冷血

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評判

冷血の評価:

3.76/5点 レビュー 109件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点3.76pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全144件 101〜120 6/8ページ
No.44
(4pt)

人間の"立ち位置"の不確かさがテーマか〜下巻の展開が楽しみ

上巻のみの感想(下巻は未読)。カポーティの代表作と敢えて同題名とした上に、二人組という犯人設定も含めて、背景となる事件の構造もほぼ同一という設定の中で、作者が何を描こうとしたのか大いなる興味を持って本作を手に取った。カポーティの方は実際の犯人検挙後に、綿密な取材の下、ルポタージュと小説の間のギリギリの線(この"さじ加減"がカポーティの力量)で再構成したものだが、こちらは未解決の事件である。現実の事件を基にしていながら、基本設定以外は全て作者の手に委ねられているという点で、「レディ・ジョーカー」と同系列の作品だが、同一テーマを扱うとは考えられない。「レディ・ジョーカー」では社会構造の歪み・矛盾とそこから生まれる悲哀や"やるせなさ"を、「太陽を曳く馬(渾身の力作)」ではオウム事件を背景とした認識論・宗教論を扱ったが、本作で何を見せてくれるか楽しみだった。

「太陽を曳く馬」は小説というよりも論文(あるいは禅問答?)に近い体裁だったが、本作は三部作以前の体裁に戻った。事件に至るまでの過程を、底知れぬ不気味さを秘めているのか単なる軽薄・粗暴なのか判然としない二人の言動と被害者家族の模様とのカットバック形式で描き、犯行場面は描かず、合田達の捜査が始まるという進行。各種のメカや警察の組織・内部権力闘争・捜査手法に関する記述は相変わらずの"精緻"の一言に尽きる。捜査現場が持つ独特の雰囲気や微妙な人間関係が余す所なく活写されている。このように、犯罪(警察)小説としても楽しめる辺りは作者のサービス精神と言えよう(このため、"ミステリ作家"との誤解を招くのだが......)。舞台の一部となる町田・相模原周辺、特に16号線沿線についての詳細な描写にも、(地元住民として)驚いた。やはりこちらも、執筆前の取材が半端ではないのだ。

上巻はアッケナイ終わり方だったが、人生には様々な岐路があり、道の僅かな選択の差でその後の人生が大きく変わり得る事、その上で、どのような道を選択しようと各人に"立ち位置"の不確かさが付き纏う事がテーマとなっている様に映った。強行犯捜査を外されて、にわか農作業が頭を占める合田の"立ち位置"も不確かであり、冒頭に出て来る被害者家族の13歳の長女の日記の「子ども以上、メス未満」という言葉もそれを象徴している様に思われた。「太陽を曳く馬」では上巻が認識論、下巻が宗教論とハッキリ区別がなされていた。この先何が出て来るか、下巻の展開が楽しみである。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.43
(4pt)

人の行動に理由はあるのか?

上下巻、読み終わりました。

上巻の最初は、13歳になる少女の生活が丁寧に描かれ
続いて、刑務所から出所したばかりの男が
携帯電話の求人サイトで犯罪に手を染めようとしているところが描かれ

少女の一家と
無計画にすすむ男二人の行動が交互に描かれ

どうか無事で会って欲しいと思うところで第1章が終わります。

そして第2章は一家4人が殺されたところから始まります。

ここまで本当に一気読みしました。

下巻の第3章では、捕まった犯人2人の取り調べ。
なぜ4人を殺すことになってしまったのか?
第1章では、男の一人は「子どもは殺してはいけない」と
明言していたにもかかわらず。

作者の丁寧な筆致は、ついに
なぜ4人を殺したのか、その理由にはいきつきません。

でも、本当の犯罪もそういうものかもしれません。
裁判で争われるのは、分かりやすく単純化された部分だけなのかもしれません。

物語を読みながら、オウム真理教の麻原彰晃のことを考えていました。
彼はほとんど意思疎通できない状態とのこと。
そういう人間を死刑にする意味はあるのか?
しかし、あれだけの人々を殺害しておいて、本人は税金で食事を受けている矛盾。

「反省させると犯罪者になります」という本も読んでみたくなりました。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4101347255
No.42
(4pt)

人の行動に理由はあるのか?

上下巻、読み終わりました。

上巻の最初は、13歳になる少女の生活が丁寧に描かれ
続いて、刑務所から出所したばかりの男が
携帯電話の求人サイトで犯罪に手を染めようとしているところが描かれ

少女の一家と
無計画にすすむ男二人の行動が交互に描かれ

どうか無事で会って欲しいと思うところで第1章が終わります。

そして第2章は一家4人が殺されたところから始まります。

ここまで本当に一気読みしました。

下巻の第3章では、捕まった犯人2人の取り調べ。
なぜ4人を殺すことになってしまったのか?
第1章では、男の一人は「子どもは殺してはいけない」と
明言していたにもかかわらず。

作者の丁寧な筆致は、ついに
なぜ4人を殺したのか、その理由にはいきつきません。

でも、本当の犯罪もそういうものかもしれません。
裁判で争われるのは、分かりやすく単純化された部分だけなのかもしれません。

物語を読みながら、オウム真理教の麻原彰晃のことを考えていました。
彼はほとんど意思疎通できない状態とのこと。
そういう人間を死刑にする意味はあるのか?
しかし、あれだけの人々を殺害しておいて、本人は税金で食事を受けている矛盾。

「反省させると犯罪者になります」という本も読んでみたくなりました。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.41
(5pt)

創作ノンフィクション小説

下巻では、二人の容疑者が犯行を自供し、事件の詳細と犯行理由が次第に明らかになる。相変わらず著者の視点は冷めており、ノンフィクションを読むかのよう。

キャベツ。合田雄一郎も犯人も見方は違うのだが、奇しくも同じ表現をしている。

フィクションでありながら、警察機構や捜査の様子、犯人が強盗殺人に至る背景から犯行シーンまでをよくぞここまで書き込んだと驚くばかり。

創作ノンフィクション小説と呼ぶべきか。
冷血(下) Amazon書評・レビュー: 冷血(下)より
4620107905
No.40
(5pt)

まるでノンフィクションのような…

久々の合田雄一郎シリーズ。冒頭から幸せな四人家族の日常と二人の男の出会いから悪の道にのめり込んで行く過程が交互に描かれる。そして、最悪の事件はクリスマス・イヴに発覚する。

著者の狙いなのだろうか、まるでノンフィクションのような著者の冷めた視点が、極めて克明に事件の過程を描いているようだ。それだけに現実に起こった事件であるかのような錯覚を覚え、不気味さを感じる。

上巻では事件の発覚から容疑者の二人が確保される所までが、じっくりとまるでこの世を俯瞰するかのような視点で描かれている。

果たして…
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.39
(4pt)

あれれ?犯人像にちょっと疑問

上巻は警察調書のような文体と相まって、捜査の描写に現実感があり、とても面白く読んだ。
そして肝心の下巻は確かに読み応えたっぷり、なのだが…
同時に様々な違和感も感じた。

「戸田=歯痛男」はこちらまで歯が痛くなるくらい気の毒な男で、合田もある種の共感を
寄せているようにも見える。分かりやすい動機も一応あるといえばある。
問題は「井上=双極性の男」です。
彼は人たらしで魅力的な男と設定されているけれど、どうにもそこが伝わってこない。

また二人とも、意外な趣味を持っていて、そこから本の差し入れという形で、彼らと
合田の交流があり、本作の最も重要な部分になるのですが、その彼らの趣味がなんだか
取ってつけたみたいで違和感が残ります。
また合田との手紙の中の彼らと、上巻での彼らがどうも繋がらない。

と思いつつレビューを見たら、「カポーティではない高村薫の限界」というレビューが
私の疑問に答えてくれました。
冷血(下) Amazon書評・レビュー: 冷血(下)より
4101347263
No.38
(5pt)

捜査場面はリアルで読み応えあり

「レディ・ジョーカー」以来の高村薫作品。
「晴子情歌」でくじけて、なぜ?どうして?難解作家になってしまったの???と、
それまでの「好きな作家=高村薫」を名乗れないさみしさを感じていましたが、
とりあえず読みやすい!それだけでうれしくて★5つ(レビューになってない)

まず上巻は淡々と警察調書のような文章で、それが却って事件の凄惨さを浮上がらせ
迫力満点でかなり怖かったです。
とにかく上巻はいつから合田が園芸おじさんになったのかが疑問なくらいで
違和感とか、疑問は持ちませんでした。
問題は作品の要のはずの下巻ですが…
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4101347255
No.37
(4pt)

あれれ?犯人像にちょっと疑問

上巻は警察調書のような文体と相まって、捜査の描写に現実感があり、とても面白く読んだ。
そして肝心の下巻は確かに読み応えたっぷり、なのだが…
同時に様々な違和感も感じた。

「戸田=歯痛男」はこちらまで歯が痛くなるくらい気の毒な男で、合田もある種の共感を
寄せているようにも見える。分かりやすい動機も一応あるといえばある。
問題は「井上=双極性の男」です。
彼は人たらしで魅力的な男と設定されているけれど、どうにもそこが伝わってこない。

また二人とも、意外な趣味を持っていて、そこから本の差し入れという形で、彼らと
合田の交流があり、本作の最も重要な部分になるのですが、その彼らの趣味がなんだか
取ってつけたみたいで違和感が残ります。
また合田との手紙の中の彼らと、上巻での彼らがどうも繋がらない。

と思いつつレビューを見たら、「カポーティではない高村薫の限界」というレビューが
私の疑問に答えてくれました。
冷血(下) Amazon書評・レビュー: 冷血(下)より
4620107905
No.36
(5pt)

捜査場面はリアルで読み応えあり

「レディ・ジョーカー」以来の高村薫作品。
「晴子情歌」でくじけて、なぜ?どうして?難解作家になってしまったの???と、
それまでの「好きな作家=高村薫」を名乗れないさみしさを感じていましたが、
とりあえず読みやすい!それだけでうれしくて★5つ(レビューになってない)

まず上巻は淡々と警察調書のような文章で、それが却って事件の凄惨さを浮上がらせ
迫力満点でかなり怖かったです。
とにかく上巻はいつから合田が園芸おじさんになったのかが疑問なくらいで
違和感とか、疑問は持ちませんでした。
問題は作品の要のはずの下巻ですが…
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.35
(4pt)

問いかけ

殺人の法的要件はやはり理屈が優先で形式的な部分があって、特に、被疑者に精神疾患があると、取り調べや裁判の過程で法的要件を整えようとする際に、実態とのギャップが生じるケースも出てくるだろう。

そうしたギャップを通じて人の生死とは何かを問う手法やその問いかけ方は、流石、高村薫でありレベルが高い。

作者は百も承知で書いているのだが、死に伴う喪失感は主観でしかありえない。軽度の精神疾患があるとはいえ、「冷血」な殺人犯に喪失感を覚えた人をどう捉えるかは万人共通ではない。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4101347255
No.34
(4pt)

問いかけ

殺人の法的要件はやはり理屈が優先で形式的な部分があって、特に、被疑者に精神疾患があると、取り調べや裁判の過程で法的要件を整えようとする際に、実態とのギャップが生じるケースも出てくるだろう。

そうしたギャップを通じて人の生死とは何かを問う手法やその問いかけ方は、流石、高村薫でありレベルが高い。

作者は百も承知で書いているのだが、死に伴う喪失感は主観でしかありえない。その立場に立ったことが無いので何とも言えないが、軽度の精神疾患があるとはいえ、「冷血」な殺人犯に喪失感を覚えた人をどう捉えるかは万人共通ではない。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.33
(4pt)

この日に読了とは・・・

読了した日に3死刑囚の刑執行。
しばし合田雄一郎になる。
時として臨界に達したかのようにこの世界の裂け目を垣間見せる異形の殺人事件は
いったん宙吊りにされ、そのリアルは傲然たる指示機能を標榜する司法言語に回収され着地する。
国家の操る司法言語が個の抹消の根拠を僭称することは自明でありながら、
リアルは国家の言語領域に解体され死刑相当のリアルに転位するのだ。
合田は国家の司祭の系列にありながらその言語体系そのものに殉じることができない。
個の直接性には個の直接性をもって当たるしかないだろう。
合田はそのエッジを彷徨する。諦念や断念というふうにではない仕方で。
死刑も証拠捏造も医療過誤も厳密性という錬金術の迷路の中にある。
そこからリアルを拾い上げようとする我が主人公が、
湖北への小旅行をつつがなく終えたことを祈るのみである。
冷血(下) Amazon書評・レビュー: 冷血(下)より
4101347263
No.32
(4pt)

この日に読了とは・・・

読了した日に3死刑囚の刑執行。
しばし合田雄一郎になる。
時として臨界に達したかのようにこの世界の裂け目を垣間見せる異形の殺人事件は
いったん宙吊りにされ、そのリアルは傲然たる指示機能を標榜する司法言語に回収され着地する。
国家の操る司法言語が個の抹消の根拠を僭称することは自明でありながら、
リアルは国家の言語領域に解体され死刑相当のリアルに転位するのだ。
合田は国家の司祭の系列にありながらその言語体系そのものに殉じることができない。
個の直接性には個の直接性をもって当たるしかないだろう。
合田はそのエッジを彷徨する。諦念や断念というふうにではない仕方で。
死刑も証拠捏造も医療過誤も厳密性という錬金術の迷路の中にある。
そこからリアルを拾い上げようとする我が主人公が、
湖北への小旅行をつつがなく終えたことを祈るのみである。
冷血(下) Amazon書評・レビュー: 冷血(下)より
4620107905
No.31
(4pt)

土地が人間を作る

レディジョーカー以来の、高村薫。
ちりばめられる実在の固有名詞と土地が
戸田と井上という二人に血肉を与え、16号線の風景が、どこかで目にしているあの荒涼感、コンクリートと
人々の貧しくはないのに漂う底辺の土の臭いが、戸田と井上の会話から浮き上がってきます。

一家4人殺害という大事件ながら、その決定的場面は上巻での描写はなくひたすら、戸田と井上の事件前の数日を綿密に追い、その寂漠とした日常と訪れる場所の描写で、あー彼等の空洞はやばい、じわじわとくるのです。
一方の被害者サイドの地に足をつけた社会的地位とその生活、その本物の豊かさと
井上たちが日常的に見る光景との差は、読んでいる側に静かに迫って来る
日本の真実の、本物の身分の差。

けれども人は自分の土地に親しみ、そこで生きて、その風景と折り合いをつけて誰もが逸脱せずに、一生を終えるものです。
なのになぜ、いきなりこの二人は殺人までにいたるのか。

太陽の光が眩しくて...

思い出すのはカミユの一節。
そんな漠然さ、曖昧さをもったまま、合田登場、警察の捜査の章にはいり
怒涛の如く展開、逮捕で上巻は終わります。

これはサスペンスでもなんでもなく、ドストエフスキーの世界なんですね。
出世した合田は相変わらずの一面もありますが、かつての魅力はなく、諦観という鎧を身につけ
静かに傍観者としてそこにいます。

渇ききった土地と人間を目の当たりにして、重くページを閉じた上巻でした。

面白い、やはり高村薫は凄い。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4101347255
No.30
(4pt)

土地が人間を作る

レディジョーカー以来の、高村薫。
ちりばめられる実在の固有名詞と土地が
戸田と井上という二人に血肉を与え、16号線の風景が、どこかで目にしているあの荒涼感、コンクリートと
人々の貧しくはないのに漂う底辺の土の臭いが、戸田と井上の会話から浮き上がってきます。

一家4人殺害という大事件ながら、その決定的場面は上巻での描写はなくひたすら、戸田と井上の事件前の数日を綿密に追い、その寂漠とした日常と訪れる場所の描写で、あー彼等の空洞はやばい、じわじわとくるのです。
一方の被害者サイドの地に足をつけた社会的地位とその生活、その本物の豊かさと
井上たちが日常的に見る光景との差は、読んでいる側に静かに迫って来る
日本の真実の、本物の身分の差。

けれども人は自分の土地に親しみ、そこで生きて、その風景と折り合いをつけて誰もが逸脱せずに、一生を終えるものです。
なのになぜ、いきなりこの二人は殺人までにいたるのか。

太陽の光が眩しくて...

思い出すのはカミユの一節。
そんな漠然さ、曖昧さをもったまま、合田登場、警察の捜査の章にはいり
怒涛の如く展開、逮捕で上巻は終わります。

これはサスペンスでもなんでもなく、ドストエフスキーの世界なんですね。
出世した合田は相変わらずの一面もありますが、かつての魅力はなく、諦観という鎧を身につけ
静かに傍観者としてそこにいます。

渇ききった土地と人間を目の当たりにして、重くページを閉じた上巻でした。

面白い、やはり高村薫は凄い。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.29
(5pt)

物語の枠を超えているような気がする

物語の流れには、最後に決着がついていなければならない、なんてことはないと思わせられた珍しい作品だろう。
合田雄一郎は、この物語の中で、特に自身の主張を強める訳でなく、かと言って流されもしない。
主要登場人物が強烈な存在感を放つのではなく、ほぼ偶然に近い要素によって、関係を持たされざるを得なくなった人間たちの様相が、淡々と描かれる。

犯行の「動機」って、実際どの程度のものなのか、と考えざるを得なくなった。
実に微妙な線を衝こうとし、実際に文章化した作者の勇気を称賛したい。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4101347255
No.28
(5pt)

物語の枠を超えているような気がする

物語の流れには、最後に決着がついていなければならない、なんてことはないと思わせられた珍しい作品だろう。
合田雄一郎は、この物語の中で、特に自身の主張を強める訳でなく、かと言って流されもしない。
主要登場人物が強烈な存在感を放つのではなく、ほぼ偶然に近い要素によって、関係を持たされざるを得なくなった人間たちの様相が、淡々と描かれる。

犯行の「動機」って、実際どの程度のものなのか、と考えざるを得なくなった。
実に微妙な線を衝こうとし、実際に文章化した作者の勇気を称賛したい。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.27
(5pt)

自ら困難な道を選ぶ作家

あまり小説を読まなくなった評者が、新作を楽しみとしている数少ない小説家のひとりが「高村薫」。
硬質な作家だ。

かつては「桐野夏生」もその一人だった。「悪意」を描き続ける桐野だが、悪意の頂点が、シリーズ物の主人公「村野ミロ」を壊してしまったといえる「ダーク」だったと思う。
しかし、その後発表されるのは、悪意の縮小再生産を繰り返した作品ばかりとなってしまった。

高村薫は、縮小再生産に陥った桐野とは異なり、その小説世界からは徐々にエンタメ的要素が排除され「純化」していった。そして、前作「太陽を曳く馬」を読み終わるに至っては、読者を置き去りにしているのか、とさえ思った。
正直、合田の姿を借りた著者の宗教観を理解できているのかがわからず、レビューを書くこともできなかった。現在に至るまで3回読んだが、その思いは今でも変わらない。
ただ、それでも次作が待ち遠しかった。読むのが楽しみということもあるが、それ以上に、高村薫はどこに向かっていくのか、そして、その世界に自分はついていけるのか、という楽しみみたいなものの方が大きい。

自分の中では高村薫の小説は、居住まいを正して読むべき小説となっている。読み始めたら止まらないが、一文一文をじっくり読まなければならず、ストーリーを流して読むことが許されない(もったいない)という強迫観念みたいなものがあるからだ。だからなのか、本作も発売直後に購入したが、なかなか読み始めることができなかった。

刑罰の目的には、犯罪者への報復であるとする「応報刑」思想と、日本のように犯罪者を教育改善し社会的脅威を取り除くという「目的刑」思想の二つの考えがある。本作での犯人は、どちらの考えに立脚しても現在の日本では「死刑」だろう。

ただし、本作の犯人には動機がない、というか犯人にも動機がよくわからない。「目的刑」における目的がないのだ。
高村薫は死刑廃止論者という事実は知っていたが、その拠り所となる考えが、一般的に知られる「目的刑思想」にあるのかどうかまでは知らない。

ただ、わかるのは、自身の主張を織り込んで小説を書くにも拘わらず、自らを困難な状況(設定)を選んで書いているな、ということだ。

縮小再生産的を繰り返している桐野夏生との大きな違いだと思う。そうして書き上げた高村薫の作品は、好き嫌いは別にしても読者を圧倒してしまう、ということだ。

振り切られるかもしれないが、これからもついていこうと思う。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4101347255
No.26
(5pt)

自ら困難な道を選ぶ作家

あまり小説を読まなくなった評者が、新作を楽しみとしている数少ない小説家のひとりが「高村薫」。
硬質な作家だ。

かつては「桐野夏生」もその一人だった。「悪意」を描き続ける桐野だが、悪意の頂点が、シリーズ物の主人公「村野ミロ」を壊してしまったといえる「ダーク」だったと思う。
しかし、その後発表されるのは、悪意の縮小再生産を繰り返した作品ばかりとなってしまった。

高村薫は、縮小再生産に陥った桐野とは異なり、その小説世界からは徐々にエンタメ的要素が排除され「純化」していった。そして、前作「太陽を曳く馬」を読み終わるに至っては、読者を置き去りにしているのか、とさえ思った。
正直、合田の姿を借りた著者の宗教観を理解できているのかがわからず、レビューを書くこともできなかった。現在に至るまで3回読んだが、その思いは今でも変わらない。
ただ、それでも次作が待ち遠しかった。読むのが楽しみということもあるが、それ以上に、高村薫はどこに向かっていくのか、そして、その世界に自分はついていけるのか、という楽しみみたいなものの方が大きい。

自分の中では高村薫の小説は、居住まいを正して読むべき小説となっている。読み始めたら止まらないが、一文一文をじっくり読まなければならず、ストーリーを流して読むことが許されない(もったいない)という強迫観念みたいなものがあるからだ。だからなのか、本作も発売直後に購入したが、なかなか読み始めることができなかった。

刑罰の目的には、犯罪者への報復であるとする「応報刑」思想と、日本のように犯罪者を教育改善し社会的脅威を取り除くという「目的刑」思想の二つの考えがある。本作での犯人は、どちらの考えに立脚しても現在の日本では「死刑」だろう。

本作での犯人に動機はない、というか犯人にも動機がよくわからない。「目的刑」における目的がないのだ。
高村薫は死刑廃止論者という事実は知っていたが、その拠り所となる考えが、一般的に知られる「目的刑思想」にあるのかどうかまでは知らない。

ただ、わかるのは、自身の主張を織り込んで小説を書くにも拘わらず、自らを困難な状況(設定)を選んで書いているな、ということだ。

縮小再生産的を繰り返している桐野夏生との大きな違いだと思う。そうして書き上げた高村薫の作品は、好き嫌いは別にしても読者を圧倒してしまう、ということだ。

振り切られるかもしれないが、これからもついていこうと思う。
冷血(上) Amazon書評・レビュー: 冷血(上)より
4620107891
No.25
(5pt)

ラスト100頁が突きつける「生」「死」に相対した人々の様から何を感じ考えるか?

高村作品を読む都度に私は自らの前に忽然と開かれる奈落のような作品世界に慄然とさせられる。よくある「作品と一体となって楽しめた・悲しんだ」ではない。明確なテーマまた命題が、しかし如何なるヒントもなしに、安易あるいは月並みな一般論を許さぬ厳粛な塊として、読み手である私に突きつけられる。おそらくは「照柿」の時だったろう。その輝くような赤に彩られた塊に、私は何の根拠もなく奈落を感じた。作品まるごとに突き落とされて、その命題への解に一生彷徨させられるような畏怖を感じて、そこから貪るようにラストまで読み続ける。

その気持ちを、やはり本作でも味わった。本作は、至近数作と比べれば、テーマ・命題は極めて明確と思う。あたかも自明にして当然のものと思われている「生」そして、自らの意志そして同時に他人の意志によってももたらされないと思い込まれる「死」。その意味が極限に近い形で問いかけられている。人為的あるいは生業として「死」に関わりうる者達−警察、検察、殺人犯、そして医師−、そして、何であれ「死」に関わってしまった者−被害者、そして警察、検察もまた、そして、遺族に連なる者達−、人の手による「死」の果てに、人は初めて己の「生」の意味を考え始める。そこでは「生きろ、生きろ」というどこからかの声を言葉通りに思うような愚かはない。その証左として、本書は、「死」と「生」に関わる言葉が積み重なってのラスト数十頁に、慄然とする言葉が用意されている。そして、それでもなお、私はやはり言葉を見つけられないでいる。

実際、存在しないであろう言葉−2人の犯人による4人の殺害動機−を、半ば存在しないと分かりながら合田刑事も含めた警察・検察が延々とそれを追い求める部分が下巻の過半を占めている。2人の犯人の過去、また、上巻ではその位置付けが分からなかった合田刑事の本来業務である医療過誤事件の顛末が、その追求の虚しさを浮き彫りにしていく。
更には、会話とも対話とも言い難い合田刑事と犯人達との間で交わされる言葉が交わりきらない中で、ラスト100頁の中で示される、虚構の塊のようなこの事件を描いた言葉、そして、ラストで唐突にぶつけられる恐ろしい幾つかの想い・・・
もっともらしい言葉で纏めたくない気持ちと纏められないモドカシサで今はいっぱいである。

人の「生」「死」過去に無数の作品がモチーフとしたテーマについて、高村薫は、凡百の言葉を伏すことを許さぬままに、また一つ大きな金字塔あるいは越え難くも登りたい誘惑をこらえられる高い峰を築いたのだと思う。
なお、新たな事件を迎えるごとに、その役割が変容していく合田刑事だが、本作では一種トリックスターのようにまでなっている。でありながらも、116頁のように投げつける彼の言葉は、やはり重い。
冷血(下) Amazon書評・レビュー: 冷血(下)より
4101347263