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(短編集)

アデスタを吹く冷たい風



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アデスタを吹く冷たい風の評価: 4.83/5点 レビュー 23件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.83pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全23件 1~20 1/2ページ
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No.23:
(4pt)

それなりに味がある

正直なところ初めの3編ぐらいはピンとこなかった。まあこんなもんだろう、という感じだった。本当は巻頭にこそ最も面白い作品が並んでいると思うのだが、僕はむしろ4番目の『国のしきたり』から、だんだん面白いなと思うようになった。

『もし君が陪審員なら』『うまくいったようだわね』はいわゆる〈奇妙な味〉の作品で、現代アメリカ(といっても1950年代)が舞台。これはこれで楽しかった。掉尾を飾る『玉を懐いて罪あり』は15世紀のイタリアが舞台の歴史もので、なかなか味わい深い。

訳が古いので、難読漢字もちょくちょく出てくる。「懐いて」「寛い」「哂う」「践む」など、ちょっと考えれば想像できるものから、「僻陬(へきすう)」「諂諛(てんゆ)」など意味の難しい(そもそも読めない)ものまで、けっこう頻出する。まあ昔の翻訳物って、おおむねこんな感じだったかもしれない。それを考えると最近の翻訳はストレスなく読めるな、と時代の差を思った。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
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No.22:
(5pt)

横山秀夫作品のような味わいのあるミステリ短編集

全7編を収録で内訳は以下のとおり。

・独裁軍事国家における職業軍人にして警察官のテナント少佐シリーズ:4編
・いわゆる奇妙な味のサスペンス:2編
・歴史ミステリ:1編

中でも、テナント少佐シリーズの「獅子のたてがみ」が抜群に面白かった。

同じくテナント少佐シリーズの「国のしきたり」と歴史ミステリの「玉を懐いて罪あり」も面白い。

その他の作品も水準を超える出来栄え。

ミステリ好きなら誰にでもおススメできる短編集です。

ところで、テナント少佐シリーズについては、横山秀描く警察小説のような味わいを感じた。

というのは、善悪が曖昧で閉鎖された男社会での男たちの矜持を描き、そこから生じる人間ドラマに違和感なくミステリ要素を溶け込ませ、ミステリ濃度がそこそこ濃い、という点が共通しているように思うからだ。

というか、横山秀夫は警察小説を執筆するにあたり、かな~りテナント少佐シリーズを参考にしたのではなかろうか。

以上余談でしたが、私にはそう思えてならないのでした。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.21:
(5pt)

もう一度じっくり読み直したいミステリというより文学作品

当方、ミステリ作品は結末が気になり、じっくりというよりさっと読むタイプである。大抵はそれでおしまいだが、本書はもう一度ゆっくり読みたいと思わせる作品集だった。
そう、ミステリというより一般的な文学の短編作品という印象。

本書に出てくる架空の国アデスタはフランコ独裁政権下のスペインをイメージしたものらしいが、自分が真っ先に思い浮かべたのはキューバ。
勿論本書の描写によるとアデスタはヨーロッパに属しているようなのでそうでないことは明らかだ。
あくまでもイメージの話だ。

それというのもテナント少佐のイメージがチェ・ゲバラなのだ。
描写によると思想信条はおろか容姿も全く違う。しかし何故か二人が重なってしまった。

その理由は、自分は本書の映像化を期待しており、その際テナント氏を演じるのはチェ・ゲバラのような雰囲気の俳優に演じてもらいたいと思っているからだろう。

現実的には難しいが、バンデラス氏ならどうだろう。彼はスペイン出身か。やはり本作舞台はスペインからインスパイアされたのだろう。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.20:
(5pt)

独特の世界と背景

半世紀以上前の時代背景と作品自体が発する深さが非常に巧く表現されていて、トリックも昨今の国産ミステリーより遥かに練られており虚を突かれる。漢字が読みにくいのも味があり、辞書を傍にじっくり楽しみながら読むのがお勧め。
 私が今年出会った本の中でかなり上質のミステリー作品。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.19:
(5pt)

不完全なこの世界でどう生きるか

テナント少佐ものの短編はどれもクラシック映画のような完成度。
ハードボイルド好きの方ならかなりしびれる一冊です。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.18:
(5pt)

ハードボイルド、歴史物、ミステリの傑作

隠れた名作にしておくのはもったいない!
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
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No.17:
(5pt)

届きました。

とてもきれいな状態です。ありがとうございました。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.16:
(4pt)

(2019年―第48冊)パラレルワールド風ハードボイルドから奇妙な味、中世密室ミステリまで幅広いテイストが楽しめる短編集です。

1961年に日本で独自に編纂されたトマス・フラナガンの短編集です。<ハヤカワ・ミステリ>叢書のうち復刊希望アンケートで1998年と2003年の二度、最多得票を得た書です。私が手にしたのは2015年発行の文庫版です。

◆「アデスタを吹く冷たい風」
:テナント少佐は国境を越えてアデスタ側へやってくるトラックが銃器の密輸をおこなっているとにらんで捜査を始める。しかしトラック運転手のゴマールが主張するには、運んでいるのは葡萄酒だけだ。事実、樽には葡萄酒しか入っていない。果たして武器の輸入など存在しないのか…。
 
 架空のアデスタではかつて将軍率いる“革命軍”と政府軍との間で干戈が交えられ、最終的には政府軍側の投降によって戦闘が終結したことが見えてきます。テナント少佐はかつて政府軍の兵士だった人物。蹉跌を味わった軍人ならではの鬱屈した思いが今も少佐を支配しているのが言葉の端々に見てとれます。密輸されている銃器類も実は彼ら旧政府軍兵士たちが戦争中に密かに隣国へ隠した代物ですが、それが密輸されて将軍側の政権を倒すことに使われることを恐れています。故敵の打倒に使われるのであれば捲土重来を期する思いを持つはずのテナント少佐にとってはむしろ願ったりかなったりの事態かと思いきや、さにあらず。彼は「むかしの軍隊の名誉のため」この密輸を何としても阻止しようと考えるのです。この一筋縄ではいかない彼の心模様が、この物語を傑出したハードボイルド・ミステリに仕立てています。

◆「獅子のたてがみ」
:テナント少佐はモレル大佐からある暗殺を命じられる。殺害対象はアメリカからの医師ロジャーズで、彼にはスパイ容疑がかかっている。少佐は部下のラマール中尉に射手を務めさせる。殺害後、少佐と中尉は審問官から尋問を受けるのだが…。

 テナント少佐はロジャーズ博士暗殺計画の命令に軍人として服しただけであり、責任はないと主張します。一人の人間が死んだにも関わらず、命じられたことを全うしただけと頑なに答える少佐の乾いた心は、戦後にイスラエルで裁判にかけられたアイヒマンの言葉のように響く思いがします。モレル大佐こそが責を負うべきだとでもいうかのような少佐と審問官との対決は、軍人のあるべき姿をめぐる論戦へと展開していくかに見えます。ところがです。終盤で驚愕のどんでん返しが読者を待ち受けるのです。読者を見事に騙してくれる痛快なストーリーです。

 なお、この審問会には将軍が派遣した「査察使」が加わっていますが、83頁の最終行で一度だけ「査察官」と誤記されています。

◆「良心の問題」
:戦時中にドイツの収容所に入れられていた男ブレーマンが射殺された。現場で取り押さえられたドイツ人のフォン・ヘルツィヒ大佐の尋問をテナント少佐が担当するが、被害者の主治医であったアメリカ人医師コートンはフォン・ヘルツィヒを戦犯として合衆国政府に引き渡すべきだと主張する。しかし将軍は国際問題化することを避けてフォン・ヘルツィヒ大佐を他国に逃亡させようとする。将軍の命を受けたテナント少佐は、フォン・ヘルツィヒ大佐を乗せた飛行機が離陸するまでの時間、コート医師に向けてある御伽噺を語って聞かせる…。

 革命以来、憲兵の地位を剥奪されたテナント少佐が、ただひたすら将軍の命を実直に執行していきながら、――「こころに反して、行動せねばならぬことが間々あるものです。思うに人生とは、愉快なものではない」(115頁)――それでもなお読者の共感を得るに足る形で「良心の問題」に向き合う短編です。またしても読者を騙(だま)す、騙(かた)りの妙が痛快この上ない物語です。
 内戦で賎軍側に属したテナント少佐は、今や官軍の命を受けながら生きる軍人でありつづける鬱々とした日々を送っているに違いありません。ニヒルで冷徹な心を抱えた彼は、怜悧狡猾と形容するが相応しい知恵を働かせて自身の考える人間的信念を実行していくのです。その姿がとても心に添います。見たこともない新しいヒーロー像がそこにあると言えます。

◆「国のしきたり」
:国境を超える列車の関税ジムを担当するバドラン大尉は特務機関から「ある種の物質」が密輸される恐れがあると知らされる。その情報をそれぞれ個別のルートで入手したチョーマン旅団長とテナント少佐が訪れ、バドラン大尉が次々と些細な密輸犯をとらえていく様子を観察してくのだが…。

 廉直なバドラン大尉と、これまでの3編同様どこか陰のあるテナント少佐との対比が際立つ一編です。「ある種の物質」が何であるのかがやがて明らかになりますが、その物自体よりも、それがどういう背景のもと持ち込まれたのかが見えてくるとともに、テナント少佐のいつもながらのニヒルで真の黒幕と読者とを同時に欺く手際が光ります。
 なお、「国のしきたり」の原題は「The Customs of the Country」。customはたしかに「しきたり/習慣」の意味がありますが、複数形customsとすると「税関」を指します。

 ここまでテナント少佐が主人公の4編を読んで考えたのは、舞台となっている共和国はフランコ独裁政権下のスペインに着想を得ているのでしょう。
 共和国は135頁の記述にしたがえば、「地中海に面」していて、「二派に分れた国内が【……】長い国内戦をつづけたあげく」「共和国なる独裁国家」として誕生したものであり、136頁には「国境にそびえる山獄地帯」のことが書かれています。
 残念ながらテナント少佐を主人公とした短編はこの4編きりです。彼が似非共和国の中で賤軍出身の軍人として鬱屈した心を胸に、それでもしたたかに生きる姿をもっと見たかったものです。スペイン独裁政権は1975年に幕を閉じ、真の民主的王国として再出発したことを知るだけに、テナント少佐の未来もまた新たな相貌を見せる可能性があったことでしょう。

 なお、このテナント少佐が属している国のことが第1編の「アデスタを吹く冷たい風」と第4編の「国のしきたり」とでは異なっているように見えるのでまごつきました。
 というのも、「アデスタを吹く冷たい風」では、「ゴマールは、共和国から葡萄酒を入れております」(12頁)と記述がありますし、「ゴマールはトラックで、峠を越して共和国に入る。帰りのトラックには、葡萄酒といっしょに、銃が積んである」(20頁)とテナント少佐が語っています。つまり、テナント少佐らは共和国側からアデスタ側に戻ったトラックを検分していることになります。
 また、ジャレル大佐が、かつてテナント少佐ら「政府軍のうち、潰滅を免れた唯一の部隊が、この地方から撤退して、共和国側に逃げ込んだ」(24頁)と説明しています。このことからもアデスタ側の政府軍がいったん「隣国の共和国側」に逃げたことがわかります。つまりテナント少佐の住む国の隣国が共和国として紹介されていると読めます。 
 ところが「国のしきたり」では冒頭で、「長い国内戦をつづけたあげく、数知れぬ兵士たちの墓の上に、共和国なる独裁国家を誕生させたばかりだった。支配者になりあがっているのは、内乱に勝利をえたジェネラルで、冷血な墓堀人と呼ぶにふさわしい人物だった」(135頁)と記されているため、テナント少佐が属する国こそが「共和国」になります。
 テナント少佐の「共和国」の隣には別の「共和国」があるということなのかもしれませんが、第1編の印象が第4編で変わってしまったのは事実です。

◆「もし君が陪審員なら」
:3人目の妻を殺害した容疑で起訴されたカルヴィン・ラッドを弁護士アメリイは見事無罪にする。しかし、ラッドの養父と3人の妻全員が不審死を遂げていたため、アメリイ自身が彼への嫌疑をぬぐえない。しかし財産目当ての殺人というわけでもなさそうだ。なにしろ妻3人のうち2人は資産家でもなんでもなかったのだから…。

 複雑な謎解きを名推理で解決する類いのミステリーとは異なる奇怪な短編です。かつてアメリカの人気テレビドラマに『ヒッチコック劇場』というのがありましたが、あれと同じような不気味で不条理な結末が待ち受けていて、最終ページでは背筋がゾクゾクしました。

 ただ、1960年代の翻訳ですから、「セントラル公園」とか「タキシイの運転手」といった奇妙な訳語が出てくるのは気になりました。

◆「うまくいったようだわね」
:ヘレン・グレンデルは自宅アパートで夫のアレックを射殺したあと、顧問弁護士のティモシイ・チャンセルを呼ぶ。なんとか自分が裁判にかけられずに済む方法はないかと尋ねる彼女に、彼は精神錯乱や偶発的事故だったなどのシナリオを考えるが、どれもうまくいきそうにない。そこで強盗が侵入してきたという筋立てを考えるのだが…。

 毒婦めいたヘレンと気弱な感じのティモシイの取り合わせであれば、おおよそ結末は想像がつくのですが、果てしてそれが「うまくいったようだわね」と言えるような類いのものなのでしょうか。いくらでも論破できそうな可能性はありそうで、なんとも胃の腑に落ちない思いが残りました。
 
 こちらもまた、「真空掃除機」といった古風な訳語が出てきます。

◆「玉を懐いて罪あり」
:15世紀、都市国家が群雄割拠するイタリア半島で、チェザーレ・ボルジアはフランス王ルイ12世に緑玉を献上することを企図する。そのためにイタリア北方のモンターニョ伯が仲介役を引き受けるが、フランス側に渡る前に緑玉が伯の城内で盗難に遭ってしまう。ボルジア家によって派遣された使臣とフランス王の大使ヴィールフランシュ侯とが伯の城に集って見守る中、事件の中心人物の尋問が始まる…。

 密室強盗事件の謎解きミステリーの体裁を取りつつも、中世と近世のはざまの時代におけるイタリア情勢を巡った政治劇が展開する物語です。尋問によって“犯人”の特定はされるものの、外交問題を穏便に済ませるために政治的幕引きがされます。
 なんとも味気ない結末だと思いきや、主君チェザーレ・ボルジアに宛てて使臣がみずからの推理を書き送った書簡の末尾にある署名を読んで愕然とします。そうか、そうだったのか。だからこそのこの幕切れだったのかと俄然納得してしまうのです。作者フラナガンにしてやられたという思いがする好編です。

 なお、現代を舞台にした他の6編に散見された、今の時代には少なからず古めかしく感じられる訳語が、この中世末期の物語にはかえってふさわしく感じられます。

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アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.15:
(5pt)

掘り出し物

フェアで見かけて購入。読み始めたら止まらない。とんでもない掘り出し物!復刊希望1位も納得。
テナント少佐ものは、キャラクターの魅力と翻訳の硬さがかもし出す風格があいまってなんとも言えず秀逸。ミステリーでありハードボイルドであり歴史フィクションでもある。久々に読み終わりたくないと思った。こんな本に出会えて嬉しい限り。
テナント少佐ものの並び方自体も、あえて時系列になっていないことで、前の話で?だったところが次の話で!となるところもあり、よく考えられていると思った。テナント少佐もののラストシーンがあれになるのもよかった。
テナント少佐もの以外は正直そこまでの衝撃はないが、テナント少佐ものを読むだけでも価値あり!
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.14:
(4pt)

テナントものはぜひ発表順に読んでくださいね(アデスタ-良心-獅子-しきたりの順)

テナントも「玉」も異常な状況が効果的、でもファンタジーとして楽しむべき作品群だと思います。いずれもバクチ要素が強く、現実世界では成立し難いのではと感じました。なので現代物は現実感が薄い印象です。ところで「玉」p272の訳注であっさり間違いと切り捨てられている「14世紀」は原文イタリア語クァトロチェント(1400年代)を英訳したらうっかり間違えたテイで…という作者のお遊びかも。「陪審員」p209「高性能のライフル猟銃」は本当は「高速の狩猟用ライフル弾」かな?とちょっと翻訳を疑っています。(原文未参照。宇野先生も銃器関係では結構怪しいです)
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.13:
(5pt)

よくわかる

皆様が軒並み高評価をつけられる理由、復刊希望第一位の理由が、読んだ後によくわかります。
なんといってもテナント少佐の魅力、帯にある「面従腹背」の四字熟語をそのままひとがたにした振る舞い。そして何人かが挙げられていますが、ブラウン神父を思わせる推理力と解決力、意外な犯人。ブラウンシリーズがお好きな方はきっとお気に召されるはず。独裁政権の真っただ中にもしブラウン神父がいたとしたら、こうなりそう。人をくった様子で、でも自分の信念は決して曲げない感じで。

私が若いころに読んだミステリーの翻訳者は、ほとんど宇野氏でした。訳者を変えずにそのまま復刊、ということで、今の読者には耳慣れない表現や、語句(「葡萄酒」とか。今なら「ワイン」ですよね。)が読みにくいかもしれませんが、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
「玉を懐いて罪あり」なんて訳、原題の「The Fine Italian Hand」から導き出せる翻訳者、今はそうそういませんよね。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.12:
(5pt)

古さを感じさせない

面白いという評判に誘われて、フラナガンを初めて読みました。
ちょっと古いかなと、途中までは思いましたが、思いがけず引き込まれてしまいました。
短編なので、とても読みやすいですね。
他の作品も機会があったら読みたい骨太の作家です。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.11:
(5pt)

名短編集の復活

【収録作品】
アデスタを吹く冷たい風
獅子のたてがみ
良心の問題
国のしきたり
もし君が陪審員なら
うまくいつたようだわね
玉を懐いて罪あり

寡作だが名手として知られる著者のミステリ短編を日本独自に編んだ短編集の待望の復刊。
冒頭の四作はフランコ独裁政権下のスペインをモデルとしたような架空の共和国の憲兵、テナント少佐を主人公とした連作。
自己の良心と抑圧的な体制との狭間で苦悩し葛藤するテナントの姿を見事に活写しながら、チェスタトンを思わせる盲点を突いたアイデアと驚きに満ちたミステリとしての興趣が相反する事なく一体化している。巧妙な密輸方法を描いた表題作と「国のしきたり」、アメリカ人医師の射殺事件の意外な真相「獅子のたてがみ」、さらにナチス残党を巡る事件「良心の問題」といずれも素晴らしい出来栄えであり、陰翳深いテナントの肖像は永く心に残り続ける。
「もし君が陪審員なら」と「うまくいったようだわね」の二篇は存分に捻りの効いた皮肉な展開のサスペンス。どちらも辛辣なサプライズ・エンディングが待ち受ける。
そして傑作揃いの本書に於いて白眉と云うべきは「玉を懐いて罪あり」だろう。別題「北イタリア物語」としても知られ、頻繁にアンソロジーに採用されている歴史ミステリの逸品であり不可能犯罪物の名作。典雅な筆致の中に権力の冷酷さを滲ませる結末が印象的。ポケットミステリ版では冒頭に置かれネタバレとなっていた訳注が末尾に移されたのは喜ばしい。
新たに加えられた千街晶之氏による解説も読み応え充分だ。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.10:
(5pt)

古くさい訳がまたいい。

訳が古い。固い。でも、それがいい。すらすら頭に入るのではなく、引っかかり、引っかかりして頭に入れていく。これもまた読書だと思う。トリックを楽しむだけではなく、作品の醸し出す「空気」を舌に絡めながら味合う。そんな作品だ。
やはり、最初の4篇主人公テナント少佐の造形が素晴らしい。王立軍の兵士として生き、敗走し、そして革命軍の兵士として生きるテナント少佐。革命の覇者「将軍」一派との駆け引きの中で、「狼」テナントは祖国への愛と正義へのこだわりをもって、己に与えられた使命を見事にこなしていく。
誤謬などもいくつか見られるが、もっと他の作品は読みたいと思っても、この本しかない。それがもっとも残念だ。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.9:
(5pt)

他では読めない

東欧らしき一小国、ジェネラルが圧政を敷く世界で起こるスパイ事件、殺人、密輸……などなどの謎を軍人テナント少佐が解決する。
なんとなく、他では読めない異色の世界、登場人物の苦渋を伴う生き方などが、比べるとしたらチェスタトンのブラウン神父物くらいしかないのでは?というくらい独特で、魅力的。文章も過不足なし。
もともと歴史の研究者、小説家というこの作者の持ち味ならでは書けなかったろうし、今後も同じような作品は出ないでしょう。
ミステリとしても十分満足、小説としても大満足、という作品。
個人的には、とにかくテナント少佐に惚れます。その、体制に迎合せず、怒りっぽくて腹黒く、一見悪玉?と思わせといて純粋な情や正義を隠し持っているところが(涙)。
テナントの心中を察しながら読み返すと二度楽しめます。面従腹背が絵になるキャラクターとして、自分の中に新しいヒーロー像を刻んでくれました、こんなヒーローがいるのかと……。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)Amazon書評・レビュー:アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.8:
(5pt)

「玉を懐いて罪あり」――「北イタリア物語」の別題

◆「玉を懐いて罪あり」
  時は十五世紀末。
  ところはイタリア北辺の地に建つモンターニョ城。
  イタリアへの侵攻の機会を虎視眈々と狙うフランスを懐柔するため、
  ローマのボルジア家が、フランス王に献上するはずだった緑玉が、
  城の地下宝物室から紛失するという事件が起きる。
  現場は密室状況にあり、人の出入りは不可能。
  二人いた警固の衛兵のうちの一人は首を刎ねられ、もう一人は負傷して倒れていた。
  城主のモンターニョ伯は、ボルジア家からの使臣と事件について話すなかで
  負傷した衛兵ノフリーオが、犯人の一味なのではないかと冷徹に推理する。
  ノフリーオは聾唖者であったため、伯爵は彼に犯行場面を描いた
  絵を三枚示し、どれが「真実」であるかを尋問するのだが……。
  
  一応《密室》ものに分類される本作ですが、とくに
  トリックが仕掛けられているわけではありません。
  むしろ《最後の一撃》ものといったほうが適切でしょう。
  本作は実に非情で残酷な物語なのですが、「最後の一行」を
  読むことで、驚きとともに、その真意を了解することができます。
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4150006466
No.7:
(4pt)

使い古された形容詞だが、まさに”異色”の短編集

絶版になっては読者のリクエストで復刊…を繰り返している異色の短編集。評判は聞いていたが、このたび友人の薦めで読んでみた。さて、何と評したらいいのだろう。文体にも内容にも、他では見られない、何とも独特な味わいがある。使い古された形容詞だが、まさに”異色”。どこがどう異色なのか、これは読んでいただくしかないだろう。最初の4編は、某軍事独裁国家の憲兵テナント少佐を主人公にした話。現政権を嫌いながらも、今より悪くならないよう最善を尽くそうとするテナントの心情が、ドライな文体からにじみ出ていて、何とも言えぬ味わいがある。特におもしろかったのは「獅子のたてがみ」で、テナントのアクロバット的な面従腹背に驚かされた。残りの3編は独立した短編だが、やはり異色の味わいがある。なお、「密室殺人傑作選」(早川ポケット・ミステリ)にも、トマス・フラナガンの短編「北イタリア物語」が載っているが、本書掲載の「玉を懐いて罪あり」と全く同じ話である。ご注意を。
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4150006466
No.6:
(5pt)

復刊希望1位の短編集

本の帯の「復刊希望読者アンケート第1位」という言葉に引かれて買ってみました。トマス・フラナガンという知名度の低い作家(自分が知らなかっただけで、もしかしたら有名なのかな?)、売れ行きがあまりよくないと聞く短編集、それなのに1位、これはものすごいに違いない!と思って。で、読んでみて、なるほどと納得。7編が収録されているのですが、どれも一ひねり、意外な結末が待っていて、なぜこれが復刊などしなければならないようになってしまったのか不思議なぐらいです。うち4編は、革命が起きて『将軍』が統治する架空の国の憲兵テナント少佐が主人公。己の良心に忠実でありたいと願い、また、軍人として上層部からの命令には従わなければならない立場。この二つが反対の方向を向いたとき、悩みながらもどちらにも満足できる結末を導き出す、ぶっきらぼうながら知恵と実行力を持つ男の姿にとても好感が持てます。解説によると、トマス・フラナガンの小説はここに収められた10年の間に発表された短編7作だけなのだそう。と言っても、本書の初版は1961年、解説が書かれてからすでに40年以上経っているので、もしかしたら他にも作品があるのかもしれません。が、寡作であるのは確かなこと。非常に残念ですね。
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4150006466
No.5:
(5pt)

荒野を吹き抜ける風

短編集なのですが,さすがに復刊希望第一位というだけあって,どれも珠玉の出来でした。特筆すべきは,その舞台となるアデスタの描写。砂礫,血,風…。そんな異国の風景が,自分の周りに広がっているような気になります。その茫漠とした荒野と風を感じられただけでもこの本は読む価値がありました。あ,もちろん,短編のミステリとしてもかなり上質。鋭利な切れ味という表現がぴったりかも。短編のミステリとしては最高レベルの作品だと思います。
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No.4:
(5pt)

鋭利な刃物

 短編に不可欠な筋立ての妙と、切れ味鋭い表現、簡潔ながら奥深い人間・状況心理の巧みさは、これぞ短編の見本である。カーや乱歩にはあまりみられない、文芸作品としても十分に対応できる作品集である。 ミステリーファンが待ち望んだ傑作集は、時間を忘れて読み耽り、珠玉の時間を過ごす事が出来た。バイオグラフィーが謎に包まれたフラナガンの至高の一品である。
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