家族狩り



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初公開日(参考)1995年11月
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長編小説

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幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)

2004年01月28日 幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)

高校教師・巣藤浚介は、恋人と家庭をつくることに強い抵抗を感じていた。馬見原光毅刑事は、ある母子との旅の終わりに、心の疼きを抱いた。児童心理に携わる氷崎游子は、虐待される女児に胸を痛めていた。女子高生による傷害事件が運命の出会いを生み、悲劇の奥底につづく長き階段が姿を現す。山本賞受賞作の構想をもとに、歳月をかけて書き下ろされた入魂の巨編が、いま幕を開ける。 (「BOOK」データベースより)




書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.33pt

家族狩りの総合評価:8.16/10点レビュー 114件。Aランク


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(7pt)

今なお繰り返される虐待と復讐の連鎖の物語

天童荒太氏の名を世に知らしめたのが3作目の『永遠の仔』であることに論を俟たないが、そのブレイクへの大いなる助走となったのが、家族全員を陰惨な方法で殺害する、何とも陰鬱な事件を扱った本書だ。この2作目で天童氏は97年版『このミス』で8位になり、初のランクインを果たした。

本書で扱われる事件はタイトルから想起されるそのものズバリの一家惨殺事件だが、その内容は愛に不器用な者たちの痛々しいまでの物語だ。心から血を吐くほどに狂おしいまでにそれは痛々しい。

それに触れる前に本書で扱われる一家惨殺事件について触れよう。とにかくその内容は想像を超える凄惨さを極めた残酷ショーだ。

最初の一家惨殺事件では全裸にされて手足を縛られ、背中合わせに転がされた夫婦が声を出さぬよう、テニスボールを喉に入れられた状態でノコギリで全身を何度も切り刻まれながら拷問され、最後に喉をノコギリで切られて絶命した様が描かれる。更に母親の方は鋏で右の乳房を抉り取られてもいる。
もう1人老人がいるが、掌を釘で椅子の腕木に打ち付けられ、更に頭を金槌で打ち付けられて頭部が陥没している。
更に発見者の巣藤浚介が見ている最中に左の眼球が零れ落ち、その眼窩から大量の蛆虫が流れ出るという食事前には決して読みたくないような状況が描かれる。

もう1つの家族は更に凄惨を極める。
同じく裸にされ、椅子に針金で縛られた状態で灯油を掛けられ、火を付けられたかと思うと3秒くらいで濡れた毛布で消され、再度灯油を掛けられ、また火を着けられ、毛布で消されを繰り返される。父親は上半身を、母親は下半身を燃やされては消されを繰り返され、この世の物とは思えない苦痛の中で死に絶える。死体はもはや誰かも解らない炭と化した肉塊と成り果てる。

そして最後の生贄になった夫婦は裸で椅子に座らされた状態で首を足首に電気コードで繋がれた状態で、夫は柳刃包丁で皮膚を刮ぎ取られ、妻は安全ピンを深く刺された状態で乳首から臍まで皮膚を引き裂かれる。

こんな常軌を逸した凄惨な事件を捜査するのが杉並署の刑事馬見原光毅。かつては捜査一課のエース的存在だったが、今は所轄署の書類仕事専門の閑職に就いているこの男もまた家族が壊れた男だった。

馬見原は厳格で理不尽な警察官の父親に育てられた。この父親は暴君的な存在であり、母親はそんな父親の横暴ぶり、理不尽な仕打ちにも家長を立てる古風な女性で、些細なことでぶたれても逆に夫に自分をぶたせるようなことをしてしまった自分が悪いと謝る始末。もちろん馬見原自身もぶたれることがしょっちゅうだった。
しかも父親のことを褒め称えた作文が小学校で賞を受け、喜んで父親に報告した馬見原の目の前で下らんと母親を叱り、更にはその作文を破るまでした。それ以外でも長男である彼は弟や妹たちよりも一層厳しく育てられた。
本書で語られる馬見原の少年時代に被った親の躾は度が過ぎており、もはや虐待だ。

そして長じて馬見原は父親と同じ警察官になり、現役時代ずっと巡査長のままで終わった父親とは違うと仕事にのめり込み、実績を上げ、名刑事の名をほしいままにする。
更に息子を厳しく育て、息子もその期待に応えるかのように目上の人間に敬意を払い、礼儀を重んじ、成績も優秀になる。しかし馬見原はそんな息子を褒め称えず、もっと上を目指すよう厳しさを緩めない。それでも馬見原の期待に応えるが、偏差値の高い進学校への入学が決まった中学の卒業パーティーでアルコールを飲み、今までの父親からの抑圧から、鬱屈から一気に解放されたかのようにバイクを乗って暴走し、事故死する。

そのショックで今まであまり目を掛けてもらえなかった娘は馬見原を恨み、非行に走り、暴走族に入って補導され、少年院に入るまでする。その後更生し、結婚して子供も設けるが、父親の馬見原を忌み嫌い、父と呼ばず、「こいつ」と呼ぶ。

そして妻の佐和子は馬見原の母親と同様に古風で従順な女性であり、息子の死と非行に走った娘について馬見原が全て彼女のせいにすることを受け止めたが、少年院で賞を獲った彼女の作文が送られた時、それを夫に読ませたがっていた佐和子は眼前で馬見原がその作文を破り捨てたのがトリガーとなり、とうとうリストカットをして精神を病んでしまう。

しかしそういった不幸な境遇は解るものの、本書における馬見原の行動は決して褒められたものではない。
自分に対して理不尽なまでに育てた父親が自身に行った酷い行動―褒められた作文を破り捨てる―を同様にするように結局自身も忌み嫌った父親と同じ人間に成り下がってしまう。作中児童相談センターの氷崎から親失格の烙印を押されるが、それだけでなく、夫失格でもある。

自分を忌み嫌う娘真弓との接し方が解らず、彼女の夫が自分の子供、つまり馬見原の孫を抱かせようとするがそれを頑なに拒否する。まるで家族の修復を厭うように。

更に精神病院から退院し、薬の影響もあって躁状態にある佐和子の変貌ぶりに戸惑い、以前のような従順さを潜在的に求めて、決してやってはいけない、常に彼女を怒鳴りつける言動を繰り返す。そして彼女がきちんと毎日薬を飲んでいることやリハビリに定期的に行くように面倒を見なければならないのに事件の捜査と、以前の事件で知り合った冬島綾女親子の方を優先し、逃避する。冬島綾女こそが従順であり、そして儚げな美人である馬見原の理想の女性であることから精神不安定で支えなければならない妻を置き去りにして、彼女の息子を入院するまで虐待し、その廉で刑務所へ送り込んだ元夫油井の魔の手から護るためと称して逢瀬を重ねる。

更には暴力団からみかじめ料を請求する悪徳警官でもある。

つまりおおよそ読者の共感を得られない、警察官としてでなく、上に書いたように親、そして夫失格、いや人間として失格な人物なのだ。

その馬見原が世話をする冬島綾女と研司親子は精神病の妻を抱え、息子を喪い、自暴自棄に警察の仕事を続ける馬見原の心のオアシスといった存在だ。
綾女は馬見原が好む従順な古風の女性であり、研司は彼をお父さんと慕う。彼女らは暴力団の元夫油井の家庭内暴力で苦しんでいるところを馬見原に救われ、そして離婚するところまでお世話になった親子でそれ以来馬見原が面倒を見ているが、いつしか馬見原の中で理想の家族となり、また綾女も馬見原を慕い、身体の関係を持つまでになっている。
馬見原はこの親子に昔壊れた自分の家族が戻ってきた、もう一度一からやり直したいという願望を見出しているように思える。そして精神病の妻佐和子の世話から逃れる駆け込み寺のようにも。

その妻佐和子は治療と薬により躁状態だが、かつて自分に従順な尽くす姿を知っている馬見原には別人のように写る。そのため、馬見原は自分で面倒を見ると云いながらも捜査と出所した油井から冬島親子を護るためと口実を設けて次第に佐和子の許から遠ざかっていく。そして佐和子は仏壇から夫が冬島親子と河口湖で取った写真を見つけ、馬見原が自分から離れていくのを知り、再び精神を病んでいく。

また奇しくも一家惨殺事件の生徒たちが自分の学校のせいとだったことで事件に関わりを持つようになる美術教師巣藤浚介は最初は女性との付き合いはするものの、結婚は煩わしいと感じる、恋はすれど愛を軽んじる軽薄な男として登場する。しかし彼は生徒の1人芳沢亜衣と、その後自分の学校の生徒2人が一家心中のような形で惨殺される事件に関わることで自分がもしかしたら事件を早期に発見できたのでは、未然に防げたのではとの悔恨の念を抱き、次第に愛情について、特に親と子のそれについて深く考えるようになる。

児童相談センターの氷崎游子は職務のためには自らの命も投げ出す覚悟を持った女性だ。彼女もまた介護する父親がおり、それが原因なのか独身でいる。

そして芳沢亜衣。親の期待と自分のことを理解されない、愛がほしいのにどうして抱き締めてくれないのかと心の中で叫びながら、表面では口汚い言葉で周囲の人間を罵り、部屋を無茶苦茶にし、自傷行為も行い、どんどん荒んでいく女子高生。

正直私はこの登場人物が一番理解できなかった。
周りがとにかく気に食わないから蔑み、罵倒し、ありもしないレイプの事実をでっち上げ、人を犯罪者に仕立て上げようとする。そしてどんどん心は荒み、夜毎起きては冷蔵庫の前で獣のように食料を漁っては食べ、それらを全て吐き出すことを繰り返す。

彼女がそんな風に心が荒んでいくことになった原因は祖母が原因で喧嘩が絶えなかった夫婦がいざ祖母が亡くなっても仲良くなるわけでもなく、逆に自分がいい子になれば幸せになり、愛してくれると一流校進学を果たしてもさほど変わりがなく、寧ろ目標が無くなったことで虚しさを感じるようになり、自分が価値のない存在だと思うようになったからだ。
しかし私はただこれだけのことで本書に彼女のようにおかしくなっていくのだろうかと疑問に思わざるを得ない。彼女は思春期の女子高生の不安定な心情が極端に振り切った存在として描かれているだけなのだろうか。

物語は連続する一家無理心中事件を殺人事件として追う馬見原の捜査と次第に精神を病んでいき、エスカレートする芳沢亜衣と馬見原佐和子、そして学校を追い出されながらも児童相談センターの氷崎2人で就かず離れずの状態で事件と関わっていく巣藤浚介の日々で進んでいく。

また作中では白蟻と家庭崩壊した家族の類似性について語られる。

白蟻はある日オスとメスで一緒に家に飛来し、そこで結ばれ、たくさんの子供を産む。その生んだ子供たちは食料を求め、家をどんどん食いつぶしていく。やがて一戸の家に飽き足らず、周囲の家へと移り、どんどん被害は拡大していく。

一方で崩壊した家庭の子供も同様だ。親子の関係が上手く行かなくなった子供は幸せに暮らす子供を妬み、虐めを繰り返し、そして自殺に追い込む。または悪い遊びに誘って非行の道へと歩ませる。さながら一軒の家に寄生した白蟻のように、その影響は他の家族へと波及していく。

本書は1995年の作品。つまり28年も前の小説である。
まだファミコンが人気を博し、携帯電話は普及しておらず、ポケベルが出先での連絡手段だった頃の時代の話だ。

しかし本書に描かれる家庭内暴力、児童虐待の痛ましいエピソードの数々は20世紀から21世紀になった今でも、平成から令和になった今でも全く変わらない。
寧ろ改善されるどころか、毎日児童虐待による幼い命が奪われる哀しいニュースが流れる始末。

この世は全く変わっていない。四半世紀を経ても児童の教育は色々な変化を行ったが、親子の抱える問題はいささかも解消されない。
いやもしかしたらそれまで報道されずにいただけであって、最近の高度情報化社会で一億総情報提供者となった現代だからこそ今まで隠蔽されていた事件の数々が明るみに出るようになったのか。

本書の登場人物はどこかみな狂っている。
いつの間にか子供が親に従わず、暴力を平気で振るうようになり、我が子に怯える家庭に、そんな家族を惨たらしい方法で拷問するように殺害する犯人、その事件を追う刑事もかつて自分も厳しく育てた息子を自殺行為の事故で亡くし、その責任を妻に負わせ、狂わせた男だ。
そして理解されず愛情に飢えながらも耳を覆いたくなるような罵詈雑言を浴びせ、事実無根のレイプをでっち上げ、教師一人を辞職に追い込みながらも獣のように足掻き苦しむ女子高生。
刑事の夫になかなか向き合ってもらえないから動物を殺して幸せそうな家の前に捨てる事件を起こして犯人である自分を捕まえるために駆け付けさせようとする妻。

誰一人まともな人間はいない。
社会に適合しようと振る舞いながら、自らの感情をむき出しにして衝動的な怒りと不満、エゴをぶつけ合う人々たちばかりだ。

しかし彼らもまた虐待をされてきた人間だったのだ。
因果は巡る。
親の云うことが絶対だった日本に根付く厳しい家父長制度。云うことを聞かなければ殴る、蹴るが当たり前の時代。それが今なお親から子に引き継がれ、暴力を家庭から拭い去ることができなくなっているのだ。

愛が欲しい、自分の方へ向いてと叫ぶ一方でどうして自分の思い通りにしないのかと突き上げられる憤怒と衝動を抑えきれず、思わず暴力を振るいながらも誰かこんな自分を止めてほしいと願う人々がいる。

普通であることの難しさ、幸せを維持することの難しさ、そして我が子を育てることの難しさが本書には凝縮している。

また物事の表と裏についても考えさせられる。

例えば馬見原が子供を立派に育てるために厳しく接し、それに応え、どんどん人格者として成長していった息子がちょっと羽目を外しただけで実は鬱屈をため込んでおり、暴走して事故死する。

これらは良かれと思ってした行為が実はそれを受ける人々には実は苦痛以外の何物でもなかった難しさを思い知らされるエピソードだ。

しかし最も恐ろしいのはそれら登場人物の中に自らの影が見いだせることだ。

でも私の家族はまだこれほどひどくないと安堵して本を閉じながらも、いやもしかしたら近い将来…と不安になりもする。何とも魂に刺さる物語である。
人生が苦痛と苦難を伴うものだと見せつけ、それでも生きていくことの難しさを刻み込まれる。

今度家に帰ったら子供たちを抱きしめてあげたい。そうする衝動に駆られる心が痛む物語であった。

児童虐待事件が連日報道される今こそ読まれるべき、心が痛む小説だ。
しかしこの作品は『永遠の仔』を経て心境が変化した作者にて文庫版では改筆されているらしい。私はそちらも持っているので読んでみるつもりだが、どんな内容であれ、上に書いた児童虐待に対する強いメッセージが残されてほしいと願うばかりだ。

児童虐待、家庭内暴力。これらが撲滅されるまで我々人類はどのくらいの時間があと必要なのか?いや過去に暴力を受けた大人たちがいる限り、この負の連鎖は無くならないのではと令和になった今でも思わざるを得ない。
その証拠に今日もまたそんな虚しくも哀しいニュースが流れてきたではないか。


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Tetchy
WHOKS60S
No.2:
(7pt)

まあまあでした

最後がダメ

わたろう
0BCEGGR4
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

体力、気力を充実させて読むべし

山本周五郎賞を受賞した1995年の「家族狩り」オリジナル版を再版した2007年版。現状を顧みず家族を賛美する風潮に怒りを込めたという執筆の背景通り、家族であることは幸いなことなのか、家族に必然的に生じる歪みは無視できるのか、という問題意識をストレートにぶつけた重苦しい家族小説である。
上下2段組560ページのボリュームかつ全編にわたって猟奇的でグロテスクなシーンが展開されるため、読む側に体力、気力が求められるが、読み終えた時、ずっしりした重さを感じること間違いない力作である。
誰もが避けて通りたいような重苦しいテーマだが、ミステリー仕立てのストーリーが成功して、エンターテイメント作品としても高く評価できる。
現在の家族の在り方、社会状況に興味を持つ方に、先入観なしで読むことをオススメする。

iisan
927253Y1
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未読の方はご注意ください

No.111:
(5pt)

とても面白かった

とても面白かったです。
家族狩り (新潮ミステリー倶楽部)Amazon書評・レビュー:家族狩り (新潮ミステリー倶楽部)より
4106027429
No.110:
(5pt)

家族とは

家族という地獄は誰でも経験ある。
なるほど・・・
まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉 (新潮文庫)より
4101457166
No.109:
(5pt)

ソクラテスの定理

物語の進むペースが遅い、という声もありますが、だからこその良さもあるのではないでしょうか。なんてこともない描写の積み重ねが物語の奥行きを生み、その物語世界へ読者が入り込む隙間を作れる、という。
巡礼者たち―家族狩り〈第4部〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:巡礼者たち―家族狩り〈第4部〉 (新潮文庫)より
4101457158
No.108:
(5pt)

素晴らしい大作

ドラマを見てからずっと読もうと思っていたのですが、如何せん5巻もあるので読めずにいました。しかし、一度読み出すと止まらないほど魅力的な作品でした。

まず文章について。登場人物の心情や風景描写がとても丁寧で、とても感情移入しやすかった。それでいて無駄に詩的な表現はなく、いい意味で淡々としていた。文章表現が面白い作家、例えば村上春樹さんなどは一文一文のセンスを感じて、前後のストーリーを忘れていても楽しめます。けれども、今作のようなストーリーが重い物語だと、あえて文章に味付けはしないほうが胸に迫ってくるものがある。

次にストーリーについて。これは若輩者であるゆえ、彼らの心情は本当の意味では半分も読み取れなかった。しかし、自分の生き方を考えさせられるようなシーンは数多くありました。人生のターニングポイントを迎えるたびに読み返したいと思いました。

本作はメッセージ性の強い、ストーリー重視の小説という見方もできますが、氷崎、巣藤、馬見原、山賀といった主人公の偶像劇として見ると、非常にうまい構成がなされていることに気づきます。やはり三人称視点を使うことで、一気に物語としての品が生まれるのだということも再確認できました。

本作の巻末についていた著者の謝辞にある、「現実と皮一枚の差の、もう一つの世界の創造」という文は小説の核心をついた言葉だと思い、長年抱いていた小説への理想というものを端的に表してくれたなと思いました。
まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉 (新潮文庫)より
4101457166
No.107:
(5pt)

家族の崩壊と再生に向けた希望に心抉られる傑作。

タイトルに驚き手に取った。読み進めるほどに引き込まれていった。以前テレビドラマで見たような記憶があったが、原作は初めてであった。星五つでも足りない傑作だと思う。フィクションなのか現実なのか分からなくなる混沌を感じながら家族の崩壊と再生に向けた希望が最後の最後に心に響いてくる。超長文だが一頁一頁を紡ぐように読み進められる作品。この作者の他の作品も読んでみたい。
家族狩り (新潮ミステリー倶楽部)Amazon書評・レビュー:家族狩り (新潮ミステリー倶楽部)より
4106027429



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