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悪魔が来りて笛を吹く
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【この小説が収録されている参考書籍】
悪魔が来りて笛を吹くの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.36pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全64件 1~20 1/4ページ
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やたらとインモラルな関係が出てきて、頭がくらくらするというか気持ち悪くなるというか、“悪魔”よりも怖いものがあった。別個と思われた椿子爵の事件と天銀堂事件(帝銀事件を模した作中の強盗殺人事件)を結び付けられたのは偶然だったかもしれないが、それそれで作品の広がりなっていて面白かった。それにしても鬼畜な人々の鬼畜な行動ゆえの事件であり、死んだはずの椿子爵がちょろちょろと見かけたりフルートの音色が聞こえることの恐怖より恐ろしかった。 | ||||
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犯人の三島島太郎は、事情があったにせよ、大勢の尊い命を奪いました。しかし、ラストで島太郎もその責任を負い、自害し果てるのです。 エログロ、悪質とも言われた横溝先生の何か、人生の教訓めいた作品におもわれました。 | ||||
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昭和の没落した貴族で起きた事件。時代背景が退廃的で不気味さを増し、悪魔とは何なのか誰なのかドキドキしながら読めました。 | ||||
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本作は著者にはめずらしく、密室殺人を扱っている。『宝石』連載だったこともあり、著者も気合を入れて取りくんだ作品だったと思う。 しかしその割には、意外に密室の謎にはそれほど拘泥していないような印象がある。いや密室トリックはきちんと考えられたものだし、謎を構成する一端には、金田一耕助自身も絡んでいるという興味深いものなのだが……。 体は通らないにせよ、施錠された扉の上に開閉できる窓がある時点で、それが単純な機械式トリックでなかろうが、そこに何らかの仕掛けがあるのは明白だから、その分興味が下がってしまったのかもしれない。 あるいは――理由としてはこちらの方が大きいように思うが――物語の進行上の興味が、「悪魔の誕生」の方に誘導されていたからだろう。 いわゆる「○○さんと××さんは、実は△△だったんですよ」「えーっ!」というパターンで、金田一ものといえばコレだと想起する人も多いのではないか。 このルーツは著者十八番の草双紙趣味、またはフランスのフィユトン的な展開として十分魅力的なものだが、ガチの「本格探偵小説」的展開からは若干離れてしまう嫌いがある。著者がそのバランスをどのあたりに置いて執筆したのかは知らないが、本作では金田一耕助と担当刑事の二人が、椿子爵【注1】の生前の行動を追って、須磨、淡路まで出張しての調査行が数章にわたって詳述されているところをみると、かなり意識的なものだったのではないか。 このあたりは魅力の一端にもなっているが、一方で密室トリックの影を薄くしていることは否めない。 トリック的興味だけを取りだせば、第一の殺人の密室トリック>一連の事件に見え隠れする笛を吹く椿元子爵のトリックでありながら、物語の興味上の優先は明らかに後者>>前者になっている。この点が一般的な評価のうえでは、あまり著者の代表作としては選ばれず、次点の位置にある理由ではないだろうか。 ごちゃごちゃ書いたが、乱歩は本作の感想を次の簡単な一文で、要領よくまとめている。 「少しコッテリしすぎているので、通俗感を免れないけれども、読みごたえは充分であった」(P.454) ところで、本作のヒロインの位置にいる椿美禰子は、多くの「美人」が登場する本作において、積極的に不美人であると強調されているのが珍しい。 もう一点、本作を通じて響きわたるフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」は、椿子爵の頭にある「悪魔」である犯人を指し示すように作曲されていたことが最後に示されるが、本作の背景が没落する華族の悲哀にあることを考えれば、悪魔とは当時の日本社会そのもの、ひいてはGHQを指していると言ってもよいかもしれない。 GHQは、公式にはSCAPINによる指令、少し詳しく云えば、部局のCIE(民間情報教育局)の主導で、ラジオ局に『真相箱』を放送させる等々のWGIP(War Guilt Information Program)=「戦争についての罪悪感を日本人に植え付けるための宣伝計画」を推し進めるという笛を吹きまくっていたわけでw 【注1】短い本稿ですら、椿子爵と椿元子爵の表記が入り混じっているが、日本の華族制度が廃止されたのは昭和22年5月3日なので、椿英輔が失踪した時点では、彼は子爵であり、物語本篇が始まる9月末に視点を置けば、元子爵という扱いになる。 | ||||
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他の方も書かれているとおり、本作は金田一耕助シリーズのみならず、横溝探偵小説の最高傑作です。変におどろおどろしくなることなく、また、過去の実際の事件を題材に取りながら、その時代独特の「空気感」を出すことに成功しています。そして、金田一耕助が謎を解き明かす過程が最も優れています。これは映画化は不可能で、まさに文字で読まないと面白さが分からない作品です。お勧めします。 | ||||
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西田敏行が金田一耕助役を演じた映画と違って、使用人のお種さんが事件に全く関わっていないのは意外だったというか、拍子抜けしてしまった。最後までてっきり連続殺人事件のキーパーソンかと思っていた。金田一耕助シリーズでは、この【悪魔が来りて笛を吹く】が一番面白く、最初から最後まで読み飛ばしせず楽しめた。 | ||||
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まあ舞台も役者も豪華なんが揃てるわ 彼氏に勧められて読んでみてんけど、中盤から後半にかけての畳み掛けるような展開は流石やな 阪神地方の方言も丁寧に表現されてたんは好感持ったわ こういうの三文小説やと大概やからな 谷崎の細雪ほどの情緒は無かったけどまあミステリ小説やからな 知ってる地名がよう出てきて読み応えあったわ 芝の増上寺確かにだだっ広いけどよう人の土地に色々埋めるわな 今でこそ綺麗やけど戦後すぐはまた景色がちゃうかったんやろな 考えてみればほのかに猥雑な昭和の雰囲気を今でも感じるかも知れへんわ 何や嫌やな思たんは、横溝センセ、やたら女の美醜にこだわりはりますやん ほんで綺麗な女は片端から〇〇されてはりますやろ ほんで容姿がパッとせえへんのは、利発やら意思が強いやら、お情けみたいなフォロー入れてはりますけど、あんたさん女見た時綺麗かそうでないかで表現分岐させてんのほんま、人間の描写として単純やわ 女は肉欲の対象か否かで存在を既定されてる感じ、令和の女から見ると色々差し引いても鼻につくんよね ほれから綺麗な女とゲスい男とくっつけんのほんまに好きやな おどろおどろしさを際立たせたいんやろけど、なんや、お膳立てとして、できすぎてる感じ……。 いや、面白かったで、パズルのピースひとつひとつがうまくできてる感じ、ちょっと金田一さん警察から信頼されてる割に役に立ってはります? 思うところはひとつふたつ、いやみっつよっつあってんけど、あまり主人公を活躍させすぎひんところは、作者のバランス感覚としてはリアルで面白かったで。雰囲気、浅田光彦シリーズを思い出したわ、こっちの方が作者の意思が幅きかせてて、素朴なところもあるけど……。 ミステリの花形はやっぱり家族の愛憎やな、どこまでも根深い血の関係性は、例え出家したかて断ち切られへんもん、ほんま、面倒なトリック駆使して復讐したくもなる、なれへん、なるかも分からんわ……。 | ||||
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金田一耕助シリーズでは、一番好きな作品です。 面白かったです。 | ||||
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「悪魔が来りて笛を吹く」は横溝正史が著した長編推理小説。昭和26年11月から昭和28年11月まで探偵小説雑誌「宝石」に連載された。名探偵・金田一耕助シリーズの長編としては7作目にあたり、横溝正史の最高傑作と呼ばれるほど評価が高い。映画・ドラマ・舞台など映像化もたびたび行われている。 昭和22年1月15日、銀座の宝石店「天銀堂」に井口一郎と名乗る東京都衛生係の腕章を付けた男がやって来て、この付近で伝染病が発生したから、客に接する店員たちは全員予防薬を飲まねばならぬと力説した。この薬液には青酸加里が混入されていたため10名が死亡し、大量の宝石類も盗まれてしまった。これが世にいう「天銀堂事件」である。 犯人を見たという数人の目撃情報を元に、警視庁でモンタージュ写真が作成された。犯人捜査にモンタージュ写真が登場したのは、おそらくこの事件が最初だったろう。その写真の顔立ちに酷似していたことと、事件当日箱根の温泉に行っていたというアリバイが崩れたことで、警察は失踪したフルート奏者の椿英輔元子爵への嫌疑を深めていた。そして4月半ば、信州の霧ヶ峰で椿子爵の自殺死体が発見されたのだった。 昭和22年9月、金田一耕助の元を椿美禰子と名乗る女性が訪れてくる。彼女はこの春世間を賑わせた「天銀堂事件」の容疑を掛けられた椿子爵の娘だった。美禰子が持参した椿子爵の遺書には、「父はこれ以上の屈辱、不名誉に耐えていくことは出来ないのだ。由緒ある椿の家名も、これが暴露されると、泥沼のなかへ落ちてしまう。ああ、悪魔が来りて笛を吹く。」と書かれていた。 美禰子は母・秌子を含む家族の者が死んだはずの父の姿を目撃したため、椿子爵が本当に死んだのかどうか砂占いを行うことになったと説明し、金田一にも同席を依頼する。その夜、目賀博士司会のもと砂占いが行われている途中で停電が発生。電気が回復すると、どこからともなくフルートの演奏が聞こえてくる。その曲は、亡き椿子爵が作曲した「悪魔が来りて笛を吹く」だった。 怯える一同に対し、レコードプレーヤーによる仕掛けであると見抜く金田一。しかし、砂の上に描かれた火焔太鼓のような模様を見た参列者たちはさらなる怯えの表情を浮かべていた。その夜、椿子爵と思しき男がフルートを持って屋敷に出現。翌朝、玉虫公丸伯爵が何者かによって殺害されているのが発見され、世にも陰惨な連続殺人の幕が開かれた……。 金田一耕助が登場する物語は古い因習が色濃く残る農村のイメージが強いが、戦後の没落貴族を描いたものも幾つかある。本作は東京の都心を舞台にした初めての作品で、実際に起きた事件である「帝銀事件」をモデルに「斜陽族」の要素を取り込むことで、他作品とは異なった雰囲気を醸し出していた。 また、言葉のイントネーションや小物の使い方など伏線がよく練られており、ミステリとしての完成度は高い。特に「悪魔が来りて笛を吹く」に込められた椿元子爵の思いが明かされる最後のシーンは素晴らしかった。 この作品はタイトルのとおり「笛(フルート)」が重要な役割を果たしている。作中では本当に悪魔が笛を吹くのだが、悪魔とはいったい誰なのか、悪魔の紋章が意味するものとは一体何なのか、ぜひその目で確かめていただきたい。 <登場人物> 椿英輔 … 椿家当主。元子爵のフルート奏者。半年前に自殺。 椿秌子 … 英輔の妻。華胄界きっての美人。夫に罪悪感を抱く。 椿美禰子 … 英輔の娘。父思いの健気な少女。金田一の依頼人。 三島東太郎 … 椿家書生。英輔の旧友である三島夫妻の遺児。 信乃 … 秌子の乳母。子供の頃から献身的に面倒をみている。 お種 … 椿家の女中。椿子爵を慕っており、新宮利彦が大嫌い。 目賀重亮 … 秌子の主治医。破廉恥な医学博士。通称ガマ仙人。 新宮利彦 … 秌子の兄。元子爵の道楽者。左肩に火焔太鼓の痣。 新宮華子 … 利彦の妻。落ち着いた中年婦人。倦怠の色が濃い。 新宮一彦 … 利彦の子。美禰子の従兄。英輔のフルートの弟子。 玉虫公丸 … 秌子・利彦の伯父。貴族院のボスといわれた人物。 菊江 … 公丸の妾。コケットリーだが古風な面も持ち合わせる。 河村辰五郎 … 植木屋の植辰。誰かを強請り豪遊。空襲で死ぬ。 河村はる … 辰五郎の妻。故人。 河村治雄 … 辰五郎の息子。駒子母娘と交流。現在行方不明。 お勝 … 植辰が何度もとりかえた妾のうちの初期の女。 おたま … 植辰の最後の妾。植辰の死をおこまに報せる。 植松 … 植辰の弟子。植木屋の跡目を譲られる。 堀井駒子 … 植辰の娘・おこま。出家後の戒名は妙海尼。 堀井源助 … 駒子の夫。植辰の弟子。極道者。精神を病み死亡。 堀井小夜子 … 駒子の娘。父は不明。若くして自殺したという。 おかみ … 椿子爵が宿泊した神戸の旅館「三春園」の女将。 おすみ … 「三春園」の女中。玉虫伯爵の別荘跡に案内した。 慈道 … 法乗寺の住持。淡路で出会ったおこまの世話を焼く。 飯尾豊三郎 … 天銀堂事件の最有力容疑者。椿子爵と似ている。 出川刑事 … 警視庁の若い刑事。金田一と神戸まで調査に赴く。 沢村刑事 … 警視庁の刑事。 等々力警部 … 警視庁捜査一課所属の警部。金田一耕助の相棒。 金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。ご存知名探偵。 | ||||
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音、音楽がだめなら、緊迫感が得られませんので、映像化にあたっては、音楽担当の方々は、いろいろと工夫をこらします。 演奏、演奏のレコード盤の使い分けなどは、かなり早い時期から好感がもてました。きっとその根拠は、原作が、そこに笛の音がすることの意味を読者に考えさせるようにつくられていることにあるでしょう。 | ||||
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いまさら言うまでもないですが、本当に面白かったです。フルートの音が出てきますが、そういうトリックがあったのか…。指が欠けているとフルートは吹けないと思っていましたが、吹ける曲を作ることもできるのですね。それがトリックに関連するのでこれ以上はネタバレになりそうだからやめておきます。いつも面白い! | ||||
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椿子爵の気弱で潔癖な性格。そして、気弱さゆえ、何事も含みを持って伝えるという彼のキャラが活かされている。最初の方にもあるように、ここであの曲を弾いてもらってさえいれば・・・・・・。というささやかな衝撃を持って終わる。 椿子爵の性格あってのこの話という感じでしょうか。 | ||||
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40年前、横溝ワールドのはまり込み読書に制を出しました。 再び読むと、当時と違った感覚が生まれています。 | ||||
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「本陣殺人事件」、「獄門島」は、傑作に恥じない作品だが、横溝正史にとって最高傑作なんかといわれると少し違う気がする。 両作は戦中に探偵小説が抑圧されていく中で、作家同士のより合いで出合った「井上良夫」から「ディクスン・カー」の諸作を紹介されて戦後は本格推理小説を書くという熱意が結晶した作品。 この作品は、「ディクスン・カー」のみならずそれ以前から知っていた「エラリー・クイーン」「アガサ・クリスティ」の影響も見られる。 むしろ、「ディクスン・カー」からは「事件の発生」→「捜査」→「解決」といった固まった書き方でなくてもっと自由な物語性を探偵小説に持ち込んでもいいという発見を横溝正史に与えたのではないか? 探偵小説の仕掛けの部分は、人間関係自体にトリックを仕掛けるクリスティのやり方やロジックの組立方などは「エラリー・クイーン」のやり方にその影響を見られる。 そうした英米の有力作家に影響を受けながらしっかりとした「本格探偵小説」を描くとしてでき上がったのが「本陣殺人事件」、「獄門島」。 横溝正史もこうした長編小説を描くのは始めてだったので自身の持ち味であるストーリーテラーの部分を全力で発揮すると戦前の代表作「真珠郎」のようになってしまうのを恐れたのか?後の作品に比べて「因縁話」や複雑な人間関係も抑えら得ている印象がある。 裏を返すと「獄門島」が今も尚横溝正史の最高傑作のみならず全ミステリのオールタイムベストに選ばれるのはその抑圧感にあるのかもしれない。 読み返すたびに感服する作品で細かい傷は合っても全体として問題無く仕上がっている。 素人の言いかたで申し訳ないがその構築美は「釘」でしっかりと作られた建物というより宮大工が作った建物を思わせる。 あたかもそうした建物が「釘」のようなものが使われていないのに長年の風雪に耐えるのに似ていると思うのは私だけだろうか? 両作で「本格探偵小説」に手応えを感じた横溝正史は、「八つ墓村」以降抑えたストーリーテラーの作劇術を全面的に出してくる。 その分、「本陣殺人事件」、「獄門島」より「謎と論理」が後退した印象が「八つ墓村」以降の作品には感じられる。 ただ、全く無くなった訳でなくむしろ全面に出さなくなっただけで扱い方が巧みになったいうべき。 なにかと冒険小説的な扱いを受ける「八つ墓村」だが、巧みな手がかりの提示の仕方や単なる扇動者にしかみえない「濃い茶の尼」の使い方などは、パズラー好きなら思わず膝をたたかずにはいられない。 「犬神家の一族」にしても同様で人間関係自体にトリックを仕掛けるのが巧みで作中に途中で明らかになる佐平翁の過去の秘密が明らかになったことである人物の思惑がひっくり返ることが最後に明らかなる。 まさに人間関係自体がトリックになっている。 強いて言うなら「本陣殺人事件」、「獄門島」が欧米の黄金期ミステリの影響が強い傑作とするなら、それに飽き足らなかった横溝正史が自身の個性を発揮し始めたのが「八つ墓村」以降の作品であろう。 それを私は「横溝正史風本格探偵小説」といいたい。 ある意味ではその代表作ともいえるのが「悪魔が来りて笛を吹く」ではないだろうか? 全体を覆う重たい雰囲気。 横溝正史の作品は題名がおどろおどろしいので誤解を受けているがむしろ作品自体は明るい雰囲気すらある。 ところが、この作品には全くそれがない。 読者は没落華族達の行く末を横溝正史の筆で追って行く事になる。 救いのない話で因縁話が全体を覆っている。 実際トリックより物語自体が持つ悲劇性が多くの読者にショックを与えたようで世評も高い。 とはいえ、ミステリ的な構造も手を抜いていない。 密室トリック自体はそれほど読者の度肝を抜くものではないが・・・・ ・被害者は、殺害時に鈍器のようなもので殴られた後に絞殺された様子。 ・殴られた際に鼻血が出たようだが、被害者のハンカチでその血は奇麗にふき取れていた。 ↓ ・被害者が拭いたならなぜ犯人はその時間を被害者に与えたのか? ・犯人が拭いたならその理由は? これが最後にきっちり説明される。 本格探偵小説の醍醐味はこうした細かい部分にまで張り巡らされた作者の配慮でこの作品でも横溝正史はその辺りに抜かりがない。 特にある象徴的なことが明らかになるラストはなかなか衝撃的で「横溝正史風本格探偵小説」の最高傑作に恥じないできである。 ただ、これが横溝正史の最後の輝きといえなくもない。 「悪魔の手鞠唄」も世評が高いけど、「悪魔が来りて笛を吹く」に見られたような細かい配慮が細部まで行き届いているかが疑問。 題名になっている「手鞠唄」がミステリのトリックとして有効に発揮していないことや、現れる怪人物にしても本陣殺人事件の「三本指の男」、八つ墓村の「濃い茶尼」のようにパズラーファンが膝を叩くような巧みな使い方をしているとは言いがたい。 むしろ、「悪魔の手鞠唄」よりその後の「仮面舞踏会」の方が出来がいいと思うが、それでも「悪魔が来りて笛を吹く」に見られたような神経が細部まで張り巡らされた作品とは言いがたい部分もある。 この期に書かれた「病院坂の首縊りの家」「悪霊島」も複雑な人間関係が織りなすドラマが私などは魅了されるが、パズラーファンが膝を叩く部分がなくなってきている。 そうした意味でも「横溝正史風本格探偵小説」の最高傑作として「悪魔が来りて笛を吹く」をお勧めしたい。 | ||||
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金田一耕助シリーズの面白いところが凝縮された作品ですね。八つ墓村や犬神家を読んだので、他の作品も読んでます。戦争とか、元子爵とか伯爵が登場する時代背景も、我々の世代にはかえって新鮮に感じられます。 シリーズ特有のドロドロした人間関係やトリックもあり、ミステリーファンは必読でしょう。 あえて問題点を挙げると、ミステリーファンからすると、登場人物が出そろった時点で、なんとなく犯人の目星がついてしまう所でしょうか。 このパターン、きっと、横溝の作品が先で、あとの作品が模倣なんでしょうけどね。 | ||||
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ネタバレですが、、 伏線はたくさん、そして読者にわかりやすく配置してあって良いと思うが、 動機とか犯人の背景が「悪魔の手毬唄」に似ている気がする。 複数の女性と関係する「けしからん男」と、 その結果としての、 異母兄弟、経歴ロンダリング、当人たちは兄妹と知らないままに惹かれ合う、という流れ。 (作品発表は、手毬唄のほうが5年ほど後) 殺人事件の首謀者が親世代か子世代かという点とか、いろいろ細かい点は異なるし、 元凶となった男の「けしからん度」からすると、この作品のほうがひどいんだけど。。 とかなんとかいいながら、面白く読みました。 自分は、小説を先に読んで、後から映像化のキャストを想像して楽しむことが多い。 例えば、以下のような描写をされる脇役たちを誰が演じるのか。 「あき子の隣には、世にこれほど醜い女があるだろうかと思われるような老婆が坐っていた。おそらく……、老女の信乃なのだろう。…中略… 醜いのもここまで極端だと気にならない。いや、むしろ芸術的でさえある。それに年齢の錆が彼女の感情から、羞恥だの気取りだのという垢を洗いおとしてしまったらしく、彼女自身、自分の醜いことも忘れたように、泰然として… …中略… 世にこれほど醜い女はないが、また、いっぽう、世にこれほど威厳にみちた女もない。おでこで、眼玉がとび出して、鼻がへしゃげて、口が大きく、しかも顔中皺だらけなのが、まるで古雑巾のようである。」 古雑巾とまで形容をされる「信乃」という老女役を、どんな女優さんが、どんな演出で演じるのか。 実はヒロインの一人である「美禰子(19歳)」も、小説中の描写を読むかぎり、トゲトゲしたやや不美人という設定なのだが、数年前のドラマでは、普通に可愛い娘が演じていた。 | ||||
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何回か映画されていてるけど、「獄門島」や「犬神家の一族」のような派手な絵になるようなシーンがないため、どちらかという印象に残らない感じだったけど、小説は全く違います。小さな伏線があって、最後にその意味が出てきます。映画よりもやっぱ活字で読んだ方が、おどろおどろしさが出てきて面白いです。今のところ、金田一耕助シリーズで一番面白いと思います。 | ||||
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ご存じの方も多いと思うが、アメリカ大統領選挙の歴史的な大混戦の最中、候補者JBの息子HBのスキャンダルがあった。HBのパソコンに入っていた大量の猥褻な写真が押収され、一族の異様さが発覚したのだ。 この話を聞いて、真っ先に浮かんだのが少年の頃読んだ(悪魔が来りて笛を吹く)だ。 終戦直後の混乱期、貴族階級の退廃ぶりに起因する連続殺人が書かれた正史の傑作だが、事実は小説より奇なりで、HBのスキャンダルに似ているのである。読者はこの事を念頭に読めば、後半で符合を見い出して、驚かれる事だろう。具体的にどこがどうというのは伏せるが、プロローグの大量毒殺事件も、この符合の前ではまだしも人間に近いと言える。 この作品は知られざる閉鎖社会の暴露であり、抑圧された人間の告白でもある。 長い殺人の組曲もコーダを迎え、残された者は強く、生きていこうと決意する。 悪魔が笛を吹き終わり、物語は終わるが、世界にいる現実の悪魔はまだ笛を吹き終わってない。 | ||||
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「八つ墓村」や「悪魔の手毬唄」などと肩を並べる長編です。 本作ならではのポイントは 1.舞台が東京であり、華族の話であること。 2.金田一が途中関西へ出張するシーンがあること。(スケール感をアップ) 3.実在の帝銀堂事件をモデルにした事件を取り扱っていること。 4.5.小さなトリックがたくさん使われていること。 オカルト的なロマンよりも、実際はかなり理知的な作風です。 西田敏行の映画もよかったけど、石坂浩二の映画版で見たかったです。 中学生の時にタイトルの「きたりて」が。読めなくて「きりて」と読んでました。 | ||||
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貴族階級の一部の人間が犯した過ちが火種となりおぞましい事件が引き起こされる。誰も救われない。犯人も、被害者とその家族も。それでも生きてゆく意志を見せるヒロインは偉い。君なら悲劇を乗り越えて生きて行けると信じたい。 | ||||
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