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異セカイ系
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異セカイ系の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.20pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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メフィスト賞受賞作……という事だが残念ながら「メフィスト」は本誌も系列作品もほとんど読んだ事が無い。 ただ攻めた感じのタイトルからして傑作か地雷か、そのいずれかという予感がして読んでみる事に。 物語はニート生活を送り続ける「おれ」が小説投稿サイト「White Novel」のランキングに 自作「臥竜転生」が10位に入った事を喜ぶものの、 回転寿司の厨房でのバイト初日を迎えた事で憂鬱な気分になっている所から始まる。 バイト先に赴く道すがら「おれ」は背後から「いまからあなたの人生は大きくかわる」という謎の声を聞く事に。 振り向いても誰もいなかった事からそのままバイト先に辿り着いた「おれ」は慣れない仕事の合間の休憩時間、 休憩室で苦手な感じの金髪ショートヘアに鉢合わせた事で持ち前の対人恐怖で緊張しまくる。 外見に見合わず、意外と感じの良い人だった金髪こと田中さんに「神です」と自己紹介した「おれ」だったが、 初日を終えて帰宅しベッドに転がると同時に何もかもが嫌になってしまう。 「ここではないどこかに行きたい」と願った「おれ」が気付くと何時の間にか草原に、 一体何事と慌てる「おれ」に対して「カミサマ」と話し掛けてきたのは一人の猫耳少女。 相手が自作「臥竜転生」のヒロイン「イヴにゃん」であると察した「おれ」は自分が自作の世界に来たことを知るが 自作の展開にない方向へ話を持っていこうとするとヤバげな闇が発生する事で勝手に話の展開を変えられない事も知る事に。 「死にたい」と思えば小説の世界へ、「食べたい物」を想像すると元の世界へと戻る事を突き止めた「おれ」は イヴにゃんと自作の世界を旅し続けるが、ある日お姫様であるイヴにゃんの国の城で国王に謁見した際に イヴにゃんの母親である王妃を目にした瞬間、この王妃が今後の展開で非業の死を遂げる事を思い出す。 「っざけんなよ、糞が」と自分の考えた筈の展開に怒りを覚えた「おれ」はこの展開を書き換えようとするが 「臥竜転生」の人気が下がりランキングが11位に落ちると世界自体の存在が危うくなることに。 ジレンマに陥りながらも「おれ」は何とか打開策を考えようと足掻くが…… んー……半分小説、半分作者の創作論みたいなものかな、これは? 少なくとも純粋に「物語」を楽しみたいという人には向かんと思う。 まあ、メタな作品っぽいタイトルだからそういう系統が好みじゃない人は最初から避けるかも知れないが。 個人的にはある程度そういうメタっぽい要素があるかな、と思っていたから面食らいはしなかったけど、 その一方である種の既視感みたいなものも感じた。 些かネタバレ気味になるけど、この作品は多層式の虚構で構成されているのが特徴。 さわりの部分だけ紹介させて貰うと、 「元になったWEB投稿小説『臥竜転生』の世界」 「展開が気に入らなくなった『おれ』こと『臥竜転生の作者・名倉編』が産み出した『異セカイ系』の世界』 「『異セカイ系』を含む投稿小説作品の作家連中が集まるチャットルームやWEB小説絡みのネット世界」 「オフラインで『おれ』がバイトを含めた活動をする世界」 ……といった感じで完全な虚構作品である「臥竜転生」をベースに各世界をメタな視点から眺める構造が 作品の中で入れ代わり立ち代わり描かれながら話が進む、という体裁を取っている。 話が進むにつれて現実に表れる筈の無い作中の登場人物が現実世界に姿を表したり、 WEB小説の作家同士のやり取りが作中の世界に反映されていったり、といった感じで 虚構の階層を超えて各階層が影響を与え合う……といった事になり始めるのだが 個人的にはこの展開は90年代初頭に筒井康隆が発表した「朝のガスパール」を踏襲しているのでは、と感じた次第。 「小説投稿サイト」の様な2010年代の文化を取り入れてはいるけど、 ネット上という設定の作中作の世界と「フィクション中の」現実の世界、 更にはそのフィクションをどう展開させるかという作家の世界という多層構造は四半世紀前に発表済みの物かと。 そういう意味で作品世界の設定にはそれほど新鮮味を感じる事は出来なかった。 後半……というかかなり終盤の方で本作における最大のテーマである「作者と登場人物の恋愛は可能か?」という 問いを巡って「登場人物は作者の好き勝手にしていい存在か?」「登場人物は自由意志を持っているのか?」といった 様々な問答がこの作品の中心人物である名倉編と、虚実の被膜が怪しくなる状況を作った真犯人の間でやり取りされ テーマの掘り下げが行われるのだが、ここいら辺は完全に創作論になっており一般的な「物語」を期待して読むと どうにも停滞感が感じられてしまい「創作論としては面白いけど、なんだかなあ」と首を傾げざるを得なかった。 一つ擁護すれば、中盤ぐらいまでは話が結構動くのでこの停滞感はあくまで終盤部分に限っての事だと言える。 物語の語り手である「おれ」が自作の気に入らない展開と投稿サイト内のランキングを巡って四苦八苦し、 更には半分ニートみたいな「おれ」に何故か惚れてくれる女性が出てくる辺りは「ここからどうなるのか?」と その後の展開を期待させてくれたのも確かなのである。 ただ、その割と面白い部分でも「モヤッ」とした物を感じながら読んでいたのも事実。 何より序盤で「おれ」が自作のメインヒロインの母親が非業の死を遂げる事を思い出して 「そんな展開はクソだ」「登場人物が簡単に死ぬ展開とか許されん」と言い出し始める部分に説得力が無い。 「おれ」がどういう衝撃を受けてそれまで大して気にも留めなかった「作中人物の死」に拘り始めるのか、 その辺りが何度繰り返して読んでも「こういう流れで『おれ』は作中人物の死に反発を感じるようになった」という 納得感が得られなかった……というかフォント芸みたいな大型フォントを使っている事で 「ひょっとしてこれ、勢いで誤魔化しているんじゃないのか?」とすら思う様になった。 終盤の「『異セカイ系』の本当の作者」に触れる部分もあるし、作者が登場人物に与える影響も説明されるから、 読み方が浅いと言われる部分もあるかも知れないが、少なくとも序盤の主人公の動機の説明が薄く 「この人物はなんでこういう行動を取るようになったのか?」に釈然としないまま読み進めた事だけは間違いない。 作中の人物と作者の恋愛は成立するのか、という終盤の問答部分だけを切り離して読めばそれなりに面白いが ただ、それだけだと創作論の範疇で終わってしまい「物語」としてはどうなんだろう?という疑問も残る。 結局は「趣味の問題」と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、個人的には「物語派」なので 「物語」と「創作論」があまりにキッパリと離れた感じの作品には素直に首肯するのは難しい。 読み手を選ぶ作品だから、肌に合わない作品はあるから、という論で片付けてしまえば良いのだろうけど 折角のテーマなのだからもう少し「物語としての面白さ」から浮かない感じで処理できなかったのだろうか、 という幾ばくかの惜しさを感じた次第。 | ||||
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