敗北への凱旋
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敗北への凱旋の総合評価:
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連城三紀彦を読むには、覚悟と時間が要る。 その主題やテーマがどうあれ、あまりに美しい文体と表現に、幾度も手が止まり、一語一語を味わうように読んでしまうから、読了するまでに長く時が掛かる。ミステリの仕掛けさえも同様で、もはや詩文に近い。しかし、美しさは毒だ。甘美な毒は、一度躰に含めば止められない。 今作は暗号ミステリの体裁で描かれるが、作者も、恐らく読者も、暗号を解くことに主題をもとめていない。 あまりに難解な暗号の仕掛けは、驚くためのものではなく、この作品の終盤に爆発する、戦争という愚かな行為を糾弾する導火線なのだが、この線の歪みに絡め取られる登場人物たちの、絶望と怒り、そして哀しみによって徐々に引火されていく。 寺田の愛、鞘間の孤独で卑しい嫉妬、そして、全ての「責任」を背負い、ひとり業火に焼かれて生きていく道を選んだ文香。彼らが放った炎が、歴史でも、運命でも、宿命でもなく、日本を呑み込んだあの戦渦ならば。 連城と同じく、戦後間もなくに生まれた世代の秋生は叫ぶ。「戦争自体が一億人を犠牲にしようとした無差別殺人だったのではありませんか」 復刻に意義のある物語。 | ||||
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250ページ以下の本に、深く暗く広い世界が広がっている。今読んでも色褪せない暗号ミステリの復刊が嬉しい。 | ||||
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「夕萩心中」と同時期に執筆された作品の由だが、長年の作者のファンである私も知らなかった隠れた秀作である。作中に「戦争というものを、犠牲者の立場から書きたかった」という表面上の主人公(狂言回し役)の作家が出て来るが、この作家の想いは作者の想いでもあるのだろう。 スリーリー紹介は出来ないが、戦争がもたらす悲劇及びそれに翻弄される男女の数奇な運命を濃密に描いて、読者を圧倒する秀作である。また、本作は音楽が一つのテーマとなっていて、あるピアニストが作曲した美しい旋律が本作の物悲しさを増幅させていると共に、その楽譜が<暗号>となっているという凝り様は作者ならではのものである。更に、「白と黒」、「陰と陽」を一瞬の内に反転させてしまう作者特有の"騙しの手腕"も如何なく発揮されており、何とも贅沢な作品である。終戦当日に空からばらまかれた夾竹桃というプロローグから始まって、「敗北への凱旋」という表題の意味が浮かび上がるラストに到るまでの全体構成も素晴らしい。 本作は復刻版の由で、作者の作品は殆ど既読と自負して私にとっては嬉しい驚き・プレゼントだった。本作以外にも隠れた名作があるのではないかとの思いを掻き立てる程の出来で、実際、今後もその様な作品を探して読破して行きたいとの思いを強く抱いた。 | ||||
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本書を読み終えたとき、私は、そのトリックの途方もない大きさと、どんでん返しの美しき悲しさに、うちのめされずにはおれなかった。謎解きの中心となるのは、奏でられざるピアノ曲に秘められた暗号であるが、正直いって、これは難しいというよりも難しすぎる。しかしまたこの小説では、その圧倒的な解き難さそのものが、愛憎劇の深さと殺人事件の大きさを雄弁に物語りもする。思えば、パズルの難しさを誇るミステリは数あれど、なぜ難しいのかを描いて絢爛たる展開を示した作品は、そうあるものではない。 作者の投げかけた最大の“謎”は、作品の題名であるかも知れない。なにゆえ、「敗北」と「凱旋」がかく結びつくのか。「戦争の昭和」から時が経てば経つほど、この結末に、納得できない読者は増えていくだろう。私も、情において完全に納得することは、できそうにもない。だが、本書で描かれているように、時代は確かに人々の運命を根底から狂わせるのだし、人々は否応なく時代を背負わされるのだ。 | ||||
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昭和20年、8月15日。一機の特攻機が、 廃墟となった帝都に夾竹桃の雨を降らす……。 その三年後の年末、片腕をなくした帰還兵とその情婦が立て続けに射殺される。 男と同棲していた中国人とおぼしき女性の犯行で、その女も自ら海に身を投げた。 それからさらに二十数年後、小説家の柚木桂作は、寺田武史という、優れたピアニスト でありながら家庭の事情で軍人となり、数奇な運命の果てに非業の死を遂げた人物の 生涯を小説にするべく取材を始める。柚木は、寺田の遺した楽譜の謎を解こうとするが……。 楽譜や詩に託されたメッセージを読み解くことによって、 複雑に錯綜した愛憎劇を浮かび上がらせる暗号ミステリ。 本作の暗号は、実にエレガントではあるものの、難解で、 読者が解読するのはほぼ不可能なものとなっています。 とはいえ、眼目となるのは、なぜ寺田武史は暗号を残したのかという ホワイダニットなので、難解さが瑕になっているわけではありません。 そして、それと密接に関わる「犯人」の動機が本作のキモなのですが、 かなり豪腕な発想の飛躍によって読者への説得が試みられています。 ミステリ的には、非常にベーシックな発想でもあるのですが、 短編はともかく長編を支え得るかどうかは微妙なところです。 むしろ個人的には、空から降り注ぐ冒頭の夾竹桃 と、ラストの黄砂を照応させる趣向にしびれました。 | ||||
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