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ギフテッド
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ギフテッドの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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つい先ごろ政府が「ギフテッド」と呼ばれる飛びぬけた才能を持つ子供への教育支援事業に8000万円を投じるというニュースが流れ、その額のショボさに唖然とさせられた所ではあるのだけど良いタイミングで目に付いたのがこの作品。 物語の方は主人公の独身アラフォー女性、凛子が甥・姪へのクリスマスプレゼントを用意している場面から始まる。妹の子供である彼らの個性に合わせて本を選び妹の暮らす家に向かうが大歓迎してくれた甥・姪たちとは対照的に妹の顔は浮かない様子。 医師である夫が中学受験で名門女子校へと進ませようと考えている長女の莉緒は成績は優秀なのだけれども「虫愛ずる姫」とちょっと変わった子で、筋道を立てて考えるのは得意だがそれ故に弁が立ち妹との間で諍いが絶えない。そして何より代々医師である家の跡継ぎにと夫が願っている長男・真之介は幼稚園児なのだけど、常に一人プラレールで遊んでおり、言葉の発達も明らかに遅いらしい。 通わせている塾でも人間関係に問題を抱え、父親が教えようとしても自分の意見を譲らない事から衝突ばかりの莉緒の扱いに困り果てた妹から「お姉ちゃんはT大を出ているし」と懇願された凛子は仕方なしに莉緒の家庭教師を引き受ける事にするが、妹の夫である岡田からは「自分の様な私立医大じゃなくT大出身の義姉さんの方が向いているのかもしれませんね」と嫌味臭い事を言われ前途多難な道程を予感する羽目に…… 読み終えてまず思ったのは政府が掲げたギフテッド支援に当初予算である8000万円の10倍、100倍の予算を投じても今の日本社会じゃ育てた「ギフテッド」たちはその才能を活かすどころか、メンタル的に追い込まれ、下手すると絶望のあまり自殺でもやらかしてしまうんじゃないかと……要するに受け容れる社会の側やその社会を構成する大多数の凡人の意識が変わらん事には彼らに待ってるのは狭い枠に閉じ込められる人生なんじゃ無いのかという危惧であった。 読み始めてニヤリとさせられたのが主人公である凛子の人物造形。作中では「T大」とぼかして書いてあるが、理Ⅰとか出てくるから間違いなく東大だろう。「東大出の女」……世の平凡な男性諸氏はそう聞かされると思わず身構えてしまうんでは無いだろうか?そして「東大出の女」が自分の平凡な意見を根本からひっくり返す様な鋭い発言で返した時に心がざわつくのを抑えられるだろうか? 実際に凛子は就職先のコンサル会社でそんな「東大卒の女」に対するコンプレックスを拗らせた上司にイビり続けられ、退職に追い込まれたという過去を持っているのだけれども、斯様に凡人たちの、そして大多数の凡人により構成される社会の器というのはまことに小さい。標準から外れた連中が劣っていようが、優れていようがマイノリティとして弾き出そうという圧力に満ちている。 そして凛子が家庭教師を引き受けた姪の莉緒はそんな社会の狭量さに小学生でありながら直面している事が次第に見えてくる。女性ですら思った事を言えば「生意気をぬかすな」と反発を食らい、その経験から次第に「女である自分は率直にモノを言ってはならないのか」という絶望に叩き落されるのだけれども、それが子供となれば尚酷い事になるのは本作を読まずともお分かり頂ける事かと。 学校でも塾でも教師や講師の間違いを指摘し、親にも納得できない事には反論する事で孤立しがちな莉緒に自分を重ねた凛子は自分の二の轍を踏ませまいと知人の精神科医や教育支援事業を行っているNPO法人の主催者に会いに行く事になるのだが、これが「ギフテッド」の生き辛さを分かりやすく解説してくれる便利キャラになっていた。 作中で精神科医が「ギフテッド」の特徴を列挙しているのだけれども 「好奇心が旺盛であらゆることを知りたがる」 「完璧主義で自分にも他人にも高い水準を求める」 「感受性が強く、不安や悲しみを人一倍強く感じる」 「繰り返しや暗唱を嫌う」 「やると決めたらやり抜く」 「人々やものごとを仕切りたがる」 「権威に批判的な態度を取る」 ……そりゃ、こんな性格では生き辛くもなるだろうな、とは思う。だが本作を手に取ろうかと迷っておられる方の中には「あ、これ自分のことでは?」と思い当たるフシがあるんじゃないだろうか?であればご注意を。後半に入ると更に強烈な形で「ギフテッド」の生き辛さが明確な形で描かれ、自分に重ね合わせると思わず鬱っぽくなりそうなくらいに精神をゴリゴリ削って来るのだから堪らない。 凛子はそんな「ギフテッド」たちの居場所の無さをサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」の主人公であり行く先々で欺瞞や虚飾を指摘しては他人と衝突しまくるホールデン少年の姿に重ねるのだが、やがてその重ね合わせは凛子が幼い頃に出会った自分よりずっと頭が良く、天体観測を趣味としていながら虐待を受けていたと思しき少年の記憶を呼び覚ます事に……というのが主な筋書き。 特別な才能の持ち主と持て囃されるばかりで、その明晰さから世の矛盾や欺瞞に気付いてしまうが故に孤立してしまうというギフテッドの孤独や生き辛さをテーマとし、徹底して掘り下げるというという部分では大いに楽しませて頂けた……だが、一小説として観た場合はどうだろう? 上に紹介した凛子の記憶から蘇った「流れ星の君」と思しき少年の現状や、莉緒を巡る家庭内の問題が後半の軸となるのだけど上手い事展開できていたかと言えばこれがちょっと微妙としか。幼い日の記憶から突如姿を消した「流れ星の君」の辿った末路はともかく、それを知らされた凛子の反応がどうにも中途半端だし、終盤のちょっとした出会いも何だか「とって付けた感」が拭えない。 序盤から匂わせていた莉緒や発達障害が疑われる弟・真之介と権威主義的な父親の関係も「え?そんなに簡単に納得しちゃうの?それならここまで父親を憎まれ役っぽく描く必要とかあったの?」とポカンとさせられる形で幕を閉じてしまうので肩透かしを食らった様な気分が残る。 短編集である「淀川八景」ではブツ切りっぽいオチや必要最小限の人物描写が良い方向に働いていたのだが、長編になるとそれが「投げっ放し」という印象を与える方向に作用していた様に思われた。テーマもその掘り下げ方も申し分無いだけに長編小説としてのストーリー展開にもう少しメリハリを付けて読者がカタルシスを得られる様な形で仕上げられなかったのかと勿体なさを覚えたのは自分だけだろうか? 先に「淀川八景」を読んだ上で言わせて頂ければ作者の才能は短編の方に向いておられるのでは無いかと思われた。再度長編に挑まれるのであればストーリーの構成にもう一工夫が必要になるだろうな、とそんな事を思わされた一冊。 | ||||
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