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パンとサーカス



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【この小説が収録されている参考書籍】
パンとサーカス

パンとサーカスの評価: 3.94/5点 レビュー 52件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.94pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(3pt)

小説でしか逃れられない現実が歯痒い

「「アメリカの属国」という屈辱的なステイタスから身をふりほどき、国家主権の回復、「自由日本」の創建をめざして戦うテロリストたちの冒険譚ですから、痛快でないはずがない」という内田樹氏の解説どおりの小説です。文庫本で690ページというボリュームには圧倒されますが、一気呵成に読み終えることができました。
しかし現実に目を戻すと、依然としてアメリカの属国であることに不満や疑問を抱くことなく、いやそれを嬉々として受け入れ、思いやり予算を注ぎ込み、古い戦闘機を馬鹿買する政権を選択し続けるという大多数の国民がいます。不愉快でないはずがありません。戦後79年が経っても、このような小説で気持ちを楽にすることしかできない現状には、やりきれない思いがします。
パンとサーカスAmazon書評・レビュー:パンとサーカスより
4065268745
No.2:
(3pt)

私は本書を、手放しで称賛はできない

読み終えて、なんとも複雑な気持ちになった。この本で描かれる日本の状況は、全くその通りだと思う。日本はアメリカの属国であり、仮に日本が戦争状態になっても、アメリカは助けはしない。長く政権についている政党は根っこから腐っていて、己の利益に直結しない国民のことなど全く眼中にない。データも記録も改竄する。平気で嘘をつく。いざとなれば邪魔者を抹殺することも辞さない。
 こんな状況を変え、日本は真の民主的な独立国にならなければならない、私は強くそう思う。しかしだからと言って、この国を真っ当な方向に向けるには、この本に書かれたような手段しかないのだろうか。大震災を経験しても、原発が爆発しても、結局嘘をつき通し、苦しんでいる人を踏み台にして、ほんのわずかな特定の人間の利益を追求する国柄の国である。著者が論文の形で登場人物に語らせる、根底に「国譲り」DNAがあるという説も頷ける。
 しかし私は、黒幕を隠密裏に殺していくことに、やはり喝采を送れない。書評にあるような「痛快さ」を感じない。そうした手段を経て変わった国は、どんな姿をしているだろう、民主主義独立国家の形をしているのだろうかと、強く疑問に思ってしまう。もしそのような手段でしかこの国を変えることができないとしたら、私は全てに絶望する。
 長大ながら飽きることなく読み進められる小説であることは間違いなく、登場人物の現状認識には共感する。文章も巧みである。読む価値はある。が、私は本書を、手放しで称賛することはできない。
パンとサーカスAmazon書評・レビュー:パンとサーカスより
4065268745
No.1:
(3pt)

「あ、やっぱり?」と思った「暗殺が成功してよかった」発言。政治テロ・エンターテイメント

2023.4.20現在、島田雅彦先生が「こんな事を言うと顰蹙を買うかも知れないけど、今まで何ら一矢報いる事が出来なかったリベラル市民として言えばね。まあせめて(安倍元首相の)暗殺が成功して良かった」という発言が話題になっています。私はこの数か月前にこの小説「パンとサーカス」を読んでいたので、「あ、やっぱりそう思ってましたか?」と腑に落ちました。

この小説は二人の主人公(やくざの息子とCIAの工作員となる日本人)が「腐った世の中をテロで直しをしてやろう」という内容になっています。この小説の中の日本政府は「アメリカにしっぽ振る人間が出世し、そうでない人間はアメリカに搾取されている。政治家は自分の私腹を肥やすことしか考えておらず官僚もそれにおもねる無能揃い」ということになっております。
ちなみにこれは戯画化したものではないようで島田先生が去年、文芸春秋に寄せた「復讐代行小説」というタイトルのコラム(手元のスクラップには号数を記載し忘れたので何月号かは分かりません)によると「九割は事実に基づいている」そうです。

一読するに、純文学系統の作家の書いたものとしては思いのほか「ちゃんとエンターテイメントとしている」ように思います。事件や興味深い人物、一般人が知らないような情報を飽きないように配置していく手腕は確かです。殺し方に妙なユーモアがあったりするのも悪くありません。その点評価し☆3とします。
東京新聞に連載する際の島田先生のコメントでは「韓流エンターテイメントに負けないものを目指す」と豪語しており、それが達成できているかはちょっと判断が付きかねますが、自民党に反感を抱き安倍政権を何としてでも倒したかった人には娯楽として申し分のないものではないでしょうか。なにしろこの小説は「市民の復讐心を満たして快哉を叫ばせること」(前述のコラム)にあるようですので。

まあ私はその「市民」に入れてもらえないないようなのでちょっと受け付け兼ねました。
まず小説の構図そのものは単純すぎました。
というのもこの小説の敵役となる日本人は全員無能ぞろいで有能な敵はアメリカ人と中国人しかいません。思い返す限り、劇中に登場する主人公とそのシンパと精神的同志以外の日本人は馬鹿か悪人しか登場しないと言って間違いなかったと思います。なにしろ日本の政治家と官僚の話題になると「愚鈍」「無能」「売国奴」「犯罪者」「検察もグルになって逮捕しない」などと毎度のごとく書かれているほどです。
その鉾先は市民にも――おそらく現実の市民である我々にも――および「サイコパスに洗脳されたかのように無為無策の政権を支持している」「この国のインテリは市民を救えない奴らだとあきらめている」のだそうです。後者は主人公のセリフですが前者は地の文。つまり作者の意見とみていいと考えます。
極めつけは「東日本大震災後の政権交代で首相になった」「七年間その職にある」総理大臣。経歴から言えば明らかに実在の安倍晋三元首相らしい犬養首相は「世襲なだけの無能」と地の文でこき下ろされ、いいところが一つもない始末です。(名前に「犬」を入れたいという作者の強い思いを感じます)
「九割が事実に基づいている」と豪語する内容でこれではしらけます。

率直に申しあげれば「安倍元首相っぽい顔が書いてあるサンドバックを殴りつけ、『いや、これは安倍首相ではない』と見え見えの嘘ついててどや顔している様を見せつけられた」かのごとき感情を覚えました。その創作技術は一定の評価をしますし、日米地位協定とか横田基地の問題などに思うところがないではないですが、正直これでは真面目に考えるのが馬鹿らしくなります。キリストの言葉をもじった「砂漠谷絵里」なる意味深なネーミングの人物が出たりして何やら隠しメッセージもあるようですが、率直に言えばそれを深く考えるほどの価値を私は感じませんでした。

ここから少しネタバレします。
気になるのは「乗り越える」というテーマでした。キャラクターの一人が不意に神様からの言葉を傍受したかのように意味深なことを言うのですが、その中で「選ばれた未来の支配者は古い法を乗り越えることができる」というのがあります。
まず間違いなくドストエフスキーがラスコーリニコフに語らせた哲学を踏まえています。登場人物たちの行動も概ねそれにのっとっていました。汚職をしていたにせよ死刑になるとは思えない政府関係者を複数人、バラエティに富んだ方法で殺害する主犯格の主人公はほとんど悪びれず、五年くらい刑務所に入る程度で済んでいるほどです。その描写が薄いというか軽い。私はこんなキャラクターを主役に現実の特定人物に重ねた「腐った敵」を作り出してやりたい放題させ、主人公を正当化するかのように見える作者の倫理観にはついていきかねました。
「小説なので」という万能の言い訳があるので(何なら劇中にフィクションなら文句言えまいという旨の本音が書いてあります)何を書いても結構だったのでしょうが、読者としては「もしや気に入らない政治家を暗殺したり爆殺したりしたいのかなあ……」と思っておりました。「暗殺が成功してよかった」発言が出てきたのでその疑惑が私の中で少々強まっております(冗談半分です)

まあ必ずしも「否定しなければならない小説」ではないと思いますが、安倍元首相の暗殺を肯定すると解釈する余地を残す島田先生の言葉に、この小説を思い出して、思うところありこの文をしたためさせていただきました。失礼いたしました。
パンとサーカスAmazon書評・レビュー:パンとサーカスより
4065268745

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