(短編集)
午後
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全1件 1~1 1/1ページ
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一ページから十数ページまで長短さまざまな26本を収録した短編集。軽妙なオチのある作品があれば、淡々と事実を綴った(ような)作品もあり、統一したテーマがある訳でもなく読み続けていて落ち着かない。 | ||||
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| 26編の連作だが、短編小説的なものからわずか1頁にも満たないショートショートまである。雑誌連載にしては不揃いだが、あるいは著者が表題の「午後」のひとときに書きためたものだろうか(解説で触れてほしかった)。 しかし、内容は凝縮されており、著者の過去の著作やそのバックグラウンドとなる文学や芸術の知識がある程度は必要だ。例えば、24番の小説『山猫』を題材にした話は、ヴィスコンティの映画を見ていない人にはその面白さがわからないだろう。 ちなみに、著者は、自らの人生を変える衝撃を受けた芸術として、文学ではトーマス・マン、トマージ・ディ・ランペドゥーサ、イーヴリン・ウォー、アルベール・カミュ、マルクス・アウレリウス、美術ではアルベルト・ジャコメッティとカスパー・ダーヴィト・フリードリヒを挙げている。 連作全体を通じて描かれているのは、作家である著者を含む芸術家の孤独であり、著者らしい高踏的でややシニカルな観点が言葉の端々にあらわれている。 例えば、錬金術師キーファーと女性詩人バッハマンについて書いた7番で、著者は次のように言う。 「芸術が生まれるのはつねに、芸術家が世界に不安を感じるからだ。この世界はその芸術家に合わない。芸術家は疎外されていると感じ、自分には居場所がないと思う。だからすべてを理解し、自分に相対するこの世界を整理し、音楽や美術や文学を通して真理を見いだそうとする。」 ところが、バッハマンが文学の使命を「新しい言葉による世界の変革」と言ったのを著者は間違いだと否定し、芸術に「使命」などなく「慰める存在」でしかないとする。 こうした著者の屈折した芸術観は、10番の「エレガントで、無敵だった」にもかかわらず心の拠りどころがなく酒に溺れた父親のようになりたくないと弁護士になったという著者の経験を反映しているのだろう。 この点、17番では著者の友人の言葉として「中庸」を引用しているのは印象的である。カール・ポパーの崇拝者だった友人は、ISによるヤズーディー教徒の大虐殺の現場を見てその悟りを得、オスロで「中庸」の実践としてスーパーマーケットを開業した。 さらに、23番では、「演奏の日程と旅行とレコーディングとコンサートとエージェントの要求」しかない人生は音楽と何の関係もないと言ってキャリアを捨てたピアニストの話が引用されるが、著者自身もガリマール書店の設定したインタビュー企画について、「私が書いたはずの本について語らなければならないのに、その本が他人の本のように思えた」と語っている。 自分自身をプロデュースしていかなければならない現代の芸術家の孤独と疎外感、さらには売れっ子作家の深い疲労を感じさせる言葉である。 | ||||
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| シーラッハを読むのは、「珈琲と煙草」(2023/2月)以来になります。 タイトルのついていないエッセイとショート・ショートと短めの短編小説が26篇収録されています。それともそれらの1篇、1篇が読者のコンディションによって微妙に反響の変化を齎す読み物とでも呼べばいいのか? ・赤い糸。トーマス・マンとフィッツジェラルド。 ・裸足のイサドラ。 3.あの頃繰り返し見た「ロスト・イン・トランスレーション」(監督:ソフィア・コッポラ)。何と見事な<犯罪小説>の傑作。 ・ピラトはたずねた。 5.手作り時計。見事な反転を持つ<犯罪小説>の傑作ではないか。 ・事故とゲーテ。 ・作家たち。絶望と死。 8.「性嗜好の障害」についての素敵なミステリではないか。 ・匂いと音。 ・作家はカフェで何を思い、タバコを吸い続けるのか?作家はいつも眠く、疲れているから。 ・トーマス・マン。チャーミングなショート・ショートではないか。 ・女性と病院。よりチャーミングなショート・ショートではないか。 ・コントロールされるメディア。 ・女性たち。何とも素敵なショート・ショートではないか。 ・「宇宙望遠鏡」とヴィトゲンシュタイン。 16.葬儀。「自転車泥棒」。これもまた傑作。もしかするとこれが一番いいかもしれない。 ・ジャコメッティ。 ・離婚したソフィー。凄まじくキレのあるショート・ショートではないか。 19.ワインスタイン。強烈だ。 ・トムとボクシングと酒。愚かで勇敢な男たち。 ・詩人と自死。 22.オスロ。大傑作。私の中学時代のガールフレンドの名前は「庸子」でした。彼女のお父さんは、彼女に「中庸」であってほしいと望んだそうです。 23.パリのピアニスト。嗚呼、これもいい。 ・死と哲学。 ・虚しさと「山猫」。 ・ふたたびジャコメッティ。孤独を分かち合うこと。 ということで、私が書きすぎていないといいのですが。番号のついた短めの短編は、それぞれが独立した傑作ミステリー(或いは、短編小説)として記憶されることでしょう。かつてスタンリー・エリンの長編小説には、その全ての章立ての終わり毎にツイストがあったと思います。シーラッハはその全てに<驚き>をもたらしてくれました。 イタリアン・ネオ・リアリスモがあって、シュールなブニュエル映画があって、ヌーヴェル・ヴァーグに彩られながら、それらがしっかりとフィルム・ノワールしている。そんな感想になりますが、シーラッハはそんなものには目もくれないと思います(笑)。 ◻︎「午後」(フェルディナント・フォン・シーラッハ 東京創元社) 2025/11/22。 | ||||
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