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(短編集)

ZOKU



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【この小説が収録されている参考書籍】
ZOKU
ZOKU (カッパノベルス)
ZOKU (光文社文庫)

ZOKUの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)

まさに世代ど真ん中でした

犯罪未満の壮大な悪戯を世間に仕掛けて喜ぶことを目的とした黒古葉善蔵率いる非営利団体Zionist Organization of Karma Underground。通称ZOKU。

それに立ち向かうのは木曽川大安率いる科学技術禁欲研究所Technological Abstinence Institute。通称TAI。

この2つのチームの戦いを描いた連作短編集が本書である。

まず第一話「ちょっとどきどき」では暴音族なる騒動が世間に起こっていることが語られる。
まずはイントロダクションとも云うべき1編。お騒がせ悪戯集団ZOKUの悪戯の数々とそれを防ぐTAIの面々の顔合わせだ。

続く「苦手な女・芸術の秋」ではTAIの木曽川大安の秘書、庄内承子が初登場する。
なんと本書ではTAI所員のヒロインの永良野乃がエース揖斐純弥に惚れてしまうという事態が起こる。単にシリーズを続けるだけでなく、登場人物たちに発展を見せる、流石は森氏。エリート然とした揖斐のやや子供っぽい側面と思いもかけないところから来るプレゼントに恋愛経験の浅い永良野乃がほだされていく一部始終が描かれていて好ましい。

「笑いあり 涙なし」ではZOKUにも新キャラクターが登場する。
前回で揖斐に興味を、いや恋心を抱き出した永良野乃の揖斐へのアタックは本書でもまだ続く。いやむしろ前回では意識し出して手探り状態だったところに、最後揖斐が全く野乃のことを意中にないことが判明しただけに逆に野乃のプライドに火が着いて自分の方に気を向けさせようともっと積極的に、明らさまに気持ちを出していく様が描かれる。
一方ZOKUではバーブ・斉藤というまた濃いキャラクターが登場する。秘密兵器として満を持しての登場だが、直接ロミ・品川とケン・十河との絡みがないのでまだまだイントロダクションと云ったところだ。

展開に捻りが利いているのが「当たらずといえども遠からず」だ。
封筒に書かれた内容通りに従うと馬券が当たり、福引で特等が当たるという、ミステリとしても非常に興味深い題材。そして永良野乃の望みが巨大ロボの操縦という途方もない物だったことから、なんと計画が頓挫してしまう。実に意外な展開だ。
しかしそれよりも30半ばのロミ・品川と新入社員の20代半ばのケン・十河のジェネレーションギャップ溢れる会話が実に面白い。スカートめくりの件は爆笑もの。しかしスカートめくりかぁ。既に私が小学生の頃でも1,2人、しかも低学年の時にそんないたずらっ子がいただけである。本当に学校で流行っていたんだろうか?

最後の「おめがねにかなった色メガネ」は森氏らしくツイストが効いている。
敵同士が仲がいいとこんなツイストの効いた展開をも起こりうるのか。機関車好きの木曽川と派手好きな黒古葉。しかしそれぞれの所有する乗り物に密かに憧れを抱いていたことを率直に打ち明け、それぞれの立場を一日交換して思いを果たそうという、何とも子供じみた、いや少年の心を失わない大人たちの遊び心が横溢している。それを果たすためにそれぞれがお面を被ってやり過ごすのが面白い。黒古葉は縁日で売っている類の鉄腕アトムのお面を被り、一方木曽川は頭からすっぽり被るスペクトルマンのマスク―実にマニアックだ―を被る。逆にこの2人がそれぞれTAIやZOKUでやり過ごす様子と少年の頃のように機関車、ジェットの操縦席に座って胸躍らせるシーンが印象強くて、正直今回の悪戯についてはどうでもよくなってしまう。


さてこれは森版『ヤッターマン』とも呼ぶべき作品か。

犯罪にまでには至らない被害の小さな、しかし見過ごすには大きすぎる悪戯を仕掛けるZOKUとそんな悪戯に真面目に抵抗し、阻止せんと追いかけるTAI。

それは「ヤッターマン」における、ドロンボー一味とヤッターマンを観ているかのようだった。

さてそんな「まじめにふまじめ」を行うZOKUのメンバーは、黒幕の黒古葉善蔵にロミ・品川、ケン・十河、バーブ・斉藤で構成されており、プライベートジェットを根城としている。

一方「ふまじめをまじめ」に阻止しようとするTAIは白い機関車を基地にしており、木曽川大安を所長に、揖斐純弥、永良野乃、庄内承子が主要メンバーである。

木曽川と黒古葉はお互い実に親しい幼馴染でいがみ合っていない。寧ろ顔を合わせた時にはお互い談笑する仲だ。昔から悪戯好きだった黒古葉とそれを真面目な木曽川が少年時代から尻ぬぐいしてきた仲である。つまりこれは2人の大富豪が日本全国を舞台に繰り広げる壮大なお遊びなのだ。

各編の悪戯は暴音族、暴振族、暴図工族、暴笑族、暴占族、そして暴色族。

ある特定の場所のみに騒音を発生させる、振動を発生させる、色んな制作物を置いて、そのまま放置する、笑う場面でない時に笑いを起こす、占いで未来を当てて、次には大外れを食らわす、希望した色とは違う色が出てくる。

物によっては軽犯罪にも該当するし、子供の悪戯の延長でしかないことを費用と労力を大いにかけて全国に亘って行う、それがZOKUだ。

それを阻止するために警察に協力して彼らを追うTAI。

このような善対悪の物語は総じて悪の方に魅力があるのだが、流石はキャラ立ちの森作品、そのキャラクター性は双方勝るとも劣らない。

まずTAIの面々はそれぞれ苗字が河川、それも中部地方を流れる川の名前になっているのが特徴(永良野乃だけ漢字が異なるが)。
そしてTAIの頭脳、揖斐純弥と木曽川の孫でヒロインである永良野乃との恋の駆け引きが本書の読みどころの1つとなっている。とはいっても永良野乃が一方的に揖斐を好きなだけで自分に振り向かせようと揖斐にモーションを掛けるが発明好きの揖斐は朴念仁で気付いているのか気付いていないのかまともに取り合わない。彼にとっては野乃は単に所長の孫でTAIのメンバの1人でしかないのだろうが、例えば靴をプレゼントするが、それに合う服がないので野乃が履かないでいるとその靴に合う服を買ってあげるよ、なんて云われれば女性はその意外な提案に自分に気があるのかと思うはずである。こういうやり取りが女性のみならず、私のような男性も思わず微笑んでしまうのだ。
なお永良野乃は敵ZOKUのメンバーの1人、ケン・十河がファンになるほどの容姿の持ち主である。

揖斐と野乃の歳の差は12歳で揖斐の方が年上。犀川と萌絵の関係や、保呂草と紫子の関係のように森氏はこの年上男子に年下女子が一方的に恋をするという設定がどうも好きなようだ。

またZOKU側の面々の名前はカタカナ表記の名前に日本の苗字と一昔前の芸能人のようなネーミングが特徴。ロミ・品川とバーブ・斉藤はその元が解ったがケン・十河は解らなかった。

そして年増の―といっても30代半ばらしいが―ロミ・品川もまた揖斐に潜在意識下で恋心を抱いていることが判明する。

そしてこの30代半ばのロミ・品川と新入りのケン・十河のジェネレーションギャップによって起こるトンチンカンな会話が実に面白い。特にスカートめくりの件は爆笑ものだった。ちなみに私はロミ・品川に近い側の人間。

最初の3編はZOKUとTAIの真っ向勝負やTAIの野乃がZOKUにさらわれる、野乃が囮になってZOKUたちをおびき寄せる、といった真っ当な善対悪の構図で物語は描かれるが、4話目になると野乃の意外な希望から思った以上に金がかかり、計画が途中で頓挫したり、双方のボスが一日交換ボスになるといった森氏ならではの展開を見せる。そう、このTAIの所長木曽川とZOKUのボス黒古葉もまた実に憎めない人物なのだ。

一大財を成し、遊ぶお金と自由な時間を手に入れた2人が始めたのは日本全国を巻き込んだ正義と悪の対決ごっこ。こんなワンアイデアから生まれた本書は稚気に満ちていて実に愉しい読書の時間を提供してくれた。

そして作中に出てきたZOKUの数々の悪戯は恐らく森氏が日ごろから想像している「やってみたら面白い事」の数々であるに違いない。大人になって出来なくなったこれらの悪戯、いや大人にならないとできないが実際やれば逮捕されてしまうから出来ない悪戯を森氏はZOKUの面々に託したのだろう。

幸いにしてこの後もシリーズは続き、この憎めない輩たちと再会する機会があるようだ。次作を愉しみに待つとしよう。


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Tetchy
WHOKS60S

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