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水時計



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【この小説が収録されている参考書籍】
水時計 (創元推理文庫)

水時計の評価: 3.80/5点 レビュー 5件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.80pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(4pt)

英国泥沢地帯の暗い冬を背景にした物語、北欧ミステリが好きな人は気に入りそうです

英国ミステリ作家ジム・ケリーが2002年に発表したデビュー作です。この方は長年、新聞記者として活躍してきたそうです。このシリーズの主人公ドライデンも地方都市イーリーの地元紙「クロウ」の記者ですが、取材事情や記事の締め切りまでのドタバタにリアリティがあるのは、ご自分の体験からきているのだろうと思います。
主人公が探偵や刑事でなく新聞記者ということ、交通事故で植物状態になった妻を抱えていること、運河に浮かんだボートで暮らし、主にジャンクフードばかり食べて暮らしているという荒んだ状況から、ミステリというよりはどちらかといえばハードボイルド的な印象を持ちました。主人公の鬱屈した精神状態や、背景となるイーリー周辺の泥沢地帯の荒涼とした風景、いかにも英国らしい寒く厳しい冬など、全体に暗く陰鬱な雰囲気がたちこめていて、どこか北欧ミステリにも共通したものを感じます。こういう傾向の作品が好きな方は気に入ると思います。
英国の小説には、詳細にその土地の気候風土を書き込む伝統があるそうですが、この小説も同様です。特に印象的なのは泥沢地帯です。海面下も多い湿原の低地で、何百年もの間”広大な荒地”と呼ばれて、7世紀頃には聖職者の隠遁の地となっていたそうです。干上がる夏には放牧地として使えますが、あとはあまり質のよくない燃料としての泥炭が採取できるくらいで、常に治水、排水の問題があり、冬には洪水も多発、空も大地も鉛色の風景描写が続きます。

前半では事件が次々にめぐるましく起こるので、おぼえておくのに忙しく、これらが果たして関連があるのかないのか戸惑います。
・まずはドライデン自身の過去の交通事故。暴走する車に正面衝突され凍った川に転落、妻ローラの救出が遅れて植物状態になってしまいましたが、いまだにその車のドライバーは明らかになっていません。
・教会の墓地が荒らされる事件。墓石までことごとく粉々にされたのは、ただ若い者のいたずらか、それとも犯人には何か目的があったのか。
・1966年の3人の強盗による給油所襲撃事件。大金と銀器が奪われ、店番の女性が撃たれて顔の半分を吹き飛ばされる重症を追います。身元が明らかになった犯人は1人のみ、そして3人とも逃走したまま行方不明に。
・大聖堂の修復中、屋根の死角になった場所で死後何十年もたった白骨死体が発見されます。それは給油所襲撃事件の犯人の1人でした。
・地元中学校で、備品やパソコンなどがプールに投げ込まれる事件。
・凍った川に沈んでいる車が発見され、車は盗難車で、トランクには後頭部を撃たれた死体が詰め込まれていました。
などなどです。

後半になると、だんだんと様々なことが明らかになっていき、最後はイーリー地方を襲った洪水の中で、とうとう犯人がドライデンの前に姿を見せるシーンへと収束されていきます。
確かにこれがデビュー作だとは思えない出来です。個性の強い登場人物像、独特の舞台背景、伏線が張り巡らされた複雑なストーリーなど、秀作ミステリだと思います。シリーズはすでにあと3冊翻訳されているようなので、次を読んでいきたいと思います。
水時計 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:水時計 (創元推理文庫)より
4488278051
No.2:
(4pt)

イーリーとは、島とウナギに由来する地名です。

以前より気になっていた作家ジム・ケリーの作品を読もうと思って、やはり処女作品からと思い本書『水時計』(原題:TheWaterClock)を入手した。
 この物語の舞台は、ケリーが現在住んでいるイギリス東部のケンブリッジの北東23kmにあるイーリーという町での話である。
 この町の人口は現在二万弱と典型的なイギリス田舎の小都市である。
 ただこの地方は、沼沢地が干拓された農地が多く大雨と雪解けが重なると洪水に襲われる(洪水に襲われるこの物語のエンディング描写も興味を惹いた)。
 本書の解説で杉江松恋氏が、ほとんど評者がレビューに書きたいようなことを網羅しているから、まぁ、杉江氏の解説の孫引きになるが、著者ケリーの抑えた文章に魅力があり、この寒々とした沼沢地の初冬の風景描写などは秀逸である。
 この町の最も象徴的なシンボルは「イーリー大聖堂」(11世紀から建造が始まり14世紀に完成した)である(本書中でも二人の日本人観光客が訪れている描写がある)。
 この物語は「水」が主人公ともいえるが、この大聖堂も欠かせない物語背景としてその存在感を主張している。
 沼沢地の水、河川の水、海から押し寄せる水、そして「水時計」。
 主人公のドライデンには、幼いころ凍った川でスケートをしていて氷が割れて溺れそうになったことがあり、それがトラウマとなっているから「水」が嫌いなのである。
 テーマそのものは、30年以上も昔に起きた強盗事件が絡んだ殺人事件なのだが、地方新聞記者としてドライデンが事件に関わってゆく過程が違和感なく描写されている。
 初作を読んだだけでまっとうな評価などするつもりはないが、解説の杉江氏が解説の中で、ジム・ケリーはホームペーの中で最も評価する犯罪小説作家として、R・D・ウィングフィールド、レイモンド・チャンドラー、など5名を挙げていた。
 一番に評者が最も好きな作家ウィングフィールド、そして次にチャンドラーを評価する著者に親近感を持ってまった。
 初作を読んだだけだから、このシリーズを少し読んでみようと思う。
 妻のローラの病状も今後どのようになるか?やはり気になるから・・・。
水時計 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:水時計 (創元推理文庫)より
4488278051
No.1:
(5pt)

シブい!!

イギリスの田舎町を舞台にした非常にシブいミステリです。地味だけど奇をてらったところが無く、人間の心理がよく描けている作品だと思う。たとえば妻が交通事故で長期間昏睡状態になっているのに、主人公は同僚の女性記者といい感じになってしまったりする。そんな主人公の心の弱さ、罪の意識などはとてもよく描けている。強権的な父親との葛藤を抱える刑事や、いろんな言語をマスターしようとしている変わり者のタクシー運転手など、どのキャラクターもリアルで人間味豊かだ。ヘニング・マンケルなんかが好きな人にはまちがいなくおススメできる作品だ。
水時計 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:水時計 (創元推理文庫)より
4488278051

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