分からないから楽しめないのかというとそうではなく、複雑で難解な内容ながらも、読んでいると不思議と面白いのが不思議な味。人間を殺したり乗っ取ったりと倫理感に欠ける部分もありますが、どこか青春ミステリーのような味わいがある奇妙な味わいでした。 特殊設定ミステリとしても適当な特殊性なのではなく、この物語の設定だから可能とするミステリが見事でした。 発想は物語が先なのかミステリの仕掛けが先なのかわかりませんが、絡み合った構造が非常に巧妙でした。 前半の1章・2章ぐらいまでは内容が把握しやすく楽しめたのですが、3章からはかなり複雑な事件模様となり、理解するのが難しくなりました。 ミステリの内容については「整合性がとれているのか」や「他に可能性がないのか」といった点を気にするのはやめ、あまり考えず物語の雰囲気を楽しむ読書となりました。 普通のミステリは読み慣れてしまっていて、新しい変わった特殊設定もの作品を求める方にオススメです。 |
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SNSや書店で話題になっている一般書です。
内容はモキュメンタリー風のホラー。 手のひらサイズの60ページほどの小さな本で、不気味な表紙が特徴。立ち読み防止のためシュリンク加工され、価格は約600円。 口コミが多く、ホラーっぽい内容が話題で気になり手に取りました。 結果として、好みの問題ではありますが、個人的には本の内容だけでなく、本として商品化する出版業界、販売する書店の状況に対して危惧する残念な気持ちになる商品でした。 なんというか、この本は作品というより、「こういう商品」という感想です。 話の内容も短編1話分で、出来栄えが特に際立っているわけではなく既存のホラー作品の1つといったところです。このジャンルで活躍する作家さんが読んだら「この1話で600円も取れるのか」と少し複雑な気持ちになるのではないでしょうか。 製本の内容もなんというか同人誌のような質感で、しっかりとした本を感じられません。一度読めば終わりといった商品です。タイトルが「アンケート」なので、意味合いが違うのかもしれません。 出版社は児童書を多く手がけるポプラ社なので、仕掛け絵本のような感覚で捉えれば、そういうものかとも思えます。 SNSや口コミで注目を集めて売れること自体は素晴らしいのですが、これを本としての成功例と認めてしまうと今後文芸作品の内容や書店に並ぶ本がこのようなものばかりになるのではないかと、危惧するような内容でした。 学校で友人同士で、「不気味だよね~」、「こういう意味だよね」と、気軽に話を共有しながら考察して楽しむ用途としては有効だと思います。SNSで話題になったのもそういう背景だと感じました。 |
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フランス革命期を舞台にした歴史ミステリ。
当時の背景や環境が巧みに活かされた物語です。 読む前は「もしかして、カーの『三つの棺』に関連するのかな」と期待する方がいるかもしれませんが、そういった作品ではありません。 科学捜査が存在しない時代。犯人は襲撃現場を目撃されていたものの、容姿がそっくりな三つ子の1人だったため、誰が犯人か特定できないという事件です。しかし、物語はこれだけでは終わらず、二転三転する展開が見事でした。 また、時代の雰囲気を再現するため、作中には当時の服装や銃器の写真が挿絵として掲載され、立派な地図も添えられるなど、雰囲気づくりにもこだわりが感じられる点は良かったです。 ただ難点は、文体まで当時の雰囲気を模したためか、非常に読みにくく感じました。著者の作品はいくつか読んでおり、読みやすい作品もあることは知っているのですが、本書の序盤は読むのに苦労しました。 最後まで読み終えた結果、とても面白く、この時代背景だからこそ成立するミステリを堪能できた点はよかったです。 ただ、文章が合わなかった事と、その先の物語の展開がある程度予想の範囲内だったこともあり、少し好みとは違うものだったのが正直な気持ちでした。 |
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素晴らしいデスゲーム作品でした。(☆8+好み)
雰囲気はマンガアニメ系ですが、ギャンブル・ミステリー系の仕掛けが盛り込まれた作品。 デスゲーム×クイズ×異能力バトルもの。 ゲームの参加者はそれぞれ異なる特殊能力が与えられており、クイズのラウンドごとに誰かが持つ異能力が明かされる。 クイズに負けるか、誰かに自分の異能力を当てられると死となる。 最上位の能力が「クイズの答えがわかる(Answerアンサー)」という設定がまず面白い。答えがわかるため、早押しクイズにおいてはチート級で有利かと思われますが、早く答えすぎると誰かにアンサー能力者だと指摘されてしまい死となる。このジレンマがゲームの戦略に効果的に使われています。 序盤はよくあるデスゲームものの展開で進みますが、早押しクイズの特性や、この世界ならではの展開が見事であり、現代的な要素も取り入れた独自性のあるデスゲーム作品となっているのが見事でした。 終盤の熱い展開も素晴らしく、デスゲーム作品における結末の描き方も好みであり、非常に満足度の高い作品でした。 デスゲーム好きにはおすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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作者の『逆転美人』の好評を受けて、『逆転シリーズ』としてシリーズ化した第三弾。
この本は帯やあらすじで「紙の本ならではの仕掛け本」と謳われており、ネタバレではなく、あえてその点を伝える宣伝PRがされています。しかし正直なところ、このPRが評判を落とす結果につながるような不安を感じました。 シリーズであるため、読者はすでに驚きの要素についてある程度把握している状況で読み進めることになります。しかし、PRが過剰に期待を煽り、さらに仕掛けの内容をほぼ明かしてしまっているため、実際の内容がその期待に応えきれていない印象です。そのため、評判も控えめなものになってしまうでしょう。 また、想定される読者を驚かせようと仕掛けに凝った工夫が施されていますが、そのためか、真相が明かされても少し分かりづらく、面白みに欠ける印象を受けました。こだわりすぎて伝わりにくい作例になってしまったように感じます。 そのため、仕掛け自体にはあまり面白さを感じませんでしたが、物語の本筋であるショートショートには、作者のネタ帳のような小ネタが満載で、楽しんで読むことができました。気軽に楽しめるショートショート集として手に取ると良いと思います。 |
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心温まる物語で楽しめました。
500年の時を経て現代に目覚めた呪いの人形・お梅。呪いで人を殺そうと奮闘するものの、思うようにはいかず……。むしろ、お梅に関わる人々は人生の転機を迎えることに――そんなお話です。 作者の人柄が感じられ、読者を楽しませながら笑顔にさせる物語作りがとても巧みです。心地よい気持ちで読み進められ、思わず一気読みでした。 帯には『伏線回収』とありますが、ミステリー的な要素は弱いので、気軽に楽しめるハートフルストーリーとして手に取ると良いと思います。 |
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2024年度の江戸川乱歩賞受賞作。
凄く好みの作品でした。雰囲気がとても好きです。(☆8+好み) 舞台は幕末。実在した横浜の『港崎遊郭』を背景に、遊女の愛の物語を描いた作品です。『愛』がテーマと感じられる作品でした。 物語は1860年と1863年、二つの時代を生きる遊女たちの視点で進行し、史実を絡めたミステリーだからこそ描ける愛の形が浮かび上がります。作者が描きたかったのはこのような愛だったのかと驚きました。 歴史物や時代物が好きな方には特におすすめです。歴史に少し苦手意識がある方も、後述するポイントを押さえてから手に取ると、さらに楽しめると思います。 本書をより楽しむためには、幕末の時代背景を知っておくと良いです。物語は歴史的な知識があるのを前提に進行していきます。 実のところ、私自身は歴史ものが苦手で、初読の序盤は内容を把握するのが難しかったです。一度読み進めるのを止め、当時の出来事をWikiで調べ、史実を理解した上で再び本書に向かいました。そのおかげで、より深く楽しめました。この点について少し補足します。 まず『港崎遊廓』をwikiで調べるとよいです。これを見ておくだけで本書の物語がとても把握しやすくなります。 1859年、日本が鎖国を終え、横浜が開港されると、多くの異人(外国人)が訪れるようになりました。それに伴い、現在の横浜公園の場所に外国人専用の遊郭が建設されました。ここが本書の舞台となる『遊郭島』です。表現が適切か分かりませんが、外国人の現地妻、もとい妾という職業としての遊女が本書の女性の登場人物となります。ただし、本書では悲観的に遊女になるのではなく、目的をもって遊女になる姿が描かれているのが好感でした。この辺りは、学校では学ばない歴史として興味深く、物語を楽しむ一因となりました。 時代物・歴史ものとしての雰囲気の面白さは然ることながら、序盤からミステリとしての期待と興味をそそられる展開が光ります。 主人公・伊佐の物語では、行方不明の父が遺骸となって発見されます。その遺骸は燃やされており、さらに父には町娘を殺した容疑がかけられていました。しかも、町娘の首が見つかっていないという状況は、ミステリ好きの心をくすぐる魅力的な謎として提示されます。伊佐は父の無実と真相を確かめるべく、遊女となって遊廓島に乗り込むという流れです。 2つの時間軸を描く物語の構成は、終盤どう繋がるかが作品の醍醐味です。本書では、終盤にてミステリとテーマの『愛』の姿が浮かび上がり、その展開が見事でした。詳細な感想はネタバレ側で記述します。 他、表紙のイラストや、本書の見返しに描かれた遊郭島の地図など、書物全体が時代物の雰囲気を醸し出していてワクワク感がとても感じられました。また、帯に書かれている『二人の愛はどうなった。』というコピーも、読後の余韻に浸れます。とても良い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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元校長先生だった認知症の祖父。レビー小体型認知症を患い、幻視の症状が現れています。介護の際には積極的に話しかけることが重要です。そんな祖父に孫娘が身の回りで起きた謎を語り聞かせると、祖父は生き生きとした表情で推理を始め、かつての知性を取り戻したかのように活躍します。本書は日常の謎を扱った安楽椅子探偵ものの作品です。
祖父にまつわるエピソードや介護のお話、祖父と孫娘の関係など、祖父を取り巻く状況がとても温かく描かれていて、謎を聞かせた時に知性が蘇る祖父の探偵としての姿が、なんとも心温まるものでした。 また、物語に登場する海外の古典ミステリ作品名やセリフなど、ミステリ好きが楽しめるポイントが散りばめられていて、思わず心がくすぐられました。 ただ個人的にそれらが巧くいっているかというと、ちょっと好みと外れるものでした。本書では祖父を取り巻く環境や孫娘との関係が家庭的な温かさを感じさせる一方で、扱われる物語の背景がやや重く、全体像が明らかになる最終章に至っては、謎解きの面白さよりも、つらい心境になりました。そのため後味がとても悪かったです。 最初の1章あたりでは、一般読者やライトなミステリファンにも薦められる作品かと思ったのですが、そういった読者には物語の居心地が少し悪い印象を受けました。一方で、重い雰囲気や謎の面白さを重視するミステリ読者にとっては、ミステリとしての魅力がやや弱く感じられました。謎解きが試験問題のように記号的で、一度で全体像を把握しづらい場面が多かったです。さらに物語の結末が何度も覆される展開は、多重解決ものというより、やや優柔不断にも見えてしまいます。個人的には、明確な結末で一気に決めてほしかったです。 日常系の物語を求める方には後味が重く、ミステリの謎解きを求める方には謎がやや軽い。そのため、個人的な好みだけでなく、他の人にも薦めづらい作品という印象でした。 |
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謎解きを主軸にしたパズラー小説。
本書はミステリの物語における登場人物たちの感情や背景、深刻さが排除されており、設定や要素が純粋に謎解きの為に活用されています。前作同様に気軽に読めて楽しめるミステリの為、純粋に謎解き堪能しました。 やはり『ワトソン力』という設定が発明もので面白いです。『ワトソン力』は周囲の人物に対して推理能力を飛躍的に高めて発言したくなる能力を付与します。発生した事件に対して色んな可能性の推理を登場人物達が皆で言い合う推理合戦が見どころです。 個人的には『服のない男』が好み。パズラー小説なのでリアルさや感情は抜きで考えた時、行われた理由や背景などがユーモアあふれる謎解き作品として決まっていると感じました。 |
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読書前は400ページ上下2段組みという密度に躊躇しましたが、今年の推理作家協会賞受賞作という事で手に取りました。
結果、濃密な読書体験を得られた嬉しい読書でした。ページ数が気にならないというか、この世界観にずっと浸って楽しみたい感覚。 要素はSFのサイバーパンクもの。人体改造、アクション、警察、スパイ、などなど近未来での描き方が豊富。でも物語中の時代設定は第二次世界大戦後という不思議な設定であり、我々のいる世界とは異なるパラレルワードを堪能できます。 個人的にサイバーパンクの小説をあまり読んだ事がなかったので、より一層新鮮な読書でした。 ゲームの『サイバーパンク2077』が好きなので、そのイメージもあったと思うのですが、読書中は体験したことのない世界観なのに、まるで画が浮かんでくるような魅力的なシーンと描写の数々に圧倒されました。 表紙の装丁も素敵。面白かったです。おすすめ。 |
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うーん。
前作の『死んだ山田と教室』は好みで感動しましたが、本書は合いませんでした。 333人の石井が強制参加のデスゲームから始まる物語。 正直な所、"333人"の意味がなく、数字設定はただの販売PRの演出の為だけに感じられました。ササっと人数も減っていきますし、ゲーム内容にも面白味が感じられませんでした。なので凄く薄い内容に感じてしまうのが難点です。 作品内にデスゲーム状況の例えで『バトル・ロワイアル』がでてきますが、あちらは登場人物の背景が丁寧に描かれているため、多くのキャラクターが印象深く残ります。それに対し、本作はわざと対比して軽くしているのでしょうか、、、非常に薄いです。その影響で、後半で『山田』の時の様に想いをぶちまけるシーンがありますが、突発的な薄い考えに感じられてしまい、心に響くものがありませんでした。 仕掛けについても、映画の有名作品が存在するため、それとは異なる魅力や新しい要素が欲しかったというのが正直な気持ちでした。 |
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かなり個性的な作品で新鮮な読書体験でした。あまり経験していない部類の作品で、とても好み。
世の中には、登場人物になりきって事件を体験する「マーダー・ミステリー」というゲームがあります。本作はそれを富裕層の娯楽として実際に殺人が行われる「リアル・マーダー・ミステリー」を舞台に描いた作品です。物語は2つの視点で構成されており、1つ目は、この娯楽に巻き込まれた役割不明の主人公視点。もう1つは運営側の視点で倒叙ミステリ模様です。 娯楽としての「マーダー・ミステリー」を取り入れることで、密室トリックや見立てに対しての「何故それを行うのか?」という疑問が不要になり、すべてが演出として楽しむためという形で成立しているのが斬新で発明ものです。おかげで、お約束のミステリー要素を純粋に味わえる構造になっています。 読者がマーダー・ミステリーのゲームを体験した事がある場合、それぞれのキャラクターが持つ情報や役割の感覚がゲームで体験していると思うので馴染みやすく、楽しめる作品だと思います。一方、ゲームを体験していない読者にとっては、役割のキャラが不自然で「何でこんな行動をするのだろう?」と違和感を覚えるかもしれません。そのあたりの事情を、本作は巧みにコミカルかつユーモラスに描いているのが面白いポイントです。作品全体の雰囲気は主人公視点だと深刻ですが、運営者視点ではあえてユーモアが強調されており、これが本作の味の1つだと感じました。実際の殺人を行うという不謹慎なゲームが舞台でありながら、嫌にならないで楽しめる雰囲気が絶妙です。 話のネタが分っても、最後までどうなるのか楽しめるのも良い。結末はちょっと物切れ感ありますが、物語の着地点は好みでした。 |
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1作目で完結していた物語に、まさかの2作目が登場。とても嬉しい読書でした。
本作は前作のファンに向けたボーナス的な作品で、いわばおまけストーリーです。ミステリーを用いた要素はありますが、冒険ファンジー寄りの小説となります。 設定自体はどこかで見たようなエピソードが並びますが、何故か読書中はすごく面白い。登場人物たちの熱い想いがとても心に響いてくるのが不思議。これは著者の表現力や文章力によるものでしょう。優しさ溢れる作風が好み。キャラクターの魅力や、読後感の良さもまた心地よいです。 前作が素晴らしかったため、蛇足にならないかと懸念していましたが、見事に物語が繋がっていて驚かされました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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新鮮な読書体験でした。奇抜な設定による古代エジプトを舞台としたミステリー。面白かったです。
主人公は蘇ったミイラというのがまず面白い。古代エジプトの死生観が活用されており、ミイラとして保存された肉体は死者の魂が戻るとされている。なので、主人公が蘇っても普通に村になじんでいる奇妙さが印象的です。 ミステリーとしても、主人公の心臓が欠けている謎や、ピラミッドからのミイラ消失など、あまり目にしたことがない珍しい設定に惹き込まれ、興味津々で読み進めました。 登場人物が全員カタカナなので、最初は少し取っつきにくかったものの、物語が分かりやすく登場人物の配置も整っているので、すぐに慣れることができました。 あまり多くは語れないのですが、要素要素の設定が実はそうだったのかという驚きもあり、かなり満足のミステリーでした。物語としても読後感が良かった点が好みのポイントです。 他思う所として小言になりますが、タイトルに"密室"と書かれているので密室ネタに期待してしまう次第ですが、その密室については物足りなかったです。ミステリー好きに興味をもってもらうタイトルとしてはアリなのかな。応募作時点のタイトル『欠けのある心臓(イブ)』の方が好み。 本書をミステリーとして期待すると物足りなさが出てしまうかも。ただし古代エジプトを舞台とした物語を楽しみ、ちょっとミステリー要素があるぐらいの感覚で読むと楽しめると思います。個人的には物語の面白さを楽しみました。 そして装丁については、表紙絵がナイス。そしてタイトルや見返しに金の装飾を使ったり等、こだわりを感じる内容でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2024年度のメフィスト賞受賞作。
読書前にあらすじを読んだ印象では、転生もので、転生先がスピーカーという面白い設定だな~、ぐらいの気持ちでした。しかし読み終えてみるとラノベによくある転生ものとは違い、奥深いテーマを持った作品だと感じました。個人的に感じたテーマは「思春期の悩み」、そして「生」と「死」についてでした。 ミステリー要素はほんの少しですが、男子高校生の学校生活を舞台とした青春小説となります。そのぐらいの気持ちで手に取ると良いです。 小説の傾向としては、文学小説に近い印象です。 男子高校生たちのノリが面白く、下ネタやくだらない話、そしてテンション高めの会話が絶妙に味を出しています。ここは好みが分かれる部分かもしれませんが、個人的には大いに楽しめました。彼らがバカをやっている姿が日常パートとしての平和であり、毎日の普通が「生」であるという事をワザとバカバカしく描いていると感じました。声だけの山田視点による同級生達とのやり取り、独り言のラジオパート、描き方が文学的で普段読むことが多いミステリーとは違う文章で面白かったです。 本書、実は昔からよくある「幽霊もの」の作品だと感じました。スピーカーへの転生や、男子高校生たちの会話が今風の雰囲気を醸し出していますが、昔からある地縛霊による幽霊もの作品のジャンルであります。 山田はすでに死んでいる為、学校を舞台にすると、卒業などを通じて必然的に「別れ」が訪れます。幽霊作品における別れの描き方。ここをどうするのだろうと読書の序盤から気になっていたのですが、その演出や構成、そしてテーマを文学的なタッチで見事に表現していた作品でした。 読後に著者を調べたところ、純文学を志している方だと知り、非常に納得しました。 下ネタもばかばかしいノリも狙い通り。その後に訪れる「死」というテーマとのギャップが強い印象を与え、効果的に心に響きます。高校生達との「仲間」と「生」に対する、スピーカー山田の「孤独」と「死」。その間に若者の喜怒哀楽の叫びが盛り込まれている感覚です。いろいろな側面から深く考えさせられる読書体験でした。読後感としては、少し気持ちが沈む部分もありますが、だからこそこの作品が読者の心に深く残る、独特の魅力を持っているのだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作の続編がまさかの登場。
世界観が前作の延長にあるため、爆弾事件後の物語が描かれています。前作を読んでおくことを強くおすすめします。 爆弾魔かつ愉快犯の「スズキタゴサク」という人物設定がかなり魅力的であり、今作も良い味を出していました。いわゆる「無敵の人」である知能犯。相手を不愉快にさせる言動や行動は今作も健在。特徴的なセリフ回しが、キャラクターを際立たせています。前作を楽しんだ方や、この犯人に興味を持った方は、今作も間違いなく楽しめるでしょう。 裁判所を舞台とした立てこもり事件。100名近い人質をコントールしているという事に納得できる文章の緊迫した雰囲気が見事でした。この手の作品では、文章が軽いとどうしても現実味が薄れたり、無理のある展開に感じてしまうことが多いですが、本作はそうした不安を感じさせない圧倒的な緊張感で引き込まれます。 犯人が明かされているミステリーながら、犯行理由や目的が謎に包まれており、その点が非常に興味を引きます。キャラクター造形や警察ものとしての要素も楽しめる作品でした。 ミステリーの仕掛けや社会的テーマが現代的な要素に巧みに絡んでおり、まさに今の時代にふさわしいミステリー作品だと感じました。"スズキタゴサク"の今後の展開が非常に楽しみです。 余談ですが、この爆弾シリーズの装丁が好みでした。表紙画像だとわからないですが、実物はモノトーンの写真にツルツルした加工の飛沫が施されており、その触り心地が面白い。こだわりを感じる表紙でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今年の江戸川乱歩賞受賞作。
本作は乱歩賞作品の中では、新人賞とは思えないぐらい大変読み易い文章であり、明るい雰囲気で楽しめる作品でした。 物語はアイドルがたった3カ月間のトレーニングでボディビル大会で上位入賞を果たすのですが、「そんな短期間ではあの筋肉ができるわけがない」とドーピング疑惑でSNS炎上する始まり。 SNSの炎上から始まる展開が現代的で面白いです。本書は新人記者がその疑惑を調査するため、アイドルが運営するパーソナルジムに潜入するという、潜入調査ものの作品です。 乱歩賞作品に対する個人的なイメージは社会派で難しい印象だったのですが、本書は気軽に楽しめる雰囲気で、その点に驚きました。 「筋肉は本物なのか?」というわかりやすい謎かけ。潜入調査ものながら、内容は大変コミカルで、主人公の行動には思わずクスッとさせられます。コツコツ筋トレして努力は人を裏切らない的な、成長小説にも感じる作品であり、読後感がとても良い作品でした。欲を言えば成長性をより感じさせる為に、失敗や苦難も描いてほしかったかな。トントン拍子で進むのでちょっと物足りなかったです。ただその分スピード感を優先したのかもですね。 一方で、雰囲気や読みやすさは抜群ですが、ミステリとしての要素、特に謎解きや社会派のテーマといった従来の乱歩賞作品をイメージする部分においては、物足りなさを感じるかもしれません。ミステリに対する正直な感想としまして、何か驚きやテーマを感じさせて欲しかったです。仕掛けの面でもやや弱さを感じ、提示された謎に対する解答にも少し問題があるように思いました。この点については、ネタバレ側で記載します。 個人的には、乱歩賞作品というよりも「メフィスト賞」や「このミステリーがすごい!大賞」の印象を受けました。ユーモアミステリではなくライトミステリの部類かと思います。しかし、ポジティブに考えますと、乱歩賞の苦手な部分のイメージが払拭でき、気軽に楽しめる万人向けなミステリーとして、多くの読者を獲得できる可能性がある作品だと感じました。 読みやすく、楽しめる作品であることは間違いありません。また、作者はこれまでに何度か乱歩賞に応募している方なので、今後の作品にも期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作『星くずの殺人』に登場した真田周が主人公となる本作。前作はあれで完結していたと思っていたので、まさかの続きとなるお話に驚きました。
ただ、続きものとは言っても大きな関連性はないので本作から読んでも問題ありません。 前作の宇宙を舞台にしたお話から一転、今回はその宇宙旅行から帰ってきた真田周の高校生活から始まります。事件に巻き込まれた者への好奇心からの街頭インタビューやSNSでの攻撃、YouTuberによる突撃取材などの迷惑行為に巻き込まれていきます。ネット上の"炎上"と言葉を合わせる形で、京都市内での放火事件("炎上")が描かれているストーリーです。 扱うテーマの要素が結構重苦しく、毒親やカルト、被害者と加害者問題など、社会派小説となります。著者のデビュー作からの流れを考えると、武侠、SF、社会派という流れで色々な作品が描ける方なんだなと感じました。今作は社会的なテーマがしっかりと描かれている為、これまでの作品の中では最も江戸川乱歩賞らしい内容だと感じました。過去の作品を真田周を主人公としたシリーズとしてリメイクしたものではないかと感じます。 社会派ミステリーとしてのテーマは興味深かったのですが、個人的にはいくつか気になる点がありました。 例えば、放火事件で名所が次々と炎上する場面では、警備やセキュリティの存在が感じられず、リアリティに欠ける違和感がありました。事件自体の映像は華やかですが、どこか都合よく描かれており、実現性が低く感じられました。さらに、京都や関西に関する雑談が多く、話が脱線してしまい、大切なテーマが散漫になってしまった印象を受けました。事件の構造に無理を感じる為、読んでいる最中に何度か引っかかり、テーマやミステリーを純粋に楽しめなかった次第でした。 |
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タイムループを用いたファンタジーミステリとしてかなり面白い作品でした。
物語は母の危篤を知った長男のヒースクリフが数年ぶりに生家となる永劫館に訪れる始まり。葬儀に絡む遺言状の公開、集まる親戚や胡散臭い者達、舞台は洋館で海外の雰囲気なのですが、どことなく日本の古典作品を思わせるフォーマットが馴染みやすいだけでなく新鮮に映り面白いです。そして大嵐で陸の孤島となった舞台で連続殺人が発生する流れ。 定番の面白いミステリ要素を用いつつも独自の世界を構築しているのは魔女のルールとタイムループ(死に戻り)の存在。この設定が加わることで、読者に馴染みのある密室や館もの、クローズドサークルといった装置が新鮮に活用されており、その巧みさが見事でした。 シリーズ展開が期待できそうな含みを持たせた終盤も好印象でした。続編が出るなら、ぜひまた読みたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今作も奇想に満ちた仕掛けを楽しむことができました。前作の3作目同様にAI探偵シリーズだから可能かつ納得できる大仕掛けです。前作は素晴らしい作品でしたが、今作もそれに劣らず奇想天外なミステリでした。作者の発想は本当に凄い。
あらゆるものが浮遊する館という舞台の斬新さや、魔法を用いた頭脳戦の様子など、一見するとなんでもアリなトンデモ設定ですが、しっかりとミステリーの面白さも兼ね備えています。推理に必要な手掛かりが散りばめられた謎解きと驚きが楽しめる作品でした。 初期の頃に『RPGスクール』という作品がありましたが、今回の作品はそれに比べて格段にゲームとしての面白さが味わえる読みやすくて楽しい作品でした。 人工知能やVRの要素として触覚による入力の扱いを取り入れているのが面白い。テキストや音声だけでなく未来では触覚による入力インターフェイスやフィードバックがユーザーに提供されるようになるでしょう。この作品はそうした未来的な要素も取り入れています。 今作では人工知能探偵の相以が体を手に入れ、初めて触覚を堪能するシーンがあります。その喜びがとても可愛らしく微笑ましいです。また相以と輔は今回ゲームクリアを目指すライバル関係でしたが、互いに信頼し合っている良いコンビで、その関係性がとても心地よく感じられました。 シリーズを重ねるごとに読者の期待を上回る作品が生まれてきます。今後の展開も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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