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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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英国の新人作家のデビュー作。いきなりMWA賞候補になっただけあって、骨太で味わい深い法廷ミステリーである。
ロンドンの公園で8歳の男児が殺され、犯人として11歳の少年・セバスチャンが逮捕・起訴された。弁護を依頼されたダニエルはセバスチャンに11歳の頃の自分を重ね合わせ、心の底から少年を弁護したいと思う。同じ頃、ジャンキーの母親から施設に保護されていた11歳のダニエルを引き取り、後には養子にしてくれた里親のミニーが死亡したと知らされる。育ての親として感謝しながらも、ある出来事からミニーを恨み、連絡すら拒んでいたダニエルだったが、ミニーの死により否応無く過去を振り返ることになる。 孤独と絶望にとらわれた惨めな少年だった自分と、裕福ながらも問題の多い家庭で育てられた、脆くて壊れそうなセバスチャンとを二重写しにして、ダニエルは環境に左右される少年の心の闇を解き明かそうとする。少年が「悪いことをする」「罪を犯す」とき、その責任を負うべきは少年だけなのか? 法の正義が貫かれることと、社旗正義が実現されることは完全にイコールなのか? セバスチャンの裁判の進行とダニエルの回顧が交互に繰り返されながら進むストーリー展開が、非常に緊張感があってスリリング、新人とは思えない技巧が秀逸。静かだが力強い、読み応え十分の法廷ミステリーとして、多くの人にオススメできる。 |
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「記憶」シリーズに続く?クックの新シリーズ「人名シリーズ」の第3弾。早川ポケミスから出ているのだが、ミステリーとしてはさほど面白くはない。
犯罪実録もの作家ジュリアン・ウェルズが自殺した。力を入れていた作品を完成させ、次の作品の準備を進めていたはずのジュリアンが、なぜ自殺したのか? 学生時代からの親友で文芸評論家のフィリップは、ジュリアンが著作のために訪れた場所を巡って、ジュリアンが見たものを見て、会った人と話して、すべてを追体験することで真相を探ろうとする。しかし、そこで明らかになってくるジュリアンの姿は、「親友」として知っていたはずの姿とは異なるものばかりだった。 アルゼンチンの現代史を背景にしたスパイ小説の要素(落ちというか、キーポイントがバカバカしすぎるのだけど)もあって、一応のエンターテイメント性は備えているのだが、基本は「人は他人を理解できるのか」というヒューマンドラマ。スパイミステリーを期待して読むと裏切られる。 トマス・H・クックのコアなファン以外にはオススメしにくい作品である。 |
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トマス・H・クックの2013年の作品。法廷ミステリーの形式をとりながら、人が人生で成し遂げるべきは何かを問いかける重いテーマだが、前作「ジュリアン〜」より更にミステリー要素が濃くなって、最近の作品としてはかなり読みやすかった。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)に悩んでいた大学教授・サンドリーヌが強力な鎮痛剤の過剰摂取で死亡したのは、自殺なのか、夫のサムによる殺人なのか? 無実を訴えるサムを被告とする裁判が始まると、明らかにされていくのはサムには不利な状況証拠ばかりだった。裁判の過程でサムは結婚生活を振り返り、サンドリーヌの隠された真意を探ろうとするのだが、確たるものは掴めなかった。そして、陪審団の評決は・・・。 主人公・サムの偉大な小説を書くという夢を果たせず、田舎の大学の英文学教授としての安定した生活に埋もれながら周りの人々の無知を軽蔑する、相当イヤミなインテリというキャラクター設定が秀逸。読者は、サムに感情移入したり反発したりしながら人生とは、結婚生活とは、家族とはを深く考えるようになるだろう。 裁判の開始から評決までを丁寧に追いながら、随所に回想を挟んで真相を解明していくという展開がなかなかスリリングで、最近のトマス・H・クック作品としてはエンターテイメント性を高く評価できる。 |
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あの「シスターズ・ブラザーズ」で読者を驚かせたデウィットのデビュー作。
ハリウッドの一角にあるバーで補助バーテンダーとして働く男の目で語られる、ロスの酔っ払いたちの驚くべき狂態の数々。人はどこまで酒(およびドラッグ)に溺れるのか、信じ難い話が繰り広げられる。 ストーリーはあって無いようなもので、酔っ払いたちのとんでもない姿がクールな筆致で淡々と綴られる、そのギャップが読みどころか? ミステリーを期待すると裏切られる。かといって、惹句の「泥酔文学の金字塔」はオーバーで、「シスターズ・ブラザーズ」につながる才能の発露はあるものの、いかにも習作という感を免れない。 |
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「疫病神」シリーズの第2作は、なんと北朝鮮を舞台にした、国際謀略小説顔負けのアクション超大作である。
それぞれの事情で同じ詐欺師を追い掛けることになった二宮と桑原は、北朝鮮に逃げ込んだ詐欺師を追って、観光ツアーにまぎれて平壌に飛んだ。しかし、徹底的に統制され監視される社会では自由に動けず、逃亡先は掴んだものの詐欺師を捕まえることはできなかった。大阪に帰った二人は、さまざまなコネを動員して、今度は中国国境から北朝鮮への密入国をはかる。厳しい寒さと想像を絶する貧しさに打ちのめされながらも詐欺師を見つけ出し、詐欺の実相を聞き出したのだが、北朝鮮からの脱出は命をかけた逃避行になった。 命からがら帰国した二人は、詐欺の落とし前をつけるべく、今度は詐欺師、ヤクザ、悪徳政治家たちと死闘を繰り広げることになる・・・。 自由奔放を絵に描いたような極道・桑原が、世界一の不自由国家・北朝鮮で大暴れする。それだけでも面白いのだが、さらに巨額詐欺事件を巡る悪者同士の駆け引きもプラスされて、最初から最後までゆるむところが無い。シリーズ最高傑作という惹句は嘘ではない。絶対のオススメ作だ。 |
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「パズル・シリーズ」で有名な(実は、一作も読んでいないのだが)パトリック・クェンティンの1948年の作品。シリーズ全8作品のうち、ただ一作だけ未訳だったものが翻訳されたとのこと。他の作品を読んでいないので解説に頼ると、本作はシリーズ中では異色作になるらしい。
メキシコを観光中の主人公ピーター・ダルースは、20歳前後の美少女デボラと出会い、一緒に観光地に向かい同じホテルに泊まるが、翌日、デボラが殺された。犯人は、当時、同じホテルに泊まっていた4人のアメリカ人の誰かではないかと疑うのだが、確たる証拠が得られなかった。さらに、ピーターは誰かに狙われている気配を感じるのだが、その動機も犯人も特定できなかった。デボラを殺したのは誰か、なぜ自分が狙われるのか? 4人の全員が怪しく見えてきて疑心暗鬼に落ち入ったピーターは、孤独な戦いを強いられることになる。 犯人も犯行の動機も、推理が二転三転して、どんどん引き込まれていく。ストーリー展開も軽快で、軽いハードボイルドを読んでいるような快感があり、とても60年以上前に書かれた作品とは思えない。 シリーズを知っているかいないかに関係なく十分に楽しめて、思いがけない拾い物をしたようなお得感があった。古臭いと先入観を持たずに手に取ってみることをオススメしたい。 |
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アメリカの女性ミステリー作家のデビュー作。ミステリー、サスペンスであると同時に、想像を絶する境遇に引きずり込まれた女性たちがPTSDを克服する復活の物語である。
親友のジェニファーと一緒にジャック・ダーバーの地下室に3年間監禁されてから解放されたセアラは、その10年後、誘拐・監禁の罪で服役中だったダーバーが近く仮釈放されるかもしれないと知らされる。ダーバーの釈放を阻止するには、いまだ未発見のジェニファーの遺体を見つけ、殺人罪に問うしかないと考え、同時期に監禁されていた2人の女性、トレイシーとクリスティーンに連絡を取り、ジェニファーの遺体を見つけるために、忌まわしい事件の舞台だったオレゴンを訪ねることにした。FBI捜査官の忠告を無視して犯人の過去に迫って行く3人だが、なにしろ、主役のセアラは他人に接することができず、自分の部屋から一歩も出ない生活を送っている状態なので、まともな調査活動ができる訳は無く失敗ばかり。それでも、ジェニファーの恨みを晴らしたい一心でじわじわと真相に近づいて行った3人に、驚愕のラストが待ち受けていた。 監禁事件そのものは悲惨ではあるがメインテーマではなく、物語の主題は、事件から10年経っても心理的な傷を引きずらざるを得ない被害者が自分を回復する復活の物語である。一般的な監禁もののサイコミステリーのようなスリルとサスペンスは、期待し過ぎない方がよい。 |
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マイクル・コナリーの22作目の長編で、リンカーン弁護士シリーズとしては第3作だが、悪の代理人として知られるリンカーン弁護士・ミッキー・ハラーが、今回は特別検察官として被告と弁護士をやり込めるという異色の設定。さらに、ハリー・ボッシュもダブル主役として重要な役割を果たすという豪華版である。
24年前の少女殺害事件で出された有罪判決が破棄されて、服役していた男ジェサップは再審を受けることになった。被害者のワンピースに付いていた精液が、最新のDNA鑑定によってジェサップとは別人のものと判明したのが、判決破棄の理由だった。再審にさいして、検事長はなんとハラーに特別検査官になるように依頼してきた。まったく勝ち目が無いと思われる裁判だったが、正義感にかられたハラーは、元妻のマギーと異母兄弟のハリー・ボッシュをチームに加えることを条件に、依頼を引き受けた。 圧倒的に不利な条件下でも、得意の法廷技術で奮闘するハラーを、ベテラン検事であるマギーがサポートし、さらにハリー・ボッシュが調査官として走り回って助け、ついには劇的なクライマックスを迎えることになる・・・。 ハラーを主役にした法廷ミステリーとしても、ハリーが主役の刑事ものとしても一級品。マイクル・コナリーの二大人気キャラクターが共演するのだから、面白くない訳が無い。普段、リーガル・ミステリーを敬遠している方にもオススメだ。 |
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イギリスの新人女性作家のデビュー作。アメリカでもベストセラーを記録した「サイコスリラーの傑作!」というのが売り文句だが、それほどのサイコものではない。
アルコール依存で離婚、失業し、今は友だちのフラットに間借りしているレイチェルは、失業中であることを隠すために毎日、同じ通勤電車でロンドンに通っていた。いつも電車が速度を落とす場所で、電車から見える一軒の家に暮らす幸せそうな夫婦(スコットとメガン)に自分の理想を託していたが、ある朝、メガンが不倫している現場を見てしまう。その直後にメガンが行方不明になったことを知ったレイチェルは、スコットに接触してメガンの不倫を知らせようとする。ところが、スコットとメガンの家のすぐそばに、かつてレイチェルが夫のトムと暮らしていた家があり、そこでは新しい妻のアナと赤ちゃんが暮らしており、レイチェルが家に近づくのを嫌っていた。しかも、酒浸りで飲めば記憶を失ってしまうレイチェルの話は、スコットをはじめ誰にも信用されなかった・・・。 メガンはなぜ失踪したのか? レイチェルは酔っぱらっていたときに何を見たのか? 赤ちゃんもできて幸せの絶頂のはずのアナが感じる黒い影は何なのか? 物語は、三人のガール(というにはちょっと抵抗がある、アラサーたちだが)の独白で進められ、徐々に悲劇の真相が明らかにされる。 犯行の動機も、犯人も、ミステリーを読み慣れた人なら割と容易に推察できるので、売り文句にあるような「サイコスリラー」や「驚愕の結末」というサスペンスや驚きは無い。どちらかといえば、同じような年齢や境遇の人が「うんうん、これはありそう」と共感を覚えながら読むのが、本作の一番幸せな読まれ方だろう。 |
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探偵小説の古典的名作「赤毛のレドメイン家」で有名なイーデン・フィルポッツの1924年の作品。長く絶版になっていたのが、創元推理文庫の新訳で登場した。
若き医師ノートンは、保養地で出会った美人姉妹の妹ダイアナ(あだ名はコマドリ)に一目惚れし、結婚にこぎつけた。自分の秘書と結婚しろという、大金持ちの伯父の要望を裏切ることになったノートンは、伯父の遺産を受け取れなくなってしまう。それでも、愛を貫いたノートンには幸せな未来が訪れるはずだったのだが・・・。 はっきり言って、現代のミステリー愛好家からすれば致命的な欠陥があるトリックだが、1924年という時代を考えれば、かなりの高評価だったのもうなずける。古き良き時代の香りを感じさせる人物描写、風景描写、社会心理描写を楽しむ読み方なら十分に読み応えがあると言える。 |
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「コリーニ事件」と「禁忌」の長編2作の間に書かれた3作品を収めた短編集である。「訳者あとがき」を含めても全93ページという薄さだが、3作品のいずれも強烈な個性を持っている上に、挿入されているタダジュンのイラストも効果的で、非常に強い印象を残す一冊になっている。
「パン屋の主人」、「ザイボルト」、「カールの降誕祭」の3作品とも、ひょっとした瞬間から人生がひっくり返ってしまった物語で、シーラッハの言を借りれば「私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです」という人生の不条理さを突きつけられた読者は、深く大きくため息をつくことになる。 人間につきまとうブラックな側面を描いたストーリーがお好きな方には、近年最高のクリスマスプレゼントとなるだろう。 |
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1938年に発表された、密室ものの古典的名作。早川文庫で長らく絶版になっていたのを東京創元社が新訳で復刊させたのはうれしい限りだ。
物語は、「密室状態で発見された死体と一緒にいた青年が犯人ではない可能性はあるのか?」という一点に絞った謎解きの裁判ものである。警察による捜査よりも探偵(本作では弁護士)の推理が中心となる、オーソドックスな展開だが、推定される犯人も、犯行動機も、犯行手段も次次に変化していくので非常に緊張感がある。 キーポイントとなる密室トリックがあまりにも有名なので、トリックの解明以外に読みどころが無いと思われるかもしれないが、確実だと思われた状況が弁護士によって次々に逆転されていくプロセスはスリリング。トリックが事前に分かっていたとしても、一級の法廷劇として面白く読める。 ただ、現代の科学的捜査からすれば考えられないようなずさんな捜査手法だし、人々の行動も間が抜けているとしか言いようがない。あくまでも古典を古典として楽しめる読者にオススメしたい。 |
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特捜部Qシリーズの第6弾。シリーズとして脂が乗り切った感じで、期待通りの面白さである。
今回、特捜部Qに持ち込まれたのは、デンマークの離島で17年前に起きた少女ひき逃げ事件である。物証も証言も乏しく、ひき逃げとして処理されたのだが、殺人事件だと信じて17年間捜査を続けてきた地元警官が退官を迎えるため、マーク警部に捜査の引き継ぎを訴え得てきた。マークが断ると警官は恨み節を残して拳銃自殺してしまったため、特捜部Qは否応無く捜査に巻き込まれることになる・・・。 事件の背景となるのが、家族の崩壊や精神世界、ヒーリングなど動きが乏しいため、犯罪の動機や捜査プロセスなどは、はっきり言ってシリーズ中最下位と言わざるを得ない。それでも面白く読めるのは、カール、アサド、ローセを中心とするレギュラー陣の関係がさまざまに変化して飽きさせないから。さらに、これまで明らかにされてこなかったメンバーの過去が徐々に明らかになって行くような伏線も張られており、今後がますます楽しみになってくる。 ぜひ、第1作から順に読んでいくようオススメしたい。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第11作。今回も、あざといほどのどんでん返しの連続で読者をねじ伏せる超大作だ。
今回の敵は、被害者の肌に謎のメッセージを彫り込む天才的なタトゥーアーティスト。インクの代わりに毒を彫り込むことで殺すという残忍な手口で殺人を繰り返すのだった。犯行現場がニューヨークの地下に広がる地下通路という共通点はあるものの、被害者の間には共通点が見つからないため、捜査陣は犯行動機を特定できず、次の犯行を防ぐことも出来なかった・・・。 本作の注目点は、リンカーン・ライムの初登場作「ボーン・コレクター」およびシリーズの代表作「ウォッチメイカー」という過去の2作品との関連が深いこと。さすがのディーヴァーも新たな怪物を作るのが苦しくなってきたのか? シリーズがマンネリ化し始める兆しでなければ良いのだが・・・。 とにかく、最後まで息を抜けないどんでん返しの連続は本作でも健在。ライムの天才過ぎる読みが鼻につくのは確かだが、エンターテイメントとして一級品であることは間違いない。 |
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「特捜部Q」シリーズの10年前に発表された、著者のデビュー作。デビュー作だけに、あれもこれもと盛り過ぎた感があるが、オールスンの優れた筆力が随所に表われた力強い作品である。
ドイツ上空で撃墜された英国人パイロットのブライアンとジェームズは、病院列車で運ばれていたナチス親衛隊の将校になりすますことで追跡を逃れようとするが、その列車の行き先は親衛隊専用の精神病院だった。二人はそこで過酷な電撃療法と薬によって心身ともに蝕まれ、さらに仮病で入院している悪徳将校のグループに虐待され命の危険にさらされる。その後、連合軍の空襲にまぎれてブライアンは脱出に成功するが、幼なじみで親友のジェイムズを残してきたことに深い罪悪感を抱くことになる。 それから28年が過ぎた1972年、医者として、事業家として成功していたブライアンは、オリンピックでの仕事でミュンヘンに赴くと、自らジェームズを探すためかつての病院があった街を訪ねた。そこでは、あの悪徳将校グループが町の名士として偽名で暮らしていた。ブライアンは、彼らの周辺を探ることでジャームズを発見しようと、ひとり奮闘する・・・。 前半は戦時の精神病院からの脱出を描く壮絶なサバイバル小説であり、後半は悪徳将校の仮面を暴くナチ・ハンター的なサスペンスである。さらに、幼なじみの友情物語、実らぬ恋物語、極限状態における理性の強靭さを問う物語などが重なってきて、ストーリー展開だけで十分な読み応えがある。 「著者あとがき」の最初に「これは戦争小説ではない」と明記されている通り、第二次世界大戦のドイツを舞台にしたアクション小説の体裁をとりながら、人間の友情と罪悪感の機微を描いたヒューマンドラマである。 |
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米国の女性新人作家のデビュー作。売り文句には「究極のサスペンス!」とあるのだが、かなり期待外れだった。
禁酒法時代のニューヨークで警察のタイピストとして働くローズは、孤児として女子修道院で育てられた女性らしく、地味で堅実な生活を送っていたが、新しい同僚として華やかで洗練されたオダリーが現れたことから、全てが一転することになる。自由奔放なオダリーに魅了され、ついには一緒に生活するようになるローズだが、一方で、オダリーが語る生い立ちや贅沢な暮らしを支える資金の出所などに疑問を持ち、良くないことが隠されているのではないかと不安を覚えるようになる・・・。 まあ、ミステリー好きならおおよそ予想がつく展開で、最後の最後に落とし穴らしき仕掛けがあるものの効果はイマイチ。スリルもサスペンスも乏しく、ミステリー要素を一滴たらしたハーレクインとでも言えばいいのだろうか。本格的なミステリーファンにはオススメできない作品だった。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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スウェーデン警察小説の新しいヒーロー・ショーベリ警視シリーズの第一弾。登場人物は魅力的、犯罪はショッキング、ストーリー展開はスリリング・・・なのに、真犯人が分かるとガクッとさせられる微妙な作品だ。
ストックホルムに住む一人暮らしの老婦人が数週間の入院から帰宅してみると、自宅には見知らぬ男の死体があった。通報を受けたショーベリ警視のチームが捜査に乗り出すが、死者と老婦人の関係、殺害の動機などがまったく掴めず捜査は難航する。その一方、犯人は「これで終わりではない」と明確な殺意を固め、次の犯行に取りかかる。 冒頭に犯行の背景となる幼稚園でのいじめが説明され、途中途中に「殺人者の日記」が挿入されているので、事件の様相、犯行の動機は最初から明らかである。従って、読者の興味は捜査の進め方や捜査陣の人間ドラマに向かうこととなるのだが、その面では、主要な人物のキャラクターやエピソードが良く描かれている。シリーズ化にも十分に耐えられるだろう。 欠点と言えるのが、物語の中で最重要容疑者と目される人物の行動に偶然が多いことと、女性刑事のレイプ事件の扱いが中途半端で最後まで意味が分からないこと。このため、読後感がすっきりしないのが残念である。 |
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「その女 アレックス」のルメートルの新作とあって期待が高かったのだが、ミステリーとしてはやや期待外れというしかない。ただ、社会派の歴史小説として読めば、面白さと緊張感を兼ね備えたゴンクール賞受賞作にふさわしい傑作である。
第一次世界大戦末期の前線で戦った、功名心旺盛な指揮官と、彼の悪事を見てしまったことから死にかけた兵士、その兵士を助けようとして悲劇的な損傷を負った兵士。戦争が終わって復員した彼ら3人は、戦後の混乱したパリで、それぞれの生き方に忠実であるが故の奇想天外なドラマを演じることになる。 フランス人であれば、もっと興味深く面白いのだろうけど、時代状況に対する知識がないため、各書評が絶賛するほどの面白さは感じられなかった。 |
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1986年サントリーミステリー大賞を受賞し、黒川博行の名を知らしめることになった記念碑的作品。現在の作風からは想像できないような軽さが微笑ましいライトなミステリーである。
滋賀県の湖で発見された惨殺死体の胃の中に、キャッツアイが入っていた。その一週間ほど後、京都で毒殺された美大生の口からキャッツアイがこぼれ落ちた。さらに数日後、釜ヶ崎で凍死した日雇い労働者は口にキャッツアイを含んでいた。事件は「キャッツアイ連続殺人事件」として合同捜査されることになり、滋賀、京都、大阪の警察によるメンツをかけた競争が始まった。一方、殺害された美大生の同級生たちは、素直に警察には話せない事情から素人探偵として美大生殺害の謎を解くため、被害者が殺される前に旅行したインドへと旅立った。 3つの事件をつなぐものは何か? 警察と素人が別々のルートから真相にたどり着くまで起伏に富んだストーリー展開が面白い。事件の様相、犯罪の動機、真相解明までの道のりも破綻なく、説得力がある。それでも、探偵役が女子大生というところで、黒川博行ファンが期待する「黒川節」が見られないのが残念。 ただ、ミステリーとしては良く出来ているので、軽めのミステリーが好きな方にはオススメだ。 |
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講談社文庫「コーク・オコナー」シリーズで知られるクルーガーのシリーズ外作品で、初めて早川のポケミスで発売され、翻訳者も従来とは異なっている。
物語の舞台はオコナー・シリーズと同じミネソタ州だが、北部の森林地帯ではなく、広大な農地が広がる南部の田舎町である。13歳の少年フランクは、牧師の父、音楽や文芸に関心が深い母、音楽の才能にあふれた優しい姉、吃音に悩む弟という家族に囲まれて幸せに暮らしていたが、同い年の少年が列車にはねられて死亡したことをきっかけに、身近な人々のさまざまな死と遭遇し、次々と現れる大人の世界の過酷な現実に否応なく向き合い、大人への階段を上ることになる。 ミステリーとしての本筋は姉の死の真相解明であり、最後の真犯人の判明にさほどの驚きはないものの破綻のない構成で十分に読ませる。だが、本書の魅力は中西部の田舎町のコミュニティの人間関係と、そこで成長する少年の感性のみずみずしさの描写の方にある。amazonのレビューでも触れられているように、トマス・H・クックやジョン・ハートに通じる叙情たっぷりな物語で、しみじみとした読後感が味わえる。 派手なアクションやサイコパスの異常な犯罪に辟易としているミステリーファンにオススメだ。 |
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