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ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー



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ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレーの評価: 6.25/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.25pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

題名の意味が解りそうで解り難い

今回は犯罪者側から物語を描いた、いわゆる倒叙物である。
こういう倒叙物であれば、作品の主眼というのは完全犯罪を目論む側に不測の事態が起きて、果たして犯罪が成功するか否かに終始する。つまりこの作品で云えば死体移動中に事故が起きたり、共犯者がいなかったりと殺人リレーが成立か否かに焦点を当てて、スリルを描く事も出来るのだが、それを東野氏はそこをさらりと流す。
実に魅力ある設定を惜しげもなく使い捨てるとまで云ってもいいくらいだ。

で、東野氏が選んだストーリーとはなんと拓也が受取った死体が計画立案者である仁科直樹その人だったという仰天の展開。
そして物語は犯行を行った側と捜査する警察陣の両側面から推理する形で描かれる。
すなわち、「誰が仁科直樹を殺したのか?」

なんとも実に物語としてツイストが効いているではないか。
ここに東野圭吾という作家の非凡さが現れている。

さらにこのような展開をもたらす事で、物語は仁科直樹殺害犯人の捜索に加え、末永拓也の当初のターゲットである雨宮康子の殺害計画の再考も語られ、物語が重奏的に進行する。
こういった類いの趣向は以前にも『鳥人計画』でも見られたが、あの作品では犯人役である峰岸の犯行自体も謎であり、動機なども最後の方で判るのだが、今回は極めてシンプルに動機も犯行方法も第1章で全て詳らかにされるのが特徴だ。これだけ冒頭で手札を晒しつつ、先を読ませない展開で読者を引っ張っていくのだから、本当にこの作者はミステリ・マインドに溢れている。

そして本作の主人公となる末永拓也は完全なる左脳型思考の人間で、生まれ育ちの悪さをバネにして、一生懸命勉強し、独力で成り上がろうとする野心家だ。
人生の敗北者のような父親に育てられた彼は人間としての情よりも、理論を愛するようになり、とりわけミスをしないロボットにのめり込んでいる。だから彼は装飾品や絵画など芸術には一切の関心を抱かない。また自分の出世の道に邪魔になる者は、自ら排除するのも厭わない冷血漢である。
今までの東野作品では、どこか感情面で欠落した人間がいたが、本作もその型の人間である。ただ今までと違うのはこの人間が罪を暴く探偵側の人間でなく、犯行に加担する悪側の人間だというところで、共感は持てないにしろ、物語の主人公としては違和感なく受け入れる事が出来た。

また第2の、橋本が密室で殺される事件など作者はすぐそのトリックを明かしてしまう潔さには驚いた。まるでそこに主眼がないかのようだ。私でもトリックがすぐに解っただけに、謎を持続するには弱いだろうと作者自身も思ったのだろう。
逆に云えば物語に更なる謎を付け加える要素として使ったことで逆に謎が深まった事は確かだ。

今回はなんとしても東野マジックに引っかからないようにプロローグについて常に注意を払ってきたのだが、それでも無駄に終わってしまった。しかしこの展開はさすがに読めない。
やはり東野作品とは犯人探しや動機探しを行う物ではなくて、作者が周到に隠したバックストーリーを作者が1枚1枚、ヴェールを剥がすように読者に知らされる経過を楽しむものなのだろう。

さて本作のタイトルとなっている「ブルータス」とは末永が開発した産業用ロボットの名前である。人間でも難しい精密な動きをするこのロボットは末永の技術の粋を尽くして作った最高のロボットである。しかしだから本作のタイトルとして相応しいかというとそうでもない。
特になぜ「心臓」なのか?やはり今回も東野は題名に無頓着だったのかなと苦笑してしまった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件の動機が弱いものの

最下層ともいうべき境遇から必死で這い上がり、大企業のオーナーの娘と結婚するという“逆玉の輿”を目指したロボット開発者の栄光と挫折の物語。主人公の“鼻持ちのならなさ”が抜群で、その意味ではよく書けている。周辺の人物や警察も、やや類型的なところはあるが、巧みな人物描写で読ませる。さらに、犯罪トリックや捜査陣の追及も論理的である。
それでも何か物足りなさを感じ、評価を下げさせたのは、根本的な殺人の動機が弱いこと。さらに「完全犯罪」という割には偶然に頼ったところが見受けられ……ちょっと残念だった。
しかし、軽めのミステリーとしての合格ラインには到達した作品だと言える。

iisan
927253Y1

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