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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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「未来三部作」と呼ばれる3本の中編を合体して1本の長編に仕上げた作品。
人間の強さと弱さが絡み合った決断がドミノを倒すように重なり合って歴史が動いていく、というテーマらしいのだが、「PK」、「超人」はまだしも「密使」に至っては完全にSFで、SFになじみがないため理解不能だった。 SFを読み慣れている人以外にはオススメしない。 |
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単行本を改定した文庫版に、さらに書き下ろし短編を加えた増補版(2019年)。東京湾を挟む品川ふ頭とお台場で働く若い男女の不器用な愛の物語である。
品川ふ頭で肉体労働に従事する亮介が25歳の誕生日に羽田空港で待ち合わせたのは、出会い系で見つけた涼子というOLだった。浜松町駅のキオスクで働いているという涼子に亮介は、また会いたいというのだが、涼子からは連絡が来なくなった。会社の同僚の彼女の紹介で真理と付合うようになった亮介だったが、ふと送ったメールをきっかけに再び涼子と会い、お互いに不安をいだきながら関係を深めていく。やがて、涼子が隠していた本名や職業などが判明し、亮介の過去の出来事も明らかになり、二人の関係は脆く、しかも激しくなっていく・・・。 揺れ動き、戸惑い、それでも止められない恋愛が見事な筆力で描かれており、ずしんと来る読み応えである。 吉田修一ファンはもちろん、現代的な恋愛小説のファン、若者が主役のエンターテイメント作品のファンにオススメする。 |
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テレビドラマにもなった「三匹のおっさん」シリーズの第1作。街の自警団を結成し、ご近所の悪を退治する3人のアラ還おやじの活躍をユーモラスに描いたアクション作品である。
全6話からなる連続もので、それぞれに窃盗、詐欺、痴漢、動物虐待など現代的な事件が中心になっているのだが、主眼となっているのは事件の解明ではなく、事件の背景を巡る人情話であり、ミステリー要素は薄い。だが、話の設定が面白く、登場人物たちのキャラ作りも上手いので、何の引っ掛かりもなくどんどん読み進められる。例えて言えば、お酒やコーヒーと一緒に過ごす自由時間に、あるいは旅に持っていくのに最適なタイプのエンターテイメント作品である。 ほのぼのとした読後感を楽しみたい方にオススメする。 |
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「小説宝石」の連載を改稿した長編小説。登場人物たちの不全感、自己肯定感の低さが織り成す救いようのない悲劇を描いた現代風俗小説である。
ストーリーはしっかりしているし、状況描写も巧みなのだが、肝心の人物像にリアリティも共感を呼ぶ力もなく、ただ長々と話が流れていくだけで、読後感はよくない。 朝倉かすみ作品はすべて読みたいというファン以外にはオススメしない。 |
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科学捜査の天才・リンカーン・ライムシリーズの第14作。ホームグラウンドであるニューヨークを舞台に、悪魔的な犯行計画の解明に取り組む、警察ミステリーの王道を行く作品である。
ニューヨークの宝飾店街で、店主であるダイヤモンド加工職人と婚約指輪を受け取りにきた男女が殺された。店内は荒らされ、極めて高価なダイヤモンドが行方不明になっていた。さらに、店主は凄惨な拷問を加えられており、犯人が何かを聞き出そうとしたのではないかと思われた。ライムのチームが捜査を担当することになったのだが、事件現場で犯人に遭遇した目撃者は警察に通報したものの、名乗り出ることはなく、自ら身を隠しているようだった。さらに、事件の直前に店を訪れていた人物が殺害され、婚約中の男女が襲撃される事件も連続した。事件に追われるライムたちをあざ笑うかのように、ダイヤモンドへの執着を表明した犯行声明が送り付けられた。次の犯行を防ぐために、ライムたちは隠れている目撃者を捕まえようとするのだが、犯人も目撃者を追いかけているのだった・・・。 ダイヤモンド強盗と思われた事件が、地中熱発電事業を巡る争いと関連し、さらに大規模な陰謀とつながっていく。相変わらずスケールが大きく、派手な物語である。しかし、従来のようなジェットコースター的急展開が影を潜め、綱渡り的緊張感のあるストーリー展開の作品となっている。その分、謎解きの面白さが際立ち、警察ミステリーとしてのレベルが高まっている。 リンカーン・ライムシリーズのファンはもちろん、アメリカ警察小説ファンにオススメする。 (なお、作品の評価とは関係ないのだが、単行本第一刷では漢字変換ミス、校正ミスが散見された。文藝春秋社ともあろうものが、と残念な思い) |
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イギリスの新人作家のデビュー作。本国ではすでに第三作まで刊行されているという、マンチェスターの刑事をヒーローにした新しい警察小説シリーズの登場である。
マンチェスターの麻薬売買を牛耳る組織に潜入し、ボスのカーヴァーが操っている警官を捜し出せという難しい秘密任務を命じられたのは、押収品の麻薬をくすねて停職処分を受けている巡査・ウェイツだった。堕落した警官なら麻薬組織も受け入れるだろうという計算である。しかも、この困難な潜入捜査に加えて、家出して麻薬組織に入り浸ってしまっている司法大臣の娘・イザベルの救出も任務とされた。毎週末にカーヴァーの豪邸で開かれるハウス・パーティーに潜り込み、カーヴァーの知遇を得たウェイツは組織の実態をつかみ、任務の目的に近づいたと思っていたのだが、イザベルが死体となって発見される事件に関与したことから思わぬ事態に巻き込まれることになった。 これまでの英国警察小説の主流であるダルグリッシュ警視、リーバス警部、ダイヤモンド警視など頑固で大人の警部たちとは異なり、まるでアメリカのはぐれ警官のような若くて破滅型の巡査が主人公という設定がとても新鮮。物語も麻薬密売組織と警察の不透明な関係、政治家一家のスキャンダル、大都会にはびこるドラッグの病魔など、現代的な要素をたっぷりと盛り込んだアクション小説である。文庫で600ページという長さから、途中にちょっと中だるみがあるものの読み応えがある作品で、次作以降の邦訳が待ち遠しい。 英国警察小説の王道作品のファンより、アメリカの刑事物のファンにオススメする。 |
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2005年に発売された書き下ろしの長編小説。大学新入生を主人公に、モラトリアムの喜びと悲しみを描いた、やや感傷的な青春小説である。
仙台の国立大学の新入生・北村は、金持ちの息子・鳥井、超能力少女・南、徹底的にクールな美人・東堂、暑苦しいほどの熱血漢・西嶋という4人の学生とつるんで学園生活を送ることになった。何事にも一歩引いて関わるため鳥瞰型と言われる北村だが、個性的な友人たちによって否応なく様々な問題に巻き込まれ、自由で無責任なモラトリアム時代ならではの青春を謳歌しながら卒業することになる。 作者にしては常識的というか、大人しい構成だが、それでもいくつもの山場となるエピソードがあり、物語を追いかけていく楽しさを満喫できる。さらに、ストーリー展開のテンポの良さ、会話のリズムの心地よさ、折々に出現する印象的なフレーズなど、いつも通りの伊坂幸太郎ワールドは不変である。 伊坂幸太郎ファンのみならず、安心して読める青春小説がお好きな方にオススメする。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第6作。難しい事件捜査で警察組織の闇に迷いながらも信念を貫こうとするボッシュの苦しい戦いを描いた、骨太の警察ミステリーである。
長年、ロス市警と対立してきた人権派の黒人弁護士が射殺された。マスコミを始め多くが警察官による犯行ではないかと疑っている難事件の捜査が、本来管轄外であるボッシュのチームに回ってきた。信頼する二人の部下とともに捜査を進めたボッシュは、事件の背景に数年前の少女誘拐殺人事件が関わっているのではないかとの疑念を抱くようになった。だがしかし、世間はロス市警と黒人社会との対立に焦点を当て、ロサンゼルスは人種間暴動の勃発寸前にまで緊張感が高まっていた。焦る市警上層部は、事件の真相解明より暴動の回避を優先し、ボッシュは厳しい立場に追い込まれるのだった。 ロドニー・キング事件の後遺症に囚われたロス市警、ロサンゼルス市の底流に流れる人種間対立を背景にした殺人事件捜査がメインで、それにボッシュの結婚生活という個人的事情が重なった、全体に非常に重苦しい雰囲気の作品である。そんな中で警官としての正義を貫くボッシュの姿は、現代の警察小説の典型例として輝いている。 ボッシュ・シリーズのファンはもちろん、重量感のある警察小説を読みたいというファンに、自信を持ってオススメする。 |
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本屋大賞を始め各種のミステリーランキングに入り、映画化もされた話題の作品。読み始めは「これがミステリー?」と疑問符だらけだが、最後にはきちんと伏線が回収されて納得できるユニークなミステリーである。
大学入学でアパートに引っ越してきた椎名は、最初に出会った隣人・河崎に「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。その目的は、1冊の広辞苑を奪い、隣室の外国人にプレゼントするためだという。優柔不断の塊りのような椎名は結局、河崎とともに書店を襲い、一冊の「広辞林」を奪うことになる。その2年前、同じ街のペットショップに勤める琴美は、同棲中のブータン人・ドルジと一緒に行方不明の黒柴犬を探しているうちに動物虐待犯たちのグループと遭遇し、トラブルに巻き込まれた・・・。 二つの物語が、どうつながっていくのか? その構成の奇抜さは、まさに伊坂幸太郎ワールド。訳の分からないエピソードたちが、1つのミステリーにきちんと収束していくところが恐ろしい。推理を重ねて謎を解くというのではなく、作者の手によって常識的な思考を振り回されるところに快感がある。ある種の不条理な世界である。 本格ミステリーではなく、アップテンポな風俗小説を読みたいという方にオススメする。 |
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フランスでいま最も人気がある作家の一人というミュッソの2016年の作品。失踪した婚約者を探しているうちに驚愕の事実に出会ってしまうというサスペンス・ミステリーである。
4歳の息子を育てているシングルファーザーで小説家のラファエルは、結婚を間近にした婚約者アンナと南フランスでのバカンスに出かけたのだが、自分の過去をひた隠しにするアンナに過去を話すように詰め寄り、衝撃的な写真を見せられることになった。動転したラファエルはホテルを飛び出し、冷静になって戻ったのだが、部屋にはアンナの姿はなかった。アンナがパリに戻ったことを知ったラファエルはすぐにパリに戻り、同じアパートに住む友人で元警部のマルクの手助けを得ながらアンナの行方を探し始めたのだったが、アンナがかつて起きた連続少女拉致監禁事件と関わりがあることが分かってきた。さらに、アンナには秘められた過去が存在することも明らかになった・・・。 失踪した婚約者探し、連続少女拉致監禁事件だけでなく、アンナの過去に関わる様々な事件が登場し、非常に複雑な構成のミステリーである。舞台もフランスからアメリカまで、時代も1990年代から2016年まで激しく動き回るのだが、作者のストーリーテラー能力が優れているので読んでいて混乱することはない。サイコ・サスペンス的な要素は含まれているが、主題は秘められた過去を解明するという謎解きミステリーでストーリー展開もスピーディーで楽しめる。ただ、最後に明かされるエピソードがちょっと拍子抜けなのが残念だ。 読みやすく、話も面白いので多くのミステリーファンに安心してオススメしたい。 |
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短編1本と雑誌掲載3本と書き下ろし1本で構成されながら、ちゃんと長編として成立しているところが伊坂幸太郎らしい作品である。
物語は時代やテーマを変えながら各章ごとに完結しているのだが、悪人のボスの下請けとして当たり屋をやっている二人の人物が物語世界を繋いでいく。伏線を張って回収するというより、別の話に発展させながらつながっていくのが、よく分からないけど面白い。そしてもちろん、エピソードや会話のテンポの良さ、ユニークさも楽しい。 肩の力を抜いて読書を楽しみたいときにオススメする。 |
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アメリカの現代詩人でヤングアダルト向け小説家の作品。エドガー賞を受賞したミステリーだが、現代詩の形態をとっている、不思議なエンターテイメント作品である。
敬愛する兄・ショーンを対立するストリートギャングに射殺された15歳の少年・ウィルは、街に生きる者の掟に従って犯人を殺すために、兄が隠していた拳銃を持って家を出て、エレベーターに乗り込んだのだが、自宅のある8階からロビーに降りるまでの1分少々の間にエレベーターは各階に停止し、それぞれの階で、もう会えるはずのない人たちが乗り込んできた。死んだはずの亡き兄の先輩、幼なじみの少女、伯父、父親らとの対話を通して、ウィルは復讐の決心を改めて確かめることになる・・・。 壊れた街に暮らす少年が殺された兄の敵討ちをしようとするというありがちな設定だが、エレベーターが地上に着くまでのわずかな時間、揺れる少年の心を現代詩の形態で描いたユニークさが新鮮である。内容はノワールだが、読後感は爽やかだ。 ミステリーファンにというより、ヤングアダルト小説のファンにオススメする。 |
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9年ぶりに登場した、陽気なギャングシリーズの第3作。相変わらず、個性的な登場人物が奇想天外な冒険を繰り返すコメディ・ミステリーである。
久しぶりに銀行強盗を働いた陽気なギャングたちだったが、ひょっとしたことから久遠がトラブルに巻き込まれた。その相手は、下劣で執念深い週刊誌記者・火尻で、しかも久遠が銀行強盗の一員であることを嗅ぎつかれてしまった。火尻から脅迫されることになった陽気なギャングたちは、火尻の執念深さに苦労しながらも、窮地を脱するためにギリギリの奇襲作戦を仕掛けるのだった・・・。 今回は、四人の個性を生かしたストーリー展開というより、悪役・火尻をはじめとする周辺人物のキャラクターが前面に出てきた物語である。他の方のレビューにあるように、オチのつけ方に切れ味がない感じはあるが、安定して楽しめる作品である。 シリーズ作品なので、当然のことながら第1作から順に読むことをオススメする。 |
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2018年の各ミステリーランキングでトップを独占しただけでなく、本屋大賞も受賞し、翻訳ミステリー界の話題を独占した作品。アガサ・クリスティへのオマージュと言われるだけあって、英国伝統の本格謎解きミステリーである。
上下巻2冊に別れ、上巻はアラン・コンウェイという作家の「カササギ殺人事件」という小説、下巻は同作品の担当編集者がコンウェイの死の謎を解くというダブルのフーダニット構成である。そして、それぞれの謎解きが極めて緻密に精緻に構成されており、まさに古き良きイギリスの探偵小説の王道を行く作品である。ただ、それ以上のものではない。 アガサ・クリスティに代表される古典的謎解きミステリーのファンには絶対のオススメ作品だ。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第19作。私立探偵として、パートタイムの警官として、経験と体力にものを言わせて難事件を解決するボッシュの活躍を描いた傑作ハードボイルドである。
私立探偵免許を取り直して個人的な仕事をする一方、ロス市警時代の友人に誘われてロス近郊の小都市・サンフェルナンドで無給のパートタイマー刑事として働いていたボッシュのもとに、大富豪の老人・ヴァンスからの依頼が届けられた。極秘で依頼されたのは「学生時代に付き合い妊娠させたのに、親に仲を引き裂かれたメキシコ人の恋人か、その子供を捜して欲しい」というものだった。生涯独身を通したヴァンスには子孫がなく、死亡したときには莫大な遺産を巡って混乱する恐れがあるため、別れた恋人か子供が見つかれば全財産を遺贈したいという。ヴァンスのわずかな記憶を手がかりに調査を進めたボッシュは、別れた恋人には男の子がいたことを発見する。同じ頃、サンフェルナンド警察では連続女性暴行事件が発生しており、ボッシュは同僚の女性刑事・ベラとともに捜査をすすめていたのだが、同じ犯人によると思われる暴行未遂事件がおき、捜査が急展開する。二つの事案の板挟みになったボッシュは、気力を振り絞って奮闘するのだった。 私立探偵としての人探し、警官としての犯人探し、どちらにも手を抜かないのがボッシュで、文字通り寝る間も惜しんで走り回る。さらに、アクションシーンにも果敢に立ち向かい、正義を貫き通す。ボッシュ・シリーズの醍醐味を凝縮したようなエンターテイメント作品である。 リンカーン弁護士・ハラーが重要ポイントで協力するところも嬉しい限りで、コナリー・ファンには自信を持ってオススメする。 |
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2015年に書き下ろしで刊行された、著者の初長編。同年のミステリーランキングで上位に入り、各種の賞の候補作ともなった、意欲的なミステリー風の青春小説である。
アメリカ陸軍空挺師団に所属するティムは、生まれながらの食いしん坊で祖母の料理が大好きな少年だったが、周りの友人たちの空気に流されて17歳で陸軍に志願したものの、あまり兵士には向いていないと自覚し、特技兵(コック)になる。ティムたちの初陣はノルマンディー上陸作戦で、それから終戦まで、ヨーロッパ戦線で様々な体験をすることになる。兵隊仲間からは軽く見られるコックだが、いざ戦闘が始まれば武器を取って戦うため、常に死と隣り合わせの過酷な日々だった。そんな中、コック仲間をはじめ、同年代の兵士たちとの交流、敵との遭遇、戦場となった街や村の人々との出会いを通して、ティムは人生の意味を深く考えるようになった。 物語は主に5章に分けられ、それぞれの章でミステリーというか「謎解き」のエピソードがあるのだが、物語の本筋は人間性への信頼、人間同士の憎悪、絶望からの再生にある。あまり知的とは言えない19歳の少年が極限状況を経験することで、どのように変化していくのか。本書のメインテーマは、そこに置かれている。 日本人の女性がヨーロッパ戦線の物語をここまでリアリティを持って書けたことに驚愕した。ミステリーとしてはやや完成度が低いかもしれないが、少年の成長物語、戦争とは何かを追求した作品として一級品である。 ジャンル分けにはこだわらず、多くの人にオススメしたい傑作と言える。 |
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陽気なギャング・シリーズの第2弾。4人それぞれを主人公にした4本の短編とそれをベースにした長編で構成された、アップテンポで楽しいコン・ゲーム小説である。
嘘を見抜く名人・成瀬、天才スリ・久遠、演説の達人・響野、正確な体内時計を持つ女・雪子というおなじみの4人組は、またまた銀行を襲撃し、今回は邪魔が入ることもなく現金を手にしたのだった。しかし、強盗の現場に居合わせた若い男女が気になり、あとから検討してみると女性は成瀬の部下の婚約者で、しかも彼女は一緒にいた男に脅迫されているようだった。と言う訳で、頼まれもしないのに「社長令嬢誘拐事件」に関わることになった4人は、得意のチームプレイで怪しい誘拐犯や裏カジノ経営者たちと対決することになった・・・。 今回もまた、ストーリー展開、会話、事件解決の構成が緻密でシュール。とにかく読者を楽しませることに徹底したエンターテイメントで、冒頭の「著者のことば」にあるように「細かいことは気にせずに楽しんで」いけるコン・ゲーム小説である。 前作「陽気なギャングが地球を回す」を受けたエピソードや会話も多くあるので、前作から順番に読むことを強くオススメする。 |
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1998年〜99年の雑誌連載を加筆、訂正した長編小説。ロサンゼルスの日系保険会社に勤務する日本人PIが、残酷な日本人の殺人鬼を、その父親からの依頼で探し出す私立探偵小説である。
日本の保険会社のサービスとして、主に日本人が関わったトラブル処理にたずさわっているサム永岡が指示されたのは、隠し撮りされた写真に写った日本人青年を探し出すことだった。上司は簡単な仕事だと言ったのだが、いざ探し始めると青年は犯罪に手を染めており自ら姿を隠しているようだった。写真だけを手がかりに苦労して居場所を突き止め、接触しようとすると、その青年・安田信吾はいきなりサムを銃撃してきた。驚いたサムは上司に、安田信吾を探しているのは誰か、なぜ探すのかを教えてくれるように依頼するのだが、会社の上層部から詳細な説明を拒否された。不信感を募らせていたサムのところに、ある日、中年の日本人男性が現われ、自分は安田信吾の父親で、自分で信吾を探し出したいという。サムの手助けを断り、ひとりでメキシコとの国境に近い場所に行こうとする父親を危惧したサムは、一刻も早く安田信吾を見つけるために、荒れ果てた国境の街をめざして車を走らせるのだった・・・。 舞台はロサンゼルスやメキシコ国境の町とはいえ、主要な登場人物が日本人であり、普通ならいかにも日本の私立探偵ものらしいウェットな犯罪と解決方法になるのだろうが、犯罪と悪人を極端にドライにすることで、レベルが高いハードボイルドに仕上がっている。特に、子供のような無邪気な笑顔で接する人を魅了しながら握手をするように気軽に人を殺してしまう悪人・安田信吾の設定が効いている。さらに、アメリカに置ける人種差別、なぜ犯罪者が生まれるのか、親と子の関係のあり方はなど、背景となるテーマにもしっかり目が行き届いており、社会派エンターテイメントとしても評価できる。 真保裕一らしさが詰まったハードボイルドとして、真保裕一ファンにはもちろん、すべてのハードボイルドファンにオススメしたい。 |
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2006年に新聞連載され、2010年に単行本化、2013年に文庫化された長編小説。高校生の息子と四人の父親が作り出す不思議な家族の冒険を描いたファミリーミステリーである。
地方高校の2年生・由紀夫は6人家族。しかし、その中身は、四股を掛けた末に同時に4人と結婚した母親と4人の父親たちという面倒くさいものだった。ギャンブルが生き甲斐の「鷹」、大学教授で頭脳明晰な「悟」、元ホストで女性の扱い方の天才「葵」、バスケットボールと格闘技マニアの中学教師「勲」という個性的過ぎる父親たちに育てられた由紀夫は、学業成績がよく、スポーツ万能で女性に人気があり、しかもゲームや博打にも強い理想的な男子だった。ところが、不登校になった同級生が気になり自宅を訪ねたことから、思いもよらぬ事件に巻き込まれることになった。 とにかく最初の主人公の背景設定からして常識はずれ、しかも続々と登場する周辺人物も極めて個性的なキャラクターで、彼らの会話だけでも面白い。さらに、由紀夫が直面したトラブルを解決する父親たちの活躍をメインストーリーに、同級生たちとの高校生生活、県知事選挙を巡る陰謀など様々なサブストーリーが重なって、あれもこれもの賑やかなお話のパレード状態。まさに伊坂幸太郎ワールドである。 ミステリーとしてだけで成立している作品ではないので、犯人探しや謎解きを期待すると肩透かしを食う。奇想天外なお話の明るさ、個性的なキャラクターの奔放さを愛する人にオススメする。 |
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アメリカのSF黄金期に活躍したカリスマSF作家・エリスンの短編集。全11編はすべて非SF作品で本邦初訳、日本オリジナルの短編集だという。書かれたのが1950年代から60年代で、時代的な古さを感じさせるが、書かれているテーマは現代のノワール、ハードボイルド、ストリート物に通じるものがある。
ただ文章が難解で(筆力があると評価されるのだろうが)読みづらい。相当に読者を選ぶ作品集である。 |
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