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背信の都



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【この小説が収録されている参考書籍】
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背信の都の評価: 2.36/5点 レビュー 11件。 Fランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点2.36pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(4pt)

過去七作を遡り書かれたので、

辻褄合わせ傾向を持つのは仕方ない。それでも深刻な分断の予感が描かれるのは新作として必然性がある。
背信の都 上Amazon書評・レビュー:背信の都 上より
4163904646
No.2:
(4pt)

過去七作を遡り書かれたので、

辻褄合わせ傾向を持つのは仕方ない。それでも深刻な分断の予感が描かれるのは新作として必然性がある。
背信の都 下Amazon書評・レビュー:背信の都 下より
4163904654
No.1:
(4pt)

新たなるサーガの幕開け〈新・暗黒のL.A.四部作〉第一作

※kindle版の上下合本版を購入したため、上下巻合わせてのレビューです。

本書は「アメリカ文学界の狂犬」ジェイムズ・エルロイの新作 “Perfidia” の邦訳です。〈暗黒のL.A.四部作〉(『ブラック・ダリア』『ビッグ・ノーウェア』『L.A.コンフィデンシャル』『ホワイト・ジャズ』)、〈アンダーワールドU.S.A.三部作〉(『アメリカン・タブロイド』『アメリカン・デス・トリップ』『アンダーワールドUSA』)に続く、〈新・暗黒のL.A.四部作〉の一作目として構想されているようです。
原題の由来は同名のジャズのスタンダード・ナンバー。不実な恋人の裏切りを嘆き悲しむ心情を歌った曲です。

時系列的には〈暗黒のL.A.四部作〉第一作『ブラック・ダリア』よりも前になり、舞台は1941年のL.A.、12月のおよそ3週間の出来事が描かれています。日本軍による真珠湾襲撃後、愛国心が声高に叫ばれ、戦意が高揚し、日系人に対する憎悪が湧き上がり、その裏では共産主義思想が胎動するなか、不実な人間たちの運命が次第に交錯していきます。

物語の動員となるのは日系人一家殺害事件。一家全員が切腹したと思しき状態で発見され、現場には『いま迫り来たる厄災は/われらの招きたるものに非ず/われらは善き市民であり/かかる事態を知る身に非ざれば』と意味深なメッセージが残されます。
翌日、真珠湾攻撃の報が飛び、日系人排斥の機運が最高潮に達する状況下、事件の捜査に政治的な思惑の影がさし、捜査員たちもまたそれに翻弄されていきます。

物語は4人の視点で進みます。日系アメリカ人のL.A.市警の鑑識官ヒデオ・アシダ、同警官ダドリー・スミス、同警官ウィリアム・パーカー、ケイ(キャサリン)・レイク。彼らは己の欲望や信念あるいは妄念に突き動かされ、ときに相手を利用し、ときに相手を裏切ります。
ずっとエルロイ作品を追っている方ならおわかりでしょうが、ダドリー・スミスは〈暗黒のL.A.四部作〉では事件の裏でつねに暗躍している最大の悪役ですし、ウィリアム・パーカーも同シリーズに登場する実在の警察官。ケイ・レイクも『ブラック・ダリア』のヒロインのひとり(同名の映画版ではスカーレット・ヨハンソンが演じた役)。ヒデオ・アシダも名前だけは同書に出ていた様子。

そのほかにも〈暗黒のL.A.四部作〉〈アンダーワールドU.S.A.三部作〉の登場人物が数多く登場してエルロイ・ワールドを賑やかすほか、実在のハリウッドのスター、アーティスト、著名な政治家も登場して華を添えています。
驚いたのは『ブラック・ダリア』のあの女性の素性。まさかの生い立ちを設定してくるとは思いもよりませんでした。

エルロイは自らのテーマを一貫して “Bad white men doing bad things” と述べていますが、本作でもそれは同じ。アメリカを支配する白人の男たちの悪徳が激越なタッチで描かれています。彼らは他者の不幸を利用して暴利をむさぼる一方、自らの地位を脅かされる恐怖から人種差別や性差別へと走り、パラノイア的に他者を憎み、しいたげます。
くわえてエルロイ・ワールドの住人たちはみな過去に傷を負い、ドス黒い情念や強迫観念に支配され、つねに行動が矛盾しています。内面描写を削り取るエルロイの筆致もあいまって、誰も理解できないし、誰にも共感できません。
そうした描写の容赦のなさは「アメリカのクライム・ノヴェルに残っている、人の感情にへつらうような安っぽい善良さは、最後のひとかけらにいたるまで破壊してやる」というエルロイ自身の言葉を証明するものでしょう。

そして、そこに『ブラック・ダリア』以降作品を重ねるごとに複雑化し錯綜していくプロット、高速ザッピング的な視点の切り替わりが畳みかけられます。本作では3週間というエルロイ作品としては短い作中時間に圧縮されていることもあって、あまりの情報量のめまぐるしさに読んでいるあいだ頭がクラクラし、めまいを覚えるほどでした。
4部構成で、もっとも長い第1部は伏線が散りばめられる一方で点と点が結びつくことがないため、やや忍耐を要します。しかし終盤にいくつれ、乱雑で無造作にバラまかれたような点が線へと収斂していく手並みは、いつものごとく圧巻でした。

また、非白人である日系人ヒデオ・アシダを主要人物に置いたのは、エルロイにとって新しい挑戦でしょう。日系人たちの文化や習慣にいたっては正直ツッコミどころがありますが(とくに「切腹」にまつわる描写や解釈)、そのあたりはご愛嬌。

〈暗黒のL.A.四部作〉以来、LAを拠点にしてアメリカ戦後史の歪みを告発してきたエルロイですが、〈アンダーワールドU.S.A.三部作〉以降は視野が広がり、明確に「世界史のなかのアメリカ」を意識していったように思います。
本作でも第二次大戦に参入していくアメリカが抱える闇が、右傾化と排外主義の潮流のなかで輪郭を現していきます。もしかするとエルロイは〈アンダーワールドU.S.A.三部作〉以後の視野をもって、〈暗黒のL.A.四部作〉を語り直そうとしているのかもしれません。

本作は過去のエルロイ作品の登場人物が頻出しますが、時系列的にはもっとも古いため、これまでエルロイ作品に親しんだことのない読者でもその点は問題ありません。
むしろ、かなり直訳調な訳文の方がネックになります(エルロイ独特の文体を日本語に移し替えるさいの技術的な問題もあるのでしょう)。もともとプロット的にも文体的にもリーダブルとは言いがたい作風なので、訳文の読みにくさについては根気が必要になると思います。
背信の都 上Amazon書評・レビュー:背信の都 上より
4163904646

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