(短編集)
貸しボート十三号
- 名探偵 (559)
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物語開始早々の、あまりにも惨たらしい死体の描写。 どんな狂気の殺人鬼が登場するかと思いきや、登場人物の大半は至ってマトモ。財閥の人間まで(わざわざ作中で言及されるほど)珍しく健全で、展開も健全。 カレーを食べながらの聞き取りシーンも微笑ましく、金田一は関係者の自殺を阻止し、しみじみとしたラストを迎える。 不吉なタイトルや、衝撃的な幕開けとはギャップの有り過ぎる内容がお気に入りの「貸しボート13号」。 数年前NHKBSでドラマ化された時、イメージを損ねない出来で嬉しかったのを覚えています。ただ、昔のような現代のような、いつの時代かわからないような描写だったのは意図的だったのでしょうか。それはそれで面白くはありますが。 | ||||
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本書には「湖泥」「貸しボート十三号」「堕ちたる天女」の三作品が収載されています。いずれも短編ですが、どの作品も読み応えがありました。個人的には「湖泥」が最も金田一耕助シリーズらしい作品と感じました。 この書評をしたためている今、既にシリーズ第12弾を読み始めています。どうしてここまで金田一耕助シリーズ、つまりは横溝正史作品に惹かれるのか、自分でもよく分かりません。が、毎作毎作、決して飽きることなく楽しめていることは事実です。きっとシリーズ最終巻まで読破すると思います。 | ||||
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本書は表題作の「貸しボート十三号」をはじめ、「湖泥」「堕ちたる天女」の2篇を収録した横溝正史の短篇集。すべての作品に名探偵・金田一耕助が登場する。 ●湖泥 「湖泥」は昭和28年1月「オール読物」に掲載された作品で、岡山県の山間部にある僻村が舞台。数代にわたって反目しあっている北神家と西神家では、両家の跡取りである北神浩一郎と西神康雄が、御子柴由紀子という上海帰りの美しい娘を争っていた。紆余曲折を経て浩一郎との結納が決まったあと、由紀子が行方不明になったところから物語は始まる。 大阪に出向いたついでに岡山県警の磯川警部を訪ねた金田一耕助は、村の大部分を占める湖の捜索に参加し、湖畔に建つみすぼらしい小屋へ入ってみた。するとそこには、変わり果てた姿の由紀子が横たわっており、腐敗した死体の顔には左目が無かったのである。小屋に住む北神九十郎は、湖に浮いていた死体を拾っただけだというが、由紀子の死体には不審な痕跡が残されていた……。 冒頭、ボートに乗った金田一が熱心に失踪事件のことを聴いているのだが、なかなか相手が分からない演出が心憎い。死体から失われた義眼が重要な手がかりとなり、最後に明らかになる犯人とその動機は予想外のもので面白かった。 <登場人物> 御子柴由紀子 … 上海帰りの美貌の娘。数日前から行方不明。 御子柴啓吉 … 由紀子の弟。 北神浩一郎 … 北神家の跡取り。御子柴由紀子の婚約者。 北神九十郎 … 満州からの引揚者。敗戦ボケしている。 西神康雄 … 西上家の跡取り。御子柴由紀子にふられる。 志賀恭平 … 村長。戦争前は大阪で女学校を経営していた。 志賀秋子 … 志賀の後妻。元教師。 勘十 … 村の青年。水車小屋で米搗きをしていた。 木村刑事 … 村の若い刑事。 清水巡査 … 村の駐在所の巡査。 磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一とは旧知の仲。 金田一耕助 … 磯川警部に会いに来て事件に巻き込まれた探偵。 ●貸しボート十三号 「貸しボート十三号」は昭和32年8月「別冊週刊朝日」で発表された短篇を加筆して中篇小説とし、東京文芸社から「火の十字架」という単行本の一篇として出版された作品。 浜離宮公園の沖に浮かんでいるボートから一組の男女の遺体が発見される。情死のように見えるが不自然な年齢差があり、男の方はパンツひとつの状態、女は派手なレインポートをまとっていた。そして何より酸鼻を極めていたのは、二人の首が途中まで挽き切られていたことだ。鋸で首の切断をはじめたが、女は7割、男は3割ほど切ったところでやめていた。 司法解剖の結果、男は心臓を刺されてから首を絞められており、女は逆に首を絞められてから胸を抉られていたことがわかる。謎が深まるなか、被害者が人妻の大木藤子と、その娘の家庭教師で大学のボート部に所属する駿河譲治であることが分かると、さらに事件は混迷の度合いを深めていく。 衝撃的なシーンで幕を開ける本作であるが、異様な死体についての詳細な描写は重要な手がかりとなっている。犯人はなぜ首を切り離すのを途中でやめたのか、男と女の殺され方が逆なのは何故なのかなど、不可解な死体の状態から導かれた金田一による推理は、極めて理路整然としておりカタルシスがあった。スポーツマンの熱い友情にも心打たれる。 また、「貸しボート十三号」は久保銀造、風間俊六に次ぐ金田一耕助第三のパトロン・神門貫太郎が登場する唯一の作品である点も見逃せない。実業界の大立者で神門産業総帥である彼と金田一の結びつきについては、神門家一族の重要メンバーが殺人の容疑者として検挙されたことがあり、すべての証拠がその人物を犯人として指し示し、本人も犯行を認めているなか、再調査を依頼された金田一が事件をひっくりかえし、それ以来神門一族から絶対の信頼を博していると記されていた。この事件もぜひ読んでみたかったと思う。 <登場人物> 駿河譲治 … ボートの中で首を半分切られ裸で死んでいた学生。 大木健造 … とかく世間の疑惑の的となっている役所の課長。 大木藤子 … 建造の妻。駿河譲治と共に惨殺死体で発見される。 大木ひとみ … 建造の娘。駿河譲治が家庭教師をしていた。 上島亮博士 … X大学の教授でボート部の部長。 八波治郎 … ボート部の監督。 松本茂 … ボート部のキャプテン。 鈴木太一 … ボート部のマネジャー。 八木信作 … ボート部の学生。アロハ。 片山達吉 … ボート部の学生。浴衣のおっさん。 児玉潤 … ボート部の学生。セーター。 青木俊六 … ボート部の学生。長脛彦。 古川稔 … ボート部の学生。アンダーシャツ。 矢沢文雄 … 元ボート部の学生。池袋で下宿している。 岩下トミ … ボート部の寮母。 神門貫太郎 … 神門産業の総帥。金田一のパトロン。 神門加寿子 … 貫太郎の妻。 川崎重人 … 神門貫太郎の実弟。神門産業専務。 川崎美恵子 … 重人の妻。 川崎美穂子 … 重人の娘。駿河譲治の婚約者。 関口五郎 … 吾妻橋にある貸しボート屋「ちどり屋」の店員。 高木一雄 … 八木信作の義兄。 吉沢医師 … 検死を担当した警察医。 平出警部補 … 築地署の捜査主任。 根本刑事 … 築地署の老練刑事。 北川刑事 … 築地署の若い刑事。 新井刑事 … 警視庁捜査一課所属の刑事。等々力警部の腹心。 等々力警部 … 警視庁捜査一課所属の警部。金田一耕助の相棒。 金田一耕助 … 等々力警部の依頼で捜査協力している私立探偵。 ●堕ちたる天女 「堕ちたる天女」は昭和29年6月「面白倶楽部」に掲載された短篇。意外なことに中学生の交通量調査から始まる。東京都心の交差点で、とあるトラックが落とした石膏像から若い女の全裸死体が発見された。運転手は黄色いマフラーをした男でトラックは盗難車。被害者は浅草の花鳥劇場に出ているリリー木下というストリッパーだった。 彼女と同じ舞台に立っていた双葉藍子の証言により、リリー木下はレズビアンだったが中河謙一という彫刻家に夢中になり、周囲から「堕ちたる天女」とからかわれていたことが判明する。中河が普段から黄色いマフラーをしていたことや、アトリエでリリーそっくりの石膏像が目撃されていたことから、はや事件解決かと思われたが、彼の行方は杳として知れなかった……。 同性愛や廃屋での情交など、エログロで悪趣味な点が目立つ本作だが、最後に金田一耕助が解き明かす真相には意外性がある。また、金田一の相棒といえる等々力警部、磯川警部の初顔合わせが実現している点もファンとしては見逃せない。今回の事件が過去に岡山で起こった事件と関連していることに気づいた金田一は、岡山県警の磯川警部に手紙を送るのだが、それに応じて上京してきた磯川警部と等々力警部が警視庁第五調室で挨拶を交わす場面には心動かされた。 <登場人物> 遠藤由紀子 … 交差点の交通量調査中に事故を目撃した中学生。 川上三蔵 … 新宿にあるキャバレー「花園」のマネジャー。 高松アケミ … キャバレー花園のダンサー。行方不明。 都築マリ … キャバレー花園のダンサー。高松アケミと仲よし。 浅原三十郎 … 浅草のストリップ劇場「花鳥劇場」の支配人。 リリー木下 … 花鳥劇場のストリッパー。石膏詰め死体で発見。 高桑ユミ子 … 花鳥劇場のストリッパー。 双葉藍子 … 花鳥劇場のストリッパー。 中河謙一 … 黄色いマフラーの男。彫刻家。リリーの愛人。 水原鶴代 … 渋谷のバー「アジサイ」のマダム。リリーの愛人。 小玉警部補 … K署の捜査主任。 渡辺警部補 … U署の捜査主任。 等々力警部 … 警視庁捜査一課所属の警部。金田一耕助の相棒。 磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一とは旧知の仲。 金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。ご存知名探偵。 | ||||
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<「堕ちたる天女」の感想のみ。ネタバレ注意> と経済白書に書かれたのは本作よりもう少し後の1956年度のことだが、交通量の激しい交差点で社会科授業の中学生たちが交通量調査しているという本作冒頭の風景は、おそろしい早さで復興がなされつつあったことを如実に示していて興味深い。 著者や乱歩がセルフパロディのように使いまくった、石膏像の中から裸女死体発見!よりも衝撃的だw ちなみに昭和29年と云えば、11月に『ゴジラ』が封切られている。 事件自体は、うーん、いつもの組み合わせであるw このトリックでいつも思うのだが、ニューハーフやその逆であっても、ビジュアル的にはまったく無理なく変装できると思う。美しい人は大勢いる。しかし声まで装うのはかなり難しいのではないか……。 そこを海のように広い心で受入れても、石膏像に塗り込める意味をまるで見いだせない。煽情的に煽ることが、犯人の偽装にそれほど有利になるのかな? 結局は、劇場型に世間から騒がれたい犯人の歪んだ嗜好によるだけで、だからこそ、金田一耕助がこんな凶悪な犯罪は見たことがない、気持ち悪くて吐きそうだから、帰って酒でも飲んで寝るとまで言い放っているということか……。 それよりも特筆すべきは、本作で等々力警部と磯川警部が対面していることである。 著者が亡くなる前に温めていた新作の梗概の中には、両警部が共演する作品の予定があったことは有名で、それが叶わなかったから、てっきり共演は実現されなかったものだと思いこんでいた。昭和29年の段階で、早々に対面していたとは……。【注1】 本作では耕助は事件のアウトラインを解明するまでの関与で、犯人逮捕や立件まではまだかなりの手間がかかりそうな状況での幕引きなので、そこまでのどこかで両警部が酒を酌み交わすようなシーンもあったことだろう。 【注1】『悪魔が来りて笛を吹く』の際に、電話でのやりとりはあった。 | ||||
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表題作他2篇、横溝ワールド全開といったところか。「湖泥」はラストの真犯人の告白が「八つ墓村」の森美也子が寺田辰弥にいうセリフ’(この村の人たち云々)を想起させる。「堕ちたる天女」は過去にもあった横溝正史による江戸川乱歩の代作用ではないか。冒頭は「地獄の道化師」、ラストのあの形は「湖畔亭事件」や「陰獣」のようである。いずれにせよ横溝正史ワールドがかたちを変えててきている。 | ||||
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