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ピストルズ
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ピストルズの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.37pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全27件 21~27 2/2ページ
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同じ山形県の神町を舞台にした前作『シンセミア』とのあまりの作風の違いに戸惑った読書も多かったのではないだろうか。かくいう私もその戸惑いを解消できないまま読了したのであった。しかし、そのあと読んだ著者と蓮實重彦の対談(『群像』所収)をヒントにして本書が書かれた意義を理解した次第。その要点をここにまとめておきたい。 ・次々とよからぬことが起こる『シンセミア』の展開速度との違いを出すために、まず本作を「ゆるやかな時間の流れと語りの形式を一致させ」ることによって「徐々に様々な物語上の真実が浮かびあがってくる」ように構成した。この「ゆるやかな」展開にイライラした読者も多いはずだが、この意図的な読みの遅延はなかなかに戦略的である。 ・『シンセミア』の世界を描くのに使われた攻撃的で硬い言葉遣いからの「転調として、とにかくやわらかで、どこかフワッとちょっと浮世離れしたような、幻想的なといいますか、ファンタジーの作品かと思わせるような」言葉遣いを意図的に採用した。そのために女性の登場人物を中心に置き、植物を作品全体のモチーフにすることは必然であったというわけだ。 阿部和重にとって『シンセミア』のような小説を書くことは得意とするところだろうが、「語りの問題、フィクション的な言説の形式の問題を何度も実践的に試みて」きたこの作家にとって同じような作品を再び書くということは考えられず、『ピストルズ』ではあえて異なる作風に挑戦してみたということだろう。小説家にとって「選択された形式がどこまで通用するのかという試みはきわめて重要」であるという蓮實重彦の言葉に私も同意する。 すでに着想を得ているらしい次作でのさらなる飛翔を期待したい。 | ||||
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大作であるし力作であることは認める。けれどその読みにくさは古今東西のあらゆる傑作と比べても群を抜いている。常用語ではない難解な単語がこれでもかと出てくる反美文的と形容したくなるような文章が延々とつづく。しかも視点人物である石川にしろ、インタビューを受ける女性にしろ、その言葉遣いはまったく変わりがない。そのため、読み手の耳には「語り手」の声が一向に届くことがない。 それはつまり結局のところ、語っているのは作為的に物語をあやつる作者ひとりだけということに気づかされる。 冗長な「説明」が序盤から中盤以降まで辟易させられるほど繰り返され、魅力的な「描写」に巡り合えないまま、物語は荒唐無稽さを増していく。 シンセミアをはじめとして、俗に神町サーガと形容される過去の作品のエピソードやキャラクターが本作でリンクしあうのだが、現実のリアリティから明らかに後退したメルヘン的な世界観のなかでは、どうにもつながりが悪い印象を持った(芥川賞受賞作のグランド・フィナーレをあのようなかたちで処理してはたして良かったのか)。そのせいか結果的に、せっかくこれまで築き上げた大きな世界が、ずいぶんとチープな絵空事に成り下がってしまったように思う。ラストに用意された仕掛けに関しても、過去の作品で目にしたものであまり感心しなかった。 また、この作品にはファンタジー的イメージの対置として村上龍の諸作品を連想させるような麻薬や軍事関連などのディテールが充実しているのだが、それが読み手の感覚にリアルに迫ってこないのが最大の欠点だと思った。近年、フィクションの世界では生々しい現実を巧みに取り込んだ作品を多数目にする。SFでいえば伊藤計劃の『虐殺器官』ミステリでいえば歌野晶午の『密室殺人ゲーム』シリーズなどが挙げられる。では文学はといえば、残念ながらこの作品では到底拮抗していないといわざるを得ない。 厳しいことばかり書き連ねてしまったが、私が神町サーガに求めたのは架空のマコンドを舞台にしたあの物語のような、ひたすらスリルに富んだ豊饒な読書体験だった。それだけは間違いない。 | ||||
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阿部和重の「ピストルズ」です。山形県東根市神町の物語。「かみのまち」と読める作者の生まれた地、神町(じんまち)を舞台に物語を紡いでいる作者です。以前このあたりを担当営業として回っていたので、記載のある地名は体に染み込んでいますので、個人的には楽しめる物語たちです。 本作は神町で繰り広げられたピカレスク小説であった「シンセミア」を引き継ぎ、「ニッポニアニッポン」「グランド・フイナーレ」「ミステリアスセッティング」などの神町舞台作品を全て包含する物語となっている。「インディビジュアル・プロジェクション」にも通ずる世界感である。作風は「ミステリアスセッティング」の流れを汲む、優しい文体で描かれている。 それにしても作者の物語は慣れるまで大変である。物語の世界感を得る為に必要な読者の「義務」なのかもしれない。しかし、その「義務」を越えた先には、「神町」で繰り広げられる、ある意味「別世界」を読者である我々は垣間見るのである。その別世界は、作者の頭の中で、実在の「神町」が再構築された世界なのである。その世界に入ることの出来ない読者には用は無い、と言い放っている作者が見える。 そこが本作を評価できるか否かの分かれ目なのであろう。因みに私はその作者の頭の中の「神町」にすんなり入ることができました。 | ||||
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この作品の内容は,誤解の余地なくミステリアスファンタジーである.しかし作者はこのジャンルの世界を甘く見ているのか,掟破りが目立ち,あまり楽しめない.まずなぜ菖蒲家に女の子が4人もいる必要があるのか,判らない.3人で十分ならば,余分な記述をしている訳で,作品の冗長化を助けるばかりである.オンラインで確認できる限り,山形県東根市の地名はすべて実在するが,若木山は作中の記載ほど大きくはないし,この世界で起きた事件と神町で感じとられた事件は合致しないので,この物語はもう一つの世界での出来事と解釈するのが妥当で,本文最後に置かれた補遺と称する文章はその見方を支持する.要するに,実在の地名に固執するあまり,ファンタジーとしての完成度が犠牲にされた不満足なお話に思われる. | ||||
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阿部和重と言う作家は饒舌な作家である。 寡黙な作家というのもまたあって、文章がもともと寡黙な上に、 いらないと思ったところはキリキリと削っていくがために、 それは見た目にもよくわかる寡黙さになってしまうのである。 それとは反対の意味で、阿部和重は、見た目にもよくわかる 饒舌な作家である。先ず、この本自体が厚い。 その饒舌さはどんな饒舌さであるか。 対象を見つめる目が精緻すぎるが故に、描写せずにいられなくなった饒舌さか。 それとも、空想がどんどん湧いてくるが故に、語らずにいられなくなった饒舌さか。 「ピストルズ」冒頭、若木山のくだりは、腐った太宰治のような饒舌さであった。 なお、全編を通してぼくが感じた饒舌さは、高校の文芸部に所属する 早熟を装う文学青年のような饒舌さだったのである。 | ||||
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本著は神町の怪しげな一家、菖蒲家の次女が語る、 一族の秘術「アヤメメソッド」をめぐる因果が大半を占める。 しかし、実はこの作品のミソは、これまでの阿部作品、 「グランドフィナーレ」「シンセミア」「ニッポニアニッポン」 「ミステリアスセッティング」等が、すべてその菖蒲家と関係があったこと、 が明らかになるにつれ、その驚きのほうが強くなっていく。 作者自身、「グランドフィナーレ」よりも前に本著の構想があったというくらいで、 その壮大さには目もくらむほどであるが、それで本著は終わりではない。 最後に作者はある仕掛けをもって、上記すべての虚実を宙ぶらりんにする。 本著の語り手、そして作者という点があいまいになっていく。 物語そのもののインパクトは「シンセミア」より少ないが、 これまでと今後の阿部作品のキーとなる作品であることは間違いない。 | ||||
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レビューの賛否が分かれることが、この大きな本が単なる 傑作以上の小説であることを裏付けているのではないか。 否定的意見の多くは、『シンセミア』からの隔たりによるものと思われる。 日本文学にフィストによる激しい一撃を加えた大傑作 『シンセミア』の続編として『ピストルズ』を読み始めると、 同じ作者によるとは思えない文体の違いに驚くことは確かだ。 徹底して下品で動物的だった前作にくらべ語り口が植物的というか フェミニンなのだ。 しかしタイトルの音が「雌しべ」とも「拳銃」ともとれるように この優雅な文体は曲者で、中毒性を持っている。 麻薬の効果は『シンセミア』の性的焦燥感に満ちた気配 (とそれからの解放)ではなく、アダム徳永的な、読書の あいだじゅう続く包まれるようなゆるやかな高揚感である。 そして最後に訪れるその高揚から突き放される感じが またたまらなく気持ちいい。まさに読書の醍醐味である。 みずきが操る秘術は作者が読者にかける小説の魔法にほかならない。 はたして、予定されているパート3は『シンセミア』の男性性と 『ピストルズ』の女性性が正面からぶつかる、夢のワールドシリーズの 様相を呈するのだろうか。 期待に胸ふくらませつつ、その準備としても繰り返し読むべき本である。 | ||||
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