(短編集)
毒の矢
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<表題作の感想のみ。ネタバレ注意> 中島河太郎は、フィーチャー元として『矢の家』を挙げていた。 著者が編集者当時に彼の書を翻訳して日本に初紹介したらしい。一応わたしも所持しているがまだ未読の状態で、代わりに(というかなんというか)ミス・マープルものの『動く指』を思い出した。当時邦訳はまだ出ていなかったが、著者はクリスティのファンでもあるし、原書を読んでいた……なんてことはないかな。 本作と次の「黒い翼」はどちらも緑ヶ丘町が舞台である。 「霧の中の女」や「鞄の中の女」他の記述で、金田一耕助が緑ヶ丘荘に転居するのは1957年1月だろうと考えていたが、ちょうどその一年前の本作で緑ヶ丘町がフィーチャーされていて、おいおい設定が崩れるじゃないかと大いに危うんだ。 落ち着いて読み直してみるとw、金田一耕助の住居自体が緑ヶ丘だとはひと言も触れられていなかった……。この先何度も顔を合せることになる、緑ヶ丘署の「ふかし饅頭のようにかわいくふとった」(P.32)島田警部補とも初顔合わせのようだ。 いずれにせよ、本作の時点では、別に事件の発生場所だという記号で良い筈の緑ヶ丘について、その地の略歴などにも触れられていたのが不思議だ。緑ヶ丘は戦前から閑静な住宅地だったとしながらも、戦後大いに造成・発展し、それに合わせて大量に人間も流入してきたから、隣人といっても過去をよく知らない人たちが暮らす新興住宅地だと紹介されている。 戦後すぐに発表されて人気を博した一連の金田一ものは、いずれも地方の旧家にまつわる複雑な人間関係を背景にした陰惨な連続殺人だが、旧来の因習の中にい続けた人と、一旦都会に出た人間が再び帰ってきてぶつかることが、事件のきっかけとなることがままあったように、多くの文化基盤を持った人たちがぶつかる設定を組み込みやすいという考えがあったのかもしれない。 この時期、社会派推理小説なんて言葉がすでに生まれていたかは知らないが、松本清張の活躍は始まっていたし、著者にも、現代的な社会背景の中で金田一耕助を活躍させなければという欲求、あるいは周囲からのプレッシャーでもあったのかもしれない。そういった遠望のうえで、翌年金田一耕助本人が緑ヶ丘町に転居することになったと考えればとてもよく判る。 「緑ヶ丘というところは、なんとまあすごい美人ぞろいなんだろうと、舌をまいて驚嘆せずにはいられなかった」(P.97)のが理由かもしれないがw 物語について云えば、ボンちゃんの記憶力の良さがすべてだった。 何らかの発達障碍がある人に、まま写真記憶のように常人以上の能力があることは、そこそこ知られている。本作に現代用語は使われていないが、特段の説明がなくても、そのような事例があることが当時からかなりポピュラーだったということか。 まさか刺青にアリバイトリックをもたせるとは思わなかったので、なかなか面白いと思ったが、一瞬欺瞞できれば用は足りるとは言え、それが可能だった犯人の技量の確かさと、枚数(つまり構図)のテキトーさが今ひとつしっくりこなかった。そのあたりはもう少ししっかり描写してフォローが欲しかったところだ。特に本作は、一度雑誌掲載されてから加筆されて中篇化しているのだから、そのあたりの補足だってできたのではないか。 一方で、事件解決後もやたらにエピローグ的な描写が長くて、たしかに障碍のあるボンちゃんの行く末は少々心配だったが、それでも辟易してしまった……。 ところで、的場星子の渾名がボンちゃんであることの理由って、どこかに書かれていたっけ? | ||||
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本書は表題作である「毒の矢」と「黒い翼」の2篇を収録した横溝正史の推理小説。どちらの作品も名探偵・金田一耕助が活躍するが、相棒といえる警視庁の等々力警部は登場しない。この頃の耕助はまだ緑ヶ丘町の高級アパート・緑ヶ丘荘に住んでいないが、緑ヶ丘署の島田警部補が初めて登場し捜査主任を務めており、以降金田一とは馴染みの間柄となる。 ●毒の矢 「毒の矢」は昭和31年1月「オール読物」に短編として掲載され、その後長編化された作品。東京・世田谷の緑ヶ丘町に住むピアニスト三芳欣造は、「黄金の矢」と名乗る謎の人物から届いた密告状のことを心配し、以前友人を助けてもらったことのある金田一耕助に相談を持ちかける。欣造から見せられた手紙は、彼とは一字違いでよく誤配される三芳新造宛てのものであり、妻の不倫、しかも同性愛関係を告発するものだった。 それから一週間後、各所にばら撒かれた「黄金の矢」の密告状によって騒然とする町内で、とうとう血なまぐさい殺人事件が起きてしまう。新造の妻悦子の同性愛相手だと密告されていた、アメリカ帰りの富裕な未亡人・的場奈津子が自宅で殺害されたのだ。上半身を裸にされた彼女の背中にはトランプの入れ墨があり、13枚のトランプのうち、ハートのクイーンの上に矢が突き立てられていた……。 警察による捜査はなかなか進展せず、ある人物が殺されそうになったり、被害者の意外な過去が明らかになったりするが、最後は金田一らしい人間味あふれる結末になっており読後感はよい。終盤、金田一の推理に感銘を受けた山口刑事が、新聞の綴込みをわしづかみにしたまま、身をもってまもろうという気構えを見せるシーンは印象的だ。いたいけなボンちゃんが活躍するところも読んでいて微笑ましかった。 過去の秘密をネタにした脅迫状が届くというと、似たような道具立ての長篇として団地を舞台にした「白と黒」が思い出されるが、ストーリーやトリックは大きく異なっており、比較して読んでみるのも面白いかもしれない。 <登場人物> 的場奈津子 … アメリカ帰りの寡婦。背中にトランプの入れ墨。 的場譲治 … アメリカで死亡した奈津子の夫。サーカスを経営。 的場星子 … 奈津子の養女。小児麻痺で両足が不自由。 三津木節子 … 星子の家庭教師兼看護婦。佐伯達人の想い人。 お種 … 的場家のお手伝い。 深井英蔵 … 的場家の別棟に住む爺や。庭師兼下男。 お咲 … 栄蔵の妻。的場家の女中。 八木信介 … 成城に住むキリスト教の牧師。的場奈津子と懇意。 三芳新造 … 画家。的場家の隣に住んでいる。 三芳悦子 … 新造の妻。 三芳欣造 … ピアニスト。金田一とは昵懇の間柄。 三芳兼子 … 欣造の先妻。和子の母。交通事故で死亡。 三芳恭子 … 欣造の後妻。ピアニストだった兼子の愛弟子。 三芳和子 … 欣造と兼子のひとり娘。的場星子とは友人関係。 佐伯達人 … 声楽家。三芳恭子の別れた夫。 佐々木先生 … 緑ヶ丘病院の医師。検死を担当。 沢村先生 … 緑ヶ丘病院の若い医師。的場星子の主治医。 橘署長 … 緑ヶ丘署の署長。金田一の名前を知っていた。 島田警部補 … 緑ヶ丘署の捜査主任。 山口刑事 … 緑ヶ丘署の刑事。 北川刑事 … 緑ヶ丘署の刑事。 北山刑事 … 緑ヶ丘署の刑事。 緒方刑事 … 緑ヶ丘署の刑事。 金田一耕助 … 三芳欣造の依頼で脅迫状の調査に乗り出した探偵。 ●黒い翼 「黒い翼」は「毒の矢」の翌月「小説春秋」に発表された短編で、両事件は連続して発生したことになっており、金田一がこの事件に巻き込まれたのも「毒の矢」事件を解決した緑ヶ丘の有名人だからという理由である。ちなみに2つの事件は舞台だけでなく、犯人が郵便物を利用している点も共通している。 その当時、世間では「黒い翼」と呼ばれる不幸の手紙が流行していた。烏羽玉のように真黒に墨でぬりつぶした葉書のうえに、不吉にひかる鉛筆で書かれた「黒い翼」は、同様の文面の葉書を七名に出さなければ、秘密が暴露され流血の惨事がもちあがるだろうと告げるものだった。 一年前に自殺した映画スター藤田蓉子。彼女の服毒死には多くの謎が残っており、その跡を継ぐ形で人気映画女優に登りつめた原緋紗子にもたくさんの「黒い翼」が届いていた。映画監督の石川賢三郎はこれを心配し金田一耕助に助けを求めるが、蓉子にゆかりのある男女を集めた一周忌パーティで事件が起きてしまう。 その日は全国から「黒い翼」のはがきを集め、藤田蓉子一周忌法要として一気に燃やしてしまうイベントが、テレビなども呼んで盛大に執り行われた。無事に終わったことを喜び仲間内で慰労会を行っていたところ、蓉子の元マネージャー土屋順造と、蓉子の主治医で最後を看取った小泉省吾が再び毒に倒れたのである……。 グラスのすり替えは「百日紅の下にて」でも使われたものでお約束すぎる気もしたが、金田一が解き明かす事件の真相や藤田蓉子の秘められた過去は驚くべきもので、犯人が「黒い翼」という途方もなく迂遠な手段を選んだ理由も予想外だった。 <登場人物> 原緋紗子 … 大スター女優。親友だった藤田蓉子の家を購入。 藤田蓉子 … 去年変死した映画女優。元浅草劇場の踊り子。 藤田貞子 … 蓉子の妹。原緋紗子の女秘書。 田口健吉 … 浅草時代の蓉子と同棲していた学士。獄中死した。 春日恭子 … 蓉子と仲がよかった隣家に住む弁護士の娘。 石川賢三郎 … 東亜映画の映画監督。映画界で一大勢力を持つ。 三原達郎 … 東亜映画の人気俳優。 丹羽はるみ … 東亜映画の三枚目女優。 梶原修二 … 新聞記者。 土屋順造 … 藤田蓉子のマネージャーだったが現在は無職。 小泉省吾 … 緑が丘の開業医。藤田蓉子の主治医だった。 小泉郁子 … 省吾の妻。 佐々木先生 … 緑ヶ丘病院の医師。検死を担当。 橘署長 … 緑ヶ丘署の署長。 島田警部補 … 緑ヶ丘署の捜査主任。 金田一耕助 … 黄金の矢事件を解決したことで知られる名探偵。 | ||||
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good | ||||
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「毒の矢」というタイトルですが暗躍する怪人物は「黄金の矢」。 別に「死神の矢」という小説もありますが、こちらには怪文書は出てきません。 「悪霊島」では凶器が黄金の矢でした。 ハートのクイーンは「スペードの女王」を連想させます。 なんとなくややこしくてなかなか手が出なかった小説でした。つまり似たような道具立てが錯綜して私の中では印象を弱めていました。 「悪霊島」「死神の矢」「スペードの女王」の3作とは全く違う話なんですが、タイトルで損しているのではないかと思います。 金田一の緑ヶ丘町物は少年少女がキーパーソンとして登場する話が多いのはなんとなく興味深いです。 もう一本の「黒い翼」の方がより長編向きだったかもしれないです。 芸能界話としてはひょっとして「仮面舞踏会」に影響を与えたのかもしれません。 怪文書話ですので「白と黒」の元ネタとして混同しがちですが、あちらの元ネタは「渦の中の女」だそうですので、お間違いなく。 | ||||
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横溝正史の作品は、ほぼ読んでいるのですが、この作品は、未読でした。今回、入手できて、とてもよかったと思っています。 | ||||
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