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タナーと謎のナチ老人



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【この小説が収録されている参考書籍】
タナーと謎のナチ老人 (創元推理文庫)

タナーと謎のナチ老人の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

“快盗”の文字を消すだけでこれほど読み心地が変わるとは

タナーが今回訪れるのはまだ国が統一されていたチェコスロバキア。そこでネオ・ナチ信奉者たちのシンボル的存在であるヤノス・コタセックなる人物を救出し、彼の持つファイルを入手するのが彼の今回の任務。しかし入国する前に警察に捕まりそうになる。前作でもトルコの入国審査でいきなり逮捕されたタナーだったが、彼は目的地に着くことが大きな障害であり、パターンとなっているようだ。

しかもタイトルにもなっているヤノス・コタセック老人はユダヤ人を嫌悪し、有色人種を蔑視する唾棄すべき男。行く先々の国々でその国の民族をこき下ろし、毒を吐きまくる(何かにつけていちゃもんをつけずにいられないこんな人いるなぁ)。
任務とは云え、そんな男を連れて国を渡っていくのはタナーには辛いものだ。
自分を偽ってコセタック老人をなだめすがめつしながら自身を時にはネオ・ナチ信奉者として、旅先の国では協力を得るために反ファシストの革命家を演ずる。
でもこれは我々社会人も同じこと。相手に対してその都度対応を変え、時には自分を曝け出し、時には自分を偽っておもねなければならない。タナーの悲哀はそのまま我々の悲哀だ。

しかしそんな重い話ばかりではなく、ブロック特有のユーモアに溢れている。逢う男全てを悩殺するグレタを始め、ヤノス・コセタックもカタレプシー(強硬症)を持ち、その症状の間は仮死状態となる。この敵多き男を運ぶため、危難に出くわすたびに仮死状態にして死体として運ぶのだ。この辺はほとんどギャグである。

そしてスパイ物に美女は付き物。今回のヒロインはナチス信奉者で老人救出作戦の協力者クルト・ノイマンの娘グレタ。とにかく全ての造形が完璧でしかも男の情欲をそそる身体つきで性に奔放と云う、まさに男の願望が象徴化したようなヒロインだ。

しかしそんな好感度抜群のヒロインでもブロックは早々に退場させてしまう。一度はタナーが引き取って一緒に暮らすことまで頭を過ぎらせもしたほどの女性なのにも関わらず。恐らくグレタは今後のシリーズで再登場しそうな気配がある。

そして今回もタナーは忙しい。007ばりの大陸間鉄道の中での手に汗握る緊迫感、ネオ・ナチ信奉者の集会でヒトラー張りのスピーチをして暴動を起こさせてしまったり、パレスチナのイスラム原理主義者からなる過激派グループの一員になったりと大忙しだ。

しかし数々の危難を乗り越えるタナーの持ち味は機転がすぐ回る頭の良さや不眠症を長所にして体得した数ヶ国語を操る語学力もそうだが、やはり一番の強みは人脈の広さ、つまりコネである。
各国の団体、過激派グループ、狂信者グループの会員となり、逢ったこともない相手と親密になるほどの交流をしているタナーのコネの強さだろう。この武器を存分に活かしてタナーは老人を連れてチェコスロバキアからハンガリー、ユーゴスラビアからギリシアへ、そして最終目的地のリスボンへと移動できたのだ。

前作ではクーデターを引き起こしたタナーだが、今回もヒトラー張りの演説を振るって暴動を巻き起こしてしまう。そして前作クーデターを起こしたテトヴォの人物も本シリーズでは登場する、そんなシリーズ読者へのサーヴィスもちゃっかりなされている。

全くの余談だが本書は1966年の作品でまだ東西ヨーロッパは緊張状態。西と東との間に鉄のカーテンがまだある時代だ。余談だが作中ベルリッツ語学学校が表現で使われており、こんなに古くからこの英会話教室はあるのか?と妙に感心させられた。

しかしユーモアで包まれたスパイ物だが、結末はなぜかシリアス。
この辺の思い切りの良さというか冷酷さはフリーマントルのチャーリーに一種通ずるものを感じた。

前作は怪盗物という先入観が邪魔をして混乱の中、読み終えてしまい、存分に愉しめなかったが本作では眠れないスパイの物語であることがあらかじめ分かっていたので物語に没入できた。
従って前作より本書の方が評価は上なのだが、本書以降シリーズは訳出されていない。『このミス』にもランクインされなかったので売り上げもさほどではなかったのかもしれない。
しかし2作目を読んで非常に続きが気になるシリーズである思いを強くした。おまけに現在本書は絶版でもある。どうにか3作目の訳出が成されることを祈って感想を終えたい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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