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天使の死んだ夏
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天使の死んだ夏の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全2件 1~2 1/1ページ
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スタイルとしては前作「冬の生贄」とほぼ同じで、こちらも密度の高い作品ですが、前作に比べると、何かいまひとつの感を持ってしまいました。 前作では、数分だけでも外にいるのがつらい過酷な厳寒の様子が「人間の住むところではない」という言葉で語られ、そのような冬に起きた猟奇殺人と、そして移民、犯罪、貧困の問題、ヒロインである女性刑事モーリンの生活や孤独、苦悩が描かれていました。 今回の季節は夏ですが、北欧にはめずらしい気温40度の酷暑という設定で、やはり気候の過酷さ、つらさが延々と描写されます。乾燥しているため森林火災が発生して収まらず、街のどこにいてもきな臭い匂いや煙がうっすらと流れてくる様子に、こちらまで息苦しくなってきます。他のレビューアさんもおっしゃっているように、確かに暑さへの言及がくどすぎるという印象を受けました。天候の過酷さについての記述が繰り返し執拗に出てくるのは”冬”でも同じだったのに、どうして今回は違和感があったのか?と分析してみれば、前作の冬や雪や氷については、舞台が北欧だし、むしろ期待していた通りの風景描写とも言え、そのためにすっと受け入れられたのかもしれません。 それから、殺害された被害者の魂が、死後、空を漂って地上を見下ろし、家族や関係者に語りかけているかのような不思議な描写も同じですが、前作の時は神秘的な感じがして効果的だと思ったのですが、この作品ではなぜか「ああ、またか・・」と思ってしまいました。 今回も移民差別の問題が出てきて、移民がやったに違いないと頭から決めつける差別的な刑事が暴力を振るうひどいシーンがでてきます。事件の性質も陰惨、ヒロインは孤独でひたすら寂しく過去を後悔しどうしていいかわからない、つまりひたすら重苦しい雰囲気が続くので息苦しくなってくるのでしょう。 とは言え、ラストに向かって、第三の殺人をなんとかくい止めようと奔走する刑事たちの様子は緊迫感、臨場感に満ちていて手に汗を握ります。警察小説としては大変すぐれていると思うのですが、独特の重苦しさで好き嫌いが分かれるかもしれません。最後、主人公モーリンの人生に関しては希望の持てる終わり方で次に続きます。これからどうなるのか続けて読んでいきたいと思っています。 | ||||
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モンス・カッレントフト著、久山葉子訳『天使の死んだ夏』(上下巻、創元推理文庫、2013年)は北欧スウェーデンのミステリー小説である。女性刑事モーリン・フォシュを主人公としたシリーズ物である。舞台はリンショーピン市という地方都市である。 前作『冬の生贄』とは対照的に記録的な猛暑となった夏の物語である。高齢者が自宅や老人ホームで熱中死してしまうほどの暑さである(上巻124頁)。これは日本人にとっては理解しやすいが、はるかに高緯度の北欧の夏が住民にとって耐え難いほど暑いものであることに驚きを覚える。 高層ビルが林立し、ヒートアイランド化した東京都の夏は耐えられないのではないか。いくら東京オリンピックを「おもてなし」の精神で迎えると言ったところで、東京都の夏は外国人観光客には不快感しか残さないのではないか。「おもてなし」は世界に通用しない特殊日本的精神論になってしまう。 少女への暴行と行方不明が連続して発生する。疑わしい人物として中東系の移民が浮かび上がる。直感的には彼らを疑いたくなる材料がある。しかし、モーリンらが移民を事情聴取したことで、マスメディアから警察の民族的偏見と批判される。北欧で移民がもたらす社会的な軋轢は日本以上である。それでも差別に繋がるような言動に対して過剰なまでに抑制しようとする意識が働いていることは素晴らしい。ヘイトスピーチが放置される日本と対照的である。 本書は前作以上にモーリンと家族の話が多い。部外者として事件と向き合う探偵物とは様相が異なる。事件を追いたい向きには脱線に見えるものの、ストーリー的には大きな意味がある。警察側にも新しいキャラクターが登場する。民族差別意識を持った暴力警官が罰されずに終わる点は読者の正義感には不満が残る。しかし、彼はモーリンのような偏見に囚われることを自省する警官と対照させるために登場させたに過ぎず、彼の人生を描くことが作品の主題でないことを考えれば納得である。 本書は民族的偏見以外にも同性愛者への偏見など社会的偏見をテーマとしている。偏見の醜さを描きつつも、社会が「政治的正しさpolitical correctness」を追求するあまり、偏見と批判されることを恐れて、移民の犯罪の多さという真実を直視しない窮屈さも指摘する。この点で本書は差別をなくす立場からすると問題作である。 日本はスウェーデンと比べると人権意識が低く、民族問題において過剰を指摘するほどの政治的正しさは存在しない。一方で社会を震撼させた関東連合などの元暴走族・ヤンキー・反グレ集団を犯罪的傾向のある人々と警戒することは社会的要請に合致する。元暴走族集団への対処が後手に回っている日本も本書の指摘する窮屈さに共感できる面はある。 | ||||
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