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孤独の歌声



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【この小説が収録されている参考書籍】
孤独の歌声
孤独の歌声 (新潮文庫)

孤独の歌声の評価: 7.67/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

色々な孤独が胸に迫る

天童荒太氏のデビュー作。登場人物全てがそれぞれに孤独を抱えている。その孤独感の描写が寂寥感に溢れており、読んでて痛い。
全面改稿した上での文庫化なので、原本とどれだけ違い、また質が上がっているのか解らないが、読んでてなんとも魂の抉られる思いがする、そんな作家だ。情念の作家とでも云おうか。

上に書いたように、この作品でテーマになっているのはそれぞれの人間が抱える孤独。ひとりではないんだけど、結局ひとりなのだというあの感覚だ。
家庭内での孤立、学校内での孤独、社会に対応しきれない孤独、群集の中の孤独。それら色んな種類の孤独をこの作者はみなが表現したいように表現している、そんな風に感じた。
読んでいると主人公や各登場人物が抱える孤独が痛烈に胸に突き刺さってくる。平静な気持ちで読んでいられない。リレーのバトン渡しのエピソードなど、人と人との繋がりについて語るのに長けているように感じた。

読中、よくよく読むと、各登場人物の造形はどこかで見たタレントや歌手を想起させるし、セリフなどは2時間サスペンスドラマの脚本のように、安っぽさを感じさせるのだが、殊にこの作者が本当に語りたい事に触れると、その筆致は非常に無防備なまでに心情が剥き出しになってくる。
そして本作のサイコ・キラーの異常な性癖・生活の場面や、彼が被害者に施す残虐な行為には熱がこもり、こちらまで痛みが届く思いがする。この身を切り裂かれんばかりの迫真性は一体何なのだろう?
表紙カバー袖にある著者近影の写真は、読者に挑まんばかりにギラギラしている。描写のエネルギー、いやそうではない。筆に込められた思いの丈の伝達力の強さ、これこそがこの作者の特質であり、唯一無二性なのだ。

発表されたのは1998年。この頃は1989年に日本で刊行された『羊たちの沈黙』から派生した一連のサイコホラー・サスペンス物が続々と書かれた時期で海外ミステリに目を向ければ、ハイスミスの諸作がどんどん訳出されており、しかもこの年の『このミス』における日本ミステリ部門1位は桐野夏生の『OUT』である。2位は貴志祐介の『黒い家』でもあり、やはりこの頃はサイコサスペンス全盛だったのだなぁと感慨深い。
私はこれらの作品を未読なのだが、この天童氏が描くサイコパスは、厳格な父親に育てられた母の、不倫であるにも関わらず、両親がいると信じることを強要された狂った親の犠牲者であり、この子供の頃の経験が後の趣味嗜好性に影響を与えるというのがこの時代で既に描かれている。現在の抱える子供の教育問題―特に幼児虐待の根っこ―はこの時に既に顕在化していたのか。

そして特筆すべきはこの事件が非常に日常的な風景の中で描かれている事だ。切り裂きジャックのように、犯人は無作為に女性を襲うのではなく、深夜コンビニを利用する若い女性をターゲットにしている。買い物の内容を何日も確認し、独り暮らしであることを確信する。尾行して家を探り当てるとずっと見張り、どんな暮らしをしているのかを自分の物とする。しかも東京という街の匿名性を熟知しており、怪しまれても笑顔で相手を和ます落ち着きも備えている。現代でいうストーカー犯罪者である。
更にその家は、女性を連れ込んでも、死体を連れ出しても隣近所からは解らない、1階に車庫を備えた住宅である。もしかしたら現在起きている犯罪のほとんどはこうしてなされているのかもしれない、それほどリアルで特殊性がない。

また題名の「孤独の歌声」も、単に読者を惹きつける為に、小洒落たように付けられているわけではなく、ちゃんと意味がある。本作ではアマチュア歌手の芳川潤平の声が科学的に分類されると「孤独」を表現するグループに入るということから来ている。しかもそれは淋しさを嘆き悲しむ声ではなく、淋しいけれども独りではないよと元気付けられる、勇気付けられる声だという物だ。
私はこのエピソードを読んだ時にすぐに尾崎豊が頭に浮かんだ。それ以降、潤平は尾崎だった。

友達が眼の前で犯罪者に連れ去られるという幼少期のトラウマを抱えた主人公朝川風季は、またこれも『羊たちの沈黙』のクラリスを想起させる。
だからしっかりと書けているのだけれど、どこか借り物という気持ちが拭えない。
しかし、この作者には作家としての何かを確実に持っていることが解る作品だ。それは後の活躍が証明している。

世評高い『家族狩り』、『永遠の仔』に比して、埋もれがちな本書だが、この作者が拙いまでも描いた孤独のメロディ、決して読んで損はしないと思う。
事実、私は愉しんだのだから。

Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

心情を理解できるかどうか

最初から謎めいた書き方をしていて、どういうことだろう?という想いに任せてひたすら読み進めていきました。青年と女性警官、犯人の3人の視点で勢いよく展開していきます。最初から事件の犯人を読者は知っているのに対して、細かい部分や登場人物の心理には謎を含ませられているので、モヤモヤしながら一気読みが捗ります。

孤独な登場人物の心理にはとても共感できました。独りでいることが好きだけれども、本当に誰とも関わらないことは辛いというのは、私もまさにその通りで読んでいて気持ちのいいものでした。感情移入できるかどうかで物語の面白さが変わってくるような気がします。少し台詞がキザな感じは気になりますが、それぐらいの表現の方が小説らしいのでしょうか。

▼以下、ネタバレ感想

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陰気な私は地球を回さない
L1K3MG03
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

孤独の歌声の感想

ミュージシャン、刑事、サイコパス・・・三者三様、3種類の「孤独」が描かれており、物語は、この三人の視点が入れ替わりながら進行します。
この作品で言う「孤独」とは、いわゆる”ひきこもり”のような、集団に溶け込めず、世の中の困難から背を向けている、といった「孤独」ではありません。
彼ら彼女らは、積極的に誰かとの繋がりを求めている、強いメッセージを発しているのだ、悲痛な「叫び」である。

この作品では、サイコパスによる連続殺人事件が発生します。
読むに耐えない猟奇的な内容なのですが、「如何に解決されるか」は物語の本質ではない。そんな気がしています。
主要人物達の屈折した思考をトレースし、彼らの「叫び」に耳を傾け、何を感じるか、共感できるかできないか、そんな作品な気がします。

サイコパスを追う、ミュージシャンと刑事、孤独な彼らの繋がりを求める叫びが、リレーに比喩されています。
個人的にそこが凄く好きです。
というか、上手く言えないのですが、この作品の「ポイント」な気がします。
ミュージシャンとしてもランナーとしても抜けた能力を持つ主人公は第1ランナー。
彼が光り輝けるのは、バトンを受け取ってくれる第2ランナーのおかげ。
女刑事はアンカー走者。チームのエース。
しかし、誰かがバトンを渡してくれなきゃ存在価値がない。
後は頼んだぞと、誰かが背中を押してくれるのを孤独に待っている。

「誰か俺のバトンを受け取ってくれ」
「誰か私にバトンを渡して」

そんな2人が惹かれ合い最後サイコパスと対峙する。
サスペンスだと思いますが、全編暗く重く、スピード感には欠けます。
が、それを求めていい作品ではないでしょう。

梁山泊
MTNH2G0O

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