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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数62

全62件 1~20 1/4ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.62: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

読み応えのある物語

ミステリー度は低いです。それよりも完成された物語の面白さに引き込まれて読み耽りました。
時代背景、人間関係の背景がしっかりと描かれているので物語のデティールが際立っている。
それぞれの心情が上手く描かれ無理のない事態の流れ、時の流れが物語を紡ぐ。
刑事の来訪で捨てた故郷に帰る主人公の回顧を通して物語は展開する。
閉鎖社会の中での暮らし。時を経て継がれていく因習。逃げられない運命。こういった
一つ一つのピースは目新しさはないけれど、物語の中に引き込む筆力がそれらを忘れさせる。
主人公の必要とされない寂しさが良く分かる描き方は上手い。
最後の真琴の言葉が救われる思いだ。 一気読みに近い形で読み終えた。満足の一冊。
冬雷 (創元推理文庫)
遠田潤子冬雷 についてのレビュー
No.61:
(9pt)

アウトロー小説の面白さ

建設コンサルタントを仕事とする二宮にはサバキを依頼する相手として極道の桑原は顔見知りだった。
シリーズ一作目はこのような二人の関係だけれど二作目、三作目、となると二宮が桑原に引っ張り廻されるようになる。
この一作目でもその下地が出ていてなんだかんだと引きずり回される二宮の様子がオカシイ。
だが二宮も堅気とはいえ博打は好きだし酒や上手い食い物には目が無い。そして金にも執着する。
一作目として人物の造形がキチンとし、二人が動き回る行動原理もハッキリしている。
後はどんなドラマを描くのかとなるが、そこに産廃という現代にとって無視できないゴミ問題を絡ませてきた作者。
関西弁のノリの良さ。二人のセリフのバカバカしいやり取り。大阪を舞台にしたドタバタ劇だけれど内容はリアルで、世間に名の通った企業でも
ひとつ裏側から見れば、というありきたりの設定もこの作者にかかればずいぶんと納得させられる話になる。
絡まる人間の欲が物語の面白さにつながるのだけれど、この物語に善も悪も無くただ金を巡る駆け引きで最後に誰が勝つのかというハリウッド映画的な
面白さがこの本のすべて。大阪中を走り周り殴り殴られ金の匂いを追っていく二人の行動が痛快なエンターテインメントだ。
二人のコンビの絶妙さがこの物語を面白くし、読んでいて飽きさせないポイントになっている。


疫病神 (新潮文庫)
黒川博行疫病神 についてのレビュー
No.60:
(9pt)

北の怖さが伝わるお話

二宮が疫病神と嫌う桑原にいつものパターンで引き込まれて北朝鮮まで行くことになる話の導入部も無理が無く
相変わらず物語の展開が上手い人だと思う。最後に次の資料を参考にしましたと北朝鮮関係の本がズラリと示されているように
この作家は徹底した掘り下げ方をする。しかし、物語そのものは金の奪い合いでありシノギのためには相手を出し抜くことしか
方法がない。云ってみればそんなドタバタ話しだけれどこれが面白い。北朝鮮での二人の行動もデティールがしっかりしているから
否が応でも緊迫感が増す。主人公の二人も調子よく無傷でスイスイ危機をかいくぐって行くというような都合の良い軽さはない。
二宮などはヤクザに捕まりボコボコにされることは何度もある。しかし、機転を利かせてそこを抜け出すのがつまりは金だ。
金を武器に人を動かし情報を集める、そんなシンプルな方法で裏側に潜む奴らに迫る二人。刑事の中川や死んだ親父の昔の彼女などが
重要な話を聞かせたりと、少し都合が良いがその辺は誰かが話さないと物語が先に進まないのでやむを得ない。
北朝鮮であったり産廃であったり詐欺師や乗っ取りの話しで出てくる金融や整理屋などの裏社会の話しもこの作家は詳しく調べて書いているので
より物語に深みが出る。そんな中イケイケヤクザの桑原と引っ張り回される二宮の笑える生き方と金への執着心。
舞台となるのはいろんな業界の裏の部分だけれど、この作家の筆の確かさはどれもスカッとしたエンターテインメントにしてしまう。
さて次はどれを読もうかとニヤニヤしている。
国境 (講談社文庫)
黒川博行国境 についてのレビュー
No.59:
(9pt)

直木賞受賞作ということで

直木賞受賞作ということで手にしたが大阪を舞台にしたハードボイルド小説といった感じ。
つまりフィリップ・マーロウのお話を大阪を舞台にしたらこうなるって意味。
セリフは当然大阪弁なので何となくユーモラスで読んでいて面白い。桑原と二宮のやり取りなどはニヤニヤしてしまう。
文章も簡潔というかくどい描写はなく展開がスピーディで面白い。展開と言えば先が読めないのも特徴で話が進むほどもつれてくる。
いろいろな出来事と人物が入り乱れるのだが、二人の行動がそれを一本の線にしていくところがミステリの謎解きの部分に当たり
読みだしたら止まらない。先に『後妻業』を読んでテーマになるところを詳しく調べてあったり、話の展開が上手く面白いなという印象の作家だった。
出てくるいろいろなエピソードも上っ面だけの知識だけで書いてはいないので物語世界をガッチリとしたものにしている。
『悪名』の八尾の朝吉と清次のコンビに似た二人の行動を追っていく物語だが、二人が動くのは金のためであり生き様はとてもシンブルだ。
酒と上手い食い物、それらに金を使うのには金額など頓着しない。こういったところも読み手のストレスを発散させるところがあって面白い。
どうもこの作家にハマったようなのでこのシリーズを読んでみようと思った。

破門 (単行本)
黒川博行破門 についてのレビュー
No.58: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

金の亡者の物語

結婚相談所に登録している資産がある老人、その老人をターゲットとして婚姻または内縁の妻として公正証書遺言を書かせたのち殺害する恐ろしい女。
その女がメインの物語かと思ったが違った。出てくる人物が金の亡者のように悪事に手を染めることを厭わないアウトローの世界。
その人間の陰の部分を描き、読みだしたら止まらないその筆力。始まりから最後まで話の展開が良いため自然に引き込まれる。
ただ、ラストはちょっとどうかな。 もと刑事に上手い汁を吸わせて消えていく最後で良かったのじゃあないかと思うんだけれど。
それだと平凡だからあのラストにしたのかも。でも初めて読んだ人だけれど他はともかくこれは面白かった。おすすめの一冊です。
世の中きれいごとばかりじゃないということ。24時間テレビは甘いおとぎ話に過ぎないと気付かされる物語です。
後妻業 (文春文庫)
黒川博行後妻業 についてのレビュー
No.57: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

不可能犯罪を解く

世界名作推理に入るミステリです。再読ですが内容をまったく覚えていませんでした。
つまり初めて読むのと同じということでした。密室ものです。不可能犯罪に挑む名探偵の物語ですが、密室と言えば大きな目くらましが必要です。
物理的なモノか心理的なモノか。それともその他のモノか。これは当時としては斬新な手だったことでしょう。それゆえ今も古典として残っているのでしょう。
大きなトリック。そして付随するトリック。二重三重の仕掛けが不可能犯罪を構成します。物語の中盤の出来事はビックリします。
追いつめた犯人が煙のごとく消え失せるというとんでもない事態を見せます。これは物語の中盤のだらだらとした雰囲気を避けるのと同時に探偵と読者両方に推理の
手掛かりを与えるという側面を持っています。しかし、これはやり過ぎです。今のミステリ読者ならここで『疑う』という方向に気が回ります。
根本的な仕掛けに気付く危険が大です。何故このような展開にしたのでしょうか?見破られないという自信があったのでしょうか。ルルーに聞いてみたいところです。
細部にはツッコミどころがあると思いますが、最後の法廷での謎解きを披露するところは面白いです。しかし、あの解決は首を捻らざるを得ません。
6時半にならないと犯人の名前を言えないとする彼のやり方。相手は殺人犯です。何故あの解決の仕方になるのか納得がいきません。
しかし、ミステリにおける一つのパターンを創造したルルーは後世に名を残す栄誉に恵まれました。幸運なことです。


黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)
ガストン・ルルー黄色い部屋の謎 についてのレビュー
No.56: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

読まずに死ねるか!

史実の青函連絡船海難事故や戦後の荒廃した世相と風俗をもとに事件を起こした男と函館、札幌、舞鶴の刑事たちが必死に男の追跡を行い真犯人に迫っていく過程が描かれた物語。
札幌、函館の刑事たちの追跡から消えた男が10年の歳月を置いて再び事件を起こす。そのきっかけとなったのは一人の女。大罪を犯した男が10年前に人間らしい行いをその女に施したばかりに
自身に疑惑の目が向けられる結果となる皮肉。実際にあった海難事故。台風により転覆した青函連絡船。wikipediaによると死者・行方不明者1155人となっている日本の海難史上最大の惨事である。
浜に打ち上げられた何百という死体。乗船名簿と遺体を引き取りに来た遺族の照合のあとに残った遺体が二つ。誰も引き取りに来ない遺体が二つ残った。頭に傷のある二つの死体。
ひとりの刑事が不審を覚える。しかし、大惨事の中で体に傷を負った死体はおかしくはない。それが大方の意見であった。出航間際に乗り込む人間もいてそんな場合は名簿に記載しないこともあったという事実。
大勢に押し切られる形で一人の刑事の思惑は消えていく。そして函館から130キロほど離れた町で火災が起きる。台風の風に煽られた炎は町の三分の二が焼失する大火事となった。
火元の質店では一家四人が殺害されていた。地道な聞き込みだけで調べを進める刑事たち。昭和22年という時代では今の科学捜査など夢物語だ。
丹念に世相を切り取りながらそれぞれの人生が描かれる物語。敗戦国の貧しさが生んだともいえる事件。単行本上下巻に収められたこの物語は読まずには死ねない。
飢餓海峡(改訂決定版) 上
水上勉飢餓海峡 についてのレビュー
No.55:
(9pt)

映画愛につつまれて

映画は各ポジションの職人が結束して作り上げる総合芸術だということが今さらながら良く判るお話です。
各々のプロが主人公となって映画作りにおけるその部署の技術の凄さを知らしめると共に、そのキャラクターを生かした短編小説になったものを読み進む構成になっている。
監督、助監督、美術、照明、衣裳、録音、俳優とプロデューサーたちにスポットを当てた一話形式で、そのあとに全員が係わり一本の映画を作る様子がメインの長編小説となっているかなりのボリュームの本である。
制作部とはプロデューサーの指示のもと予算やスケジュールを管理しお茶を沸かしロケ弁を注文し撮影が終わったら清掃する。演出面以外のあらゆる雑用をこなす制作部なくして現場は回らない。
こんなプチトリビアが随所に散りばめられた映画愛につつまれたお話がいっぱいです。
一つ一つの短編もキャラクターを上手く生かしたエピソードが綴られており映画製作における苦労に理解が及ぶお話ばかりです。
内容もちょっとしたミステリ味になっていて、まぼろしの脚本を探しそれを映画として作り上げる監督その他の各セクションのプロたちの情熱が熱く伝わってきます。
単なる読み物としても面白くちょっと日常から離れてこれまで知らなかった世界で遊ぶという楽しみが味わえる本です。
かなりの資料やアドバイザーの協力が無ければ書き上げるのが難しい本で著者の熱量も半端ないと思います。
この著者は独特というかボキャブラリーが豊富でそれでいてセンテンスが短く事態がさくさく進むので物語そのものはスピーディな展開で読みやすい。
映画が好きな人にはおススメできる本です。
七日じゃ映画は撮れません
真藤順丈七日じゃ映画は撮れません についてのレビュー
No.54: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

作り上げた世界の凄さ

蜘蛛にかまれてスパイダーマンになった。まあそんなようなお話です。しかし、これが凄いのです。( ´艸`)
そんな特殊な世界をキッチリ取材し文献をあさって構築した主人公の世界。これだけでも読み物として十分満足できるほどの面白さです。
空想の世界ですが全くのほころびがありません。匂いを視覚で知覚するという彼の世界が分かりやすく読みやすく書かれています。
相当なボリュームの本ですが大部分が彼の置かれた世界について学術的な面を入れて描かれています。
オイオイ、殺人犯の追跡は、と思わずにいられないところもありますが途中飽きるということはけっしてありません。
流石にセリフなどは時代を感じさせますが、今これを手にして読んでもその面白さは色あせていません。
少し気になるところを書くと、岡嶋二人のころから感じていたことですが人物造形がマンガ的だということです。
そして対する人とか組織などを描くときその捉え方が画一的というかステレオタイプに書かれているのがちょっと気に入りません。
この本でいえばテレビ局の人間とかマスコミの人間をありきたりの表現で描いていることです。チープな表現といっても良いでしょう。
読書が好きな人は色んな本を読みます。記者(といっても新聞、週刊誌、テレビのニュース班などいろいろですが)を主人公にしたお話の場合
残酷な事件の被害者の家族とか遺族に話を聞きに行きます。より事件の悲惨さや遺族の悲しさを読者に伝えるためには欠かせない取材です。
記者が主人公の時はこの辺はキッチリと書きます。野次馬気分で取材などするわけではないと記者の使命についてやその時の心情を入れながら描きます。
ところが他の話しの中にマスコミが出てくると、悲しみに暮れる家族にマイクを突き付けてとか、ネタが欲しいだけとか番組を面白く作りたいだけだとか
マスコミの人種といったものを貶めるだけのような書き方をする場合が多々あります。それは違うだろうと思うわけです。
この本でも警察やテレビ局の人間などをそんな風に表しながら書いているところがちょっと気になります。
それらを除けば非常に思いを込めた著者の熱が伝わる異色のミステリとして楽しめます。
オルファクトグラム〈上〉 (講談社文庫)
井上夢人オルファクトグラム についてのレビュー
No.53: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ジャーナリストとはなんて肩ひじ張らずに事件を追う

業界の打ち明け話まで披露しつつ幼女連れ去り殺害事件を追う新聞記者たちの物語。
新聞記者を主人公にした物語なんてあまり読まないが数少ない読書はあの「クライマーズ・ハイ」だ。 あれは映画でもそうだったが
出てくる人物みんなが本音をズバズバ言い合うのに驚かされた。社内でも一触即発の雰囲気でとてもじゃないが現実にはあり得ない様子が描かれていたのを覚えている。
だがこの本も新聞を作るということに関してはそれぞれの立場の人間が遠慮会釈なく意見をぶちまける。
幼女誘拐殺害事件で主人公が勤め舞台となる中央新聞は誤報を打つ。それぞれが責任を取り胸に重いしこりを残す。
七年後にまた事件が起きる。幼女を連れ去る犯人は単独犯か複数犯か? 夜討ち朝駆けで事件を追う様子がそれぞれの視点で描かれ動きを追う展開だ。
地方局に飛ばされたもの、社会部記者から離れたものが再び起きた似たような事件の取材に奔走する様子がケレン味のない文章で語られる。
記者の視点で描かれているので警察の動きはメインにはなっていない。それが取材により事件の動きが明らかになっていくところがある意味新鮮で面白い。
もと新聞記者という著者の経歴が生かされており適度に重さもある物語としてガッツリ読ませる内容だ。ミステリとしての味わいは薄いけれど事件を追う様子がそれぞれの記者の
キャラクターと共に興味深く読める。 これは一読の価値ありと個人的にはおススメ。
ミッドナイト・ジャーナル
本城雅人ミッドナイト・ジャーナル についてのレビュー
No.52: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ちょっと毛色の変わったミステリがお好みなら

連作短編集となっている少し毛色の変わったミステリ。
語彙が豊富で語り口が面白いが、内容は人間の闇の部分が引き起こす残忍な事件を交番勤務のシド巡査が解き明かすミステリ仕立てという趣向。
9作が収められているがどれも読みごたえのある内容で引き込まれながら読んだ。
主人公のシド巡査のキャラクターづけも良いと思う。これまでにないキャラクターの創造じゃないかと思ったがどうだろう。
どれも捻りの効いた内容で書かれており軽さとかでスラスラ読めるようなそういったミステリではない。
けっこうこちらに訴える内容のものもあって引き込まれながら読んだというのはそういう意味だ。
明るい感じのコージーミステリのあとにこちらを読んだとしたら、ちょっと胃にもたれる感じがしないでもない。
そんな表現があいそうな毛色の変わったミステリということです。
この並みではないところがこの本の面白さという評価になります。
この作者面白い。( ´艸`)
夜の淵をひと廻り (角川文庫)
真藤順丈夜の淵をひと廻り についてのレビュー
No.51: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

これは凄い!

読んだ後で、ああ、あのミステリを思い出したとその本のタイトルを書くだけでネタバレになる内容です。(笑)
原田マハの「楽園のカンヴァス」などが楽しく読めたという美術好きな人にはこのミステリも楽しめるでしょう。
この人の本は未だこれだけしか読んでいませんが、この本を読む限り堅苦しくなくそれでいて洒脱な感じの文章でとても
読み進むのが楽しかったです。そして構成の妙で村を徘徊する老婆のモノローグがこの事件の興味をとても引き立てます。
直ぐにネタバレになる危ういトリックなので、レビューを書くにも十分に気を付けなければいけませんが、この手の物を書こうと思った時点で
個人的には拍手を送りたいと思います。本当にミステリが好きでなければこの手の物は手を付けないでしょう。
単に密室もののトリックを考える以上に神経を使うものですから。フェア、アンフェアの分岐点からは正直アンフェア寄りだとは思いますが
モネの村で暮らす人たちの物語として読めば十分に楽しめる内容です。ちょっとこの作家クセになりそうなので「彼女のいない飛行機」を
探してみようと思いました。うん、面白いミステリは楽しい。( ´艸`)
黒い睡蓮 (集英社文庫)
ミシェル・ビュッシ黒い睡蓮 についてのレビュー
No.50: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

秋の夜長にゆったりと読む

物語に合った文体がとても良くさらに雰囲気を醸し出すという効果を担っている。ガツガツした語り口ではなくゆっくり読み進むことがこのミステリを楽しむもう一つの要素だ。
いろいろなピースが最後に一つになる上に最後のうっちゃりがあってミステリとして満足のいく出来だ。
たった一点の問題点はある人物を探し当てるところが偶然なのか必然なのかというところ。居所を時間をかけて調べたのであろうがサラリと書いてあるので
偶然出会ったかのような印象を持ってしまう。大事なポイントと思うのでもっとしっかりした書き方をして欲しかった。


だがすべてが一本の線に繋がっていく過程をゆっくりと二人の視点ともう一人の人物の視点で語られる物語は読みごたえがある。
過酷な自然の中で暮らす人たちの生活と探偵役の老人の人生とがオーバーラップする語り口も中々良いと思う。だれしも年老いて身体が
思うように動かなければ嘆きと怒りが心中を占める。老人は身体は不自由になってもまだまだ頭は使えると、いろいろ考えて一歩ずつ真相に近づいていく様子を
丹念に描いているのがこのミステリのすべてだ。理路整然と思考するのではなく、一つ一つの出来事や他の人の話しから仮説を組み立てていくところがこの探偵役の老人の良いところであり、
この本はそこを楽しむミステリと云える。このエーランド島を舞台にしたミステリは四部作として書かれているのであとの二冊も楽しみながら読みたいと思う。

黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ヨハン・テオリン黄昏に眠る秋 についてのレビュー
No.49: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

北欧ミステリもいろいろあると

最近盛んに出版される北欧ミステリですが、一般的な火付け役としては「ミレニアム」三部作でしょう。 それ以前に「笑う警官」やヘニング・マンケル、そして「湿地」「緑衣の女」などが最近の高評価作品となっています。
そしてこの本の著者も北欧ミステリを読むなら外せない作家と云われています。 スウェーデンのエーランド島という島を舞台にした物語で、不穏な雰囲気が覆う島の歴史と自然そのものの気候風土の島で起きる事件を描いています。
ただクライマックスまでは展開が緩やかなので中には途中で退屈して本を閉じてしまう人がいるかも知れません。警官も新人の女性警官が事件を追うという設定で、日本のハードな警察物を読み慣れていて事件捜査とは
このようにして行うものとだと言った物差しで見ると警察の動きがのんびりしたものと感じてしまうでしょう。
しかし、国が違えばそういったことは当然です。この国の、この島の厳しい自然の中で暮らす人たちの生活を理解しなければいけません。
双子の灯台があるところから海に落ち妻のカトリンが亡くなったと知らせを受けたヨアキム。 事故か自殺か。ときおり挟まれるある女性の書いた物語。考えることが好きな老人の推理。すべてが繋がっていく物語。
スピリチュアルな出来事をどう捉えるかそれは読者の自由。しかし、すべてこの島の物語と云える。読後感の良い最後のエピソード。人はみな運命とともに生き思い出と幽霊になる。
中盤までの緩やかさとは打って変わって、クライマックスに向かうスリリングさは手に汗握る展開で予測がつきません。激しいブリザードという自然の猛威のなか吸い寄せられるかのように一か所に集まる主要な人物たち。
明らかになる意外な真相。隠された事実がじわじわと明らかになる過程。そこを楽しむのがこのミステリの正しい読み方でしょう。読ませる作家だと認識しました。
こちらが抱く愉快ではない想像を裏切って意外な犯人もちゃんと用意されていました。いろいろなエピソードのなかにも伏線はちゃんと張られていますしこういったスタイルのミステリも楽しいです。
冬の灯台が語るとき (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ヨハン・テオリン冬の灯台が語るとき についてのレビュー
No.48: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

地と血と再生の物語

どうしようもない時に人は神に祈る。ジョニーも母のキャサリンも祈った。しかし、何も変わらない。ジョニーの双子の妹アリッサが誘拐され、その後父が失踪する。
絶望のなか母は薬物と酒に溺れた。そして、実業家で町一番の金持ちケン・ホロウェイが母を頻繁に訪ねてくるようになった。
いくら神に祈ってもなにも変わらない。母を守るためホロウェイに反抗するジョニー。しかし大人の力には敵わない。身体中には痣だらけ。

だがそんなことは誰にも話さない。それも母を守ることだから。ジョニーは自分に言い聞かせた。絶対に強くなってやる。

独りで、時には親友のジャックとアリッサの行方を調べ続けるジョニーの行動がメインのストーリー。
ジョニーと刑事たちの行動をつぶさに追っていく展開が緊迫感を生みどうしようもないやるせなさが溢れる。
バラバラになった不幸な家族。 その再生の物語。 アリッサの行方は? 本当に父はジョニー達を捨てて何処かに行ってしまったのか?
十三歳のジョニーには過酷な運命。 しかし、ジョニーはそんな苦境にも負けない。もう決めたのだ神など信じないと。

「川は静かに流れ」同様にこの物語も家族をテーマにしたミステリで、少女が誘拐されて一年が経ったというところから始まる。
残された家族。主任刑事という責任ある立場で時間の経過に苦悩する刑事。

それぞれの立場が交差する中で事態が動き出す。スリリングに謎めいて動き出す。
登場人物すべてがこの物語に深い影を落とす。 ジョニーが胸の中で密かに願った三つの願いは神に通じるのか。
神はどう応えるのか最後のページまで目が離せない。




ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン・ハートラスト・チャイルド についてのレビュー
No.47:
(10pt)

運命の皮肉

刑期の満了する前日に脱獄する、その意味は? 惹きつけますね。
刑務所内でどれほどの命の危険に晒されたことか。しかし、オーディは10年を生き延びた。
人生は短い。愛は果てしない。あすがないつもりで生きよ。 ベリータとの約束のために生き抜いた。
刑務所でたった一人オーディを守ってくれたモス。オーディの脱獄のあと突然の移送の途中、車から降ろされ麻袋を頭に被せらたモス。拳銃を突き付けられて言われた言葉はオーディを探せ。
刑務所では、しくじれば死ぬ。人を見誤れば死ぬ。食事の時にまちがったテーブルにつけば死ぬ。廊下や運動場のまちがった場所を歩いても、
食事中うるさくしすぎても死ぬ。 過酷な十年を生き抜いて自由の身になれる前の日に脱獄したオーディ。そのオーディを追うモス。
そしてFBI捜査官のデジレーと保安官のバルデスがオーディを追う。

四人が死んだ現金輸送車襲撃事件。消えた七百万ドル。頭に銃弾を受け生命維持装置の中で奇跡的に蘇生したオーディ。
徐々に当時の事が明らかになっていく過程。 オーディの切ない運命。
小出しにされる謎もすべて明らかになっていく後半の展開が読ませます。 久しぶりに、う~んと良い意味で唸った読後感。

生か、死か (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マイケル・ロボサム生か、死か についてのレビュー
No.46:
(9pt)

㊟ 通勤電車で読んではいけません(笑)

下品な下ネタ連発のフロスト警部。何だこれってのけぞるミステリです。爆笑の連続ですが、デントン警察は流感の猛威に半数がダウンするという非常事態のなか雑多な事件が頻発します。
行方不明の女子学生、中傷する内容が書かれた手紙があちこちにばらまかれ、老人を狙った切り裂き事件まで起きる。新任のギルモア部長刑事はこ汚い恰好のフロスト警部の下で頻発する事件に引っ張り廻される。
ジャンルで云えばバークリーの『毒入りチョコレート事件』に代表される多重解決になるようだ。人手不足のデントン警察でも事件は待ってくれない。日勤、夜勤と眠る時間もなく事件の捜査に当たるフロスト警部。
署長のマレットに睨まれながら、チンポコだのお股だのと下品なジョークをまき散らしながら次々起こる謎めいた事件に奮闘する様子が描かれる。
とにかく下品なジョーク満載なので、吹きだすことは間違いないから、通勤電車などで読むのはやめましょう( ´艸`)
けっこうな厚さの文庫本ですが、このような内容なので途中で飽きるとかダレルといった心配はありません。軽い内容かと思わせますが事件そのものは残虐です。
カーチェイスありドタバタありとフロスト警部の活躍がこれでもかと書かれています。 しかし、これまでこんなミステリを読んだ経験がありません。
一つの新発見です。ユーモアミステリというのはありますが、それとも一線を画していると思います。デントン警察の面々もみんな素敵です。良いキャラクターばかりです。
読んでいてひとつ気が付いたのは、彼らは飲み物といえば紅茶なんですね。コーヒーを飲むところが一度も出てきませんでした。イギリスってそうなんですかね?
残念なことに作者は亡くなっているそうです。でも他にまだありますから他のフロスト警部のものも読んでみようと思います。
くさくさしている気分の時はこのミステリが何よりの特効薬です。ゲラゲラ笑ってミステリを楽しみましょう。 !(^^)!

夜のフロスト (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド夜のフロスト についてのレビュー
No.45: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

そしてミランダを殺すの感想

本というのも趣味嗜好品なので、ここで私がおススメの高評価をつけてもあなたには何の価値もないかも知れません。しかし、同じアンテナを持っている人であれば必ず楽しんで貰えるはずです。
最近読んだ中では間違いなく面白かったと言えます。物語が始まる空港のバーでの二人の会話からも面白さを予感します。女は本を閉じ、バッグのそばに表を上にして置いた。『殺意の迷宮』パトリシア・ハイスミス。
フフフ、と頬が緩みました。スリリングな展開が続くストーリーですが、それをきちんと書き表して読者を引っ張っていく文章力が魅力です。交互に一人の人物による視点で書かれて物語は進みますが、漠然とした予想は第一部までです。
第二部からは予想外の展開が続きます。この先どうなっていくのかまるで読めません。最後の第三部から始まる刑事の視点で進むところも良いですね。緊張がどんどん高まります。この構成の上手さがこの物語を面白くしている
一番の要因でしょう。それと重要なのは無理がないということです。書く側に沿った独りよがりな言葉を並べて物語を進めるのではなく、素直な気分で人物に感情移入出来るように書き込まれているのです。危ないぞ、気を付けろ、用心しろよと人物に入り込んでのハラハラ感が続く第二部などは堪りません。あと、小道具の使い方も中々どうして。サラっと読んだ駐車違反の切符のくだりも・・・・・・ね( ´艸`)。展開に繋がっていくひとつのキーになっているんですから侮れません。  著者の経歴など詳しいところは分かりませんが、これからも書き続けてくれるようなので他の作品も楽しみたいと思います。
うん、とにかく予想外の美味しさと量も大盛りだったのでお腹がいっぱいになり充分に満足しました、ということですね。 !(^^)!                 
                                   
                                   
                                   
                                   
                                   
                                   
               



そしてミランダを殺す (創元推理文庫)
No.44: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

犬の力の感想

まず初めに、この本はミステリではないのですが中々読ませる内容なので取り上げたということを了承していただきたい。もっとも読ませる内容といっても、まず女子供向きではないだろうということですが、
ハードボイルドや冒険小説が好みという人には十分楽しめるであろうとは思います。30年に及ぶ麻薬戦争の闘いを描いた物語ですが、残虐さや非常な暴力をリアルに描いています。
国境警備隊、FBI、DEA、州警察、連邦保安局、CIA、入国帰化局、アルコール煙草火器局、北米貿易自由協定、国家安全保障局、とキーワードはたくさん出てきますがすべての組織を動かしアート・ケラーはアダン・バレーラを追いつめます。しかし、「銀か鉛か」の囁きで汚職警官が生まれ政治家も一国の大統領さえも巨大麻薬カルテルと癒着するという現実に、その説得力あるリアルさが圧倒的なスケールで描かれ
ていて文庫本上・下の二冊のボリュームですが読み疲れるというようなことはありません。特に下巻のアート・ケラーとノーラとバレーラ兄弟との対決に向かうラストに至る後半はとても興奮しながら読みました。犬の力とは誰の心の奥底にも潜む邪悪な牙。アート・ケラーでさえも正義の名のもとにその犬の力をもって麻薬カルテルに立ち向かっていく。そんな物語であるのでこのタイトルはとても意味深で良いタイトルであると思います。
犬の力 上 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ犬の力 についてのレビュー
No.43: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

王とサーカスの感想

さよなら妖精に登場していた太刀洗万智を主人公にしてネパールを舞台にした物語。著者があとがきに記しているように、さよなら妖精の続編ではないので前作を気にすることなく読めます。
実際に合った出来事などを背景に使い、主人公の太刀洗万智がジャーナリストとして成り立っていく様子が描かれます。カトマンズの安宿トーキョーロッジ。そこに泊り客としている人々との邂逅から
ひとつの殺人事件に直面し、王家殺害事件の取材も絡めて万智の記者としての在り方、その根本的な問題に思い悩み答えを得て成長する姿がこの物語のメインです。殺人事件は王家殺害事件の取材の
過程で遭遇した予想外の事件です。死体に刻まれていた言葉から王家の事件と関連があるのかと思われますが、ミステリとしてはこの著者にはそんな単純さはありません。解明する過程もキチンとした
伏線回収で最後の真相に至ります。ホテルも外からは遮断されている状況だったりと、サラリとしてますが手が込んでいます(笑)。万智の人間的にも記者としても成長する姿を主に遭遇した殺人事件を
冷静な分析で解き明かすという、ミステリの味付けをした物語ですが根本的には一人の女性の生きる姿を描いた内容です。王とサーカス、このタイトルも秀逸と感じるジャーナリスト魂の物語と私は感じました。
王とサーカス (創元推理文庫)
米澤穂信王とサーカス についてのレビュー