扉の影の女
- 変死体 (165)
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<表題作の感想のみ。ややネタバレの個所あり> 冒頭の頁に、耕助の住処が緑ヶ丘荘であることに加えて、「昭和三十年も残り少なくなっており」(P.5)とこれ以上ないくらいに明記されているのだが、これは困った……。 「鞄の中の女」他の記述から、彼が緑ヶ丘荘に転居したのは昭和32年の1月であることはほぼ確実。前年の12月と主張できなくもないが、その一年前はさすがに無理である。 いや、「鞄の中の女」の本文に昭和32年の事件だと書かれていたのではなく、雑誌掲載されたのが昭和32年4月というだけだから、同年の事件だと決めつけることもないのか……。 本作は元々「鞄の中の女」と同じく『週刊東京』誌の昭和32年12月に「扉の中の女」として掲載された。 他の「〇〇の中の女」も共通して、事件時期を特定できる記載は「月日」だけで、おそらく意識して「年」は明記されていなかったのだが、「扉の中の女」の時点で「昭和三十年」の記載はあったのか。それとも昭和36年1月に東京文芸社刊で出版されたタイミングで追記されたのだろうか。 いずれにせよ、そこには著者の意思が入っているだろうから、尊重すべきなのかもしれない。 となると、金田一耕助が転居してくるまでに緑ヶ丘で発生した三つの事件【注1】は、いずれも昭和29年以前ということになるのだが、それはそれで、他の事件との矛盾がいろいろ湧いてきそうだ……w【注2】 金田一耕助の緑ヶ丘荘での生活や金回り【注3】が描写された異色作だと注目される印象の作品だが、フー/ハウ/ホワイダニットに関わるトリックで引っ張る作風ではなく、捜査を進めることで、依頼人を含めた事件の関係者の嘘や隠し事が少しずつ明るみに出て事件の全容が見えてくるといった、警察小説やハードボイルド探偵小説に近いプロットで読ませる物語構造である。 内容は覚えていないが、日常生活の描写を含めて『悪魔の百唇譜』もこんな感じの展開だったような。 犯人がほぼ最後になるまで登場しないというのは、ノックスやヴァン・ダインが聞いたら怒りそうな感じではあるが、不思議と悪く感じなかった。 耕助に次々齎される情報に対して、彼が行う次の一手や判断がかなり描写されるので、彼の心情や忖度が細かく伝わってくるあたりが、シリーズ作品の異色作として面白かった。 基本的に目をしょぼしょぼさせて腰の低い印象の金田一耕助だが、大物実業家の金門剛と応対したシーンでは終始彼をリードしていて、おまけに彼の信頼を得て財源にしてしまうのはさすが。 本作に限って云えば、ネロ・ウルフものにも繋がる活躍であるw 「多門修の一メートル七十という堂々たる上背に対して、金田一耕助は六十あるかなしという小男」(P.150)という描写は、時代だなぁと感じたw 【注1】『毒の矢』、「黒い翼」、「女の決闘」 【注2】このあたりの矛盾に対して、Wikipediaの「金田一耕助#経歴」の項では、なんと昭和34年説(注釈No.39)を取っている。金田一耕助の登場する作品の多くは、一応著者が耕助から聞き取った事件を発表しているという態だから、出版時より後の時系列は取れない筈だが、加筆出版された昭和36年1月以前ならセーフという見解なのだろう。未読だが、『壺中美人』、『スペードの女王』にも同じ問題があるらしい。 【注3】手元不如意な耕助を見かねた等々力警部が、そっと金を工面するシーンなんて感涙ものである。なにげに等々力警部が妻帯者であることを初めて知ったようなw | ||||
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本書は表題作の「扉の影の女」と「鏡が浦の殺人」を収めた横溝正史の推理小説。どちらも名探偵・金田一耕助が登場する。 ●扉の影の女 「扉の影の女」は、昭和32年12月「週刊東京」に連載された「扉の中の女」という短篇を、単行本刊行の折に加筆して長編化した作品である。 昭和30年12月。金田一耕助は西銀座のバー「モンパルナス」で女給をしている夏目加代子の訪問を受ける。一昨日の夜、仕事の帰り道で人殺しの犯人とぶつかった際に凶器と思われるハットピンを拾ったといい、耕助に助けを求めるのだった。 詳しく話を聴いてみると、プロボクサー臼井銀哉を巡って恋敵の関係にあった、元同僚の江崎タマキが曳舟稲荷のある袋小路で殺されていたのを見つけたが、恨みのある自分が疑われると思い警察には届け出なかったという。さらに、現場で拾った紙切れには「叩けよ さらば開かれん、 ギン生 タマチャン」と書かれており、加代子はそれが銀哉を意味するのではないかと不安に感じていたのである。 ところが、その翌日発見されたタマキの死体は、曳舟稲荷から遠く離れた築地入船橋下に浮かんでいた。犯人は加代子が立ち去った後に遺体をわざわざ築地まで運んだのだろうか。等々力警部からもこの事件について捜査協力の依頼を受けた金田一耕助は、加代子の名を伏せたまま調査を開始する。 タマキの死体のあった袋小路は、薬局とレストラン「トロカデロ」の裏口が面していた。薬局の店員に話を聞くと、朝方この付近には血の染みがあり、賽銭箱にも血がついていたと言う。また、「トロカデロ」はタマキのパトロンである金門剛と縁の深い財界人・加藤栄造が情婦にやらせているもので、金門もよく利用していることがわかってきた。 当然事件当夜の臼井のアリバイも調べられたが、彼はとある女性と箱根に行っていたと主張しつつ、彼女に迷惑がかかるからと相手の名前に関しては頑として口をつぐんでいた。疑わしき人物を絞り込めぬまま捜査は難航するが、金田一耕助は助手・多門修の協力を得て、事件の謎を解き明かしていくのだった……。 横溝正史は昭和32年ごろ、週刊東京に「~の中の女」という表題の作品群を続けて掲載している。いずれも名探偵・金田一耕助が登場する短編シリーズで、必ず物語に女が絡んでいるという特徴があった。 この時期の著者は明らかに新たな創作を行う気力を失いつつあった。そのような状態のなか少しでも読者の期待に応えるべく、短編を加筆修正し作品の質を上げつつ、引退の時期を探っていたように見受けられる。実際、「扉の影の女」は事件自体が短編向きといえるもので、長編化に成功しているとは言いづらい。 いきなり否定的なことを書いてしまったが、この作品に見るべきところが何もないわけでは決してない。金田一耕助の日常生活を浮き彫りにした異色作ともいえ、煙草銭にも窮する金田一とそれを気遣う等々力警部のやりとりなど、ファンであればかなり楽しめるだろう。 人物描写が丁寧なのも本作の良い点なのだが、その影響か重要な人物が最後まで登場せず、犯人当てがほぼ不可能なのはいただけない気がした。 <登場人物> 夏目加代子 … 西銀座のバー「モンパルナス」の女給。事件を目撃した。 江崎タマキ … お京というバーに出ていた女。ハットピンで刺殺される。 臼井銀哉 … ミドル級世界王者の人気プロボクサー。タマキの情人。 マダムX … 銀哉が赤阪のナイトクラブ「赤い風車」で知り合った女性。 岡雪江 … 新橋の「サンチャゴ」というキャバレーに出ているダンサー。 金門剛 … 戦後派の怪物と噂される財界の大物。タマキのパトロン。 加藤栄造 … 東亜興業社長。金門剛が取り入った財界の巨頭。 藤本美也子 … レストラン「トロカデロ」のマダム。 広田 … レストラン「トロカデロ」のコック長。 沢田珠実 … 数寄屋橋付近で自動車に跳ねられた高校生。 沢田喜代治 … 珠実の父親。弁護士をしている。 沢田綾子 … 喜代治の妻。 佐伯三平 … 喜代治の甥。 多門修 … ナイトクラブ「KKK」の用心棒。金田一の助手を務める。 安井警部補 … 築地署の捜査主任。 古川刑事 … 築地署の刑事。 川端刑事 … 築地署の刑事。 堀川刑事 … 築地署の刑事。 新井刑事 … 警視庁捜査一課所属の刑事。等々力警部の腹心。 等々力警部 … 警視庁捜査一課所属の警部。金田一耕助の相棒。 金田一耕助 … みなさん先刻お馴染みの、もじゃもじゃ頭の探偵さん。 ●鏡が浦の殺人 「鏡が浦の殺人」は昭和32年8月「オール読物」に掲載された短篇。同年に発表された「鏡の中の女」に続き、読唇術を扱った作品である。また、舞台は「傘の中の女」と同じ鏡が浦海岸が選ばれている。 静養のため東京近郊の海水浴場、鏡が浦海岸にある「望海楼ホテル」に滞在していた金田一耕助は、隣のテーブルから聞こえてくる二人連れの会話に微笑ましいものを感じずにはいられなかった。大学の先生ともあろう者が双眼鏡を使い、海辺で繰り広げられる男女の太陽族的行為をひそかに盗み見ているようで、パラソル越しに聞こえてくる老教授の実況に金田一はくすくすと笑いを噛み殺していた。 後でわかったことだが、男の方は児童心理学者として有名な江川市郎教授、女は助手の加藤達子であった。江川教授は読唇術をマスターしており、双眼鏡を使えば遠くからでも会話を読み取れるため、旧友の加納辰哉がヨットに誘ったホテルのマダム一柳悦子をどのように口説くのか、覗き見していたのである。 ところが、江川教授は突然ヨットの二人がとんでもない相談をしていると言い出した。気になった金田一が覗き込むと、双眼鏡で沖のヨットを見ながら右手のペンで何かを書きつけている教授の姿を目にする。会話の内容に憤慨した教授は、確認のため連れの女性とホテルを出ていった。 その翌日、鏡が浦海岸で毎年行われているネプチューン祭のメインイベント「ミス・カガミガウラ・コンテスト」が開催される。江川教授はこのコンテストの審査員として招かれており、休暇を利用して遊びに来た等々力警部と金田一耕助も、老教授に強く勧誘され審査員を引き受けていた。 コンテストが無事に終わり、関係者はテントの日陰で休憩を取っていた。椅子に座った江川教授がしばらく尻の方を気にしていたが、やがて真っ青な顔色になって倒れ込んだ。そのまま息を引き取った教授を診察した医師は狭心症の発作と告げるが、助手の加藤達子は納得しない。何故なら、教授が昨日読唇術で読みとったのは医者も間違えるような巧妙な毒殺計画だったのである……。 金田一と等々力警部が美人コンクールの審査員を務める中で殺人事件が発生するこの事件は、双眼鏡と読唇術、毒の針が仕込まれたゴムまりなど小道具の使い方が面白い。事件の真相は切なくやりきれないものであったが、最後は金田一らしいハッタリもあり、温かい気持ちにさせてくれる素敵な終わり方だった。 <登場人物> 一柳悦子 … 鏡が浦にある「望海楼ホテル」の女主人。 一柳子爵 … 悦子の亡夫。ホテルは子爵の別荘を改装したもの。 一柳芙紗子 … 子爵の先妻の娘。 一柳民子 … 子爵の妹。 岡田豊彦 … 芙紗子の友人。子爵の遠縁。 江川市郎 … 児童心理学者として有名な大学教授。 江川晶子 … 市郎の長女。 江川ルリ子 … 晶子の娘。生まれつきの聾唖。 加藤達子 … 江川教授の助手。 加納辰哉 … 電気関係のエンジニア。江川教授の旧友。 都築正雄 … 辰哉の甥。 久米恭子 … 正雄の恋人。 古垣重人 … T大教授。法医学の最高権威。 等々力警部 … 金田一と静養に訪れた警視庁捜査一課所属の警部。 金田一耕助 … 雀の巣の頭にくたびれた着物袴。静養中の名探偵。 | ||||
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本書には表題の「扉の影の女」と「鏡が浦の殺人」の二編が収められている。どちらも金田一耕助の推理が冴えに冴え、読んでいて実にスカッとした。 ただ、両作とも推理が冴えている点は同じであるのだが、その推理の意義は異なっている感じがした。 「扉の影の女」においては、もしも金田一耕助が作中の事件に関わりを持っていなければ、事件は迷宮入りとなり犯人は見つからないままになる気がする。もちろん何か偶発的な理由(別件)をきっかけに犯人が特定される可能性はあるが、それはもはや別の話であろう。本件は金田一耕助の推理が無ければ解決していなかったであろう、という点に大きな意義があると感じた。 一方の「鏡が浦の殺人」においては、金田一耕助が作中の事件に関わりを持ったことで、その後の計画されていた殺人が回避できた、という点に大きな意義があるように感じられた。読後感は、本作の方が爽快であった。 シリーズ第8弾も楽しみたいと思っている。 | ||||
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この『扉の影の女』の舞台となっているのは、殺人事件の起こった村や屋敷ではなく、金田一耕助の自宅兼事務所となっている住宅である。事件空間にやってきた金田一ではなく、“金田一探偵の日常を密着リポート”とでもいった描きっぷりで、自宅を中心に事件にプライベートにと活動する金田一の生活が描出されている。夜の銀座の路地裏で起こった不可解な殺人事件の捜査と謎解きだけでなく、名探偵の日頃の食生活やお財布事情、相棒の等々力警部との公私にわたる関係の機微なども描き込まれ、副題に『金田一耕助の生活』とか『金田一探偵の日常』とか付けられていてもおかしくない内容だ。 またミステリとしても、とりわけ目新しいトリックや着想は見当たらないが、錯綜した謎、手がかり、人間関係の糸が、金田一の推理で一本の線に繋がれ、スッキリとタイトル回収までされる心地良い出来ばえをしめしている。ただし、読者が犯人を推理できるような設定にはなっておらず、犯人探しの本格推理ものとして読むと不満が残るが、やはり金田一の生活を描いた小説として読むと、結末までよく構成された完成度がうかがわれ、異色であるが面白く読み通すことが出来る作品になっている。 併録されている『鏡が浦の殺人』は、真夏の浜辺での事件を描いたもの。海水浴場での殺人というとクリスティの『白昼の悪魔』と乱歩の『孤島の鬼』ぐらいしか、筆者は咄嗟に思いつかず、比較的珍しい舞台設定ではないかと思った。金田一耕助と等々力警部が、海水浴場のミスコン審査員にかり出されたり、登場人物の一人が、洋上のヨットの人物の会話を、双眼鏡を片手に読唇術で読み取ることが事件の端緒となったりと、なかなかユニークな展開が楽しい。また謎解きも単純にはいかない錯綜ぶりが凝らされていて、短編でも手を抜いていない流石の巨匠の職人ぶりが窺われた。 | ||||
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