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キューバ・リブレ



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【この小説が収録されている参考書籍】
キューバ・リブレ (小学館文庫)

キューバ・リブレの評価: 5.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(5pt)

レナードにしてはちょっと大人しめ

レナードの手による歴史小説。スペイン支配下にある1900年直前のキューバを舞台となっている。
時代的にはアメリカがスペインからの支配から脱却しようとしている反政府軍を支援し、キューバの独立戦争勃発の前後を描いている。

まず気になったのはタイトル。キューバ・リブレとはカクテルの名前で、洒落た題名をつけるレナードが今回キューバを舞台にした小説を書いたので、単純にその名前をタイトルに関したのかと思ったら、さにあらず。その意味は「キューバ自由万歳」であり、テーマとなったキューバ独立戦争において反政府軍のスローガンともなった言葉だった。
しかしレナードが現代ではなく、古き時代を舞台に小説を書くとはなんて珍しいのだろう。知っている限りでは未訳の西部小説以外ではアメリカの禁酒法時代を舞台にした『ムーンシャイン・ウォー』ぐらいだ。

今回の主人公はベン・タイラー。昔ハバナで叔父が製糖工場を経営しており、それが街の有力者に搾取され、ニューオーリーンズに移り住んで、カウボーイをやっていた。過去に銀行強盗をして、刑務所暮らしをした経験がある度胸の据わった人物だ。
人も殺した事もないのに、早撃ちのガンマンである。物語は彼がキューバに自分の馬を売りに行くところから始まる。

このタイラーの後の恋人となるアメリア・ブラウン、そしてタイラーの取引相手ブドローの家僕フエンテス3人が一計を案じてブドローから大金をせしめようとするのが本書の大きな内容。
しかしそこに関わるのはグアルディア・シビルの大佐、ライオネル・タバレラと彼の手先で逃亡奴隷捕獲の名人オスマ。そしてハバナで幅を効かしているアメリカ人富豪ブドローだ。
さらにサブキャラクターとして爆沈したアメリカ軍戦艦“メイン”の生き残った乗組員でタバレラの策略で刑務所に入れられてしまうヴァージル・ウェブスター、キューバ独立派のリーダーでフエンテスの弟イスレロなども関わってくる。

レナードの物語の特徴として先の読めない展開と各登場人物たちの軽妙洒脱な会話。悪人なのにどこか憎めない奴らといった際立ったキャラクター造形が挙げられるが、今回はいつもの作品と違い、なんとも大人しい感じがした。特に軽妙洒脱な会話と、憎めない悪人どもといった部分が成りを潜め、どこか単調な感じがした。
先の読めない展開については健在。まさかフエンテスがあんな事をするなんて思わなかったし、タバレラの最期についても、ああいう形で終わるとは思わなかった。そしてそれらを許してしまう主人公二人の寛容さ。これはレナードの特有の明るさだろう。

今回は特にスペイン人将校を正当防衛で射殺してから入れられるタイラーのムショ生活についての内容が長く、その間ずっとアメリアとフエンテスのタイラー救出工作について延々と語られるあたりで物語のリズムが狂ったように思う。ここはもう少しすんなり行ってほしかった。
というのも目にも止まらぬ早撃ちで鮮やかに鼻持ちならぬスペイン人将校を撃ち殺してから、このベン・タイラーのキャラクター性が際立ってくるのだが、そこから一気に抑圧された刑務所生活、タバレラによる陰湿な尋問の描写が延々140ページに渡って繰り広げられるのだ。これはなかなか忍耐を強いられる読書だった。

確かにこの箇所において漠としたアメリアの、タイラーへの好意が確証されていくし、ヴァージルとタイラーとの友情も確立されていくのだから、重要なパートであるのは間違いないが、ちょっと冗長すぎるという感じがした。これも当時のキューバの不条理さを印象付けたかったのかもしれない。
そしてようやくタイラーは脱獄し、本書でのクライマックスシーンとも云える列車からの身代金強奪へと移っていく。4万ドルという大金を中心にそれぞれの人物がそれぞれの思惑を張り巡らす。金によって人が右往左往し、思いもかけない行動に出るというのはレナードの終始一貫としたテーマなのだろう。本書においてもそうである。特にこの4万ドルの行く末は本当に意外な人物の手中に収まるのだから。

しかし、そんな活劇シーンがあっても、今回のレナードはなんだか大人しいなぁという印象が拭えない。
そして物語後半になってようやく登場する奴隷狩りのプロ、オスマ。こいつこそタイラー最大のライバルと成りえるキャラクターだったのだが、2回も行われる対決シーンはなんとも呆気ないもの。これもちょっと残念。
思えばレナードの主人公の敵役といえば、だいたいボスを倒して成り上がろうとするマフィアの手先とか殺し屋、しかもちょっと変わった趣味や性癖を持つ者で憎めない奴ら。しかし今回は悪徳役人とはいうものの、国側の人間だった事もちょっといつもと違う。だから今回のタバレラはいつもにも増して陰湿な人物像になったのかもしれない。

若島正氏によればレナードの各作品は微妙にリンクしており、しかもそれぞれの登場人物にきちんと時間が流れており、また血縁関係までもが確立されているとのこと。ミステリマガジン誌上で詳細に分析が成されていたが、本書においてもそれは例に洩れていないだろう。
私が気付いたのはタイラーのかつて雇い主デイナ・ムーンという名前。おそらくこれは『ビー・クール』に出てくる歌姫リンダ・ムーンのご先祖様ではないだろうか(いや、待てよ。リンダ・ムーンも本名ではなく、誰かからムーンの姓を拝借したんだっけ?)?手元にないのでそれ以外の人物相関については不明だが、時間が出来た時に誌面を紐解いて調べてみるのもまた一興だろう。


▼以下、ネタバレ感想

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