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冬の光



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【この小説が収録されている参考書籍】
冬の光
冬の光 (文春文庫)

冬の光の評価: 4.19/5点 レビュー 32件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.19pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全25件 21~25 2/2ページ
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No.5:
(5pt)

男女間の友情ってのは世間からみたらやはりまだ「悪」なんだろうか・・・

たぶん、他の人とはずいぶんかけ離れた感想だと思うけど。 根本的に、妻美枝子と長女敦子が嫌いだ。 康宏は学生時代からの「友人」でフランス文学者の笹岡紘子と ほんとうに淡い付き合いを継続していたけど まあ淡いと言ってもほんの数回の情交はあったけど それがそこまで責めることなのかと。 なんか心の中で康宏頑張れと応援してる自分がいたよ。 最後の冬の光の切なさ 人間の一生の切なさ 男女間の友情ってのは世間からみたらやはりまだ「悪」なんだろうか・・・
冬の光Amazon書評・レビュー:冬の光より
4163903577
No.4:
(5pt)

心の遍路、遙か――

何よりも読む者の心に波紋を立たせるのは紘子の生き方だ。
その死にざまを聞いた直後に“同志”康宏はこう思う。

&#60; バリケードの中の二十代から還暦を超えるまで、平和なことこの上ない四十年の間に、世間の風向きは、激しく変わっていった。その中でなぜ紘子は常に逆風に身をさらすような生き方しかてせきなかったのか。いい歳をして、それなりの肩書きがついたのだから清濁併せのむ度量を持て、などと言う気はない。だがもう少し寛容になれなかったものか、と思う。その許容度の狭さこそが、純粋さでもあったのだろう。ポピュリズムに呑み込まれることなく、自分のスタンスを守り続けたということなのだろうか。
 それにしても、たった一人の食卓で、箸と茶碗を手に絶命していたというその様を想像するにつけ、彼女が晩年に抱えた凄まじいまでの孤独に、身の凍り付くような厳粛な悲しみを感じた。&#62;

しかし、のちに彼女を私淑する卒業生たちの追悼コメントに接して、康宏はその所感を撤回する。

&#60; あの震災の直前、孤独と孤立の淵に沈んで病死した紘子の死は無駄ではなかった。いや、そこに孤立や孤独を見て同情したのは、まさに自分の無知と傲慢さだった。&#62;

「同行二人」がこの物語のキーワードである。この二人は現世的な意味では最後まで結ばれなかったものの、人生が永い巡礼の旅であればこそ、康宏にとっての同行者は紘子をおいてほかになかったのだ。

全共闘世代前後の読み手には、心に幾重もの波紋を生じさせるだろう。そして、ふと自分の死にざまに思いをいたすだろう。

ミステリーとしての興趣もふんだん。その謎解きの裏側をめくると、思わずはっとしてしまう。
冬の光Amazon書評・レビュー:冬の光より
4163903577
No.3:
(5pt)

題名にこめられたもの

人の人生には、いろいろなことがある。
当たり前のことだが、
若い頃に起こったことが、その頃の光輝く思い出、もしくは苦い思い出として
終わっていれば、それは幸せなことかもしれない。
少しの淋しさはあるにしても。

主人公の辛さは、学生時代の恋と痛みをたびたび思い起こさざるをえない状況におかれたことだろうか。
偶然にしろ、思いが残るからゆえに近づいてしまうにしろ、
紘子という女性が断ち切れない。
決して、恋愛感情が続いているわけではないのに。

東日本大震災のころのことも織り込まれ、
四国遍路の様子も描かれ、
物語からは、多くのことを教えられる。

父親の足跡を、淡々と追う次女の目を通して描かれること、
主人公自身の行動と思いをつづられていること、
ふたつが絶妙にからみあう。

最後の最後に見せられた光景に、
しばらく酔いしれた。
冬の光Amazon書評・レビュー:冬の光より
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No.2:
(4pt)

楽しく読んだ。多少のネタバレあります

帯に書いてある特段な「悲劇性」は感じなかったが、普通の人の適度な愚かさと適度な真摯さが混在する「父」の生涯を楽しんだ。 基本的に善良な人の行動は読んでて楽しい。 紘子みたいな質の人は難儀だなあ…と思ったが、彼女の末期の様は「こうありたい」と、むしろ憧れた。 こういうのこそ「いい死に方」と言うんだと思う。
冬の光Amazon書評・レビュー:冬の光より
4163903577
No.1:
(5pt)

「逃れられない罪」

男の奥深い「業」を描いている。
妻を裏切り、家族に迷惑をかけた男の存在価値はあるのか。その罪の重荷に、悔恨の情を
示し、罪滅ぼしの行為で、家族に赦しを乞う。しかし、重荷を軽くする証明になり得るの
だろうか。自分では重荷を捨てたつもりでも、妻や家族の傷痕は消えないし、家族の重荷
はいつまでも心のシコリとして残る。また、男の心の底は見えない。男は自分で蒔いた種
で人生を翻弄され「自分は何か」と自己存在を問う。

 写真と刃物研ぎが趣味の男富岡康宏、妻美枝子、二人の娘敦子、碧(みどり)、康宏の
学生時代からの「友人」でフランス文学者の笹岡紘子、フランス文学者を夫に持つ謎の遍
路者秋宮梨緒が登場人物である。
 構成は「序文」、一章~六章、「結び」である。章ごとに康宏と次女碧の視点で描かれ、
「自死」したと云われる父の旅路に対する娘の疑問に、父が応えていくような運びである。
読者は、碧と、康宏の謎を解いていくことになる。

 著者は、序文で作品の夫婦関係を暗示している。「息を呑み、その手先と顔を交互に見
る。研ぎあげた刃先から青白い炎が揺らぎ立つ」。妻美枝子の夫康宏への心情は作品を通
じて変わらない。

 康宏は写真に凝り、実父から仕込まれた玄人はだしの刃物研ぎを趣味としているサラリ
ーマンである。学生時代から交際している紘子との腐れ縁は二十年以上続いている。家族
や妻の実家に謝罪し、紘子との縁を切る「念書」まで出している。孫が敦子に生まれ、そ
れなりに「良い父で良い家庭人で良い夫」であることを誓い、幸福を噛みしめるが、紘子
との関係は切れない。早期退職をし実父の介護を経験し、死後、東日本大震災にボランテ
ィアに出かけていく。しかし、役割を終えても「俺は何者だ」と虚しい気持ちになる。
様々な重荷を背負って、刃物研ぎをしながら四国巡礼の旅に出るが「結願」の帰途、フェ
リーから「自死」する。

 碧は、父の遺品である「ダイアリー」を片手に短期間の遍路に出る。亡父の遍路へ駆り
立てた理由は何か、なぜ、自死したのか、記入されているお金の収支内容のなかで法外な
支出は何か、遍路の装束や金剛杖をなぜ処分したのかなどを追い求める旅路である。

 最終章で『冬の光』の哀しい由来も明かされる。康宏は「あの時代のあの光景」を再
度被写体として記録したかったのだろうか。それとも、平家物語の「浪の下にも都の候ぞ」
で波のしたに消えようとしたのだろうか。
 紘子や梨緒との交際や四国巡礼、お遍路さんの話を巧みに織り込みながら、話題性に富
むテーマをそれとなく紡いでいく。例えば、大学のもつ暗い影(論文盗用問題、アカデミ
ック・ハラスメント)、「ひとさがしネットワーク」の存在、巡礼と信仰の悩ましい問題
などである。

 康宏の勤行と称する「刃物研ぎ」や「巡礼」は「遊行期」(人生仕上げのときで、野垂
れ死を目指すこと)の罪滅ぼしになったのか。『冬の光』で家族との新しい絆を取り戻そ
うとしていたのか。研いだ鋭い刃先が自分にも向かってくる。男の「業」は深く悲しい。
読み応えのある作品である。
冬の光Amazon書評・レビュー:冬の光より
4163903577

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