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スマイリーと仲間たち



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スマイリーと仲間たちの評価: 4.78/5点 レビュー 23件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.78pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全23件 1~20 1/2ページ
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No.23:
(5pt)

素直に冷戦時代の緊張感を体験できる稀有なシリーズ第三作

イギリスに亡命していた将校が殺され・・・という御話。

所謂「スマイリー三部作」の最後にあたる作品ですが、ソ連の宿敵カーラとの対決という事で、そういう展開になっております。

私の貧弱な読解でしょうか、最後はあまり派手な終局にならずも、緊迫感のある終わりになっていて、この辺の機微がル・カレの小説の優れた部分に思えました。

今回も判読するのに結構大変でしたが、読んでいる間はカタルシスを感じました。

若い方は、本書を読むに際して、資本圏と共産圏の対立が激化していた頃を知らないと、何故こういう風な小説が書かれたか判りずらいと思いますが、これを書いている2024年頃はまた、ウクライナの戦争で、ロシアとアメリカが対立したり、アメリカと中国で覇権争いになっていたりで、世界的な地政学の人によると、事実上の第三次世界大戦の端緒だそうで、常にそういう問題を世界が孕んでいるので、この小説などで、冷戦時代を鑑みるのも、時代や社会を読み取るのにいいかもしれません。

という個人的な感想はどうでもいいので、素直に冷戦時代の緊張感を小説で体験するのにうってつけの三部作に思えました。シリーズ順に是非ご一読を。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.22:
(4pt)

スマイリーの逡巡

結末を読み終えてもう一度最初から読み返していくうち、スマイリーとカーラとの対決3部作を、本書をもって著者が終わらせようとしていたことがよくわかってくる。そう考える第一の理由は、『スマイリーと仲間たち』という、同窓会ムードが漂うタイトルにある。メンデル元警視がスマイリーの思い出を語り、画廊経営者に転じていた元同僚エスタヘイスは現場に呼び戻され、サーカス(イギリス諜報部の1部署)のパリ本部長という現職にありながら、元側近のギラムまでが、スマイリーのために管轄外の仕事に駆り出される。他にも『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』(以下『TTSS』)と『スクールボーイ閣下』でスマイリーと関わった人々が続々登場する。
 対決3部作を終わらせたがっていたように思える第二の理由は、引退中のスマイリーが最初、かたくなに今回の事件に関わることを拒否していたことだ。「この年だ。もう勘弁してくれよ」というスマイリーの声が、著者には聞こえていたのではないか。それでもスマイリーは今回の任務を引き受けた。なぜなら、殺害されたウラジーミルは、スマイリーのかっての「仲間」だったから。
 パリ在住のオストラコーワ、ロンドン在住のウラジーミルや彼を補佐するミケルとヴィレム、あるいはウラジーミルの密命をうけたライプチッヒや彼の友人クレッチマーなど、本書は亡命者たちの声なき声の物語である。そしてカーラ。プロットに関わるのでぼかした書き方になるが、カーラもまたソ連から亡命を企てる。その理由こそが、上述の、カーラとの対決3部作を著者が本書で終らせたがっていたと評者が考える第三の理由と結びついてくる。カーラはミスを犯した。「カーラもしょせん人間だった」という類のミスだ。これが評者には納得がいかない。『TTSS』や『スクールボーイ閣下』で描かれたカーラなら、決してしでかさないミスなのだ。人の情けを知っているカーラ。これこそ、ル・カレ作品のファンが知りたくないカーラだろう。そのミスにたよらざるをえないほどに、著者はカーラを(そしてスマイリーを)舞台から退場させたがっていたのか。
 そう考えれば、ラストシーンでのスマイリーの逡巡も理解できる。スマイリーはカーラの弱みにつけこんだ。『TTSS』でカーラはアンというスマイリーの弱点をついたわけだから、本来ならば見事やり返して「してやったり!」とご満悦でいいわけだ。しかし、ギラムがスマイリーに、「ジョージ、きみの勝ちだ」と言ったとき、「わたしの?」ときき返し、「うん。そうだな、そうかもしれない」と彼は答えた。スマイリーはカーラのことを憎んではいるが、お互いプロのスパイとして認め合ってもいた。「プロとしてこんな姑息な手段でよかったのか」という後悔と、「カーラほどのプロがこの程度の誘いにのってくるのか」というとまどいが、スマイリーに勝利宣言をためらわせるのだ。
 最後に一言。2017年に出版された『スパイたちの遺産』にスマイリーが登場し、亡命後のカーラについて語っている。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.21:
(5pt)

とても良かったです

大変よろしゅうございました
スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)より
B000J7YJUG
No.20:
(5pt)

細部にこそ神は宿る

スマイリー三部作の中で、最も静かで緻密な物語でした。スマイリーをはじめアンやトビーも含めた登場人物たち、そして、最終的にはカーラすらそこに含まれるわけですが、それぞれの痛みや苦しみを自分の人生に照らしながら一語たりと欠かさずに読みました。

それぞれが老いて、何かを失い、消えないものを背負いながら生き、一つ一つ積み上げた先に悲願を成すわけですが、最後の場面に私が見たものは圧倒的な虚無感でした。

三部作を通して、ほとんど指摘できうる矛盾や齟齬がないままに、多くの人々を描き切る構想力は圧巻としかいいようがありません。
一つの具体例としてトビー•エスタヘイズを挙げると、私の中でこの人物に対する印象が前作までと全く変わりました。ここにもやはり描写の中に矛盾はなく、一人の人間や一つの人格が持つ多面的な性質を、国籍や背景を緻密に設計した上でフィクションの場で表現し尽くした結果であると思うと、改めて深い感銘を覚えました。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.19:
(5pt)

たんなるエスピオナージュ小説ではない。

スマイリー三部作最後の『スマイリーと仲間たち』(1979年)までようよう辿りつき読むことにした。
 ロシア亡命の老女マリア・オストラコーワの住まうパリから物語は始まる。
 このオストラコーワがロシアに残した娘が、本作の重要なキーとして物語は複雑に交錯しながら進んで行く。
 ル・カレが本作を書上げたのが東西冷戦のピーク時(ベルリンの壁崩壊10年前)であり、そのことを理解していなければこの小説を読んでも面白さを100%楽しむことはできないだろう。
 カーラとスマイリーとの確執が本作のメインテーマであるが、カーラとて人間、どこかに弱点はあるはずだ。
 スマイリーにとっての妻アン同様に・・・。
 ネタバレになるからこれ以上書くのを控えるが、とにかく人間を語たらせたらル・カレに優るスパイ小説作家は他に見出すことはできないだろう。
 本作でも感じたのだが、訳者の村上博基氏が少々難しい訳語をちりばめているのが気になってしまった。
 格調高い作品にふさわしい訳語を、との配慮は否定はしないのですが、例を挙げれば「陥穽」(かん・せい)とか「一臂」(いっ・ぴ)など普通に使用するだろうか。
 大昔のル・カレのエスピオナージュの傑作を読んで楽しむのは、よほどへそ曲がりなのかもしれないと思いながらスマイリー三部作最期の『スマイリーと仲間たち』を楽しみながら読了しました。
 <追記>
 これから読まれる読者のためにお節介ながら、この作品で使用される隠語の意味を書いておきます。
 ①ホワイトホール=ロンドン地域名。(イギリスの政府機関が数多くあり、ちょうど日本の霞が関に当たる名称)
 ②子守(ベビーシッター)= ボディーガード。
 ③サーカス= MI6(本部がロンドンのケンブリッジ・サーカスにあるという設定からそう呼ばれる)
 ③いとこたち(カズンズ)=CIAのこと。
 ④ハニー・トラップ=女性スパイが性的関係を利用して行う色仕掛け。(敵への脅迫に使う)
 ⑤点灯屋= 監視や盗聴の専門家。
 ⑥レジェンド= 偽装身分。
 ⑦もぐら= 信頼を得た立場から機密情報を長期にわたって盗み出す二重スパイ。
 ⑧マザー= サーカスの上級職員に仕える秘書やタイピスト。
 ⑨モスクワ・ルール= 西側の諜報員が敵国の手法を使うこと。(スパイ活動の技術や道具も指す)
 ⑩モスクワ・センター=KGB本部。
 ⑪隣人=ソ連情報部。
 ⑫首狩り人=危険な任務にあたる諜報工作員。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.18:
(4pt)

渋い

ティンカー・テイラー~以来20数年ぶりにスマイリーものを読んだ。これまた渋い。

地道な序盤の後、ライプチヒが見つかるあたりが一つの山で、そこから終盤に向けて緊張感が高まっていく。一大活劇が展開されるわけでもない終幕もまた渋い。

ティンカー・テイラー~に比べるとやや話の筋がシンプルなのと、時々訳にケチをつけたくなるところはある。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.17:
(5pt)

現場工作員でもあり指揮官でもあり司令塔でもあるスマイリー

自ら現場へ飛び込み、司令塔として現場に指示し、実際に現場の指揮官として活躍する。活躍といっても、一旦、現場を引退した老人として、だ。
 スマイリーという人物の魅力のすべてを出し切るような形での作品になっている。ストーリーとしては、あまり複雑ではないが、前2作で出てきた魅力的な脇役たちが、「仲間たち」として登場するのも、読みどころである。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.16:
(5pt)

東西冷戦時代のスパイ合戦

映画「裏切りのサーカス」の DVDを観て素晴らしかったので原作を見たくなった。 原作も良かった。 東西冷戦時代の面白さと怖さが如実に出ている。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.15:
(5pt)

英国文学の偉大な伝統に感服する

英国諜報部ジョージ・スマイリーと宿敵であるKGBのカーラによる永年の死闘にピリオドを打つ記念碑的作品、そして余りの小説的完成度に声を無くすばかりの傑作。
読者は冷戦下のスパイ戦の暗闘を通して人間性の深淵と運命の過酷さを覗く事になる。
結末に至るまで項をめくる手がもどかしくもあり、読了するのが惜しいという二律背反の感情に心揺さぶられる。
末尾のスマイリーの述懐に凱歌の響きが全く感じられないのは永年の愛読者にとっても同様の想いであろう。
英国文学の伝統を正統に継承したル・カレのまさに偉業だ。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.14:
(5pt)

スマイリーシリーズの真骨頂

スマイリーの静かな追跡劇、綻んだカーラの鉄の仮面。
いまいち思い入れをもてないカーラの娘に関してもう少しかかれていればな、と思いますが、面白かったです。
スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)より
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No.13:
(5pt)

スマイリー三部作完結

宿敵カーラとの最終対決。
結末は「寒い国から帰ってきたスパイ」を彷彿させます。スマイリーのショーピース的作品。三部作の中で最も読みやすい。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.12:
(3pt)

翻訳が良くない

日本語になってないところがかなりあって、読むのがつらい。

もう少し良い翻訳者に、再翻訳してもらえないだろうか・・・
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
4150404399
No.11:
(5pt)

スマイリーにとってカーラはもはや<自分>

スマイリー三部作の最後、カーラとの対決。
引退したスマイリーは、老いたエージェント”将軍”の殺人調査をレイコンに依頼される。
その事件を追って行くと、タチアーナという娘にたどり着いた。

スマイリーの弱点を、カーラは自らの手で潰したのだろうと思う。
最愛の妻をビル・ヘイドンの手によって”最愛”でなくしてしまわなければ
アンはカーラのタチアーナになり得たはずだ。

「おれは彼を、最も憎む武器で滅ぼしたが、その武器こそは彼そのものなのだ。
おれたちはたがいの境界を踏み越えた。
俺たちはこの無人地帯<ノーマンズ・ランド>における
ノーマン<非人間>なのだ」

ここで私の頭の中ではビートルズのNowhere man が鳴り響く

「生きている意味がわからなく
どこへいくのかも知らない
まるで君と僕みたいだ」
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
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No.10:
(5pt)

スマイリーと仲間達の群像劇

これはスマイリーと仲間達の群像劇ですね。
ティンカーではイマイチな役どころだったトビー・エスタへイスがいい味を出して、点灯屋としての面目躍如です。
後半、トビーの指揮の下、スイスに終結し作戦を展開する実行部隊の面々。1人1人の役どころは小さくともチームとなって一丸で標的を狙い定めていく面白さ。
ロシア専門家のコニーは燃え尽きる寸前の光芒のような輝きでストーリーを彩ります。
殺される将軍もその仲間で拷問で死ぬオットーも或る意味スマイリーの仲間たち。

スマイリーとその仲間達対ソ連情報部のカーラの戦いです。
3分作の中で一番好きな作品であるとともに、深い余韻を残して物語は終結します。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
4150404399
No.9:
(5pt)

スマイリーとの決別?

私の読んだのはハードカバー(村上博基訳、早川書房)なのですが、多くの方にこの傑作をお勧めしたいと思い、こちらでレビューさせていただきます。

最初に「寒い国から帰ったスパイ」を読んで衝撃を受け、それ以来ジョン・ル・カレの小説のほとんどを読んでいます。私の好みというのもあるかと思いますが、彼の小説には出来不出来があるように感じます。しかし、本書を含む「スマイリー三部作」は大傑作と思います。

話は東西冷戦の時代、ずんぐり太った中年の亡命ソビエト女性マリア・オストラコーワが無作法なソビエト人の大男からパリの貧民街で声をかけられ、近くのカフェに連れ込まれるところから始まります。男はモスクワに残してきた彼女の娘で「犯罪人の」アレクサンドラを引き取りフランスに帰化させる手続きをとるように言います。オストラコーワは早速ソビエト大使館に行き必要な手続きを済ませますが、その後いくら待っても大使館から連絡がなく大使館に赴いても玄関払いされてしまいます。そこで、以前に聞いたことのあるロンドン在住の亡命エストニア人グループのリーダー、ウラジミール将軍に手紙を書きます。すると、ある晩将軍の代理の男(マジシャン)が訪ねてきて彼女の話を親切に聴いてくれます。なぜ大男は彼女に娘の帰化申請をさせたのか。この謎がサーカス(英国情報部)を引退したジョージ・スマイリーを再び舞台に引き出し、最終的には東西ベルリンをつなぐチェックポイント・チャーリーでソビエト情報部の宿敵カーラを待ち受けるスマイリーの姿につながることになります。

この小説で私が特に強い印象を受けた場面がいくつかあり、ロンドンのハムステッド・ヒースでのウラジミールの無残な惨殺死体、オットー・ライプチッヒ(マジシャン)のボートの中での惨殺とボートの縁に吊るされた証拠品(写真)、モスクワルールの黄色のチョーク、それに超人的な頭脳を持つ元サーカスの女性スタッフ(ソビエト専門家)コニー・サックスの亡霊のような姿など。スマイリーを含め主要な登場人物は総て何かに強く取りつかれた人間であり、それ故に幸せとは無縁です。そして、全篇をつらぬく通奏低音はスマイリーの妻アンの存在です。

最終場面でスマイリーが宿敵カーラを迎えた瞬間に私達はル・カレの冷戦スパイ小説の完結とスマイリーとの決別を予感します。しかし、実は私達はポイント・チャーリーで諜報員の帰還を待つ「寒い国から帰ったスパイ」の巻頭に戻っているのです。このようにして、私達はル・カレのスパイ小説の無限の連環に引きずり込まれて行きます。

スマイリー三部作のうちこの本を最初に読まれる方は、残りの二冊(ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイとスクールボーイ閣下)も合わせて読まれることをお勧めします。また、登場人物が多くて複雑ですので登場人物リストが付いていない場合は自分で作りながら読まれると判りやすいかと思います。なお、(私にとって)非常に読みにくいル・カレの英語をプロとはいえ、このようにこなれた日本語に翻訳されている訳者に敬服します。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
4150404399
No.8:
(5pt)

スマイリーとの決別?

最初に「寒い国から帰ったスパイ」を読んで衝撃を受け、それ以来ジョン・ル・カレの小説のほとんどを読んでいます。私の好みというのもあるかと思いますが、彼の小説には出来不出来があるように感じます。しかし、本書を含む「スマイリー三部作」は大傑作と思います。

話は東西冷戦の時代、ずんぐり太った中年の亡命ソビエト女性マリア・オストラコーワが無作法なソビエト人の大男からパリの貧民街で声をかけられ、近くのカフェに連れ込まれるところから始まります。男はモスクワに残してきた彼女の娘で「犯罪人の」アレクサンドラを引き取りフランスに帰化させる手続きをとるように言います。オストラコーワは早速ソビエト大使館に行き必要な手続きを済ませますが、その後いくら待っても大使館から連絡がなく大使館に赴いても玄関払いされてしまいます。そこで、以前に聞いたことのあるロンドン在住の亡命エストニア人グループのリーダー、ウラジミール将軍に手紙を書きます。すると、ある晩将軍の代理の男(マジシャン)が訪ねてきて彼女の話を親切に聴いてくれます。なぜ大男は彼女に娘の帰化申請をさせたのか。この謎がサーカス(英国情報部)を引退したジョージ・スマイリーを再び舞台に引き出し、最終的には東西ベルリンをつなぐチェックポイント・チャーリーでソビエト情報部の宿敵カーラを待ち受けるスマイリーの姿につながることになります。

この小説で私が特に強い印象を受けた場面がいくつかあり、ロンドンのハムステッド・ヒースでのウラジミールの無残な惨殺死体、オットー・ライプチッヒ(マジシャン)のボートの中での惨殺とボートの縁に吊るされた証拠品(写真)、モスクワルールの黄色のチョーク、それに超人的な頭脳を持つ元サーカスの女性スタッフ(ソビエト専門家)コニー・サックスの亡霊のような姿など。スマイリーを含め主要な登場人物は何かに強く取りつかれた人間であり、それ故に幸せとは無縁です。そして、全篇をつらぬく通奏低音はスマイリーの妻アンの存在です。

最終場面でスマイリーが宿敵カーラを迎えた瞬間に私達はル・カレの冷戦スパイ小説の完結とスマイリーとの決別を予感します。しかし、実は私達はポイント・チャーリーで諜報員の帰還を待つ「寒い国から帰ったスパイ」の巻頭に戻っているのです。このようにして、私達はル・カレのスパイ小説の無限の連環に引きずり込まれて行きます。

スマイリー三部作のうちこの本を最初に読まれる方は、残りの二冊(ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイとスクールボーイ閣下)も合わせて読まれることをお勧めします。また、登場人物が多くて複雑ですので登場人物リストを作りながら読まれると判りやすいかと思います。なお、(私にとって)非常に読みにくいル・カレの英語をプロとはいえ、このようにこなれた日本語に翻訳されている訳者に敬服します。
スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)より
B000J7YJUG
No.7:
(5pt)

惜しい、最終章

イギリス諜報部、サーカスからリタイアしたスマイリーと、ロシアの黒幕、カーラの最終決戦。
スマイリーは別居した奥さんとヨリを戻すのか。追い出された組織と、どう協力するのか。
これまでのストーリーが伏線となって、スピーディに展開します。
あんまりネタパレはできないけど、「そうなるのか」と納得するし、なによりスマイリーというスパイのお手本みたいな冷静で頭脳明晰な人物が、それ以上に人間としての力を持っていたことが、うまくいかされています。
フィクションですが「ベルリンの壁崩壊の裏には、こういう事件もあったかも」とも思わせるのも、作者の腕なんですね。
人生、たった一度の勝負であきらめちゃダメ、というメッセージが伝わります。
それにしてもスマイリーみたいな人間になりたいものです。
残念ですが、このシリーズはおしまい。
読まないとソンするシロモノです。
もちろん前作、全前作を読んでからね。
スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (1981年) (Hayakawa novels)より
B000J7YJUG
No.6:
(5pt)

人間としての交渉術の勝利

最近、スマイリーと仲間たち、何回も読みなおしている。
カーラと同じ武器を使う事で、スマイリーも道徳的にあやういラストになるとか何とかいろいろ大きなテーマはあろうが、・・・むしろ冷戦時代、亡命者たちの組織が、諜報活動といえば聞こえはいいが、ポン引き、ヤクザ、売春婦、詐欺師、泥棒商人の連環のなかで、モスクワセンター最深部まで目が届いている事にまず驚き、

そういう塵あくたな連中を、労働党政権のエリートたち、あるいは政権以前のエリートたちのように見下すことなく、そっとその真偽を見極め、信義、信頼、誠実で重要情報を拾い上げるスマイリーはえらいなと、まず感心した。

類書としてカリエールの「外交談判法」とか、吉村昭「落日の宴」(幕末の対露外交を担当した川路聖謨)とかあるが、結局は、人と人が交渉するとき、 国威や地位、財産をつかっても浚えるものは限られ、己の器量、人格以上のものは得られない。他者に対する事の難しさ、大切さ、その素晴らしさをうたった、人間賛歌の小説だと最近、つとに思う。
BBCのアレックギネスのドラマ見ても、何かBGMに清澄で誇らしげなメロディを感じるしね。

いやまじで、CIAあたりは自分たちがアラブ浸透に失敗していると思うなら
もう一度、ヒューミントとは何か、「スマイリーと仲間たち」の読書講習会でも開くべきだな
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
4150404399
No.5:
(5pt)

名著!

週刊文春1981年 総合8位

スマイリーにコンタクトをとろうとしていた工作員が殺害された。諜報員を引退したスマイリーだったが、再び、事件の背後を探るべく活動を始める。そこには、宿敵カーラの影が ・・・

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『スクールボーイ閣下』に続く三部作の完結編。名著といってもよいだろう。個人的には一番良かった。

相変わらずもどかしくもある展開なのだが、丹念な描写が印象的な作品。三部作の中では、老境にさしかかったスマイリーの優秀さや、心の動きがよくわかる仕上がりになっている。スマイリーの尋問シーンは秀逸だし、カーラとの決着をつける際にみせる逡巡が、この長い長い物語を読んできただけに、感動的ですらあった。宿命の出会いを象徴する、スマイリーのライターをどうするのか見所ではあったのだが、想像しえないクールな使い方をしてくれて満足。

なかなか読み込むのに体力がいるシリーズではあけれど、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』から、なるべく時間を空けず読んだ方がよいと思う。残念ながら私は時間を空けてしまったので、小道具(ライターだけは最初から心にとめておいたんだけど)や登場人物らの関係が、ちょっとぼやけてしまった。

アレックス・ギネス主演で映像化されているんだが、日本では放映されないんだよなぁ。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
4150404399
No.4:
(4pt)

スパイと人間性の葛藤を巧みに描いた名作

冷酷非常な諜報の世界と人間性の間の揺れ動きこそル・カレの小説の最大のモチーフであり、このモチーフは本作の最後において最も衝撃的な形で現れる。三部作の読者にとってはかなり衝撃的な結末であり、人間性、特に家族愛というものをあらためて考えさせてくれる。この意味で、本作は単なるスパイ小説にとどまらない魅力を持っていると言える。

 プロットはル・カレの小説の中ではかなり分かりやすい部類に入る。特に前半は推理小説のように読める。三部作の前二作は読んでおかないと本作は理解できないと思われる。訳は秀逸であり、安心して読むことができる。
スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))Amazon書評・レビュー:スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))より
4150404399

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