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羊と鋼の森
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羊と鋼の森の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.87pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全382件 381~382 20/20ページ
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宮下さんの本は何冊か読んでいるが、これが断トツで良かった!!読後、胸が柔らかく温かい何かで満たされたような気持ちになった。 仕事というのは自分の人生の方針になるようなもので、狂ったコンパスの様に行くべき道が分からなくなる時もある。 けれどもこの主人公の強く強く前を向いて歩いて行く姿に、エールを貰えるのではないかと思う。 文章の所々に見られる色彩豊かな表現が、まるでピアノの奏でる音色の様に心地よく、うっとりしてしまう作品だった。 | ||||
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「羊のハンマーが鋼の弦をたたくこと」が音楽になる、という。音楽は、言葉で言い表せな い、伝えきれないことを「音」にしてきた歴史でもある。「音が美しい」の言葉にどのような 意味、どれだけ多くの感性が含まれているであろうか、人それどれによって違う。しかし、や さしい言葉(語り手に失礼だが)で、優しい文体で、これほど奥深い作品が織られることに感 激を覚える。著者の力量がいかんなく発揮されている。 音の「美しさ」を求めて、ピアノという「森」に迷い込み、必死になって、迷路の道を切り開 き、成長していく青年調律師(外村)の物語が核となっている。高校時代、調律師板鳥さんの調 律作業を見学し、ピアノの音で人生が変わる。自らも専門学校で勉強し、板鳥さんと同じ楽器店 に就職する。板鳥、秋野、柳さんと各々個性的な先輩調律師から指導を受け、自分の悩みをぶつ け、「調律師の目指す場所」を探し求める旅路である。 先輩だけでなく顧客との関係でも心や技術が磨かれる。僕(外村)がほのかに恋心を抱く双子 の高校生佐倉姉妹。自分と弟を重ね合わせ、お互いきょうだいの、わだかまりが氷解していく 過程を、ピアノや祖母の死で描く。笑顔の少年時代の写真が埃にまみれピアノの中から見つかり、 十五年ぶりに調律を依頼してきた青年。幼少時、弾いていた娘の「音」に戻してほしいと年配の 女性・・・。 顧客と接することにより、依頼主の過去の「美しい」記憶をピアノという「森」の中から取り 戻していく調律。外村自身も「美しさ」とは何かに目覚めていく。自分の故郷の森、植物、小鳥 の囀りに。 「美しさ」を感じさせる音、言葉、情景、人情の機微などの描写が多い物語であるが、著者の意 図は「美」を追い求め、戸村君の成長を語るだけでなく、底流には、ほかのテーマを模索してい るようにも思える。すなわち、調律師と顧客のあいだで、心の意識、無意識の世界を「言葉」や 「言語」で表現し切れない困難さを読者に問うている。例えば、艶が出る、色彩あふれる、凛と した、丸くなる、明るい音など、調律にどう活かせるのだろう。顧客と調律師の心の交流で息が 合うのだろうか。また、調律の好みや、顧客とのイメージの共有で、「春の風のやすらかさ、カ ケスの羽根のやわらかさ」のようなメタファーで可能だろうか。ワインの香りや味の表現で「ふ くいくたる香り、雨上がりのキノコのような香り、ビロードのようななめらかさ」など、香りや 味に対する常套句が、果たして意味をもっているのかどうか。調律師になりかわり、著者は悩む。 原民喜(代表作『夏の花』)の「文体論」も「音」論には感覚的なもので、著者の「文学理念」 とうかがえる。「言葉」は難しい。 かたや、表現のユニークさが随所にあり楽しめる。例えば、「音の粒がぱっと広がった。くる くるくるっとした曲だった」、「心臓がぴょんと跳ねた」などなど。著者は、すべてを完全に表現 できない「言葉」という不思議な媒体のやり取りで、読者の想像力をかきたてようとしているよう に思える。 読者も深い「森」の中で彷徨い、作品の「美しい」迷路を楽しみながら「調律」の世界とは、 「美しさ」とは何かを追い求めていくことになる。もともと世界に溶け込んでいる星や音を人間 が掬い上げ、星座や和音を探してきたように。 素晴らしい作品をありがとう。 | ||||
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