(短編集)

アデスタを吹く冷たい風

【この小説が収録されている参考書籍】

【この小説が載っている参考書籍】

評判

アデスタを吹く冷たい風の評価:

4.83/5点 レビュー 23件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.83pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全39件 1〜20 1/2ページ
No.39
(4pt)

それなりに味がある

正直なところ初めの3編ぐらいはピンとこなかった。まあこんなもんだろう、という感じだった。本当は巻頭にこそ最も面白い作品が並んでいると思うのだが、僕はむしろ4番目の『国のしきたり』から、だんだん面白いなと思うようになった。

『もし君が陪審員なら』『うまくいったようだわね』はいわゆる〈奇妙な味〉の作品で、現代アメリカ(といっても1950年代)が舞台。これはこれで楽しかった。掉尾を飾る『玉を懐いて罪あり』は15世紀のイタリアが舞台の歴史もので、なかなか味わい深い。

訳が古いので、難読漢字もちょくちょく出てくる。「懐いて」「寛い」「哂う」「践む」など、ちょっと考えれば想像できるものから、「僻陬(へきすう)」「諂諛(てんゆ)」など意味の難しい(そもそも読めない)ものまで、けっこう頻出する。まあ昔の翻訳物って、おおむねこんな感じだったかもしれない。それを考えると最近の翻訳はストレスなく読めるな、と時代の差を思った。
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.38
(4pt)

それなりに味がある

正直なところ初めの3編ぐらいはピンとこなかった。まあこんなもんだろう、という感じだった。本当は巻頭にこそ最も面白い作品が並んでいると思うのだが、僕はむしろ4番目の『国のしきたり』から、だんだん面白いなと思うようになった。

『もし君が陪審員なら』『うまくいったようだわね』はいわゆる〈奇妙な味〉の作品で、現代アメリカ(といっても1950年代)が舞台。これはこれで楽しかった。掉尾を飾る『玉を懐いて罪あり』は15世紀のイタリアが舞台の歴史もので、なかなか味わい深い。

訳が古いので、難読漢字もちょくちょく出てくる。「懐いて」「寛い」「哂う」「践む」など、ちょっと考えれば想像できるものから、「僻陬(へきすう)」「諂諛(てんゆ)」など意味の難しい(そもそも読めない)ものまで、けっこう頻出する。まあ昔の翻訳物って、おおむねこんな感じだったかもしれない。それを考えると最近の翻訳はストレスなく読めるな、と時代の差を思った。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.37
(5pt)

横山秀夫作品のような味わいのあるミステリ短編集

全7編を収録で内訳は以下のとおり。

・独裁軍事国家における職業軍人にして警察官のテナント少佐シリーズ:4編
・いわゆる奇妙な味のサスペンス:2編
・歴史ミステリ:1編

中でも、テナント少佐シリーズの「獅子のたてがみ」が抜群に面白かった。

同じくテナント少佐シリーズの「国のしきたり」と歴史ミステリの「玉を懐いて罪あり」も面白い。

その他の作品も水準を超える出来栄え。

ミステリ好きなら誰にでもおススメできる短編集です。

ところで、テナント少佐シリーズについては、横山秀描く警察小説のような味わいを感じた。

というのは、善悪が曖昧で閉鎖された男社会での男たちの矜持を描き、そこから生じる人間ドラマに違和感なくミステリ要素を溶け込ませ、ミステリ濃度がそこそこ濃い、という点が共通しているように思うからだ。

というか、横山秀夫は警察小説を執筆するにあたり、かな~りテナント少佐シリーズを参考にしたのではなかろうか。

以上余談でしたが、私にはそう思えてならないのでした。
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.36
(5pt)

横山秀夫作品のような味わいのあるミステリ短編集

全7編を収録で内訳は以下のとおり。

・独裁軍事国家における職業軍人にして警察官のテナント少佐シリーズ:4編
・いわゆる奇妙な味のサスペンス:2編
・歴史ミステリ:1編

中でも、テナント少佐シリーズの「獅子のたてがみ」が抜群に面白かった。

同じくテナント少佐シリーズの「国のしきたり」と歴史ミステリの「玉を懐いて罪あり」も面白い。

その他の作品も水準を超える出来栄え。

ミステリ好きなら誰にでもおススメできる短編集です。

ところで、テナント少佐シリーズについては、横山秀描く警察小説のような味わいを感じた。

というのは、善悪が曖昧で閉鎖された男社会での男たちの矜持を描き、そこから生じる人間ドラマに違和感なくミステリ要素を溶け込ませ、ミステリ濃度がそこそこ濃い、という点が共通しているように思うからだ。

というか、横山秀夫は警察小説を執筆するにあたり、かな~りテナント少佐シリーズを参考にしたのではなかろうか。

以上余談でしたが、私にはそう思えてならないのでした。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.35
(5pt)

もう一度じっくり読み直したいミステリというより文学作品

当方、ミステリ作品は結末が気になり、じっくりというよりさっと読むタイプである。大抵はそれでおしまいだが、本書はもう一度ゆっくり読みたいと思わせる作品集だった。
そう、ミステリというより一般的な文学の短編作品という印象。

本書に出てくる架空の国アデスタはフランコ独裁政権下のスペインをイメージしたものらしいが、自分が真っ先に思い浮かべたのはキューバ。
勿論本書の描写によるとアデスタはヨーロッパに属しているようなのでそうでないことは明らかだ。
あくまでもイメージの話だ。

それというのもテナント少佐のイメージがチェ・ゲバラなのだ。
描写によると思想信条はおろか容姿も全く違う。しかし何故か二人が重なってしまった。

その理由は、自分は本書の映像化を期待しており、その際テナント氏を演じるのはチェ・ゲバラのような雰囲気の俳優に演じてもらいたいと思っているからだろう。

現実的には難しいが、バンデラス氏ならどうだろう。彼はスペイン出身か。やはり本作舞台はスペインからインスパイアされたのだろう。
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.34
(5pt)

もう一度じっくり読み直したいミステリというより文学作品

当方、ミステリ作品は結末が気になり、じっくりというよりさっと読むタイプである。大抵はそれでおしまいだが、本書はもう一度ゆっくり読みたいと思わせる作品集だった。
そう、ミステリというより一般的な文学の短編作品という印象。

本書に出てくる架空の国アデスタはフランコ独裁政権下のスペインをイメージしたものらしいが、自分が真っ先に思い浮かべたのはキューバ。
勿論本書の描写によるとアデスタはヨーロッパに属しているようなのでそうでないことは明らかだ。
あくまでもイメージの話だ。

それというのもテナント少佐のイメージがチェ・ゲバラなのだ。
描写によると思想信条はおろか容姿も全く違う。しかし何故か二人が重なってしまった。

その理由は、自分は本書の映像化を期待しており、その際テナント氏を演じるのはチェ・ゲバラのような雰囲気の俳優に演じてもらいたいと思っているからだろう。

現実的には難しいが、バンデラス氏ならどうだろう。彼はスペイン出身か。やはり本作舞台はスペインからインスパイアされたのだろう。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.33
(5pt)

独特の世界と背景

半世紀以上前の時代背景と作品自体が発する深さが非常に巧く表現されていて、トリックも昨今の国産ミステリーより遥かに練られており虚を突かれる。漢字が読みにくいのも味があり、辞書を傍にじっくり楽しみながら読むのがお勧め。
 私が今年出会った本の中でかなり上質のミステリー作品。
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.32
(5pt)

独特の世界と背景

半世紀以上前の時代背景と作品自体が発する深さが非常に巧く表現されていて、トリックも昨今の国産ミステリーより遥かに練られており虚を突かれる。漢字が読みにくいのも味があり、辞書を傍にじっくり楽しみながら読むのがお勧め。
 私が今年出会った本の中でかなり上質のミステリー作品。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.31
(5pt)

不完全なこの世界でどう生きるか

テナント少佐ものの短編はどれもクラシック映画のような完成度。
ハードボイルド好きの方ならかなりしびれる一冊です。
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.30
(5pt)

不完全なこの世界でどう生きるか

テナント少佐ものの短編はどれもクラシック映画のような完成度。
ハードボイルド好きの方ならかなりしびれる一冊です。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.29
(5pt)

ハードボイルド、歴史物、ミステリの傑作

隠れた名作にしておくのはもったいない!
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.28
(5pt)

ハードボイルド、歴史物、ミステリの傑作

隠れた名作にしておくのはもったいない!
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.27
(5pt)

届きました。

とてもきれいな状態です。ありがとうございました。
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.26
(5pt)

届きました。

とてもきれいな状態です。ありがとうございました。
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.25
(4pt)

(2019年―第48冊)パラレルワールド風ハードボイルドから奇妙な味、中世密室ミステリまで幅広いテイストが楽しめる短編集です。

1961年に日本で独自に編纂されたトマス・フラナガンの短編集です。<ハヤカワ・ミステリ>叢書のうち復刊希望アンケートで1998年と2003年の二度、最多得票を得た書です。私が手にしたのは2015年発行の文庫版です。

◆「アデスタを吹く冷たい風」
:テナント少佐は国境を越えてアデスタ側へやってくるトラックが銃器の密輸をおこなっているとにらんで捜査を始める。しかしトラック運転手のゴマールが主張するには、運んでいるのは葡萄酒だけだ。事実、樽には葡萄酒しか入っていない。果たして武器の輸入など存在しないのか…。
 
 架空のアデスタではかつて将軍率いる“革命軍”と政府軍との間で干戈が交えられ、最終的には政府軍側の投降によって戦闘が終結したことが見えてきます。テナント少佐はかつて政府軍の兵士だった人物。蹉跌を味わった軍人ならではの鬱屈した思いが今も少佐を支配しているのが言葉の端々に見てとれます。密輸されている銃器類も実は彼ら旧政府軍兵士たちが戦争中に密かに隣国へ隠した代物ですが、それが密輸されて将軍側の政権を倒すことに使われることを恐れています。故敵の打倒に使われるのであれば捲土重来を期する思いを持つはずのテナント少佐にとってはむしろ願ったりかなったりの事態かと思いきや、さにあらず。彼は「むかしの軍隊の名誉のため」この密輸を何としても阻止しようと考えるのです。この一筋縄ではいかない彼の心模様が、この物語を傑出したハードボイルド・ミステリに仕立てています。

◆「獅子のたてがみ」
:テナント少佐はモレル大佐からある暗殺を命じられる。殺害対象はアメリカからの医師ロジャーズで、彼にはスパイ容疑がかかっている。少佐は部下のラマール中尉に射手を務めさせる。殺害後、少佐と中尉は審問官から尋問を受けるのだが…。

 テナント少佐はロジャーズ博士暗殺計画の命令に軍人として服しただけであり、責任はないと主張します。一人の人間が死んだにも関わらず、命じられたことを全うしただけと頑なに答える少佐の乾いた心は、戦後にイスラエルで裁判にかけられたアイヒマンの言葉のように響く思いがします。モレル大佐こそが責を負うべきだとでもいうかのような少佐と審問官との対決は、軍人のあるべき姿をめぐる論戦へと展開していくかに見えます。ところがです。終盤で驚愕のどんでん返しが読者を待ち受けるのです。読者を見事に騙してくれる痛快なストーリーです。

 なお、この審問会には将軍が派遣した「査察使」が加わっていますが、83頁の最終行で一度だけ「査察官」と誤記されています。

◆「良心の問題」
:戦時中にドイツの収容所に入れられていた男ブレーマンが射殺された。現場で取り押さえられたドイツ人のフォン・ヘルツィヒ大佐の尋問をテナント少佐が担当するが、被害者の主治医であったアメリカ人医師コートンはフォン・ヘルツィヒを戦犯として合衆国政府に引き渡すべきだと主張する。しかし将軍は国際問題化することを避けてフォン・ヘルツィヒ大佐を他国に逃亡させようとする。将軍の命を受けたテナント少佐は、フォン・ヘルツィヒ大佐を乗せた飛行機が離陸するまでの時間、コート医師に向けてある御伽噺を語って聞かせる…。

 革命以来、憲兵の地位を剥奪されたテナント少佐が、ただひたすら将軍の命を実直に執行していきながら、――「こころに反して、行動せねばならぬことが間々あるものです。思うに人生とは、愉快なものではない」(115頁)――それでもなお読者の共感を得るに足る形で「良心の問題」に向き合う短編です。またしても読者を騙(だま)す、騙(かた)りの妙が痛快この上ない物語です。
 内戦で賎軍側に属したテナント少佐は、今や官軍の命を受けながら生きる軍人でありつづける鬱々とした日々を送っているに違いありません。ニヒルで冷徹な心を抱えた彼は、怜悧狡猾と形容するが相応しい知恵を働かせて自身の考える人間的信念を実行していくのです。その姿がとても心に添います。見たこともない新しいヒーロー像がそこにあると言えます。

◆「国のしきたり」
:国境を超える列車の関税ジムを担当するバドラン大尉は特務機関から「ある種の物質」が密輸される恐れがあると知らされる。その情報をそれぞれ個別のルートで入手したチョーマン旅団長とテナント少佐が訪れ、バドラン大尉が次々と些細な密輸犯をとらえていく様子を観察してくのだが…。

 廉直なバドラン大尉と、これまでの3編同様どこか陰のあるテナント少佐との対比が際立つ一編です。「ある種の物質」が何であるのかがやがて明らかになりますが、その物自体よりも、それがどういう背景のもと持ち込まれたのかが見えてくるとともに、テナント少佐のいつもながらのニヒルで真の黒幕と読者とを同時に欺く手際が光ります。
 なお、「国のしきたり」の原題は「The Customs of the Country」。customはたしかに「しきたり/習慣」の意味がありますが、複数形customsとすると「税関」を指します。

 ここまでテナント少佐が主人公の4編を読んで考えたのは、舞台となっている共和国はフランコ独裁政権下のスペインに着想を得ているのでしょう。
 共和国は135頁の記述にしたがえば、「地中海に面」していて、「二派に分れた国内が【……】長い国内戦をつづけたあげく」「共和国なる独裁国家」として誕生したものであり、136頁には「国境にそびえる山獄地帯」のことが書かれています。
 残念ながらテナント少佐を主人公とした短編はこの4編きりです。彼が似非共和国の中で賤軍出身の軍人として鬱屈した心を胸に、それでもしたたかに生きる姿をもっと見たかったものです。スペイン独裁政権は1975年に幕を閉じ、真の民主的王国として再出発したことを知るだけに、テナント少佐の未来もまた新たな相貌を見せる可能性があったことでしょう。

 なお、このテナント少佐が属している国のことが第1編の「アデスタを吹く冷たい風」と第4編の「国のしきたり」とでは異なっているように見えるのでまごつきました。
 というのも、「アデスタを吹く冷たい風」では、「ゴマールは、共和国から葡萄酒を入れております」(12頁)と記述がありますし、「ゴマールはトラックで、峠を越して共和国に入る。帰りのトラックには、葡萄酒といっしょに、銃が積んである」(20頁)とテナント少佐が語っています。つまり、テナント少佐らは共和国側からアデスタ側に戻ったトラックを検分していることになります。
 また、ジャレル大佐が、かつてテナント少佐ら「政府軍のうち、潰滅を免れた唯一の部隊が、この地方から撤退して、共和国側に逃げ込んだ」(24頁)と説明しています。このことからもアデスタ側の政府軍がいったん「隣国の共和国側」に逃げたことがわかります。つまりテナント少佐の住む国の隣国が共和国として紹介されていると読めます。 
 ところが「国のしきたり」では冒頭で、「長い国内戦をつづけたあげく、数知れぬ兵士たちの墓の上に、共和国なる独裁国家を誕生させたばかりだった。支配者になりあがっているのは、内乱に勝利をえたジェネラルで、冷血な墓堀人と呼ぶにふさわしい人物だった」(135頁)と記されているため、テナント少佐が属する国こそが「共和国」になります。
 テナント少佐の「共和国」の隣には別の「共和国」があるということなのかもしれませんが、第1編の印象が第4編で変わってしまったのは事実です。

◆「もし君が陪審員なら」
:3人目の妻を殺害した容疑で起訴されたカルヴィン・ラッドを弁護士アメリイは見事無罪にする。しかし、ラッドの養父と3人の妻全員が不審死を遂げていたため、アメリイ自身が彼への嫌疑をぬぐえない。しかし財産目当ての殺人というわけでもなさそうだ。なにしろ妻3人のうち2人は資産家でもなんでもなかったのだから…。

 複雑な謎解きを名推理で解決する類いのミステリーとは異なる奇怪な短編です。かつてアメリカの人気テレビドラマに『ヒッチコック劇場』というのがありましたが、あれと同じような不気味で不条理な結末が待ち受けていて、最終ページでは背筋がゾクゾクしました。

 ただ、1960年代の翻訳ですから、「セントラル公園」とか「タキシイの運転手」といった奇妙な訳語が出てくるのは気になりました。

◆「うまくいったようだわね」
:ヘレン・グレンデルは自宅アパートで夫のアレックを射殺したあと、顧問弁護士のティモシイ・チャンセルを呼ぶ。なんとか自分が裁判にかけられずに済む方法はないかと尋ねる彼女に、彼は精神錯乱や偶発的事故だったなどのシナリオを考えるが、どれもうまくいきそうにない。そこで強盗が侵入してきたという筋立てを考えるのだが…。

 毒婦めいたヘレンと気弱な感じのティモシイの取り合わせであれば、おおよそ結末は想像がつくのですが、果てしてそれが「うまくいったようだわね」と言えるような類いのものなのでしょうか。いくらでも論破できそうな可能性はありそうで、なんとも胃の腑に落ちない思いが残りました。
 
 こちらもまた、「真空掃除機」といった古風な訳語が出てきます。

◆「玉を懐いて罪あり」
:15世紀、都市国家が群雄割拠するイタリア半島で、チェザーレ・ボルジアはフランス王ルイ12世に緑玉を献上することを企図する。そのためにイタリア北方のモンターニョ伯が仲介役を引き受けるが、フランス側に渡る前に緑玉が伯の城内で盗難に遭ってしまう。ボルジア家によって派遣された使臣とフランス王の大使ヴィールフランシュ侯とが伯の城に集って見守る中、事件の中心人物の尋問が始まる…。

 密室強盗事件の謎解きミステリーの体裁を取りつつも、中世と近世のはざまの時代におけるイタリア情勢を巡った政治劇が展開する物語です。尋問によって“犯人”の特定はされるものの、外交問題を穏便に済ませるために政治的幕引きがされます。
 なんとも味気ない結末だと思いきや、主君チェザーレ・ボルジアに宛てて使臣がみずからの推理を書き送った書簡の末尾にある署名を読んで愕然とします。そうか、そうだったのか。だからこそのこの幕切れだったのかと俄然納得してしまうのです。作者フラナガンにしてやられたという思いがする好編です。

 なお、現代を舞台にした他の6編に散見された、今の時代には少なからず古めかしく感じられる訳語が、この中世末期の物語にはかえってふさわしく感じられます。

.
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.24
(4pt)

(2019年―第48冊)パラレルワールド風ハードボイルドから奇妙な味、中世密室ミステリまで幅広いテイストが楽しめる短編集です。

1961年に日本で独自に編纂されたトマス・フラナガンの短編集です。<ハヤカワ・ミステリ>叢書のうち復刊希望アンケートで1998年と2003年の二度、最多得票を得た書です。私が手にしたのは2015年発行の文庫版です。

◆「アデスタを吹く冷たい風」
:テナント少佐は国境を越えてアデスタ側へやってくるトラックが銃器の密輸をおこなっているとにらんで捜査を始める。しかしトラック運転手のゴマールが主張するには、運んでいるのは葡萄酒だけだ。事実、樽には葡萄酒しか入っていない。果たして武器の輸入など存在しないのか…。
 
 架空のアデスタではかつて将軍率いる“革命軍”と政府軍との間で干戈が交えられ、最終的には政府軍側の投降によって戦闘が終結したことが見えてきます。テナント少佐はかつて政府軍の兵士だった人物。蹉跌を味わった軍人ならではの鬱屈した思いが今も少佐を支配しているのが言葉の端々に見てとれます。密輸されている銃器類も実は彼ら旧政府軍兵士たちが戦争中に密かに隣国へ隠した代物ですが、それが密輸されて将軍側の政権を倒すことに使われることを恐れています。故敵の打倒に使われるのであれば捲土重来を期する思いを持つはずのテナント少佐にとってはむしろ願ったりかなったりの事態かと思いきや、さにあらず。彼は「むかしの軍隊の名誉のため」この密輸を何としても阻止しようと考えるのです。この一筋縄ではいかない彼の心模様が、この物語を傑出したハードボイルド・ミステリに仕立てています。

◆「獅子のたてがみ」
:テナント少佐はモレル大佐からある暗殺を命じられる。殺害対象はアメリカからの医師ロジャーズで、彼にはスパイ容疑がかかっている。少佐は部下のラマール中尉に射手を務めさせる。殺害後、少佐と中尉は審問官から尋問を受けるのだが…。

 テナント少佐はロジャーズ博士暗殺計画の命令に軍人として服しただけであり、責任はないと主張します。一人の人間が死んだにも関わらず、命じられたことを全うしただけと頑なに答える少佐の乾いた心は、戦後にイスラエルで裁判にかけられたアイヒマンの言葉のように響く思いがします。モレル大佐こそが責を負うべきだとでもいうかのような少佐と審問官との対決は、軍人のあるべき姿をめぐる論戦へと展開していくかに見えます。ところがです。終盤で驚愕のどんでん返しが読者を待ち受けるのです。読者を見事に騙してくれる痛快なストーリーです。

 なお、この審問会には将軍が派遣した「査察使」が加わっていますが、83頁の最終行で一度だけ「査察官」と誤記されています。

◆「良心の問題」
:戦時中にドイツの収容所に入れられていた男ブレーマンが射殺された。現場で取り押さえられたドイツ人のフォン・ヘルツィヒ大佐の尋問をテナント少佐が担当するが、被害者の主治医であったアメリカ人医師コートンはフォン・ヘルツィヒを戦犯として合衆国政府に引き渡すべきだと主張する。しかし将軍は国際問題化することを避けてフォン・ヘルツィヒ大佐を他国に逃亡させようとする。将軍の命を受けたテナント少佐は、フォン・ヘルツィヒ大佐を乗せた飛行機が離陸するまでの時間、コート医師に向けてある御伽噺を語って聞かせる…。

 革命以来、憲兵の地位を剥奪されたテナント少佐が、ただひたすら将軍の命を実直に執行していきながら、――「こころに反して、行動せねばならぬことが間々あるものです。思うに人生とは、愉快なものではない」(115頁)――それでもなお読者の共感を得るに足る形で「良心の問題」に向き合う短編です。またしても読者を騙(だま)す、騙(かた)りの妙が痛快この上ない物語です。
 内戦で賎軍側に属したテナント少佐は、今や官軍の命を受けながら生きる軍人でありつづける鬱々とした日々を送っているに違いありません。ニヒルで冷徹な心を抱えた彼は、怜悧狡猾と形容するが相応しい知恵を働かせて自身の考える人間的信念を実行していくのです。その姿がとても心に添います。見たこともない新しいヒーロー像がそこにあると言えます。

◆「国のしきたり」
:国境を超える列車の関税ジムを担当するバドラン大尉は特務機関から「ある種の物質」が密輸される恐れがあると知らされる。その情報をそれぞれ個別のルートで入手したチョーマン旅団長とテナント少佐が訪れ、バドラン大尉が次々と些細な密輸犯をとらえていく様子を観察してくのだが…。

 廉直なバドラン大尉と、これまでの3編同様どこか陰のあるテナント少佐との対比が際立つ一編です。「ある種の物質」が何であるのかがやがて明らかになりますが、その物自体よりも、それがどういう背景のもと持ち込まれたのかが見えてくるとともに、テナント少佐のいつもながらのニヒルで真の黒幕と読者とを同時に欺く手際が光ります。
 なお、「国のしきたり」の原題は「The Customs of the Country」。customはたしかに「しきたり/習慣」の意味がありますが、複数形customsとすると「税関」を指します。

 ここまでテナント少佐が主人公の4編を読んで考えたのは、舞台となっている共和国はフランコ独裁政権下のスペインに着想を得ているのでしょう。
 共和国は135頁の記述にしたがえば、「地中海に面」していて、「二派に分れた国内が【……】長い国内戦をつづけたあげく」「共和国なる独裁国家」として誕生したものであり、136頁には「国境にそびえる山獄地帯」のことが書かれています。
 残念ながらテナント少佐を主人公とした短編はこの4編きりです。彼が似非共和国の中で賤軍出身の軍人として鬱屈した心を胸に、それでもしたたかに生きる姿をもっと見たかったものです。スペイン独裁政権は1975年に幕を閉じ、真の民主的王国として再出発したことを知るだけに、テナント少佐の未来もまた新たな相貌を見せる可能性があったことでしょう。

 なお、このテナント少佐が属している国のことが第1編の「アデスタを吹く冷たい風」と第4編の「国のしきたり」とでは異なっているように見えるのでまごつきました。
 というのも、「アデスタを吹く冷たい風」では、「ゴマールは、共和国から葡萄酒を入れております」(12頁)と記述がありますし、「ゴマールはトラックで、峠を越して共和国に入る。帰りのトラックには、葡萄酒といっしょに、銃が積んである」(20頁)とテナント少佐が語っています。つまり、テナント少佐らは共和国側からアデスタ側に戻ったトラックを検分していることになります。
 また、ジャレル大佐が、かつてテナント少佐ら「政府軍のうち、潰滅を免れた唯一の部隊が、この地方から撤退して、共和国側に逃げ込んだ」(24頁)と説明しています。このことからもアデスタ側の政府軍がいったん「隣国の共和国側」に逃げたことがわかります。つまりテナント少佐の住む国の隣国が共和国として紹介されていると読めます。 
 ところが「国のしきたり」では冒頭で、「長い国内戦をつづけたあげく、数知れぬ兵士たちの墓の上に、共和国なる独裁国家を誕生させたばかりだった。支配者になりあがっているのは、内乱に勝利をえたジェネラルで、冷血な墓堀人と呼ぶにふさわしい人物だった」(135頁)と記されているため、テナント少佐が属する国こそが「共和国」になります。
 テナント少佐の「共和国」の隣には別の「共和国」があるということなのかもしれませんが、第1編の印象が第4編で変わってしまったのは事実です。

◆「もし君が陪審員なら」
:3人目の妻を殺害した容疑で起訴されたカルヴィン・ラッドを弁護士アメリイは見事無罪にする。しかし、ラッドの養父と3人の妻全員が不審死を遂げていたため、アメリイ自身が彼への嫌疑をぬぐえない。しかし財産目当ての殺人というわけでもなさそうだ。なにしろ妻3人のうち2人は資産家でもなんでもなかったのだから…。

 複雑な謎解きを名推理で解決する類いのミステリーとは異なる奇怪な短編です。かつてアメリカの人気テレビドラマに『ヒッチコック劇場』というのがありましたが、あれと同じような不気味で不条理な結末が待ち受けていて、最終ページでは背筋がゾクゾクしました。

 ただ、1960年代の翻訳ですから、「セントラル公園」とか「タキシイの運転手」といった奇妙な訳語が出てくるのは気になりました。

◆「うまくいったようだわね」
:ヘレン・グレンデルは自宅アパートで夫のアレックを射殺したあと、顧問弁護士のティモシイ・チャンセルを呼ぶ。なんとか自分が裁判にかけられずに済む方法はないかと尋ねる彼女に、彼は精神錯乱や偶発的事故だったなどのシナリオを考えるが、どれもうまくいきそうにない。そこで強盗が侵入してきたという筋立てを考えるのだが…。

 毒婦めいたヘレンと気弱な感じのティモシイの取り合わせであれば、おおよそ結末は想像がつくのですが、果てしてそれが「うまくいったようだわね」と言えるような類いのものなのでしょうか。いくらでも論破できそうな可能性はありそうで、なんとも胃の腑に落ちない思いが残りました。
 
 こちらもまた、「真空掃除機」といった古風な訳語が出てきます。

◆「玉を懐いて罪あり」
:15世紀、都市国家が群雄割拠するイタリア半島で、チェザーレ・ボルジアはフランス王ルイ12世に緑玉を献上することを企図する。そのためにイタリア北方のモンターニョ伯が仲介役を引き受けるが、フランス側に渡る前に緑玉が伯の城内で盗難に遭ってしまう。ボルジア家によって派遣された使臣とフランス王の大使ヴィールフランシュ侯とが伯の城に集って見守る中、事件の中心人物の尋問が始まる…。

 密室強盗事件の謎解きミステリーの体裁を取りつつも、中世と近世のはざまの時代におけるイタリア情勢を巡った政治劇が展開する物語です。尋問によって“犯人”の特定はされるものの、外交問題を穏便に済ませるために政治的幕引きがされます。
 なんとも味気ない結末だと思いきや、主君チェザーレ・ボルジアに宛てて使臣がみずからの推理を書き送った書簡の末尾にある署名を読んで愕然とします。そうか、そうだったのか。だからこそのこの幕切れだったのかと俄然納得してしまうのです。作者フラナガンにしてやられたという思いがする好編です。

 なお、現代を舞台にした他の6編に散見された、今の時代には少なからず古めかしく感じられる訳語が、この中世末期の物語にはかえってふさわしく感じられます。

.
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.23
(5pt)

掘り出し物

フェアで見かけて購入。読み始めたら止まらない。とんでもない掘り出し物!復刊希望1位も納得。
テナント少佐ものは、キャラクターの魅力と翻訳の硬さがかもし出す風格があいまってなんとも言えず秀逸。ミステリーでありハードボイルドであり歴史フィクションでもある。久々に読み終わりたくないと思った。こんな本に出会えて嬉しい限り。
テナント少佐ものの並び方自体も、あえて時系列になっていないことで、前の話で?だったところが次の話で!となるところもあり、よく考えられていると思った。テナント少佐もののラストシーンがあれになるのもよかった。
テナント少佐もの以外は正直そこまでの衝撃はないが、テナント少佐ものを読むだけでも価値あり!
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.22
(5pt)

掘り出し物

フェアで見かけて購入。読み始めたら止まらない。とんでもない掘り出し物!復刊希望1位も納得。
テナント少佐ものは、キャラクターの魅力と翻訳の硬さがかもし出す風格があいまってなんとも言えず秀逸。ミステリーでありハードボイルドであり歴史フィクションでもある。久々に読み終わりたくないと思った。こんな本に出会えて嬉しい限り。
テナント少佐ものの並び方自体も、あえて時系列になっていないことで、前の話で?だったところが次の話で!となるところもあり、よく考えられていると思った。テナント少佐もののラストシーンがあれになるのもよかった。
テナント少佐もの以外は正直そこまでの衝撃はないが、テナント少佐ものを読むだけでも価値あり!
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466
No.21
(4pt)

テナントものはぜひ発表順に読んでくださいね(アデスタ-良心-獅子-しきたりの順)

テナントも「玉」も異常な状況が効果的、でもファンタジーとして楽しむべき作品群だと思います。いずれもバクチ要素が強く、現実世界では成立し難いのではと感じました。なので現代物は現実感が薄い印象です。ところで「玉」p272の訳注であっさり間違いと切り捨てられている「14世紀」は原文イタリア語クァトロチェント(1400年代)を英訳したらうっかり間違えたテイで…という作者のお遊びかも。「陪審員」p209「高性能のライフル猟銃」は本当は「高速の狩猟用ライフル弾」かな?とちょっと翻訳を疑っています。(原文未参照。宇野先生も銃器関係では結構怪しいです)
アデスタを吹く冷たい風 Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風より
415181101X
No.20
(4pt)

テナントものはぜひ発表順に読んでくださいね(アデスタ-良心-獅子-しきたりの順)

テナントも「玉」も異常な状況が効果的、でもファンタジーとして楽しむべき作品群だと思います。いずれもバクチ要素が強く、現実世界では成立し難いのではと感じました。なので現代物は現実感が薄い印象です。ところで「玉」p272の訳注であっさり間違いと切り捨てられている「14世紀」は原文イタリア語クァトロチェント(1400年代)を英訳したらうっかり間違えたテイで…という作者のお遊びかも。「陪審員」p209「高性能のライフル猟銃」は本当は「高速の狩猟用ライフル弾」かな?とちょっと翻訳を疑っています。(原文未参照。宇野先生も銃器関係では結構怪しいです)
アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646) Amazon書評・レビュー: アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)より
4150006466