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(短編集)
ディオゲネス変奏曲
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ディオゲネス変奏曲の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.29pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全7件 1~7 1/1ページ
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素晴らしい短編集でした。さすが13・67を書いた人だと思う中、少しだけイマイチかなと思った話もあったのですが、全話についての個別後書きで著者の意図を知ってやっぱり凄い人だと唸ってしまいました。著者の考えとサービス精神に触れて、一番の作家になりました。 | ||||
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十七篇の作品を収録する。短くて読みやすい。正直言ってすべてが水準以上とは言い難い。 粗削りで不器用な作も散見するが、それにも増して成功した作への感銘が上回る。 「習作」一から三は、プロット作りの練習という意味か。2ページほどのショートショートである。 二がいちばん好きかな。 幻想またはSF風味の作はどれも完成度が高い。気に入ったのは、 『頭頂』頭の上に変な物がいるのに、誰も気づかない。ジャック・ヴァンスを思い出した。 『時は金なり』自分の時間を金で売り買いできる。50年代アメリカSFを思わせるアイデアだ。 小説としての情感や余韻は、本編のほうが上だ。 『霊視』ホームレスの爺さんは、死霊が見えるという。唖然とするようなひどいオチだ。大好き。 『カーラ星第九号事件』探索船爆発の謎を扱ったSF本格ミステリ。捻りの効いた佳作だ。 『悪魔団殺(怪)人事件』悪の組織内部でジャガイモ怪人が殺された。犯人はタマネギ怪人かナマコ怪人か。 悪趣味で笑える特撮ヒーローパロディ。本家日本でなぜ誰も思いつかなかったのか。香港人作家に先を越されたな。 『作家デビュー殺人事件』古典的機械トリックが懐かしい。 苦い結末も含めて、レトロな本格推理へのレクイエムという感じ。 作者はとにかく、プロットを捻りまくる。「その真相には、まだ裏がある」というやつだ。 『いとしのエリー』『姉妹』は捻りが成功して洒落たショート・ミステリになっている。 『藍を見つめる藍』は成功とは言えない。真相の意外さに感心するというより、首を傾げたくなる。 末尾に置かれた『見えないX』は、殺人は出てこない。 選択科目の教室に集まった七人の学生は、「この場に私の助手がいるから、当ててみたまえ」という課題に挑む。 純粋な論理小説の傑作だ。出来ばえは本作が一番だろう。 生きのいい作家だ。新刊が出たら買うので、どんどん出してほしい。 | ||||
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盛りだくさん、具だくさんなミステリ・SF・ショートショートの福袋。 「元年春之祭」のような純中華テイストはなく、舞台は香港でも日本でもアメリカでも通用しそうな普遍的な設定とプロット。ゆえに、全世界的に受容されやすいのではないか。訳文も大変に読みやすい。 個人的には、ミステリ色の強い長めの短編に魅かれるが、著者は純粋謎解きを志向していないようで、すこし残念。 | ||||
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まさに玉石混交。 これいる?というような話も多い。 話の雰囲気は世にも奇妙な物語みたいな感じと言えば分かりやすいか。 長い話の方がしっかりミステリしてて面白いものが多い。 個人的には「藍を見つめる藍」と「見えないX」が良かった。 「見えないX」はミステリ慣れしてる人ならすぐXが分かってしまうかもしれないが、それでも話の展開がうまく面白い。 1367などのような良質なミステリを期待して読む本ではないが、ちょっとひねりの聞いたショートショートや中編をサクッと読みたい方にはいいと思う。 | ||||
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短編だけに起承転結、序破急が見事なラインアップです。正統派SFショートショートは星新一、ナンセンス・ハチャハチャSFは横田順彌、(先人のおっしゃるように)ほろりと泣かせるラストはO・ヘンリー、密室トリックと論理的正統派推理は島田荘司、近未来というかもうすでに完成してしまっている監視社会はジョージ・オーウェルなどなどほぼ同世代の小説読みとしての深い含蓄を感じずにはいられません。 もちろんほんとうの「習作」が3本も入っているのはご愛敬ですし、この程度の着想メモから膨らませて完成品に仕上げる過程を公開してもらって得した気分も味わえます。しかも本読みには嬉しいことに、ハヤカワ・ポケットミステリーでの出版です。ポケミスの黄色いページ、2段組みの活字、少し曲げることで手になじみ読む速度があがるソフト表紙でなぜか内容も3割増しの面白さになることで、単行本や文庫よりもさらに濃く味わえました。ぜひ次回作もポケミスでお願いします。 | ||||
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巻末の「著者あとがき」が17頁もあり、著者の各短篇への思い入れが強いことが分かりました。 なにか統一感のようなものが印象的な短篇集です。 「この『あとがき』ははなはだ長くなってしまったが、これを削ることはできず、一篇一篇に記録を残さないではいられなかった」(358頁) この本の中の17篇の短篇には、主題である「ディオゲネス」という題名の短篇はありません。 では、どこから「ディオゲネス」が出てきたのでしょう? 答えは、巻末の「著者あとがき」にありました。 「本書の短篇はすべて私が ディオゲネス状態(傍点あり) のなかで、自分の思考にひたることで創りだしたものだ」(342頁) 「ディオゲネス状態(傍点あり)」! 「どれもよけいなことは考えずに、単純に〝これでいいんだ〟という思いのままに書いていった」(342頁) そういう短篇だそうです。思いのままに書いた自信作と言ってもいいと言えるでしょう。 静粛な思考の中で、著者自らの手で17の短篇を選び出し、 それらを「組曲のかたちにパッケージングして仕上げ」(341頁)た、とのこと。 17篇「それぞれの短篇には意味ありげにクラシック音楽風の名称を添えて」(341頁) 一冊の短篇集に編集しています。 各短篇に添えられた「クラッシック音楽風の名称」を列記してみます。 音楽家(?)としての「陳 浩基」さんの「意味ありげ」な作曲意図? そんなものを探し求めながら読んでみました。 繰り返される変奏の中に通奏低音のように響いている「陳 浩基」さんの主題(主旋律) それを聞き洩らさないように、耳に手を当てながら注意深く、クールに読んでみました。 この短篇集は、天野健太郎氏に捧げられています。 彼の主題(主旋律)もきっと、陳さんの主題と共通するところがあったのでしょう。 Var. I Prelude: Largo Val. II Allegro lusinghiero Val. III Inquieto Val. IV Tempo di valse Etude 1 Val. V Lento lugubre Val. VI Allegro patetico Val. VII Andante cantabile Val. VIII Scherzo Val. IX Allegretto poco moderato Etude 2 Val. X Presto misterioso Val. XI Allegretto malincolico Val. XII Allegretto giocoso Val. XIII Allegro molto moderato Etude 3 Val. XIV Finale: Allegro moderato ma rubato 本書に収められた17の短篇は、音楽の名称で言えば、 14の変奏曲と3つのエチュード(練習曲)ということになります。 エチュード(練習曲)を含めたのは、面白く感じました。 練習曲こそ、初心者にもわかりやすく、主題に近い旋律です! これらのエチュード(習作の短篇)は、次の変奏曲の「まえがき」になっているようにも感じられました。 「著者あとがき」によると、習作は3つとも「未発表」。この短篇集が、初出。練習短篇。 これらの習作は、1頁から2頁という「超」短い、前口上のような小説です。 習作の超短篇小説は「完全なお遊び」(347頁)であり、「ただの練習」(348頁) で書いたそうです。いやはや、なかなか力のこもった習作ですこと。 特に、「習作 三」に注目しました。 「おそらく最悪の後味を残して、読者の思いを裏切る小品」(357頁、「著者あとがき」より) と著者が書いているからです。「最悪の後味」なんて、ぜひ食べて味わってみたくなります。 「習作 三」は、たったの1頁半。 でも、著者は巻末の「著者あとがき」で、ていねいに説明してくれます。 「ここで言いたいのは、不完全な情報をもとに立場を選ぶのはひじょうに危険だということで、しかし現在の私たちは、一方的な印象からなにかを支持したり反対したりすることへの距離がしだいにせばまっている」(357頁) この言葉、すんごい文明批評、政治批評になっていると思います。 「ひじょうに危険」 これが「習作 三」で著者が言いたかった警告です。 作家「陳 浩基」さんの主題の変奏は、色々な形に変装して変化して演奏されていくので、要注意。 でも、主題は変わらず、一本の筋となって、どの短篇、長篇の小説の中にも、 伏流水となって陳さんと読者の足元を深く流れる川となっていきそうな感じが残りました。 変奏曲の千変万化の演奏を楽しむように、陳さんの作品を味わって楽しみたいと思います。 | ||||
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昨今の欧米のスリラーは、より分厚く、長くなる傾向にありますね。コスパを上げようとしながらも、より肉は分厚く、食べたという満足感だけを上げようとするチェーン店のステーキのような小説が多く見られます。よって、時折、ナイフを置いて、少し休んで、それから残りの料理に取り掛かることが多くなりました。一方、その少し休んでいる間にも自分自身のコスパを上げようとするあまり、手近にある「短編小説集」をちょっと読んでみる<偏執>に取り憑かれたしまったとも言えます。欲張り。 よって、陳浩基の自選短編集「ディオゲネス変奏曲」、早川書房を読む。 (注)くれぐれも、著者あとがきは、後から読んだほうがいいかと思います。フェアネスは、とても大切です(笑)。 14の短編と3つの掌編が収められています。掌編(習作一、二、三)については、感想をオミットします。 「藍を見つめる藍」。しっかり反転します。魅力的です。 「サンタクロース殺し」。O.ヘンリーの作品のようですね。とても好きです。 「頭頂」。アイロニーのある結末。 「時は金なり」。よりアイロニーのある結末。そして、霊性。美しい瞬間を引き延ばす必要はない。時をそのまま受け入れて、あるべき時間のまま過ぎてくれればいい。 「作家デビュー殺人事件」。<密室>。道具立ては素敵ですが、解決法はまあまあだと思います。ツイストが効いています。 「沈黙は必要だ」。悪辣。リチャード・スタークのように。 「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」。切れています。 「カーラ星第九号事件」。SFの革を被ったパズラー。そして、大いなるほら話。 「いとしのエリー」。アメリカン・クライム・ストーリー。まあ、アベレージです。 「珈琲と煙草」。より、切れています。 「姉妹」。乾いています。でも、少し緩い(笑)。 「悪魔団殺(怪)人事件」。ナンセンス。でも、傑作。 「霊視」。より、アベレージ。 「見えないX」。紛れもなく、傑作。フェアネス、そしてミスディレクションこそが、スリラーの真骨頂。 ということで、休憩のつもりで読んだ短編集の中に傑作が紛れ込んでいた時の果てしない歓びがありました。そして最後に、習作一、二、三をもう一度、通して読む。いい読書は手離し難い。欲張り(笑)。 | ||||
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