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カクテル・ウェイトレス



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【この小説が収録されている参考書籍】
カクテル・ウェイトレス (新潮文庫)

カクテル・ウェイトレスの評価: 8.00/10点 レビュー 2件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

これは真実か、それとも彼女の創作か?

本書はジェームズ・M・ケインが生前に遺した幻の遺作であり、よくぞ訳出してくれたとまずは新潮社の仕事に敬意を表したい。

私が唯一読んだケイン作品は『郵便配達は二度ベルを鳴らす』で14年前に読んだ印象は愛欲ゆえに殺人を犯す2人の男女の話ながらも淡々としてあまり残っていない。
しかし本書のこの牽引力はどうだろう。特に派手な事件が起こるわけでもないのに、若き未亡人で周囲からも夫殺しの疑いを掛けられ四面楚歌となっているジョーンの健気さと一本芯の通った強さがどんどんページを繰らせる。

若き未亡人ジョーンがカクテル・ウェイトレスと云うちょっと露出度の高い制服を着て給仕をする職につくことで富豪の老人に出遭い、状況が好転していく様は『マイ・フェア・レディ』や『プリティ・ウーマン』の系譜に連なるシンデレラ・ストーリーとして読ませる。

しかしそこはケイン。「そしてジョーンはお金持ちと結婚して幸せになりました」的なお伽噺のようには物語は展開しない。
念願適い、富豪の妻となったジョーンはホワイト氏の情欲溢れる愛撫に耐えられなかった。人として好きなのだが、男としては単なる醜悪な老人としてしか接しきれなかったのだ。そしてホワイト氏と結婚した大きな目的である息子タッドを取り戻すことに失敗してからはさらにその気持ちに拍車がかかり、ハンサムな青年トム・バークリーへの恋情が募るばかりとなる。

しかし通常のケイン作品ならばここでトムと共謀して富豪を殺す計画を立て、巨万の富を2人占めにしようとするのが定石のように思えるが、ジョーンはあくまで自分を崩さず、ホワイト氏を富豪ではなく、一介の老人として毅然とした態度で振舞うのだ。

この主人公ジョーンは一見ダメな男に騙されて結婚を失敗した世間知らずの女性として登場しながらも弁護士の娘として紳士録にも載っているという家柄の良さなのか、彼女にレディとしての芯の強さを感じさせる。決して自分を安売りしない、強い女性像がジョーンには感じられた。

しかしそんな彼女を世間は、そして彼女の関わる周囲は悪女として悪意ある視線で見つめる。
まずは暴力夫が偶然事故によって亡くなることで妻による計画的犯行と思われる。その次はきわどい制服で店に出ていたところを富豪の老人に見初められ、結婚するが、老人には狭心症を患っており、老人はそれが元で亡くなり、またもや彼女は財産目当てで結婚したと思われる。
そしてさらに葬儀の後に訪れた一度関係を持ったハンサムな男性の許を訪れ、一夜を明かすという愚行を起こし、更にはその男性が亡くなることで連続夫殺しの汚名を着せられる。

正直主人公ジョーンにも周囲に誤解を招くような行動があることは否めない。幾度となく独白される自身の欠点、自制心が弱く感情に任せて云いたいことやつい手が出てしまうがためにさらに周囲への誤解に拍車がかかるのだ。

数々のファム・ファタール、悪女を描いてきたケインが最期の作品で書いたのはその容姿と状況ゆえに図らずも悪女に祭り上げられ、マスコミや周囲の好奇の的とされる不遇な女性の物語だった。不遇な女性の立身出世のシンデレラ・ストーリーはケインの手によるとこんなダークな色合いに変わる。

人の噂や風聞とは怖いものだ。対象となる人や物の実態を知らない者たちが心無い人の発言により口コミで伝達され、瞬く間にイメージが作られていく。
本書はそんな状況に巻き込まれた女性の手記の形で綴られている。

確かに手記ならばジョーンの告白には虚偽が挟まれている可能性もあるだろう。つまりジョーンは自らの犯行を隠ぺいするためにこの手記をしたためた、いわゆる信頼のおけない書き手であるかもしれない。
しかし私はそこまで読み込む、いや疑いの眼差しで読むことはしなかった。
本書をそのまま受け入れ、単なる伝聞での上っ面だけの情報だけでなく、その目で確かめて本質を見極めた上で自身の考えで判断なされよ。そんなメッセージが込められているように感じた。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

こんな面白い作品が残されていた!

1975年、ジェームズ・M・ケインが亡くなる2年前、83歳のときに書いたもので、完成作ではなく草稿として残されていたものを、ケインを敬愛する編集者が丁寧な編集作業の末に2012年に発表した、ケインの遺作である。
21歳になったばかりで未亡人のなったジョーンは一人息子のタッドを養うために、セクシーな衣装でチップを稼ぐカクテルバーに勤めることになる。そこで彼女は、富豪の老人ホワイト三世に見初められ金銭的な援助を受け、最後には結婚することになる。また一方、若くてハンサムだが貧しい青年トムに出会い、心を引かれる。母として息子の生活を第一に考えるジョーンだったが、トムへの思いを断ち切ることが出来なかった。
DVでジョーンを苦しめていた最初の夫は、泥酔して夫婦喧嘩の末に車で自損事故を起こして死亡したのだが、警察はジョーンの事件への関与を疑っていた。さらに、狭心症の持病を持っていたホワイト三世が自宅で死亡したことも、ジョーンの犯行ではないかと捜査をはじめた。そして最後にトムが殺害されているのが発見されたことで、ついにジョーンは逮捕されてしまう。果たして、ジョーンは冷静な顔で殺人を繰り返す希代の悪女なのか?
物語は最初から最後まで、ジョーンの独白で貫かれている。このため、読者は真相に手が届きそうで届かない焦燥感にかられてページを捲る手を止められなくなる。さらに、「ジョーンは正直に語っているのか? 正直に語ったとしても、すべてを語っているのか?」という疑問が最後までサスペンスを高めてくれる。
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」に勝るとも劣らない、文句なしの傑作ミステリーである。

iisan
927253Y1

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