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春にして君を離れ



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春にして君を離れの評価: 4.48/5点 レビュー 221件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.48pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全195件 61~80 4/10ページ
No.135:
(4pt)

なんと意地悪な

最初はとても古臭くてつまらない小説に感じ、そのまま読み進めるかどうか迷ったほどでしたが、作者の悪意(と言っていいと思う)に気づいてからは、夢中で読み終わってしまいました。それにしても、こんな話を書く作者も意地が悪いとは思いますが、ついつい登場人物の不幸を願ってしまう私もまた意地が悪いなあと思わされてしまったのでした。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.134:
(5pt)

愛にきわめてよく似たもの

巷で「愛情」と謝って取られがちな心情があって、しかもこいつの厄介なところは、相手の人生も自分の人生も破滅に追いやってしまうという点で愛と正反対の性格を持っていることにある。
 これは、「所有欲」「優越欲」と言われるもので、メンヘラとかモンスターペアレントとか呼ばれる人間が陥りがちな「ニセモノの愛情」なのである。

 今作の主人公「プア・リトル・ジョーン」はまさにこの人間である。
 口では「あなたのため」「子どものため」「生活のため」ともっともらしい先見性をちらつかせている。しかし実際は、夫の職業選択権も娘の恋愛の自由も容赦なく奪いさって、自分の思い通りに操ろうとしているだけなのである。

 いったいなぜなのか?原因は二つ。

 一つは彼女の抱える、病的なまでのナルシシズム。
 「私がブランチのようにならなくてよかった!」
 「ロドニーは先見の明がないから、『有能な私』が導かなきゃ!」
 「娘たちは若いんだから、正常な恋愛なんてできるはずがない!」
 ジョーンはこんな具合に独白する。言葉ではいかにも他人を思いやっているようで、実際はだれもかれもを見下し、ゆえに誰にも心を通わせることがないのだ。
 だって、他人は「自分より下」で当たり前なのだから――。

 もう一つは、自分でさえ気づかない他人への無関心さ。
 ある意味ナルシシズムの延長ともいえるだろうが、彼女はとにかく議論をしない。それは「円滑に会話しているから」などではなく、「すべてをろくに聞かずに突っぱね続けているから」に他ならない。
 どうして夫が弁護士でなく農家になりたがったのか。
 どうして娘がジョーンの思いもよらないような男と交際したのか。
 どうしてブランチが奔放な生活を続けるのか。
 聞けばわかることだ。たとえ理解できなくても尊重ならできるはずなのだ。
 しかしジョーンは、「愚かだからだ」と安易に決めつけ、そして嘲笑するのだ。

 その結果、彼女はどうなったか。

 このあたりが、この小説が「ホラー」と呼ばれるゆえんだろう。
 結論から言えば、ジョーンは思った以上にみんなから疎まれていた。
 夫にはとっくに愛想をつかされ、娘からも距離を置かれ。
 ゆいいつ苦言を呈してくれたブランチさえも、最終的にはまた貶めた。
 ジョーンはこれからもずっと不平を垂れ続ける。真実から目をそらし続ける。

 だからこそ、彼女は「プア・リトル・ジョーン」なのである。

 ……ちなみにこの作品を読んで「女って怖い」という人がいますが、違いますよ。

 女が怖いんじゃないんです。
 「こういう女」が怖いんです。
 そしてこういう男も怖いんですよ……。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.133:
(5pt)

平和な家庭の平和な日常の真実のサスペンス

帯に鴻上尚史の推薦文があったが、その通りの内容だった。アガサ・クリスティ作なので、題名では一般的なサスペンスでは無いと判っていたが、家庭生活を送っている誰にも当てはまりそうな、真実の怖さを感じないわけにはいかなかった。
誰もが経験する日常の危うい真実のミステリー‼ 心に引っ掛かったまま、取れそうにない棘になった。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.132:
(5pt)

春にして君を離れ

クリスティの小説ですが推理小説ではありません
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.131:
(5pt)

人間は自己を放棄することになかなか承服できない。その絶望は、自己自身であることを望まない絶望なのである。

とても恐ろしい作品である。
その昔読んだときはすごいなーとしか感じなかった。
主人公の年齢もあってむしろ自分のことは置いておいて親に重ねて読んだりしていた。
その主人公の年齢をとうに越した今再読して衝撃を大きく受ける。

自己認知と他己認知がこんなにずれていることはあり得るのだろうか。
本人が選んで夫や家族に与えてきた価値観は家族には何の魅力もなくむしろ苦痛にしかなっていないことが、
本人に家族が向き合うことなく回避し続けることが、
それを本人が全く認識していないことが、
そしてそれを本人が自覚してそのGAPに衝撃を受けても、生活を関係性を変えずに生きて行くことが。

これが自分のことだとするとこんな不幸なことはない。
出来上がってしまったそして変えることが難しい自己を、近しい大切な人にとって少しでもより良いものにできればと感じている。

以前持っていた昭和61年の八刷版には翻訳の中村妙子さんのご本人のインテリジェンスを表すキルケゴールに関するあとがきがありました。
現在の版には存在しないこともあり、一部引用します。
非常に示唆に富んだ内容です。キルケゴール難しすぎて読めないですし。
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こんな「あとがき」にキルケゴールを持ち出すのはどうかとも思うが、「春にして君を離れ」を読み返しながら私が「死にいたる病」の一節を思い出して、ジェーンの哀れさが人ごとならず身に沁みたのは偽りのないところである。
絶望というものは必ずしも外からの衝撃によらないでも、自省というものを通じて明らかになり得る。
そしてこの自省とともに一種の分離作用が始まって、自分の環境とか、外界、またそこからくるさまざまな影響と本質的に区別されたものとして、
自己自身への注目がはじまる。
ジョーンは友人との何気ない会話をきっかけに、過去の出来事を新たなめで見直す。砂漠の静寂の中で、過去の出来事は一つ一つ息を吹き返し、次から次へと波紋を呼ぶ。
しかし、自制によって自己が自己自身を引き受けようとするとき、自己の必然性の中で多くの困難に遭遇する。
弱き自己はこれらの困難の前で尻込みをする。
さらにまた、自省を越えて、もっと深刻に彼のうちなる直接性を粉砕するようなものが現れるとき、自己は絶望する。
人間は自己を放棄することになかなか承服できない。彼の絶望は、自己自身であることを望まない絶望なのである。
そこで彼は一時難を避けて、危機が過ぎ去るまで待とうとする。そして危機が去ったと知ると、もとの古巣にもどって、かつて自己を捨てかけた、その所からまたはじめようとする、、つまり変わり映えしない自己を引き受けて生きて行くのである。。
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春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.130:
(4pt)

このような小説も良いかな

今年の初めに英国の石黒さんの小説を読んだ。普段読まないジャンルだが、面白かった。だから、たまにはこの様なジャンルの小説も良いかなと思い購入した。じっくりと読み通したいと思う。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.129:
(5pt)

読み手まで巻き込まれます

クリスティーの本は何冊も読んでいますが、殺人事件が起きないのでこの作品は敬遠していました。
しかし評価が高いので読んでみたら、まさかのこれがクリスティー作品の中で一番のお気に入りに。

子育てを終えた中年女性である主人公が、過去の自分の言動を振り返る、ただそれだけの話です。
しかし次第に不安感に襲われ、追い詰められていく描写が見事です。
そしてこの主人公の過去の言動が、読み手である私自身の過去にもあるのではないかと気付くと、急に背筋がゾッとしました。
今まで意識していなかった心の奥底を抉られたような感じでした。

主人公の心の変遷に読み手まで巻き込んでしまう、人間の本質を描いた傑作でした。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.128:
(5pt)

栗本薫氏の解説もとても良かった

あなたの目を通して見た世界、あなたの目を通して見た周囲の人々は、本当にあなたの解釈した通りに存在し、行動し、感情を持ち、あなたが定義づけた通りにあなたを扱ってくれているのでしょうか? 本当に???

なんとも地味な筋書きなんです。けれどこれは、探偵役も、犯人役も、被害者役も主人公という立派なミステリー。その要のトリックは、人間の傲慢な自意識。だからこの小説はきっと、千年経っても廃れないことでしょう。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.127:
(5pt)

真実を見えてない私達への本

表面に見えている部分が真実だと疑わない。テレビの言うことや、新聞の書くこと、政府の言い分、いわゆる常識、これを信じていたら戦争に突入したり、気候変動が起きたりする。この小説こそ現代の常識がコロコロ覆っている我々が読むべきではないか、そんな風に思う。多分こんな主人公の様な人、世の中の殆どの人は死んだ時に全てを気づいてそして去っていくのだろう。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.126:
(5pt)

ささやかな慰めに

既婚男性にぜひ読んでいただきたい。あなたの奥さんは主人公よりいい奥さんだろうか。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.125:
(5pt)

今まで読んでなかったがもったいない、と心の底から思ったアガサクリスティの名作

個人的にアガサクリスティの代表作(オリエント急行殺人事件、ABC殺人事件、アクロイド殺し等)
は読んでいたのですが、この作品は恥ずかしながら未読でした。

評判が高かったので読み始めたところ、翻訳は非常にすばらしく読みやすい文章ではあるのですが、
読み進めるうちに次第に不穏な雰囲気があらわになってきて「どう考えてもハッピーエンドで終わらないだろ」
という不吉な予感しか感じられず、読み進めるのに非常に時間がかかりました。

終盤で明らかになる真相に(というか、主人公が真相に気がつく瞬間に)明らかなカタルシスはあるのですが、
その後の展開が、もうなんと言って良いのか分からないような重苦しい展開となり、
最後は主人公の旦那さんの重い独白で終わるという構成。

読んだ人は共感してくれると思うのだけど最後の一文を読んだ瞬間に、なんとも言えない気持ちに包まれました。
自分の人生に当てはめてみても、果たして主人公のような振る舞いをしてないか、と考え込んでしまいました。

この小説は殺人事件は無いですし、厳密な意味では推理小説ではないのかも知れないけれども、
アガサクリスティが残したものすごい名作だ、と個人的には思いました。

希有な読書体験をしたい人にオススメな1冊ですね。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.124:
(4pt)

人間の「悔い改め」の不完全さ

いわゆるキリスト教圏ではない日本では馴染みのない「回心=悔い改め」ですが、キリスト教の基本であり最高の美徳でもあります。
自分の愚かさや無力さ、罪深さを実感し、自分が「塵から作られ塵に還る」ただそれだけの虚しい存在であることを認める絶望。
しかしそのような自分のためにも、キリストは命を捨ててくださった、キリストの犠牲によって神との和解が成立したことを受け入れ「生まれ変わる」のがクリスチャンです。

けれども人の心には防衛機制があり、正当化したり忘れたり都合のいい記憶に塗り替えたりしてしまいます。人間には完全な悔い改めというのは、不可能なことなのでしょう。
クリスティーはクリスマスをテーマにキリスト教を皮肉る内容の短編集も書いているので、この小説はもしかしたら、そこまでの「悔い改め」が本当に人間に可能なのか。あるいは「かわいそうなジョーン」には永遠に救いは訪れないのか。というキリスト教の「救い」への問いのようなテーマかもしれません。

この小説の「ジョーン」という語り手は、わかりやすく独善的で、自分を直視できない臆病者として描かれているのでつい「こういう人いるよね」と他人事として
「問題のある誰かさん」と重ねて読んでしまいがちですが、そうやって読んでいる自分こそが、ジョーンと似た状態に陥っているのだと思います。

「いくらなんでもジョーンほど愚かではない、私はもうちょっと人の気持ちに気づけるわ」
あるいは母親としてのジョーンに対して
「ウチも似たような面があるのかな…いや、でもウチは結局、最後は子どものが我を通したこともあるもの。やっぱりジョーンの家庭ほどの問題はない」

こういう読み手は、ジョーンが「私がブランチのようでないことを感謝します」と祈ったのと同じ場所にいるのです。「ジョーンのような鈍い性格でなくてよかった」と。

ちなみに「私が〜のような罪人でなくて感謝します」という祈りは、罪を嘆き、神の哀れみを請う祈りを捧げる罪びとの祈りとの対比で、聖書に記されている有名なエピソードです。「〜さんのような罪を犯していないことを感謝します」という祈りは誤りであり、罪人の祈りこそ神は求めておられる、という教訓として。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.123:
(5pt)

ミステリーだけでないアガサの魅力

登場人物の心理や描写、観察力のある筆が素敵です。こういう作品も書かれていたのですね。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.122:
(5pt)

究極の推理小説

究極の推理小説とはどういうものかというと、その候補の一つは、小説ではないが、紀元前に書かれたギリシャ悲劇が原型を示しているかも知れない。アリストテレス「詩学」が簡便にまとめたように、ここでの物語は「発見」とそれによる「急展開」を中核とする。そして、さらにその中の典型としてはソフォクレス「オィディプス王」が挙げられる。「自分」を発見することで、急転直下破滅へと至る男が主人公で、これがつまりは推理ものの究極と言えるのではないだろうか。
 アガサ・クリスティーは、ミステリーの女王の名に相応しく、様々な手法に挑戦している。その要点は、「真相」のすごさというよりはむしろ、「発見」を、どのような形でどのように描くか、それによってどのように読者を驚かせつつ納得させるか、にある。その点から見て、叙述トリックを使った「アクロイド殺し」と「そして誰もいなくなった」は特に傑作の名が高い。しかし、その彼女にしても、犯人=探偵のプロットは、推理小説としては書けなかった。叙述トリックとは読者をだますもので、広く見ればすべての推理小説がそうだ。しかし、主人公が自分の行為の意味を最初は知らず、つまり、自分で自分をだましていて、後になってそれを発見する、というのは、ありそうな気もするが、我々がよくなじんでいる推理小説の型からはかけ離れている。
 そこでこのような作品は、別人名義で、「ロマンス小説」として発表された。八割以上がヒロインの内面で展開する。そこで彼女は、たまたま会った学生時代の友人と、天候のために足止めされたトルコ国境の町の荒涼たる景色に触発され、自分を見つめ直す。自分が家人にとってどのような存在であったか、本当は気づいていたのに意識の底に沈めてしまっていたものを、改めて発見するのである。犯罪などまったくないのに、回想と情景描写とが重層的に積み重なる叙述は、この種の小説としては稀なスリリングさを獲得している。
 ところで、この「発見」は「客観的な真実」であるのかどうか。そのへんは曖昧にして小説を終えることもできたろう。トルストイ「クロイツェル・ソナタ」はそのように構成されている。この作品は、最後の章で主人公の夫の視点を出して、彼女の「発見」は他者から見ても真実であることがわかる。これはエンターテインメント小説だからだろうか? 必ずしもそうではないようだ。この末尾で、主人公が「真実」を再び無意識へと追いやってしまったこと、それに、もっと短く、世間的な基準からすれば、彼女は「正しい」としか言えないことが示されているからだ。最後にきてこの人生の皮肉には、かなり慄然とさせられた。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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No.121:
(5pt)

エンディングがリアル

面白かった!!!
おばさんの回顧録かよ!と思ってたら、あれよあれよと引き込まれ一気読み。

ジョーンは自分の通俗的価値観に合わないものを全く受け入れられず家族や周りから疎まれている。
そしてそのことに一切気づいていない痛いキャラ。
そんなジョーンが、砂漠の太陽の元、1人で色々考えていくうちついに真実にたどり着くと言う話。

もしかして自分って嫌われている?皆の幸せを奪っている?ということに、初老のおばさんが気づくと何が起きるのか?
エンディングのジョーンがリアルでゾクッとした。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.120:
(5pt)

リアルなホラー

事件が起きるわけではないのにとてもホラー。我が身を振り返らずにいられない。結末も秀逸。いつもと違う環境で、驚くほど心が浄化されたような気分になって変わろう、変われると固く決意するのに、日常に戻ると忘れてしまう。決意が薄れるとかじゃなく、本当に忘れてしまう。誰の日常にも潜むであろう気づかれないホラー。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.119:
(5pt)

さすがアガサクリスティ!

いろんな感情を呼び起こされる内容ですが、周りを気にしすぎてすぐ遠慮してしまう私はある意味自分の価値観に絶対的自信を持ち、自分の思い通りに、出来事を自分の都合よく解釈して生きてきた主人公が羨ましかったです。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.118:
(5pt)

読み進める手が止まらない

なんて滑稽な主人公、
物事の見方1つで、こんなにも現実が変わる。。。
殺人は起こらないけど、人の心を推理して読んでいくことに、感動を覚える作品でした。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.117:
(5pt)

「鏡に映った自我」を守る代償

鴻上尚史さんが、ウェブの悩み相談で「友人に絶好されました」という相談者におすすめしていた本です。1944年というからいまから75年前にミステリーの女王アガサ・クリスティがメアリ・ウエストマコットというペンネームで出版した小説ですが、彼女がすばらしいストーリーテラーであるのはもちろん、人間についての透徹した観察眼と、それを社会や時代という大きな文脈のなかで描く意図を有していたということを示している本だと思います。

怖い小説です。大した事件も起こらないのにとても怖い。その恐ろしさが終盤に向かって加速していくのです。主人公のジョアン・スカダモアは異国の次女を見舞った帰りに、乗り継ぐはずだった列車の遅延によって、砂漠の真ん中の簡易宿泊所で数日間足止めとなります。最初のうちこそ、自らの半生がいかに幸せなものだったかを反芻して気分よく過ごしていますが、だんだんやることがなくなってきて、有り余る時間をもてあますようになります。しかも話し相手といえばカタコトの英語を話す宿屋のインド人だけ。となると、あとは自分と向き合うしかなくなります。それこそが彼女がもっとも苦手とし、本能的に避けてきたことでした。日がな「見ず知らずの自分」と向き合うなかで、美しく満ち足りた記憶の上に黒い染みが広がっていきます。砂漠の穴からトカゲが顔を出すように、疑念がチラつきます。よき妻、よき母親、そして幸せな人生をおくってきた「わたし」という人物は、本当に夫のことを理解していたのだろうか、子どもたちに最善のことをしてきたのだろうか、彼らに愛されていたのだろうか……。

ジョアンは夫のふとした言葉、表情、仕草を思い出し、他の女性の影を見ます。折り合いの悪かった長女とのやりとりを思い出し、あれでよかったのだろうかと良き母としての自信が揺らぎます。彼女が同情を装いつつ見下していた同級生になぜか自分の悩みを打ち明けたくなります。

彼女はこれまで、社会学者のクーリーがいうところの「鏡に映った自我」と完全に同一化して生きてきました。それが、話す相手もいない見知らぬ地でいつくるともわからない列車を待つという無為の時間なかで、「鏡の前の自我(「鏡像」を見ている本体)」と対峙したのです。彼女は押し寄せてくる疑念のなかで苦しんだ末、天啓をうけたかのような衝撃的な体験をします。彼女の内側でなにかが変わったのです。

ついに列車も到着し、ジョアンは一路ロンドンへ。途中から同室となったロシアの高貴な女性に、自分の心の内を吐露したり(これまでジョアンは人に本音を話すことはありませんでした)、彼女に対して軽く劣等感を感じたり(それまでのジョアンは他人に対して優越感しか感じたことがありませんでした)と、まるで別人のように振る舞います。そしてロンドンの駅から愛する夫のいる自宅に戻った彼女を待ち受けていたものは……。

SNSの爆発的普及により、わたしたちはこの小説が書かれた当時よりもさらに「鏡に映った自我」に翻弄されるようになっています。自らの浅さ、愚かさ、弱さを遮るもののない砂漠の陽の光に晒されたジョアン。意図せぬかたちで「鏡に映った自我」を客観的に見つめる目を授かります。そのことによって芽生えた根源的な不安に襲われ、正気を失う直前で訪れた気づき、そして感謝と歓喜。しかしそれさえも、鏡の中の自我に結局は吸収されていくのです。

『オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』や吉田修一の『パレード』などにも通じる、「本当の自分」という底なし沼の中にずぶずぶ引き込まれ行くような、そんな怖さを感じます。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
4150400385
No.116:
(5pt)

まるで私

ネットでたまたま、ある相談者の参考になれば…とこのタイトルがあり、内容がまるで私の事で読んでいて辛くなりました。
万華鏡の模様の真ん中を彼女は取る手段は選べなかったのかしら…と思いが巡ります。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)Amazon書評・レビュー:春にして君を離れ (ハヤカワ文庫 NV 38)より
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