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最後の抵抗



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【この小説が収録されている参考書籍】
最後の抵抗 (扶桑社ミステリー)

最後の抵抗の評価: 3.00/10点 レビュー 1件。 Eランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.00pt

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No.1:
(3pt)

キングにとっての何に対しての“最後の抵抗”なのか?

どうにも煮え切らない小説である。いわゆるダメ男小説、人生の落伍者のお話である。

主人公ドーズは高速道路の延伸工事のため、自分の自宅と自身の勤めるクリーニング工場の立ち退きを迫られるが、頑なにそれを拒む。移転のための費用も出るし、また工場もいい条件を提示する不動産会社もあるのに、ドーズはそれに一切関与しようとしない。
彼は高速道路の延伸自体を認めたくないのだ。そして移転することは政府の勝手な申し出に屈することになる、そうドーズは考えている。

しかし彼の行動は正直褒められたものではない。妻には移転先の物件を探しているふりをして、いつも嘘を云って誤魔化し、会社の上司にも不動産会社が紹介する物件に多数の不備があり、購入後は多額の修繕費が掛かると、調べてもいないのに嘘八百を並べ、終いには期限が過ぎればもっと価格を下げて提示してくるとまで云いのける。

更に勝手に保険を解約して3,000ドルの保険金を受け取り、妻に内緒で銃を買い込み、爆薬まで闇ルートで手に入れようとする。そして会社を辞めるのも唐突で妻に何の相談もしない。
確たる根拠もないのに全てが自分の思い通りに事が運ぶと信じる。いや現実から目を背け続けている弱い男なのだ。

しかし長らく勤めていたクリーニング工場の責任者という地位と職業も失い、更には妻にも逃げられながらも、一体何がこのバート・ドーズをそうさせるのか?

土地に固執する人々の大きな特徴として帰属意識の強さが挙げられる。先祖代々の土地を人様に渡すことを極端に嫌う、昔からその土地で生きている人たちにその特徴は顕著だ。
ドーズは先祖代々住み着いた土地ではないが、彼にとってウェストフィールドは思い出の地なのだ。時折挟まれる妻メアリーとの思い出が非常に眩しいのもそのためだ。

まだ食うのもやっとな若い2人が内職してテレビを購入するエピソード、一人目の子の死産を乗り越えて、ようやくできた2人目の息子チャーリーとの思い出とその死。
そんな困難もありながら、ささやかだけど幸せな時間を妻と共に過ごしてきた思い出の家を法律を盾に奪おうとする行為が許せなかったのだろう。ドーズは思い出に生きる男なのだ。

そして恐らくドーズは一方で安定を壊したかったのではないか。
自宅のみならず自分の勤める工場の移転も強いられ、意のそぐわぬことをしてまでの安定に何の意味があるのかと常に自問自答していたのではないか。常人であれば普通に選択すべきことを敢えてしなかったのはそんな鬱屈した日常を破壊したかったのではないだろうか。
つまり伸びてくる高速道路は彼の鬱屈した心の象徴でそれを壊すこと、もしくは誰もが従った土地買収に抗うことが彼にとって一皮剝けた新たな自分を生み出すことだと信じていたのではないだろうか?

だから工場閉鎖を機に他の仕事を宛がわれた元同僚の安定した職について変なアドバイスをする。
映画館の館長となった元同僚が自分で上映したい作品を選ぶことすらせず、ただ食料品の注文と管理のみで映画館を経営していると述べ、優越感に浸るさまを見て、一生飼い殺しになるくらいなら今のうちに辞めた方がいいと助言し、殴られる。
このことからも解るように彼バート・ドーズは単に上司の云う通りに仕事をするのを嫌い、自分の考えと意見を主張して、自分の色を出したがる男である。それは正しいが逆に彼の場合は自分の考えに固執しすぎてそれに同調できない人を癇癪のあまり、こき下ろして罵倒する感情のバランスが崩れやすい人物でもあるのだ。
彼にとって高速道路の延伸工事に屈することはもう「どうにもたまらなかった」ことなのだ。

彼バートン・ジョージ・ドーズにはもはや世界など意味がなかった。

独りよがりな理屈と自分勝手な行動と自分のことを棚に上げて人を怒鳴り、または訳の分からない説教をしようとする男バート・ジョージ・ドーズ。どうやっても共感を得られる人物像ではない。狂える、そして女々しい男だ。
キングは本書を「もっとも愛着のある作品」と称しているらしいが、私にはやはり単なる狂人が迷い彷徨い、そして崩壊するだけの話としか読めなかった。
本書の時代はベトナム戦争が終わった後の1973年だ。アメリカという国中にどこか鬱屈した空気が流れていた時代だろう。だからこそ戦争に負けた政府に従わない男をキングは書こうとしたのかもしれない。
本書を著すことがベトナム戦争に負けたアメリカに対するキングのささやかな「最後の抵抗」だったのではないだろうか。


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Tetchy
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