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日本の黒い霧
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日本の黒い霧の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.45pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全104件 81~100 5/6ページ
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本書の初出は文芸春秋1960年の連載です。時は東京オリンピックを控え高度成長 の助走をしていた時期です。私たちは今の日本の姿が起こるべくして起こった事実 の積み重ねの結果としてあると思いがちです。しかし本書を読むと当時の日本は米ソ冷戦下、 アメリカとソ連という二つの黒い霧が暗闘する混沌とした時代であったことが窺われます。 展開次第ではどちらに転ぶか分からない不安定な情勢を著者は鋭く感じ取り、 バランスよく題材を取り上げています。 前半の『下山国鉄総裁忙殺論』『「もく星」号遭難事件』『二大疑獄事件』は アメリカ占領下の日本の暗部を描き、後半の『白鳥事件』『ラストヴォロフ事件』 『革命を売る男・伊藤律』は日本に暗躍する共産スパイと日本の共産主義者の活動 を取り上げているのは、自分はイデオロギーで物を書いているわけではないという 彼の無言の主張なのでしょう。 冷戦が終わり多極化が進む現在、本書を読むと「今は昔」感は確かに禁じ得ま せんが、日本が二つの黒い霧を彷徨ったプロセスを知ることは「現在」を知り、 「未来」を展望するためには欠かすことのできない作業なのではないでしょうか。 | ||||
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ブッシュ政権による北朝鮮のテロ支援国家の解除がきまった。任期終了が目前にせまった今となっては、もう何もしてほしくないのに、不人気な政権がその末期におこなう駆け込み的な実績作りである。ここに至っては道徳の問題だ。一個人の欲望の前に国際関係にも同盟国の日本との関係にも重大な支障をおこす。クリントン大統領の末期の時もオルブライト国務長官が北朝鮮で歓待されて醜態をさらした。 本書を読んで連想するのが、国家による犯罪であり謀略である。翻弄される人間の悲しみと無力である。北朝鮮に肉親を拉致されたご家族の悲しみは如何ばかりとおもうが、拉致の全貌はなにも発表されていないし、ジャーナリズムも沈黙している。発表すると日本の側の失策と怠慢が明らかになるからだろうと、根拠レスであるが想像する。 このときに松本清張ありせば、拉致事件にどう迫るか、とおもうのである。本書の推理が当たっているかどうか。事件の真相が解明されるのは、今後百年単位の年月がたって世界情勢が様変わりしてからであろう。本書の推理をくつがえすような出版はまだ現れていない。 | ||||
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当時、「砂の器」とか、「黒革の手帖」がドラマ化されてたりして、 なんか松本清張の本を読んでみようかなと思って手にした本。 戦後日本で起こった怪事件のいくつかを取り上げ、 その背景に迫り、真相を追究するといったノンフィクション。 下山事件とか昭和電工事件とか、日本史の教科書の年表のところでしか 触れることのなかった昭和史の暗部にせまる。 当時、GHQの影響下にあったり、「独立」直後だったりで、 アメリカの影響下にあった日本。 迷宮入りしてしまった事件の多くがアメリカ・GHQの陰謀では ないのかという松本清張の推理が続く。 完全に経済大国として自立してからの日本に生まれた俺に とっては、想像のつかない昔の話であるけれども、 昨今の日米関係を見ていると、「歴史は流転する」では ないけれども、肝に銘じておくべきポイントは多々あると思います。 | ||||
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下巻で取り上げているのは、日本軍が接収したダイヤモンドの話、 帝銀事件、松川事件、レッドパージ、そして朝鮮戦争など。 これは、あくまでもGHQ占領史を小説家松本清張が描いた ルポタージュ。表面的な理解では、清張が自ら言うように、 「占領中の不思議な事件は、何もかもアメリカ占領軍の謀略であるという 一律の構成で片付けているような印象」を受ける。 それゆえに批判も受けたようだけれども、清張は「それぞれの 事件を追及してみて、帰納的にそういう結果になったにすぎないのである。」 と答えている。 歴史を学ぶ理由は、「歴史は流転する」からである。 この本で昭和史の一端を知ることが出来るのであるが、 これを現在に当てはめて考えてみるとどうだろうか。 結局、究極的には自国の利益しか考えていないアメリカ。 そのアメリカ一辺倒の外交姿勢の日本。 近隣のアジア諸国、中国や韓国との緊張感の高まり。 日本と中韓の緊張感が高まれば高まるほど極東の軍事力の 必要性が増し、米軍の存在理由がそこに生まれ、 日本が再び軍事大国としての道を歩みだす・・・。 深読みしすぎ? どうなんだろう。 ちょっと読むのに疲れたけど、考えさせられる1冊でした。 | ||||
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本書は、1960年の文芸春秋に連載され、1974年に文庫化された本の新装版(2004年12月発行)。 取り上げられている下山事件、「もく星」号遭難事件、白鳥事件などから半世紀以上の時間が経過しており、いずれも「歴史」の一部になりつつあるが、今読んでもさまざまに考えさせられることが多い。 著者は、戦後の諸事件を、GHQ内のG2とGSの勢力争いや共産党対策を目的とした謀略史観から丹念に構成している。私は、これらの事件は名前だけで内容はほとんど知らなかったが、その知識を得ることができた。そして、現代にあって、日ごろ何気なく事件のニュースをみているが、その背後の事情を余り深く考えていなかったことに改めて気付かされた。 事件そのものが相当昔の事件であり、著者も読者が他の報道で多くの情報を持っていることを前提に書いているため、ややわかりにくい部分もないではないが、内容がとても興味深いものであることから、引き込まれてしまう。実に興味深い本である。 | ||||
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日本のとある地方で起こった事件が、世界史の年表に記載されるような出来事に収斂する流れの一角を占めていたのかもしれない。読了後の第一印象である。むろん、そうでは無い可能性もある。ここで自分で考える必要が生じる。本当なのか、そうではないのか、あるいは別の可能性があるのか。面倒ではあるものの、知的刺激に富んだ作業である。いかんせん、半世紀以上も前の事件ばかりなので、今さらという感がなきにしもあらずだが、未来は過去に学ぶことが多いのも事実ゆえに、考察すること自体は決して無駄な作業とはいえないだろう。 戦後に数々の事件や出来事。その事だけを取り出してみれば、全体の把握はできない。大切なのは時代背景をひっくるめた視点で考えることである。言ってみれば市井の人々から距離を置いて、大所高所から見る視点である。むろん、これは大変な作業である。ややもすれば、メディアが流布する言説を疑いもせずに受け止めるほうが楽である。しかも、そういう人々が大多数をしめるのが現状とあっては、無理に大勢に逆らわないのも処世術なのかもしれない。このあたりは難しいところではある。 | ||||
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読む前と読み終わった後で「黒い霧」という言葉に対する感慨が大きく変わった。黒い霧という言葉は実に深い意味がある。霧がたちこめると視界を妨げる。それが夜間であれば、なおのことである。通常の霧は白いものであるが、これが黒であったならば視界を妨げる様はそれこそ尋常ではない。むろん、ワンサイドからの意見であり、できうることならば類書を多く読んだうえで判断するのが望ましいことはいうまでもない。自らで検証する作業を怠ってはなるまいが、火のない所に煙りは立たずという格言があるくらいであり、「何かしら」はあったのかもしれぬ。さもなくば、かほども長きにわたり本作が読み継がれることはないだろうから。 霧といえば、かつてロンドンの街を覆っていた「スープのような霧」を連想してしまいがちだ。しかし、彼の地まで行かずとも、もっと身近で霧を見ることができるのかもしれない・・・という表現は、少しアンフェアかもしれない。 半世紀近く前の事件ばかりなので、当時の時代背景や空気を理解した上で読み直したいと考えている。 | ||||
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当時の様子を知らない私でも、時代背景等を調べながら苦労する事無く読み進める事ができました。文章的なものもそうだし、結論ありきではなく事実の積み重ねから最後に足りない部分を推理によって埋めて行く様子は、並みの陰謀論系書物と比較するのが申し訳ない出来。 終戦後の米軍の政策や組織、動きについて興味がない人でも止まる事無く読み勧める事ができると思います。戦後今に続くまで「黒い霧」は数多く有ったんでしょうけど、このような形で描ける著者はもういないでしょうね。 | ||||
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上巻に続き、日本の近戦後の闇を描き出して行く作品。日本をそれぞれの権益のためにとことん利用しようとしたGHQの各部局、自分独自のアジア構想のために多くの国や兵力や人間を駒のようにあやつろうとして挫折したマッカーサー、そしてGHQに絡みついて利権にむらがり、結局は暗黒を内包したままの現代の日本につながる底流を築いた日本の政・財・官。清張がこの作品を書いた当時にして既に、これらの蠢動の真相は手の届かないところに消え去ろうとしていた。清張の憤怒や焦燥、ペンをとる者としての使命感、正義感、そして反骨精神が行間に満ちている。大岡昇平との論争の一端も記されているが、当時の作家の社会意識の高さを伺わせる。終戦60年、今日の日本では正義の怒りが影を潜め、暴力と不正と隠匿が横行している。道理が通る社会を…と、やはり思わずにはいられない。しばらくは清張の巨大さに没頭してみようかという気になってきた。 | ||||
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これは,不世出の社会派推理小説作家である松本清張が,GHQ占領下の日本の暗部にメスを入れた貴重なノンフィクション作品である。上巻では,下山事件,もく星号墜落事件,昭電・造船疑獄事件,白鳥事件,ラストヴォロフ事件,伊藤律事件が扱われている。 1945年8月のポツダム宣言の受諾から1951年9月のサンフランシスコ講和条約の調印までの間続いたアメリカ軍による日本占領の期間,日本国内は,不可解,奇怪な事件,壮絶な組合闘争等が相次ぎ,混沌かつ騒然とした空気に満ちていた。その背景には,GHQの統治政策の大きな変化,すなわち,1946年の公職追放令から朝鮮戦争を契機としたレッドバージヘの転換(1950年)が色濃く見受けられる。さらに,清張は,本書で取り扱った各事件に関する資料を丹念に調査するうち,G2(参謀部第二部作戦部)とGS(民政局)のGHQ内部の対立,そして,これに絡むCTS(民間輸送部)等の暗躍が,いずれの事件の背後にも見られることに気付く。本書では,全ての事件にこれらの対立構造,権力構造が見え隠れする,そのような観点から事件の闇の部分に鋭く迫っている。 「戦後三大鉄道謀略事件」とも呼ばれることもある下山事件,三鷹事件,松川事件のうち,上巻で取り上げられた下山事件には,やはり力が込められており,グイグイと読ませる。必ずしも十分ではない資料と資料との間を,点と点とを繋ぎ合わせていくように推理,推測した上で,「黒い霧」を少しでも晴らすようにと一つの仮説を立てていく清張の力量には並々ならぬものを感じる。 そして,最も重要なことは,これらの事件の存在すら忘れられかけている現在,GHQの日本占領史の裏の裏にまで迫るような迫力で書かれた作品は殆ど存在しないということである。清張は自ら,「(GHQの日本占領史の多くは,)『正統的』な現代史といった概観的なものが多く,私のような感じ方で書かれたものは少い。こういう事件も,今のうちに,何らかのかたちでメモしておかなければ,将来,分からなくなるのではなかろうか,というのもこれを書いた私の密かな気負いであった。」と語っているが,不幸にして,この予測は当たってしまっている。もちろん,若干の論理展開の荒い部分ば感じられることは間違いない(本書を巡っては,清張と大岡昇平との間で論争らしきものも起こったようである。)。しかし,さらに混迷の度を深めている21世紀のはじまりに,日本における「戦後統治」の実像を辿る資料として,本書は,やはり一級のものというべきであろう。 本書は,しばらく入手困難であったが,最近の清張ブームに伴い,久々に新装版として帰ってきた。このような歴史的著作物が消え去ることなく復活したことに,心から賛辞を送りたい。 | ||||
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これは,不世出の社会派推理小説作家である松本清張が,GHQ占領下の日本の暗部にメスを入れた貴重なノンフィクション作品である。下巻では,接収ダイヤ問題,帝銀事件,鹿地亘事件,松川事件,追放とレッド・パージ,朝鮮戦争が扱われている。 下巻での白眉は,帝銀事件,そして,「戦後三大鉄道謀略事件」とも呼ばれるものの一つ松川事件であろう。特に,「青酸カリ」により12人の死者を出し,容疑者が裁判で死刑を宣告され確定しながらも,ついに刑が執行されなかった帝銀事件の奇怪さと,その背後に見え隠れする「黒い霧」とは,忘れてはならないものであろう。必ずしも十分ではない資料と資料との間を,点と点とを繋ぎ合わせていくように推理,推測した上で,を少しでも晴らすようにと一つの仮説を立てていく清張の力量には並々ならぬものを感じる。 そして,最も重要なことは,これらの事件の存在すら忘れられかけている現在,GHQの日本占領史の裏の裏にまで迫るような迫力で書かれた作品は殆ど存在しないということである。もちろん,若干の論理展開の荒い部分ば感じられることは間違いない(本書を巡っては,清張と大岡昇平との間で論争らしきものも起こったようである。)。しかし,さらに混迷の度を深めている21世紀のはじまりに,日本における「戦後統治」の実像を辿る資料として,本書は,やはり一級のものというべきであろう。 本書は,しばらく入手困難であったが,最近の清張ブームに伴い,久々に新装版として帰ってきた。このような歴史的著作物が消え去ることなく復活したことに,心から賛辞を送りたい。 | ||||
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これは,不世出の社会派推理小説作家である松本清張が,GHQ占領下の日本の暗部にメスを入れた貴重なノンフィクション作品である。上巻では,下山事件,もく星号墜落事件,昭電・造船疑獄事件,白鳥事件,ラストヴォロフ事件,伊藤律事件が扱われている。 1945年8月のポツダム宣言の受諾から1951年9月のサンフランシスコ講和条約の調印までの間続いたアメリカ軍による日本占領の期間,日本国内は,不可解,奇怪な事件,壮絶な組合闘争等が相次ぎ,混沌かつ騒然とした空気に満ちていた。その背景には,GHQの統治政策の大きな変化,すなわち,1946年の公職追放令から朝鮮戦争を契機としたレッドバージヘの転換(1950年)が色濃く見受けられる。さらに,清張は,本書で取り扱った各事件に関する資料を丹念に調査するうち,G2(参謀部第二部作戦部)とGS(民政局)のGHQ内部の対立,そして,これに絡むCTS(民間輸送部)等の暗躍が,いずれの事件の背後にも見られることに気付く。本書では,全ての事件にこれらの対立構造,権力構造が見え隠れする,そのような観点から事件の闇の部分に鋭く迫っている。 「戦後三大鉄道謀略事件」とも呼ばれることもある下山事件,三鷹事件,松川事件のうち,上巻で取り上げられた下山事件には,やはり力が込められており,グイグイと読ませる。必ずしも十分ではない資料と資料との間を,点と点とを繋ぎ合わせていくように推理,推測した上で,「黒い霧」を少しでも晴らすようにと一つの仮説を立てていく清張の力量には並々ならぬものを感じる。 そして,最も重要なことは,これらの事件の存在すら忘れられかけている現在,GHQの日本占領史の裏の裏にまで迫るような迫力で書かれた作品は殆ど存在しないということである。清張は自ら,「(GHQの日本占領史の多くは,)『正統的』な現代史といった概観的なものが多く,私のような感じ方で書かれたものは少い。こういう事件も,今のうちに,何らかのかたちでメモしておかなければ,将来,分からなくなるのではなかろうか,というのもこれを書いた私の密かな気負いであった。」と語っているが,不幸にして,この予測は当たってしまっている。もちろん,若干の論理展開の荒い部分ば感じられることは間違いない(本書を巡っては,清張と大岡昇平との間で論争らしきものも起こったようである。)。しかし,さらに混迷の度を深めている21世紀のはじまりに,日本における「戦後統治」の実像を辿る資料として,本書は,やはり一級のものというべきであろう。 本書は,しばらく入手困難であったが,最近の清張ブームに伴い,久々に新装版として帰ってきた。このような歴史的著作物が消え去ることなく復活したことに,心から賛辞を送りたい。 | ||||
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これは,不世出の社会派推理小説作家である松本清張が,GHQ占領下の日本の暗部にメスを入れた貴重なノンフィクション作品である。下巻では,接収ダイヤ問題,帝銀事件,鹿地亘事件,松川事件,追放とレッド・パージ,朝鮮戦争が扱われている。 下巻での白眉は,帝銀事件,そして,「戦後三大鉄道謀略事件」とも呼ばれるものの一つ松川事件であろう。特に,「青酸カリ」により12人の死者を出し,容疑者が裁判で死刑を宣告され確定しながらも,ついに刑が執行されなかった帝銀事件の奇怪さと,その背後に見え隠れする「黒い霧」とは,忘れてはならないものであろう。必ずしも十分ではない資料と資料との間を,点と点とを繋ぎ合わせていくように推理,推測した上で,を少しでも晴らすようにと一つの仮説を立てていく清張の力量には並々ならぬものを感じる。 そして,最も重要なことは,これらの事件の存在すら忘れられかけている現在,GHQの日本占領史の裏の裏にまで迫るような迫力で書かれた作品は殆ど存在しないということである。もちろん,若干の論理展開の荒い部分ば感じられることは間違いない(本書を巡っては,清張と大岡昇平との間で論争らしきものも起こったようである。)。しかし,さらに混迷の度を深めている21世紀のはじまりに,日本における「戦後統治」の実像を辿る資料として,本書は,やはり一級のものというべきであろう。 本書は,しばらく入手困難であったが,最近の清張ブームに伴い,久々に新装版として帰ってきた。このような歴史的著作物が消え去ることなく復活したことに,心から賛辞を送りたい。 | ||||
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映像化された「けものみち」や「霧の旗」などで、大いなる社会の暗部を緊密に描き出す松本清張の重厚な迫力に圧倒され、膨大公汎な作品をいつか読破してみたいものと念じたが、「ゼロの焦点」「点と線」から先に進めず、半分あきらめかけていた。昨今新たな清張ブームが見られるものの、ドラマの作りが以前感じた重厚さに欠け、落胆することが多かった。そこへこの新版の登場である。読み始めて一気に読み終わると同時に思ったのは、ノンフィクションから始めれば制覇も可能かもしれないということだった。以上は個人的な感慨である。 日本の戦後に関する教育は恐ろしいほど欠落している。戦後間もなく教育に携わった世代にとって、それは同時進行中の日常であり歴史ではなかった。しかもその日常ですら、GHQの壁の中へと消えてしまえば解き明かせない謎が横溢していた。触らない方がよさそうな物事を、日本の教科書は避けて通って来た。その教科書さえ戦後部分は読まれる事なく多くの学校は歴史教育を終了する。体験した世代が語り継がなければ、その時代の記憶はどんどん失われて行く。現代の大学生のどれほどが、下山事件や伊藤律を知っているだろうか。軍国主義を感じさせる箇所に墨を塗った教科書は実体として教育思想を示してくれるが、現在の日本史の教科書が取り上げない戦後史の闇は、同時代を生きた世代がいなくなれば、透明化して痕跡を遺すこともなく葬り去られてしまう。その日を待っている人々が、きっと地球の何処かにいまだ存在する。 松本清張は、彼が生きた時代の日本の黒い霧の彼方を何とかして洞察しようとした。現代の日本人は、もはや闇に沈みつつあるこの霧を見つめなおす時期に来ているのかも知れない。あれよあれよといううちに日本が急旋回しつつあるかに思える今、道義を通せる社会の実現をあきらめてはならない。 | ||||
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これは,不世出の社会派推理小説作家である松本清張が,GHQ占領下の日本の暗部にメスを入れた貴重なノンフィクション作品である。下巻では,接収ダイヤ問題,帝銀事件,鹿地亘事件,松川事件,追放とレッド・パージ,朝鮮戦争が扱われている。 下巻での白眉は,帝銀事件,そして,「戦後三大鉄道謀略事件」とも呼ばれるものの一つ松川事件であろう。特に,「青酸カリ」により12人の死者を出し,容疑者が裁判で死刑を宣告され確定しながらも,ついに刑が執行されなかった帝銀事件の奇怪さと,その背後に見え隠れする「黒い霧」とは,忘れてはならないものであろう。必ずしも十分ではない資料と資料との間を,点と点とを繋ぎ合わせていくように推理,推測した上で,を少しでも晴らすようにと一つの仮説を立てていく清張の力量には並々ならぬものを感じる。 そして,最も重要なことは,これらの事件の存在すら忘れられかけている現在,GHQの日本占領史の裏の裏にまで迫るような迫力で書かれた作品は殆ど存在しないということである。もちろん,若干の論理展開の荒い部分ば感じられることは間違いない(本書を巡っては,清張と大岡昇平との間で論争らしきものも起こったようである。)。しかし,さらに混迷の度を深めている21世紀のはじまりに,日本における「戦後統治」の実像を辿る資料として,本書は,やはり一級のものというべきであろう。 本書は,しばらく入手困難であったが,最近の清張ブームに伴い,久々に新装版として帰ってきた。このような歴史的著作物が消え去ることなく復活したことに,心から賛辞を送りたい。 | ||||
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これは,不世出の社会派推理小説作家である松本清張が,GHQ占領下の日本の暗部にメスを入れた貴重なノンフィクション作品である。上巻では,下山事件,もく星号墜落事件,昭電・造船疑獄事件,白鳥事件,ラストヴォロフ事件,伊藤律事件が扱われている。 1945年8月のポツダム宣言の受諾から1951年9月のサンフランシスコ講和条約の調印までの間続いたアメリカ軍による日本占領の期間,日本国内は,不可解,奇怪な事件,壮絶な組合闘争等が相次ぎ,混沌かつ騒然とした空気に満ちていた。 その背景には,GHQの統治政策の大きな変化,すなわち,1946年の公職追放令から朝鮮戦争を契機としたレッドバージヘの転換(1950年)が色濃く見受けられる。 さらに,清張は,本書で取り扱った各事件に関する資料を丹念に調査するうち,G2(参謀部第二部作戦部)とGS(民政局)のGHQ内部の対立,そして,これに絡むCTS(民間輸送部)等の暗躍が,いずれの事件の背後にも見られることに気付く。 本書では,全ての事件にこれらの対立構造,権力構造が見え隠れする,そのような観点から事件の闇の部分に鋭く迫っている。 「戦後三大鉄道謀略事件」とも呼ばれることもある下山事件,三鷹事件,松川事件のうち,上巻で取り上げられた下山事件には,やはり力が込められており,グイグイと読ませる。必ずしも十分ではない資料と資料との間を,点と点とを繋ぎ合わせていくように推理,推測した上で,「黒い霧」を少しでも晴らすようにと一つの仮説を立てていく清張の力量には並々ならぬものを感じる。 そして,最も重要なことは,これらの事件の存在すら忘れられかけている現在,GHQの日本占領史の裏の裏にまで迫るような迫力で書かれた作品は殆ど存在しないということである。 清張は自ら,「(GHQの日本占領史の多くは,)『正統的』な現代史といった概観的なものが多く,私のような感じ方で書かれたものは少い。こういう事件も,今のうちに,何らかのかたちでメモしておかなければ,将来,分からなくなるのではなかろうか,というのもこれを書いた私の密かな気負いであった。」と語っているが,不幸にして,この予測は当たってしまっている。 もちろん,若干の論理展開の荒い部分ば感じられることは間違いない(本書を巡っては,清張と大岡昇平との間で論争らしきものも起こったようである。)。しかし,さらに混迷の度を深めている21世紀のはじまりに,日本における「戦後統治」の実像を辿る資料として,本書は,やはり一級のものというべきであろう。 本書は,しばらく入手困難であったが,最近の清張ブームに伴い,久々に新装版として帰ってきた。このような歴史的著作物が消え去ることなく復活したことに,心から賛辞を送りたい。 | ||||
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終戦後、米国の占領下にあった日本。昭和20年代に起きた怪事件の裏側にあったのは何か、公表された“記録”とは別の“真実”がそこにあったのではないかと、松本清張が検証、推理していく戦後昭和史ドキュメント。下巻には、「征服者とダイヤモンド」「帝銀事件の謎」「鹿地亘(かじ わたる)事件」「推理・松川事件」「追放とレッド・パージ」「謀略朝鮮戦争」と、「なぜ『日本の黒い霧』を書いたか」が収められています。 関係者の証言や残された記録を手がかりにして事件の真相を探っていくと、どうも公表された事と違うのではないか、様々な不審の点がそこにはあるようだと論を展開していく清張の推理。それは実に説得力のある力強いものでした。「推理・松川事件」などは殊に、公表された記録よりもよほど真相に迫っているのではないかと思った次第です。 戦後当初は日本の民主化を奨励、推進しながら、それが高じて共産主義の勢力と結びつく恐れがあると見るや、占領政策を方向転換し、日本を極東の対共産圏の防波堤となるべく誘導したGHQ。その内部で、GS(民政局)と激しい主導権争いを繰り広げていたG2(参謀部第二部・作戦部)。事件の“黒い霧”の中から、このG2の謀略の影がゆらゆらと立ち上ってくるところにぞっとしました。 事件の裏にあるものを丹念にえぐり出していく清張の推論に、鋭さと凄みを感じた戦後昭和史ドキュメントです。 | ||||
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第二次大戦が終わり、米国の統治下に置かれるようになった日本。昭和20年代に起き、世間を震撼させた怪事件の性格と背後に潜むものを、松本清張が推理、検証した戦後昭和史ドキュメント『日本の黒い霧』。本書には、「下山国鉄総裁謀殺論」「[もく星]号遭難事件」「二大疑獄事件」「白鳥事件」「ラストヴォロフ事件」「革命を売る男・伊藤律」が収録されています。 戦後、日本で独裁的な権力をふるったGHQの内部で繰り広げられていたG2(参謀部第二部 ※諜報、保安、検閲を行う)と、GS(民政局 ※日本の民主化政策を担当)との激しい勢力争い。共産主義の台頭に神経をとがらせ、暗躍する米国の諜報機関。対外的なPRのためにも自国の権益のためにも、都合の悪いことにはフタをし、事実をねじ曲げてでも横車を押そうとする米国の思惑。それに唯々諾々と従うよりほかはない日本政府の首脳部。その狭間にあって蠢く個人の金銭欲や出世欲。そうした魑魅魍魎の闇の世界が事件の裏側に広がっていることを、関係者の著書や証言からあぶり出し、掘り起こす松本清張の鋭い検証に、ぞくぞくする読みごたえがありました。 事件の真相は果たして公表されたようなものだったのか、その裏に何らかの謀略があったのではないだろうか。その疑問を丹念に検証していく清張の推理の、錐をもみ込んで行くような鋭さ。人間心理に対する並々ならぬ洞察の深さ。 松本清張の反骨の精神と気概が伝わってきて、並の推理小説を読むよりよほどスリリングで面白かった! とりわけ、「下山国鉄総裁謀殺論」と「革命を売る男・伊藤律」の二篇に戦慄させられました。 | ||||
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終戦後、米国の占領下にあった日本。昭和20年代に起きた怪事件の裏側にあったのは何か、公表された“記録”とは別の“真実”がそこにあったのではないかと、松本清張が検証、推理していく戦後昭和史ドキュメント。「征服者とダイヤモンド」「帝銀事件の謎」「鹿地亘(かじ わたる)事件」「推理・松川事件」「追放とレッド・パージ」「謀略朝鮮戦争」と、「なぜ『日本の黒い霧』を書いたか」が収められています。 関係者の証言や残された記録を手がかりにして事件の真相を探っていくと、どうも公表された事と違うのではないか、様々な不審の点がそこにはあるようだと論を展開していく清張の推理。実に説得力のあるものでした。「推理・松川事件」などは殊に、公表された“事実と称する記録”よりもよほど真相に迫っているのではないかと思った次第です。 戦後当初は日本の民主化を奨励、推進しながら、それが高じて共産主義の勢力と結びつく恐れがあると見るや、占領政策を方向転換し、日本を極東の対共産圏の防波堤となるべく誘導したGHQ。対共産主義の米国の戦略の中心となって動き、GHQ内部でGS(民政局)と激しい主導権争いを繰り広げていたG2(参謀部第二部・作戦部)。怪奇複雑な事件の背後には、このG2の工作や謀略が行われた可能性が強いのではないか。事件の“黒い霧”の中を探っていくと、どうしてもそういう謀略の影が見え隠れしてならないのだがと、清張かく語る訳です。 極東における米国の防衛ラインとしての日本の位置づけ、極東情勢の変化に伴うGHQの政策の大転換などが清張の推論によって浮かび上がってくるところ、その辺が強く印象に残りました。 | ||||
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第二次大戦が終わり、米国の統治下に置かれるようになった日本。昭和20年代に起き、世間を震撼させた怪事件の性格と背後に潜むものを、松本清張が推理、検証した戦後昭和史ドキュメントである『日本の黒い霧』。本書には、「下山国鉄総裁謀殺論」「[もく星]号遭難事件」「二大疑獄事件」「白鳥事件」「ラストヴォロフ事件」「革命を売る男・伊藤律」が収録されています。 戦後、日本で独裁的な権力をふるったGHQ。その内部で繰り広げられていたG2(参謀部第二部 ※諜報、保安、検閲を行う)と、GS(民生局 ※日本の民主化政策を担当)との激しい勢力争い。共産主義の台頭に神経をとがらせ、暗躍する米国の諜報機関。対外的なPRのためにも自国の権益のためにも、都合の悪いことにはフタをし、事実をねじ曲げてでも横車を押そうとする米国の思惑。それに唯々諾々と従うよりほかはない日本政府。その狭間にあって蠢く個人の金銭欲や出世欲。そうした魑魅魍魎の闇の世界が事件の裏側に広がっていることを、関係者の著書や証言からあぶり出し、掘り起こす松本清張の鋭い検証。そこに、肌が粟立つような怖さがあり、ぞくぞくさせられました。 事件の経緯を記しつつ、その性格を探り、真相は果たして公表されたようなものだったのか、その裏に何らかの謀略があったのではないだろうか。真実を隠蔽するための工作が、そこに何かなされていたのではないだろうか。その疑問を丹念に検証していく著者の推理の、錐をもみ込むような鋭さ。人間心理の洞察の深さ。 松本清張の並々ならぬ反骨の精神、気概といったものがそこからは伝わってきて、並の推理小説を読むよりよほどスリリングで面白かった! | ||||
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