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青き犠牲
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青き犠牲の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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著者が2013年に満65歳という、現代日本では、まだまだ活躍できる年齢で逝去してから、このレビュー一執筆の2017年で4年が経とうとしています。 彼の遺した作品で、読み落としている傑作はないか、と探して巡り合ったのが、本作品です。 本作品は、1986年に文藝春秋に発表されたもの。 直木賞の受賞が1984年であることを考えると、かなり脂の乗った時期の作品ではないかと思います。 物語の主人公は、彫刻家を父に持つ、高校生の杉原鉄男。 ガールフレンドの前島順子は、彼の異変に気づく。 心配して声をかけても、冷たい返事しかない。 やがて彼女は、鉄男が「ギリシア悲劇集」に没頭していたことを知った。 そこで、鉄男が注目していたのは、「私は自分の母親と交わり、また父の血をこの手によって流さねばならぬ運命にある」という一節であった…。 やがて、鉄男が18歳の誕生日を迎える頃、ある事件が起こる。 この自分の母と交わり、父を殺すという運命でお分かりのとおり、本作品のテーマは、オイディプス王の悲劇です。 これが、鉄男の周辺で、どんな意味を持ってくるのか、読者は読み進めるうちに知ることになりますが、そこには、著者の作品の特徴である、情感的で美しい文体に彩られた、トリッキーな作風が如何なく発揮されています。 著者は、騙し絵のような作品を得意としています。 ある事件がミステリの常套手段として起こるわけですが、そこには、読者が思いもかけない罠が張られています。 冒頭の展開だけで、真相に迫ることはほとんど不可能と言ってよいでしょう。 これは、ミステリのプロ中のプロが書いた作品として、評価されて然るべき作品と言えるのではないでしょうか。著者が仕掛けた罠に、是非とも翻弄されてみてください。 | ||||
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私は作者のデビュー当時(「変調二人羽織」)からのファンで、「白と黒」、「陰と陽」とを一瞬の内に反転させてしまう作者の"騙しの手腕"の虜となって来た。その意味において、作者の最高傑作は短編集「夜よ鼠たちのために」(こんな事が可能かと呆然とする程の傑作揃い)だと思うが、本作も「オイディプスの悲劇」をモチーフとしている事を明記しておきながら、なおかつその上で、読者を迷宮へと誘う隠れた秀作である。 上述した通り、初めから「オイディプスの悲劇」をモチーフとしている事が明記され、冒頭では主人公(の一人)の高校三年の青年と同級生の少女との恋愛沙汰が描かれている上に、文字通り青臭い「青き犠牲」という題名に、最初、私はスッカリ本作を舐めてしまった。ところが、中盤を過ぎて、それまで思い込んでいた事件構造(及びある登場人物の心理)の"虚実"が曖昧模糊となる辺りから、知らず知らずの内に作者の"騙しの手腕"に嵌っていた。予想外(と言っては失礼だが)に構想が良く練られているのである。特に、「血の連鎖」に関する作者の執着振りには感心した(他の作品でも「血の連鎖」を扱ったものが多い)。主人公(の一人)を高校三年の青年とした事が偶然ではなく必然である事が最後になって頷ける全体構成にも感心した。 軽い気持ちで読み始めたら、途中から何時も通りの作者の"騙しの手腕"に惹き込まれて行くという素晴らしい全体構成。まだまだ、未読の作者の秀作があるかと思うと、その掘り出しが今後も楽しみである。 | ||||
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怯える父、妖美な母、挙動不審の息子。 序盤からオイディプス伝説の構図が明示されており、さてこの軸をどう転がしてくるのか……謎解きの面以上に心理劇のクオリティから、その期待に応えてもらえた。深みと洗練を兼ね備えた描写力が光ります。 弱く不幸な人間の内の、憎と愛の渾然、それが「血」に由来・隷属するが故の哀しい運命性を、生々しくも繊細に描き出した佳作。 | ||||
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