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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1460

全1460件 41~60 3/73ページ

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No.1420: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

一言で要約できない面白さ!

1975年刊行、1978年邦訳出版という古さだし、聞いたことない作家だったので期待しないで読み始めたら、想像を裏切る面白さだった。
品行方正、謹厳実直のイギリス人男性・ブラックネルが移住したアメリカで、妻のパットには秘密に書き続けていたメモを偶然見つけたパットは、その内容に驚愕する。さまざまなストレスに押しつぶされそうになったブラックネルは「殺人によって人格が変えられる」という考えを理論的に確立し、実行し、記録していたのだった。とても本当にあったこととは思えず、夫が空想した物語だと思い込みたいパットはメモを読みながら、当時のあれこれを回想し、「こんな恐ろしいことは絵空事だ」と証明しようとするのだが…。
夫の秘密のメモとそれを読んだ妻の反応という二つの視点からの物語はよくある設定だが、書かれていることが本当かどうかが分からないところにサスペンスがあり、クライマックスに向けてじわじわ恐怖が高まって行く。さらに結末も人間性の複雑さを感じさせて興味深い。
心理サスペンスがお好きな方には絶対のオススメ作である。
ブラックネルの殺人理論 (1978年) (海外ベストセラー・シリーズ)
No.1419: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

中年男の心のひだに分け入るヒューマン・ノワールと言うべきか

「ダブリン警察署殺人捜査課」シリーズで知られるアイルランド人作家の長編第8作で、アメリカ人の元警官を主人公にしたシリーズ外作品。アイルランドのゆったりした自然に囲まれながら、閉鎖的な村に存在する闇と戦わざるを得なくなる巻き込まれ型ミステリーである。
40代半ばにも関わらず行き詰まった人生をやり直すためにシカゴ警察を辞め、アイルランドの片田舎に廃屋を買って移住したカルは家の修繕と田舎暮らしを楽しんでいた。ある日、誰かに監視されていることに気付いたカルが見つけた監視者は10代前半の地元の子供だった。監視するのではなく一緒にやろうと改修作業に誘い、打ち解けるとその子・トレイは失踪した19歳の兄ブレンダンの行方を探してくれと頼み込んできた。田舎暮らしに愛想をつかして都会に出たのだろうと思い、カルはトレイの依頼を断るのだが、執拗に依頼され、さらにトレイの悲惨な環境を知り、何も期待するなと釘を刺してからブレンダンの行方を探る始める。ブレンダンの関係者に話を聞いて回ると、誰もが家出したのだろうと言う。しかし、カルがブレンダンの行方を探していることが村人に知れると、陰に陽に警告を受けるようになった…。
物語の主軸はアイルランドの片田舎に強固に存在する排他的で変化を恐れる闇の掟であり、そこに中年の危機に陥ったアメリカ人男の心の挫折と地元の子供とのぎこちない交流の変化が重ねられ、なかなか奥行きが深いヒューマン・ドラマである。単なる子供の成長物語ではないところが魅力と言える。
ノン・シリーズ作品なので、本作だけで十分の楽しめる。人間を見つめるミステリーがお好きな方にオススメする。
捜索者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
タナ・フレンチ捜索者 についてのレビュー
No.1418: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ストーリーもキャラも完成度が高い傑作!

韓国で大ヒットしドラマ化もされた、ちょっとユーモラスな誘拐ミステリー。間抜けな誘拐犯と天才少女の被害者が絶妙の掛け合いで飽きさせない傑作である。
一人娘がいるのにも関わらず多額の借金と娘を置いて妻・ヘウンが失踪し、家も仕事も失ったミョンジュンは山の中の見捨てられたバラックを棲家にしていた。追い討ちをかけるように幼い娘・ヒエに白血病が見つかり入院したのだが入院費が払えないためコソコソ隠れるようにして見舞いに行く貧窮状態だった。そんなとき、元妻・ヘウンから誘拐して身代金を奪うことを持ちかけられた。お人好しでヘウンに頭が上がらないミョンジュンはヒエを助けたい一心で、その提案に乗ってしまう…。
完璧なはずの誘拐計画は、ミョンジョンがターゲットの豪邸の前で車ではねた少女が誘拐する予定のロヒだったことでいきなり狂ってしまう。慌てたミョンジョンはロヒを自宅に連れて帰るのだが、ロヒは事故で記憶を失っており、ミョンジョンはとっさに自分は父親だと言ってしまった。ロヒが記憶を取り戻さないうちに金を奪いたいミョンジョンが何度電話しても誰も応答しない。焦ったミョンジョンがロヒの家を訪れると、そこから夫婦二人の死体が運び出されるところだった。果たして誘拐は成功し、身代金を受け取れるのか?
ドジで間抜けなミョンジョンと天才少女・ロヒのキャラクターが抜群で、身代金目当ての誘拐なのにかなり笑える。さらに事件の社会的背景、動機などもよく考え抜かれていてミステリーとしても楽しめる。
文句なしのオススメだ。
誘拐の日 (ハーパーBOOKS)
チョン・ヘヨン誘拐の日 についてのレビュー

No.1417:

家族

家族

葉真中顕

No.1417: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人間の理性なんて脆いものだと痛感する

2011年に発覚した尼崎連続殺人事件に想を得たクライム・フィクション。事件を起こした者、巻き込まれた者、捜査した者という複数視点から全貌を解明する構成だが、時系列が入り乱れるので最初はやや分かりにくい。
事件の細部の描写は丁寧で巻き込まれた者たちの理性が壊れる様やリンチの場面は読んでいて胸苦しくなる。しかしノン・フィクションではないのだから、もっと心理的な追究があれば良かった。これまでの著者の作品に比べるとワクワク、ドキドキが無いまま終わってしまった。
ミステリー、サスペンスとして読むには物足りない。
家族
葉真中顕家族 についてのレビュー
No.1416: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件は派手だが、動機はしょぼい?

ディーヴァーが法執行官出身のマルドナードとコンビを組んだ新シリーズの第一弾。連邦捜査官の妹が襲われた事件を発端に連続殺人が発生し、大学教授でサイバー犯罪対策の専門家と捜査官が衝突しながらも真相を解明するバディ・サスペンスである。
国土安全保障捜査局の捜査官・カーメンの妹・セリーナが襲撃され、かろうじて逃げたものの助けに駆け付けた男性が重傷を負った。地元警察の反応の鈍さに苛立ったカーメンは捜査の管轄を無視して行動するのだが、犯人が残した携帯電話のファイルは暗号化されており容易に開くことができなかった。そこでカーメンは過去の因縁がある大学教授で敏腕ハッカーのジェイクに暗号解除を依頼した。気が進まないジェイクだったが暗号解除に成功し、事件がセリーナを狙ったもので、しかも前日に起きた男性殺害との連続殺人であることを発見する。しかも、ファイルの暗号化にはジェイクの仇敵のサイバー犯罪者が関わっていることにも気付いた…。
連続殺人犯を追う本筋だが、犯人が腕に蜘蛛のタトゥーがあるデニソンという男性であることは早々と明かされる。そこからはデニソンと、カーメン&ジェイクのコンビの知恵比べが中心になり、さらにデニソンの黒幕の存在も絡んできて、ストーリーは二転、三転する。まあ、いつものディーヴァーらしくどんでん返しがたっぷり、意表を突く仕掛けもたっぷり。ただ最後に真相が明らかになると動機の貧弱さに肩透かしをくらう。
リンカーン&アメリアのコンビニは及ばないものの、楽しめるバディ・サスペンスとしてオススメする。
スパイダー・ゲーム (文春文庫)
No.1415: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さすが、稀代のストーリーテラー。期待を裏切らない!

ロンドン警視庁ウォーウィック刑事(現在は警視)シリーズの第6作。1996年のロンドンを舞台にウォーウィック警視が大英帝国王冠を巡って宿敵・マイルズとギリギリの戦いを繰り広げる警察ミステリーである。
ウォーウィックの証言によって服役させられたことを恨んでいる詐欺師・マイルズの元に、ウォーウィックはもちろん同僚のロス、上司のホークの三人をまとめて辞職に追い込む作戦があるという電話があった。それは国会の開催を宣言する際に女王が戴冠する大英帝国王冠を奪うという大胆不敵なもの。通常は警備堅固なロンドン塔に保管されている王冠が、その日は宮殿に移送され、ウォーウィックたち王室警護本部が警備を担当する。もし王冠が奪われれば、ロンドン警視庁王室警護本部の関係者の首がとぶのは間違いないと確信したマイルズは周到な計画を立て、実行する…。
当然のことながら最後には警察が勝利するのだが悪党たちの計画立案、実行のプロセスも、受け身に立たされた警察の必至の捜査も迫力満点。サイド・ストーリーである名画のすり替え作戦も面白く、お約束の物語展開でも十分に楽しめる。アーチャー83歳時の作品だが、そのストーリー・テラーの才能はいささかも衰えていない。
シリーズ愛読者以外でも文句なしに楽しめる傑作としてオススメする。
消えた王冠は誰の手に ロンドン警視庁王室警護本部 (ハーパーBOOKS, H238)
No.1414:
(8pt)

暴力シーンを始め、全てに力が入ったデビュー作。

先行して邦訳された3作品がいずれも好評を博し、日本でも日の目を見ることになったコスビーの長編ビュー作。前3作同様、ヴァージニア州を舞台に黒人青年が町の腐敗を暴く「サザン・ノワール」である。
自らの粗暴な行動が原因で保安官事務所を追われ、葬儀社に勤めるネイサンを二人の老婦人が訪ねてきた。彼女たちが属する教会の牧師が自宅で死体で発見され、銃による自殺とされたのだが納得できないので調査してくれという。過去の因縁から気が進まないネイサンだったが、調べを進めると多くの信者を集め隆盛を誇っていた教会には隠された裏の顔があることがわかってきた。その闇は深く大きく、黒人が口を出すことを嫌う保安官事務所や白人社会からの妨害を受けながら、ネイサンは孤独な戦いを貫こうとする…。
これまでの3作の同じく、南部の田舎町の人種差別を通奏低音にキリスト教の頑迷さとも徹底的に戦うストーリーは緊迫感がみなぎっている。さらに容赦ない暴力シーンが重ねられ、全編を通して作者の若さと意気込みが表れている。ところどころに挿入されるジョークやワイズクラックにも硬さが感じられるのはご愛嬌。
コスビー・ファンは必読、現代ノワールのファンにもオススメしたい傑作エンターテイメントである。
闇より暗き我が祈り (ハヤカワ・ミステリ文庫)
S・A・コスビー闇より暗き我が祈り についてのレビュー
No.1413: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まさに「怪作」

一部ではジョルジュ・シムノンの後継者と言われるフランスの作家の2022年の作品。同年のゴンクール賞、ルノードー賞などにノミネートされたというが、位置付けが難しい小説である。折り返しの紹介文には「文芸スリラー」とあり、ネットでは「オフビート・スリラー」、「ひねりのきいたノワール」、「風変わりな推理小説」などと形容されているらしい。
結婚生活に危機を覚えた男が妻との関係修復を目論んでシチリア島にバカンスに出かけたのだが、なぜかやることなすこと悪い方向に転がり、とんでもない結末を迎えるというドタバタ劇。主役の男の言動、心理が謎だらけだが、一緒に行動する妻の方もかなりの変わり者で、二人とも常識はずれである。そこを面白がれるなら高評価になり、そこで波長が合わなければ読んで損をしたとなる。読者を選ぶ作品である。表紙のイラストが本作のテイストをうまく表している。
迂回
イヴ・ラヴェ迂回 についてのレビュー
No.1412: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ラストシーンまで、ハードボイルドに徹底した傑作。

1985年、著者初期の力作。日本にハードボイルドを定着させた傑作エンターテイメント作である。
ただひたすら友のために体を張って突っ走る、主人公の命懸けの言動がダイナミックでインパクトがある。ヤクザ映画や西部劇に源流を持つ、日本のハードボイルドの姿がくっきり見て取れる。
何も考えずに読書を楽しむことをオススメする。
友よ、静かに瞑れ (角川文庫 (6000))
北方謙三友よ、静かに瞑れ についてのレビュー
No.1411:
(7pt)

これはエッセイ?(非ミステリー)

一ページから十数ページまで長短さまざまな26本を収録した短編集。軽妙なオチのある作品があれば、淡々と事実を綴った(ような)作品もあり、統一したテーマがある訳でもなく読み続けていて落ち着かない。
それぞれの作品が開く扉、覗ける穴は天国への道か、地獄への奈落か。一番感じたのは人生への諦め、諦観だった。
訳者あとがきを先に読む方が理解しやすいかもしれない。
午後
No.1410: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ヒロインの魅力が7割、ストーリーの面白さが3割

イギリスの人気作家グリフィスの「ハービンダー・カー刑事」シリーズ第3作。ロンドン警視庁に異動したカーが名門校の同窓会で起きた殺人の謎を解く、正統派の犯人探しミステリーである。
有名人が集まったマナーパーク校の同窓会で下院議員のゲイリーが死んでいるのが見つかった。現場に到着したカー警部は部下の刑事部長・キャシーが居ることに驚くが、キャシーも同窓生だったのだ。検視の結果、ゲイリーはドラッグによる死に見せかけた殺人であることが判明。犯人は同窓生だと判断し、カー警部は彼らの濃密な人間関係の中に動機を探すのだが、誰もが怪しく見え捜査は難航する…。
ヒロインのカーはインド系、独身、レズビアンというかなりのマイノリティーで、しかも表面的には穏やかだが内面は激情型の人物。捜査過程で漏らす心の内の本音が面白い。物語は21年前の事件が波及した多重殺人というよくある話だが、犯人探しはかなり難しい。帯の「意外な犯人に驚愕」とのセールストークはオーバーだが、いちばん怪しくない人物が犯人っていうセオリー通りかな。
英国謎解きのお好きな方にオススメする。

小路の奥の死 (創元推理文庫)
エリー・グリフィス小路の奥の死 についてのレビュー
No.1409:
(9pt)

60年代の作品だが、現在に通じる緊迫感がある名作だ


▼以下、ネタバレ感想
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ゆるやかに生贄は (新潮文庫)
ドロシイ・B・ヒューズゆるやかに生贄は についてのレビュー
No.1408: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

すいすい読めて読後感は爽快(非ミステリー)

2005年に刊行された、著者お得意の銀行員物語。いつも通りの勧善懲悪、ハッピーエンドで終わる銀行内部の闘いは予定調和と言えばそれまでだが読みやすく、読後感も爽快なので、どなたにもオススメできる。
銀行仕置人 (双葉文庫)
池井戸潤銀行仕置人 についてのレビュー
No.1407: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人探しが大好きな人に

日本デビューの前作「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」が好評だったオーストラリア人作家の第二作。本作もまた、登場人物全員が怪しい謎解きミステリーである。
まぐれ当たりの処女作が売れただけの駆け出し作家であるアーネストが、なぜかオーストラリア推理作家協会の50周年記念イベントに招待され、ガールフレンドのジュリエットと参加することになった。旅は豪華な大陸縦断列車の貸切車両で、著名な作家たちと一緒だという。あわよくば、書き始められなくて焦っている新作へのヒントが得られるのでは、ひょっとして推薦文まで貰えるかと期待し、さらにジュリエットにプロポーズするチャンスと張り切ったアーネストだったが、早々に作家の一人が殺害され、またもや探偵役を果たすことになる。作家というクセのある人物揃いで、誰もが被害者を殺害する動機があり、素人探偵には雲を掴むような状態に陥った。そこに、第二の殺人まで発生し・・・。
前作の雪に閉ざされたリゾートから今回はオーストラリア大陸を縦断する長距離列車「ザ・ガン」の三泊四日の旅に舞台を移した犯人探し物語。信頼できる語り手が謎解きに必要な要素は全部並べ立てるフーダニットの王道に、タイムリミット要素が加味されたところが作者の腕の見せどころ。フェアプレーのための解説が少し煩わしいが、それも読者への挑戦を楽しんでいる故だろう。
謎解き、犯人探しマニアにオススメする。
真犯人はこの列車のなかにいる (ハーパーBOOKS)
No.1406: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

こういう伊坂ワールドもあるのか〜。

猪苗代湖で開催される音楽とアートのイベントのパンフに、毎年連載された短編を集めた連作短編集。著者が好きな音楽と絡めて、ちょっとふんわりした人情噺とお得意のスパイ話をミックスしたファンタジー作品である。
こちらの世界とあちらの世界を行き来する扉の出現が伊坂ワールドといえばそうなのだろうが、いまいち乗り切れなかった。
マイクロスパイ・アンサンブル (幻冬舎文庫 い 57-2)
No.1405:
(8pt)

とんでもなく読みづらいが、読む価値あり!

1984から85年まで、一年に渡って継続されたイギリスの炭鉱ストライキを真正面から取り上げたノワール・フィクション。独特の文体で読みづらいことこの上ないが、読み通せばサッチャリズムと新自由主義の残酷さが身体感覚で分かる力強い作品である。
サッチャー政権の炭鉱閉鎖政策に反対し、全国炭鉱労働者組合が始めたストライキは全国的な支持を集めたのだが、警察ばかりか軍隊まで動員した暴力的弾圧、卑劣な労働者分断作戦により徐々に弱体化し、炭鉱労働者側の敗北に終わった。その一部始終を労組、政権の主要人物を中心に時系列で解いていくストーリーはさながらシェイクスピア劇のごとくドラマチックである。特に政権の裏仕事を担う「ユダヤ人」の暗躍、ストに参加した末端労働者の苦悩は鬼気迫るものがある。
サッチャーを崇拝する高市政権がいかに危険か、これを読めば納得できるだろう。オススメだ。
GB84 上
デイヴィッド・ピースGB84 についてのレビュー
No.1404:
(8pt)

さらにさらに過激になるから面白い。ミロ・シリーズの頂点か。

「村野ミロ」シリーズの第5作。40歳を目前に、これまでのしがらみばかりか自分の命までも断ち切ろうとするミロの激しい生き方が爆発するノワール・サスペンスである。
本気で愛し、それでも裏切りを許せず刑務所送りにした成瀬は10年の刑に服していた。成瀬の心に自分はどう刻まれているのか、それを知るためにひたすら出所を待っていたのだが、成瀬は獄中で自殺していた。さらに義父・村野善三が、それを知りながらミロには黙っていたことが判明した。この裏切りに激怒したミロは探偵を辞め、新宿を引き払い、善三を殺すために小樽へと向かう…。
40歳になっても一向に大人になれないミロの熱さが凄まじい。義父・善三の死を招いたことで善三の内妻や旧友のヤクザに追われ、行き場を失ったミロは韓国に逃亡し、そこでもヤクザに追われる身になる。八方塞がりをどう突破するか、型破りな戦術が激しい摩擦を引き起こし、ミロはさらに過激に、さらに遠くへ行こうとする。そして最後、ミロの人生に大きなターニングポイントが訪れる。ひょっとするとシリーズの頂点になりそうな力作だ。
シリーズ愛読者には絶賛してオススメする。
ダーク (上) (講談社文庫)
桐野夏生ダーク についてのレビュー
No.1403:
(7pt)

全てが大時代的で、自分には合わなかった

ネロ・ウルフ・シリーズの中でも「アーノルド・ゼック三部作」と呼ばれる三部作の第一作。
ラジオ番組の放送中にゲスト出演していた競馬新聞発行者が絶命する事件が世間を騒がせていた。金欠に陥っていたウルフは自分から売り込み、調査を引き受ける。という犯人探しが主軸で、乏しい証拠にウルフと助手のアーチーが四苦八苦していると、さらに別の殺人事件の存在が分かり、ウルフは同一犯によるものと推理する…。
物語の展開がスローだし、挿入されるエピソードもシリーズ愛読者なら楽しめるのだろうが、ネロ・ウルフが初めての自分には少しも面白さが感じられなかった。最終的にはウルフと死命を決することになる宿敵・ゼックが数カ所、短時間の電話でしか登場しないのも拍子抜け。評価は6.5かな。
シリーズ愛読者、古典的ミステリーマニアにオススメする。
忌まわしき悪党
レックス・スタウト忌まわしき悪党 についてのレビュー
No.1402: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

第二部から俄然、面白くなる!

2022年にN.Y.Timesのベストセラーリスト1位に輝き、すでに映画化されているという話題作。十年間の刑務所生活から仮釈放で出てきたミリーがやっと見つけたハウスメイドの仕事だったが、豪邸に暮らすその家族はどこかおかしかった。そしてミリーが一家の秘密を知ったとき…という不気味なミステリー・サスペンスである。
雇い主のニーナは情緒不安定なサイコパス? 一人娘のセシリアは手に負えないわがまま娘、そんな二人に挟まれながら主人のアンドリューは家族思いで穏やか、理想的な夫・父親だった。アンドリューがなぜ、こんな家庭に暮らせるのか? ミリーは徐々に一家の秘密に触れ、思いもよらぬ家族関係に驚愕する…。
第一部はミリー視点での一家の暮らしぶりが描かれ、ニーナやセシリアの滅茶苦茶な振る舞いに苦笑、嘆息するばかりでやや退屈。しかし、ニーナ視点で語られる第二部になると全てが逆転する、とんでもない関係が明らかになり、一気にサスペンスが盛り上がる。この構成の妙は素晴らしい。
舞台は一家の周辺に限られているし、主要登場人物は五人だけなのでどんでん返しにも読み筋を見失うことがない。翻訳ミステリーが苦手という方にもオススメしたい傑作エンタメである
ハウスメイド (ハヤカワ・ミステリ文庫)
フリーダ・マクファデンハウスメイド についてのレビュー
No.1401: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

いろいろ詰め込み過ぎだが、物語の構成は上手い

弁護士出身の米国若手作家の本邦初訳(おそらく)。焦げた料理、血まみれの靴を残して実家から姿を消した母を探すうちに母にも、父にも隠された一面があることを知った娘が真相を探り出す親娘の物語である。
大学生のクレオが母に呼び出されて実家に帰ると、そこに母の姿はなく、レンジでは鍋が焦げつき、血まみれの靴の片方、割れたグラスの破片が残されていた。潔癖で几帳面な母には考えられない事態にクレオは事件を疑い、母の勤務する弁護士事務所を訪ねて事情を探ろうとする。映画制作者の父とは円満で仕事面でも敏腕弁護士として活躍していた母だったが、調べるうちに母が語っていなかったことや嘘が判明し、父と母の関係も離婚寸前であることが分かってきた。一方、クレオも干渉が過ぎる母に対する反発から母には言えない秘密を抱えていたのだった…。
オープニングは典型的なワイダニット、フーダニットだが、親娘それぞれの秘密や嘘が徐々に露わになり吸ったもんだの挙句、最後は親娘の和解へと流れて行く。薬害訴訟、SNSの弊害、壊れやすい夫婦関係など途中に挟まれるエピソードが多過ぎて、物語の本筋に集中しきれないところはあるものの、エンディングまで上手に繋げているので読後感は悪くない。
謎解きというより現代の親子関係のねじれを垣間見るファミリー・ストーリーとして読むことをオススメする。
母の嘘、娘の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)