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(短編集)

あなたの人生の物語



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【この小説が収録されている参考書籍】
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語の評価: 3.90/5点 レビュー 131件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.90pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全131件 101~120 6/7ページ
No.31:
(5pt)

奇想爛漫、続編熱望

解説を読んで知ったのだが、この短編集が著者の傑作選ではなく、この時点で発表されていた全作品とは本当に凄い!デビュー即8打数8安打の十割打者。この快進撃はどこまで続くのだろうか?第1話冒頭「かりにその塔をシナルの平原へ横倒しにしたら、端から端まで旅をするのに二日はかかるだろう」って高さが100kmってこと?一行目から一気に引き込まれた。後はやっぱり表題作と『地獄とは神の〜』が特に良かった。オチで読ませる作風ではないので何度でも読める。この本は売りません。尚、作品毎の感想は別途呟きました。奇想爛漫、続編熱望。

番外作『作品覚書』。作者自らが収録作のひとつひとつについて、解説ではなく、創作に至る経緯を語ったもの。勿論、これは作品ではないが、作家の想像力の源泉が窺われて興味深い。仮に短編集の全8話が存在しなくても『実在しない書物に関する若干の覚書』という題名で一編の作品としても通用しそう。  2012年5月26日

第8話『顔の美醜』。美醜失認処置(識別能力を損なわないまま外見を重視しないようにする技術)を巡る、賛否両論の発言、記事、インタビュー、演説等を並べただけの構成。ここ韓国で整形手術の是非はディベート授業の定番ネタ。この本を読んでおくと独創的な論を展開できるかも。在韓留学生にお勧め。  2012年5月26日

第7話『地獄とは神の不在なり』。先ずは題名が秀逸。天使降臨と地獄顕現が常態化した世界。降臨は一種の稲妻の様な物であり神の御業には奇跡と犠牲が伴う。神の沈黙と不条理。まるでトルネードハンターさながらオフロードカーを駆って降臨天使を追うライトシーカー達の姿が印象的。最後に無条件の愛。 2012年5月24日

第6話『人類科学の進化』。僅か4頁のショートショート。科学雑誌投稿記事風文体。A・C・クラーク『幼年期の終り』に代表される超人類進化に関するパロディ。ハイテクノロジー文化との遭遇を生き延びた人類の科学的方向性についてシニカル且つコミカルに描写されている。傑作ではないが結構笑える。 2012年5月22日

第5話『七十二文字』ゴーレムの一種であるオートマンが単純労働を担う世界を描いた、所謂ビクトリア朝・改変SF。ホムンクルス、カバラ、種の断絶、遺伝子操作、人口政策等の興味深いテーマが織り込まれているが、個人的には物語に入り込めなかった。題名についての具体的言及も行われない。要検索。 2012年5月22日

第4話(表題作) 珍しく読み返す。異星人言語の解明の為に招聘された言語学者。彼等の言語は順不同で、発話と表記に関連性がない上、因果律を前提としない。一方並行して、確定した未来を示す、言い切り文で綴られた『あなた(娘)の人生の物語』が挿入される。一見何の関係もない話が最後に交わる。 2012年5月19日

第3話『ゼロで割る』。追憶の断片と数学史がコラージュされた小品。『ある数をゼロで割っても、その答えは無限大という数にはならない。その理由は…ゼロで割った結果は文字通り“不定”なのである。「たった今、私は数学の大部分が誤謬であることを証明してしまった。数学はもう無意味になった。」』 2012年5月18日

第2話『理解』。頭部に損傷を負い、脳細胞再生治療を受けた男が 超知性を得る話。『アルジャーノンに花束を』を思わす設定。作中で男が語る「ひとつで全宇宙を表現する巨大な象形文字」への考察は ドストエフスキーが、癲癇発作直前に訪れる恍惚の中で感じたという世界理解のヴィジョンを思わせる 。 2012年5月17日

第1話『バビロンの塔』。重層の神話的、宗教的、哲学的解釈が可能な作品ではあるが、案外、著者は不思議な物語を書いて、読者の当惑した様子を見たかったのかもしれない。非常に絵画的な作品である。絵画としてはブリューゲルの傑作があるが、物語として具象化できるとしたら諸星大二郎しかあるまい。 2012年5月15日
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)Amazon書評・レビュー:あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)より
4150114587
No.30:
(5pt)

認識と言語と時間に関する美しい試論

美しいファンタジーの基底にある世界観を理解しようとするのに努力が必要でした。

思考は渦巻く星雲のような曖昧なものなのに、それを表現する言葉の構造は線形的だから、言葉が取り残すものはあまりにも多い、
というようなことを、中井久夫先生のご著書の何かで読んで、強い感銘を受けたことがあります。
大著の中から該当する箇所を探し出す勇気はないので、引用とも言えないほど変形している可能性がありますが。

この物語は、その考えの延長上にあるものと感じられました。
思考とは言語であり、線形的な言語は思念の全てを表すことはできない、という前提のもとで、
線形性を超越する概念形成の新しい方法はあり得るのだろうかという深く根源的な問いを発している、 線形性に拠らない思考世界に向かうジャンプへの美しい試論である、 と感じられました。

言語とは星雲を表す方法のワンオブゼムに過ぎないと感じています。

ブルックナーのある曲を聴くと山の黎明の中に在る自分を感じます。
それは全く曖昧なもので、ブルックナーに喚起されるものと山の黎明に喚起されるものが、「私」という経験の記憶の集合体の中では、両者の星雲としての姿がとてもよく似ているのだろうという風に感じています。

それはとても微妙なもので、おそらく、山の黎明の中でブルックナーを聴くという行為はばかげていると想像されます。
パウル・クレーのある展覧会でドビュッシーが流れていたことがあります。
パウル・クレーとドビュッシーは何か似ているところがあるかもしれません。
けれどもドビュッシーをBGMとして聴くことのできない人間には、このサービスは甚だしく苦痛でした。 いっそハチャトゥリアンか何かなら無視できたかもしれませんが。
ドビュッシーがもしパウル・クレーに少しでも似ているなら、ドビュッシーはパウル・クレーを見ることを激しく邪魔します。 脳の中で混乱が起きるのです。

星雲は曖昧で捉えどころがなくて言葉にすることがとても困難です。

『線形』という言葉を、繰り出される糸状のもの、繋がって順番は決して前後しないもの、逐次的なもの、という意味で使っています。
数学の言葉として用法に間違いがあったらごめんなさい。

『あなたの人生の物語』というこの突拍子もない試論がファンタジーとして心に強く迫るのは、
私が、或いは私達が、思考の線形性のもどかしさを、意識的に或いは無意識的に、感じ続けているからだと思います。

キーワードは、認識と、言語と、時間。

頭の中に渦巻く星雲を「認識」という具体的なものとして把握するためには「言語」を用いなければならない。
しかし、言語とはそもそも逐次的線形的なものであるから、認識も自動的に線形性に束縛されてしまう。
テッド・チャンは、ここから逃れるために、まず物理法則としての「時間」概念の設定をずらします。

人類の物理法則は時間の線形性に支配されているから因果律として解釈される。 平たく言えば時間は前に向かって進んでいる。 行き先は行き当たりばったりのように見える。

ここでテッド・チャンは変分原理によって世界を把握している異星人?ヘプタポッドを登場させ、人類とヘプタポッドとの言語交流の中から、線形性からの脱出の方法を模索し始めます。
変分原理とは予め到達点を知っているという前提がなければ成立し得ない系である、
とテッド・チャンは本文中で言っているようですが、
物理学の知識がないために、残念ながら、この前提に判断を下すことができません。
(※変分原理とは、ある物理量の積分の値が極小になるようなケースが、現実に実現される運動である。 だそうです。)
しかし、物理学上の非線形的な原理系を持ち込んで、その近似、或いは帰着としての言語の体系、認識の体系を語ろうとしたのであろうことは想像に難くなく、
素人目には、このジャンプの着想は、あまりにも鮮やかな見事なものです!

物語は、ルイーズという認知言語学者?がヘプタポッドとのやり取りの中で、音声言語と異なった体系である文字言語に魅了されていく経過を追っていきます。
ヘプタポッドの世界の認識は線形的でなく、同時的認識というファンタジックな認識体系で行なわれ、書き文字もそのような姿で書かれます。
ヘプタポッドの書き文字は、星雲から一筋の糸を手繰り出し続けるというよりは、星雲によく似たもつれ合った糸のもじゃもじゃそのものを投げ出して書き付けている、というように見えます。

「意味図示文字には本来的に、ページを二次元的につかえるという利点がある」
ヘプタポッドの書き文字についてのこういう記述があります。
言語の線形性=一次元性からの解放を示していますが、数学のできる人(ヘプタポッド?)なら、二次元といわず多次元にした方が「同時的認識様式」の実感には近づけるのではないだろうかとは思いました。 一般向けの小説としては多次元ではあまりにも複雑になり過ぎるから、テッド・チャンは二次元で我慢したと考えるべきかもしれません。

その二次元で、書き文字と同じく認識もまた、「心は疾駆するのではなく…曼荼羅に似ていた 固有の方向性はなく…思考の筋道もない…推論という営為における全要素は等しなみに力強く、すべてが同じ優位を占めていた」という風に世界を把握していきます。

この小説の魅力は、異星人たちの「同時的認識様式」が、人類の線形的認識様式の限界を突き破ってくれるかもしれない、という可能性の示唆の魅力だと思います。
「同時的認識様式」に強いシンパシーを抱くのは、
私たちが生きているのは、瞬間のそのさなかでしかないからだ、と思います。
線形的時間の流れ(=時間軸の実長)は、生きている瞬間の瞬間には存在していない。 私たちは常に時間軸上のただ一点を生きているのです。
輪切りと称される医学的な画像検査を連想します。
私たちの瞬間は無数の断層写真のたった一枚に似てはいないでしょうか。 正しい順番に並べられた断層写真が全体像を形作るように、私たちの瞬間は線形的に並べられて、人生を形作るように思えます。
私たちは瞬間ごとにたった一枚の断層写真を生きているのに、「同時的認識様式」を欲しています。 一枚の断層写真の中に全体像の片鱗がヒントとして含まれているからなのでしょうか。
それとも断層写真という連想が、そもそも根本的に時間の線形性を受け容れた前提であって、「同時的認識様式」とは両立し得ないような全く別の概念なのでしょうか。

小説の中で絶え間なく時間は交錯し、最愛の娘「あなた」が、曖昧な時制で語られ、ルイーズはその娘に向かって語りかけ続けます。
小さなきっかけで無限に拡がっていく連想は、線形的な私たちの中でさえ常に起こっていることで、時制は意味を持たず、混沌と星雲を形作っているように感じられます。 線形的言語では紡ぎ出しきれない沢山のこぼれ落ちるものたちが星雲の中に残されて埋もれていくという実感があります。
小説の中で、時制は混乱しているのではなく交錯している。 混乱と呼ばないのは、整然とあるべき時間軸など存在していないという視座での話だからです。
唐突にランダムに挿入されているように見える愛する娘への時間の交錯した思いは、ルイーズの任務遂行中の何かの「気分」をきっかけに呼び起こされているのだとふと気付かされます。
ノンゼロサムゲームというキー「ワード」で呼び起こされる時間の交錯は、その仕掛けを明瞭に種明かししてくれます。
他の部分でも、時間の交錯は、「ワード」ではなく何かの気分で喚起されている滑らかな移行だと、この部分ではっきりと種明かしされるのです。
例えば、必要な実験機器の要請が承認されて明日から思い通りの実験にとりかかれるという不安の入り混じった期待感は、明日のデートへの不安の入り混じった期待感の時へと思念を導いていきます。
また例えば、ヘプタポッドは真の文字としての適格性を有する、非線形書法体系を用いているのかもしれないという美しい未知に出遇う予感、昂揚感は、愛する娘が「あなたはすばらしい子、日々のよろこびの源泉であり…」と書かれるような、自分だけではつくりだせなかった美しい未知の存在に育っていくことを知る昂揚感へと滑らかに繋がっていきます。

世界が、予め到達点を知っている変分原理系、合目的系であるという前提で示される「同時的認識様式」という新しい認識の在り方が本当に存在するのだとしたら、私たちの世界はがらがらと崩れ落ちていくことでしょう。
でも、幸い、この物語は美しいファンタジーに留まってくれています。 自分の立つ地面を揺るがされる激しい不安に脅かされることはありません。 
変分原理という厳めしい概念が、使い古された運命論と何が違っているのか、読み取るための知識と知性に、幸いにも、欠けているせいかもしれませんが。

例えば、予め結末を知っているのになぜ対話というやり取りが必要なのかという問いに対して、テッド・チャンは、言明によって現実が遂行されるという説明をしています。
時間が線形的に流れるという前提は受け容れています。
人類とヘプタポッドは、
「認識」は、人類の線形的逐次的認識に対してヘプタポッドは同時的認識、という別の手法で行ないながら、
両者とも、時間は、線形的に流れていることを受け容れている。
ヘプタポッドにも線形的な時間が流れているのです。
この根本的に見える設定の矛盾のおかげで、世界を脅かす原理の激しい揺らぎとして感じずにすむのかもしれません。
物理学の要素としての「時間」についてもっと詳しく知っていたら、もしかしたら、足下が崩れていくような恐ろしい話なのかもしれません。
幸い、慣れ親しんだ流れていく時間のことしか知らないので、その恐怖に直接触れることなく、この物語を美しいエンタテインメントとして楽しむことができます。

例えば、「同時的認識様式」は、ルイーズの「記憶」にしか作用しません。
意識は「同時的認識様式」以前と同様、逐次的にじりじりと煙草のように燃えていく。 しかし同時的認識を習得した後のルイーズの意識の煙草には、記憶の灰が、後方だけでなく前方にも、煙草の長さの分だけあるのだと、テッド・チャンは言います。
未知の物理学の中でこういうことが起こり得るのかどうか、幸いなことに少しも知らないでいるので、荒唐無稽な美しいファンタジーとして読むことができます。 

数学を知らないのに、「数学は美しい」という一文に魅惑されずにはいられません。
変分原理の目的の到達点が最小化、最大化であるという記述は、数学的美しさを連想させ、魅惑的です。
でも、物理学を知らないので、この一文の正しさを評価することさえできません。

最後から2ページ目に、(「同時的認識様式」をすっかり我がものにできたなら)
「単に事象の波に揺られて歩んでいくのではなく、…事象の必然性のなかにわが身をひたしこむことができたかもしれない。」
という記述があります。
一見極めて美しい夢のように見えるこの一文ですが、次の瞬間には、こんな恐ろしいことはまっぴらだと激しく思います。
世界を知るということは、知るべき世界の意味が消滅するということです。
それは、世界が消滅するということに他ならない、と感じられるのかもしれません。
真実を知ることはあまりにも恐ろしいことだと思えてなりません。

最後のページに、「わたしがめざしているのは歓喜の極致なのか、それとも苦痛の極致なのか?」という問いが投げかけられます。
あなたのめざしているのは恐怖の極致だと、私の心は答えます。
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4150114587
No.29:
(5pt)

意外に映像的な面もあります。

『地獄とは神の不在なり』がダントツに好み。天使が現れ災厄をもたらす。その災厄を奇跡と信じて追う主人公たちがいる。これは間違いなく映画『ツイスター』にインスパイアされていると思う。天使を追うSTORM CHASER なんてテッド・チャン以外の誰が思いつくだろうか? チャンはギレルモ・デル・トロ監督のパンズ・ラビリンスやゴールデンアーミーのファンであることを公言する(SFマガジン)ほどの映画ファンなのでそう思うのですが誰も指摘しないのはなぜ?
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No.28:
(3pt)

全部読み通せなかった・・

表題作はなかなか楽しめました。が、ふーん面白いね、という程度。
バビロンの等、地獄とは・・、の二作はクリスチャンでなく、特別な信仰も持たない私には退屈なモチーフでしかなかった。

ゼロで割る、に関しては、巻末にある作者自身による作品覚え書きでがっかり。
ゲーテルの不完全定理について「数学が内部矛盾を含むものであり、そのすばらしい美しさは単なる幻想にすぎないという証拠」と、まるで不完全定理を分かっていないことがバレバレ。これはカッコわるいです。
ここで、作者の印象は「難しそうなネタで難解な構文の小説を書いている人」というラベルが私の中で決定。

ゴメンナサイ、最後まで読み通せませんでした。
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No.27:
(4pt)

ノンゼロサムゲーム

え?!もう終わりなの?もっと話!!と期待してさくっと終わってしまった「人類科学の進化」

これ絶対続編書いても読む。というか主人公がいざとりかからんとするところで終わってしまった。人類滅亡の危機の話「七十二文字」

はじめはわくわくしていたけど、主人公の内的世界(超越者への進化)で動きがないので、途中つまらなさを感じていたが、序盤から畳み掛けるように面白くなり、壮絶で意外な結末だった「理解」

作業員と作業システム、塔の描写が現実味があって読んでいておもしろかった。終盤のシーンは緊張があったが、最後がそれ?案外最後で拍子抜けしてしまった。「バビロンの塔」

ブルーになってしまった夫婦の話。嫁は数学が真理だと認識していたが真理ではない事実を証明したことから。旦那は過去の自分のために、愛してない嫁といることから。少しもの足りなかった。「ゼロで割る」

天使や神様、地獄、天国が実在する社会。天使光臨は災難も呼ぶって設定とか、とにかく設定、世界観がおもしろい。神様も天使も結構理不尽だし、不公平。人間の価値観では。主人公の最後がおもしろい。それとジャニスのいきさつも。八百万神様がいる日本で生まれ、仏教徒の私にはピンとこないけど、おもしろいものはおもしろいのだ。「地獄とは神の不在なり」

宇宙人がやってきた・・・というのならに既出ですが、この宇宙人の価値観っていうのが全く違う。さくっといえば言語の話。昔なにかの番組で見たが、「鯨、イルカなどのコミュニケーションの方が、人間のそれより、複雑で知的だ」とあった。ヘプタポッドが人間とコンタクト取ったことは、人間の価値観として興味深いなあ。
よく宇宙人が妙な形していても、妙に地球人ぽかったり、むやみに襲ってきたりするけど、この話は別。
相手を知ることから、自分が変わる。「あなたの人生の物語」
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4150114587
No.26:
(5pt)

認識の変容

今回再読し、改めて大変な傑作だと思ったのが、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠に輝く「地獄とは神の不在なり」。天使の降臨や地獄の顕現が自然現象として日々の暮らしの中で普通に発生する世界を描いているという点で、ある種のファンタジーと言えるが、巻末の「作品覚え書き」でチャン自身が述べている通り、この作品の主要なメッセージは「美徳は必ずしも報われるものではない」ということであり、旧約のヨブ記に対するアンチテーゼとして捉えることができる。最後の2文に込められたイロニーの強烈さは格別。

 この宇宙における諸現象を人類とは異なる認識の体系で捉える異星人とのコミュニケーションを通して、またその特異な言語の研究を通じて、次第に彼らの認識様式を体得し、自身と一人娘の生と死のはざまに横たわる「人生」を俯瞰的に眺める視点を得た言語学者の「認識の変容」を語る表題作「あなたの人生の物語」は、初めて読んだときには何とも切ない話だなと思ったくらいだったが、今回再読して思わず涙腺が緩んだ。と同時に、いかに自分がこの作品を読めていなかったかに愕然とした。この物語はもう一つの「スローターハウス5」である。主人公の獲得した視点は、誤解を恐れずに言えば、ある種の「解脱」を達成した者に訪れる「悟り」の境地なのである。これだから小説は再読・三読しなけらばならないのだと思う。最初に読んだときには気づかなかった新たな発見をすることがたびたびあるのだから。

 「認識の変容」という点では「理解」も主人公の知性と感性が研ぎ澄まされていく過程を克明に描いて、凄絶なヴィジョンを提供してくれる。強化された知性がもたらす強化された認識や知覚…例えば、家族や友人も含めて周囲の人々の知性が(相対的に)犬や猫のレベルに見えるといったような…は、果たして人間にとって福音なのか、それとも呪いなのか。

 いまだに「SF」の2文字を見ると宇宙でドンパチ式のスター・ウォーズ風スペース・オペラしか想像できないような人たちにこそ読んでもらいたい一冊。まさしく「SFに対する認識の変容」が味わえるはず。
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No.25:
(5pt)

愛のあるSF

近代SFの中で、間違いなく最高傑作のひとつです。
特に表題にもなっている「あなたの人生の物語」は、SFと言うジャンルを超えて「愛」と「存在」について語っているもっとも優れた作品のひとつだと思います。あのイーガンの「ひとりっ子」がSFらしい量子論を軸にした同様のテーマの良作とするなら、こちらはフェルマーの最終定理と異星言語で、ほんの少しSFっぽいエッセンスを入れただけの、文学的に優れた傑作です。ひとつひとつの言葉は選び抜かれ、プロットも練り込まれ、何度か読み返しても違う視点、違う意味合いの発見が楽しめます。
他にも「理解」や「72文字」など、未知の世界に魅了されまくりです。ただ、冒頭の作品「バビロンの塔」は、他の作品と比べてちょっと間延びした感じなので、そこを少し読んだだけで、あれ?今ひとつ?と思わないようにご注意を。
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4150114587
No.24:
(3pt)

アイデアに光るものがあるが、小説として展開がヘタクソ

SF・ファンタジー短編集。
ブに100円であったので買った。
100円の価値は充分にあります。
モチーフとしては言語学・数学SFが多く、
テーマとしては人類進化SFが多い。
形而上学の問題に科学で切り込む姿勢は、
イーガンに似ているし、
イーガン同様、冷静に考えるとギャグの世界である。
SFは宇宙人や超能力や神や心といった存在しないものをネタにしてもいいのだが、
架空論理の切れが表題作以外は弱い。
一個目の短編はただのファンタジーと言うか、
小学生でも考え付く不思議な話で激しく脱力したw
アイデアに少し光るものがあるが、
料理の仕方がヘタクソな作品が目立つ。
全作平均値以上と解説では言っているが、
平均値以上なのは表題作だけだと思う。
数学ネタも数学の面白さを訴えるのには成功してない。
0で割れば1=2も証明出来るという有名なネタは出てくるが、
0ネタなら、0を掛ければ何でも0になる以外に、
0回掛ければ1になる
(10の2乗は100
10の1乗は10
10の0乗は1
10のマイナス1乗は0.1)
10のマイナス2乗は0.01)
とか、2乗して0になる0以外の数=超数
の話題も出して欲しかった。
数学の話題も出るが小学生でも理解出来るネタばかりなので、
数学嫌いでも恐れる必要はありません。
数学SFとしては、
四色問題の反例をでっち上げたマーチン・ガードナーより芸がない
簡単な文学寄りの作品ばかりなので、
単純なメタファーに感動出来る人は感動して下さい。
SF初心者に勧めるのに良いと解説者は言っているが、
こんなもん勧めんでも、
アシモフやクラークの短編集を素直に勧めればいいと思う。
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4150114587
No.23:
(4pt)

短編の名手

タイトルが気になって読んでみたら、グングン引き込まれた。
凄い作家を見逃していた。
さりげなく、凄いことを描いている。
じっくり考えさせる内容を何気なく書いているところが凄い。
目が話せない作家の一人になった。
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4150114587
No.22:
(4pt)

アイディア、感情、物語

SFが苦手な私でもすごく楽しめました。
1アイディアを、冗長に引き延ばさず短編でまとめるので、飽きずに読めます。
友人が「とにかくまずは表題作だけでも絶対読め。」と凄く薦めてきたのですが、
このアドバイスが良かったです。
ですので表題作の紹介を。
語り手は言語学者。軍から異星人の言語体系の調査チームに招かれます。
相手の言葉を知る、というのは単純に林檎→appleと、置き換えの言葉を覚える、
ということではありません。
考え方も違えば、文法のあり方も変わってくるのです。
語り手は、異星人の言語を調査する中で、逆に異星人の考え方も獲得していく。
そしてその見方で自分の人生を見ていくと…。
上記のようなSFとしてのアイディアが、
痛みと喜びの伴う「物語」として構築されていくところが見事。

また、この作品、「物語り方」がまた秀逸。
語り手が「あなた」へ語りかける段落と、通常の段落とが交互に進んでいきます。
この「あなた」は、語り手の娘を差すのですが、
ブライツライトビッグシティを持ち出すまでもなく、
「あなた」という呼びかけが連呼されると、(物語の枠外の)読み手の方にも、
呼びかけられているかのような奇妙な感覚がわき起こります。
そして呼びかけておいては、すっと別の段落に切り替わる。
だから読み手は語り手に引き込まれ、「何?」と、どんどん物語にのめり込む。
これだけでもうまいなあと最初は思っていたのです。
でも、この作品に関しては、単純にそれだけではなく、
読み進めていく中で、こういう語り口、構成それ自体が、
作者の上記アイディアの表現でもあるのだ、という事に気付かされます。
それに気付いたときはぞくぞくするほど興奮しました。

良質のSFというのは
「今自分が知っていると思っている世界の有り様は当たり前の物ではない」
ということに気付かさせてくれるのだなあと、
SFというジャンル自体への苦手意識も和らげてくれた作品です。
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4150114587
No.21:
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SFってなんだ?

アニメのタイトルに使われてたんで読んでみたんですが、SFなんてほとんど読んだことのない私にはものすごく新鮮でした。
文体は論文みたいで硬い感じがするんですがそのへんが逆にいい感じで意外とラクに読み進めました。SFというジャンルに興味がもてるいい本です。
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4150114587
No.20:
(5pt)

レムとチャン。

テッド・チャンは極度に寡作な作家で、邦訳どころか本国でも単行本は一冊しか刊行されていない。その著者がSF者にどれほど評価されているかは、本書の解説に詳しく、また数々の賞を受賞していることからも一目瞭然なので、ここでは記さない。
 表題作「あなたの人生の物語」、それから「地獄とは神の不在なり」からは特に強い印象を受けた。そして、巨人スタニスワフ・レムの作品を読んだときに似た読後感をあじわった。長編と短編の違いはあるが、レムと同様SFとかミステリ、ファンタジィといったジャンル小説を超越した思索の果てとしての物語である。
 「あなたの人生の物語」のエイリアン、それから「地獄とは神の不在なり」の神は、レムの『ソラリス』や『天の声』と同様に全く理解の及ばない存在としてえがかれる。レムは作品でファーストコンタクトの不可能性を示し、本書においては著者が、理解できえない存在と出会って以降に人がどう変わっていくか、ということを考察し、描いている。そうした人々に注がれる著者の視線は……極端に冷徹である。まるで著者自身が神やエイリアンであるかのように。しかし、そこがいいのだ。読者は著者との差に愕然としながらも、思索の世界に引きずり込まれるだろう。
 チャンはレムと同様の次元、哲学SFの極北にあると断言できる。
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4150114587
No.19:
(5pt)

八花撩乱。

数理系短篇小説集。
作家略歴を見るまでもなく書いた人間が理系の人間であることを如実に語って来るのは、物語の整然とした堅実さと、隔たった事物を結び付けるのに用いられる精緻な技巧。
ストーリーの結末が読めていても、丁寧な構成に惚れ惚れする。
また、理系知識に偏っていながらも、決して難しい理論を捏ね繰り回しているわけではなく、文系の人間にもすんなり理解できる程度であり、そしてそれが見事に活用されているのも好ましい点である。

個人的に選ぶ傑作は「ゼロで割る」「地獄とは神の不在なり」。
言語学研究者としては、表題作に関しての筆者の下調べ(或いは手持ちの知識)量に感心。
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4150114587
No.18:
(3pt)

各賞受賞というが…

形而上学的なギミックで読者を煙に巻こうとしているような印象を受けた。
センス・オブ・ワンダーが無い…とまでは言わないが寡少であるような…
どこかで「きれいなイーガン」と言われていたが、その綺麗さゆえか
物語・設定に深みがない。表題の構成にも疑問がある。
地味な話が好きな人には向いているのかもしれない。
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4150114587
No.17:
(5pt)

純粋なSFではないが すばらしい

「バビロンの塔」、「七十二文字」、「地獄とは神の不在なり」
はSFというよりはファンタジーに近いです。
私が特に面白いと思ったのは「バビロンの塔」でしょうか。
バビロンの塔の中での人々の生活の描写がとても興味深かったです。
一方、理解、ゼロで割る、あなたの人生の物語、顔の美醜は純然たるSFです。
「あなたの人生の物語」の言葉の思考形式への影響というテーマはとても
興味深かったし、「顔の美醜」も考えさせるテーマでした。

とにかく、各短編のアイデアがとてもユニークで、とてもよく練られています。

最先端の科学も、SFらしいギミックも無いけれど、
この本はチャン独特の世界に読者を連れて行ってくれます。
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)Amazon書評・レビュー:あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)より
4150114587
No.16:
(5pt)

ファンタジー色あふれる作品群

まず題が秀逸だなあと思う。"Stories of your life"、『あなたの人生の物語』。
ストレートで、でも平凡でない、何かを期待させるような語感。

中身は30分ほどで読めるショート作品を集めたもの。最近彼は最新刊を出したのだけど、
何年も待たされた挙句、数十ページしかない本にファンはブーイング。

よくイーガンと並んで紹介されるけど、この人はぜんぜんハードSFの人じゃなくて、むしろファンタジー色が強い。
そしてイーガンは人間の理性に興味があるとすれば、チャンは人間の感情のほうにより興味があるんじゃないか。

「理解」は暇なときについつい読んでしまうので、個人的に好きだ。B級感漂うこの作品はこの本の中でもちょっと異色だと思うけど、
短い文を畳み掛けるように繰り出していくスピード感が心地よい。知性についてちゃんと考えるきっかけになった。

表題作には感動できると思うし、「地獄とは・・・」はヨブ記という割とありふれた題材を基にしながらも、舞台設定やビジュアル的な描写が面白い。
個々の作品が時代設定や着想の点でバラエティに富んでいるのも、この本を傑作にしてる理由。

今後チャンには『夏への扉』を超えるような暖かい作品を書いて欲しいなと思う。とりあえず今のday jobを辞めてもらって(笑)。
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No.15:
(5pt)

この人なかなか筆がたつ

ストーリーごとに多様な世界観や,概念,小
道具やらの設定が出てきて(それでこそSFとい
えるわけだが),これがトレンドを絶妙に押さ
えつつ,奇想天外で楽しい!
 さらに特筆すべきは,ストーリーもなかなか
質が高い。この作家,まだ若いのにやるなと感
心しました。
 この物語の中のどれかを原作にと,ジブリあ
たりが交渉してそうな気がする。そのくらい映
像で観たくなるタイプの作品。最近のベスト。
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No.14:
(5pt)

極上の一冊

情報と娯楽に溢れた現代に暮らす我々にとって新たな驚きを与えてくれる物語に出会うことは稀である。しかしデッド・チャンの珠玉の8編はそれを与えてくれる。
 特に表題作は絶品だ。繰り返し読むほどに感動がしみこんでゆく。奇抜なアイデア、知的欲望をくすぐる仕掛け、そして行間を覆う愛情に溢れた切なさ。
 人間は因果律的に思考し生きている。しかしもし人間が変分原理的に生きていくとしたらどういう条件が必要になるか。そう考えたときにヘプタポッドという異星人を想像し、その言語を習得することでそれが可能になると設定した。このあたりの着想が極めて秀逸。
 さらにそこからごく自然にやすやすと、パラドックスもなく、時間というものを超越してしまう。そしてそれを愛する子供の短すぎる人生の物語に応用していく。もう凄いとしか言いようがない。
「あなたの人生の物語」を読んだ体験自体が「あなたの人生の一つの物語」になるに違いない。
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)Amazon書評・レビュー:あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)より
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No.13:
(4pt)

マジックリアリズム?

この作者の本は初めて読んだんですが、面白いと思います。

SFというよりも、ファンタジーというよりも、マジックリアリズムという感じでしょうか。

マラマッドのSF版みたいな不思議さ。

あと、それぞれの短編の味が違いますね。

この人の追求するテーマというのは何かあるのかなあ。

とにかく面白いことは間違いありません。表題作はちょっとセンチメンタルですが。
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)Amazon書評・レビュー:あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)より
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No.12:
(3pt)

オチがどうも…

設定や話の展開、着想に驚かされ、先が気になってしょうがなくなるの

だけれど、いずれの物語もオチが弱い。広げた風呂敷をどうまとめるのだ

ろうとドキドキしながら読み進むと、ラストで肩すかしを食らわせるよう

にあっけなく、あっさりと終わってしまう。どうも満足感が得られない。

例えるならクイーンエイリアン抜きの「エイリアン2」といった感じか。
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)Amazon書評・レビュー:あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)より
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